ごめんなさい。
「ん・・・。」
明るい部屋。
目の前は青。
今・・・何時?
テレビの音?
「!!」
大急ぎで起き上がる。
児玉さんは?!
「あ、目が覚めた?」
ソファに座ってテレビを見ていたらしい児玉さんが、さっと近付いてくる。
帰らないでいてくれた ――― 。
「気分はどう?」
そう尋ねながら、俺の隣に膝をつく。
その言葉と表情に込められた優しさが、胸にこたえた。
招待しておきながら、たった一口の酒でダウンしてしまう自分が情けない。
「はい。・・・もう大丈夫です。」
恥ずかしくて顔を上げられない。
そっとテレビの横の時計を見ると、8時過ぎ。一時間は経っていない。
起き上がった床には枕代わりのクッションがあり、お腹の上にはバスタオルが掛かっている。
「そう。よかった。」
ほっとするようなその声にゆっくりと顔を上げると、すぐ前で児玉さんが微笑んでいた。
それから彼女は右手を伸ばして・・・俺の髪に触れた。
・・・児玉さん?
指で優しく左耳のあたりの毛先を少しずつ引っ張られて、胸が震える。
その途端、うとうとしかけていた時の記憶が一気によみがえった!
手を掴んだこと。
「帰らないで」と頼んだこと。
児玉さんの膝枕。
俺の想いが伝わった ――― 。
「児玉さん・・・。」
このまま・・・。
「はい、これでいいね。」
・・・・・?
これでいい?
「・・・ええと?」
児玉さんはすでに手を引っ込めて、俺の前でにこにこと微笑んでいるだけ。
「寝癖がついちゃったかと思ったけど、雪見さんの髪、柔らかいから、すぐに直っちゃうね。」
・・・・寝癖?
俺の髪?
・・・ああ。
そういうことか。
背中や腕に触るのと同じだ。
「ありがとうございます。」
危ない危ない。
勘違いしたまま行動に移らなくてよかった。
「どういたしまして。・・・あの、間違えて買って来ちゃって、ごめんなさい。」
児玉さん。
そんな顔、しないでください。
「いいえ。俺の方こそ、たった一口で寝ちゃったりしてすみません。それに・・・待っていてくれて、ありがとうございます。バスタオルも・・・。」
児玉さんの心遣いが嬉しいです。
どんなに小さなことでも、児玉さんが何かをしてくれたら、俺は幸せです。
「あの・・・、もう帰りますか? もう、送って行けます・・・けど?」
待たせてしまったお詫び。
遅くならないうちに。
「うん。でも、その前に、」
その前に?
「デザートを食べましょう。一緒に食べようと思って冷蔵庫にしまっておいたから、持ってくるね。」
児玉さん ――― 。
あんな状態になった俺を見ても、呆れたり怒ったりしないで、そう言ってくれるんですか?
「はい、どうぞ。では、いただきます。」
「・・・いただきます。」
児玉さん、好きです。
できることなら、ずっと一緒にいてほしいです。
よく冷えた杏仁豆腐のさわやかな甘さと優しい舌触りは、児玉さんそのもののような気がした。