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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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ごめんなさい。


「ん・・・。」


明るい部屋。

目の前は青。


今・・・何時?

テレビの音?



「!!」



大急ぎで起き上がる。

児玉さんは?!



「あ、目が覚めた?」



ソファに座ってテレビを見ていたらしい児玉さんが、さっと近付いてくる。

帰らないでいてくれた ――― 。


「気分はどう?」


そう尋ねながら、俺の隣に膝をつく。

その言葉と表情に込められた優しさが、胸にこたえた。

招待しておきながら、たった一口の酒でダウンしてしまう自分が情けない。


「はい。・・・もう大丈夫です。」


恥ずかしくて顔を上げられない。


そっとテレビの横の時計を見ると、8時過ぎ。一時間は経っていない。

起き上がった床には枕代わりのクッションがあり、お腹の上にはバスタオルが掛かっている。


「そう。よかった。」


ほっとするようなその声にゆっくりと顔を上げると、すぐ前で児玉さんが微笑んでいた。

それから彼女は右手を伸ばして・・・俺の髪に触れた。



・・・児玉さん?



指で優しく左耳のあたりの毛先を少しずつ引っ張られて、胸が震える。

その途端、うとうとしかけていた時の記憶が一気によみがえった!


手を掴んだこと。

「帰らないで」と頼んだこと。

児玉さんの膝枕。



俺の想いが伝わった ――― 。



「児玉さん・・・。」


このまま・・・。


「はい、これでいいね。」



・・・・・?



これでいい?



「・・・ええと?」


児玉さんはすでに手を引っ込めて、俺の前でにこにこと微笑んでいるだけ。


「寝癖がついちゃったかと思ったけど、雪見さんの髪、柔らかいから、すぐに直っちゃうね。」



・・・・寝癖?

俺の髪?



・・・ああ。


そういうことか。

背中や腕に触るのと同じだ。


「ありがとうございます。」


危ない危ない。

勘違いしたまま行動に移らなくてよかった。


「どういたしまして。・・・あの、間違えて買って来ちゃって、ごめんなさい。」


児玉さん。

そんな顔、しないでください。


「いいえ。俺の方こそ、たった一口で寝ちゃったりしてすみません。それに・・・待っていてくれて、ありがとうございます。バスタオルも・・・。」


児玉さんの心遣いが嬉しいです。

どんなに小さなことでも、児玉さんが何かをしてくれたら、俺は幸せです。


「あの・・・、もう帰りますか? もう、送って行けます・・・けど?」


待たせてしまったお詫び。

遅くならないうちに。


「うん。でも、その前に、」


その前に?


「デザートを食べましょう。一緒に食べようと思って冷蔵庫にしまっておいたから、持ってくるね。」



児玉さん ――― 。



あんな状態になった俺を見ても、呆れたり怒ったりしないで、そう言ってくれるんですか?


「はい、どうぞ。では、いただきます。」


「・・・いただきます。」


児玉さん、好きです。

できることなら、ずっと一緒にいてほしいです。



よく冷えた杏仁豆腐のさわやかな甘さと優しい舌触りは、児玉さんそのもののような気がした。







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