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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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ようこそ、児玉さん。 その1


――― こんな感じかな?



6月15日の日曜日。もうすぐ4時半。

児玉さんが来る時間。



朝から部屋の掃除をして、いろいろな物の置き場所をあれこれ変えてみたりした。

俺のアパートは、玄関を入るとダイニングキッチンで、右側に冷蔵庫や調理台、左の壁に寄せてテーブルがある。

フローリングの床はそのまま正面奥のリビング(狭いけど)へと続き、ダイニングとリビングを仕切るように二人掛けのソファを向こうむきに置いている。

左側の壁を隔ててもう一部屋(ベッドルームだけど、今日は片付けきれないものをみんな入れてある。)あり、ダイニングからそこへのドアはきっちりと閉めてある。

その手前に洗面所、バス・トイレ。


今日の夕食はリビングで食べる予定。

ダイニングだと殺風景で・・・色気がないから。


リビングの床には夏用の水色と白のキルティングの敷物と、座布団代わりの青いクッションを買って来た。

もともとある透き通ったガラスの小テーブルが、涼しげな雰囲気を漂わせる。

少し年季が入ったソファには、クッションに合わせた青い大きな布をかぶせた。

余った端を結んで余分なところをたくし込んでみると、すっきりと落ち着いて、壁際にあるテレビや棚の黒と床の青系の配色が、自分ではかなり気に入っている。



夕食は6時の予定。メニューはあまり冒険はしていない。

鮭に長ネギを乗せたホイル焼き、玉ねぎと油揚げの味噌汁、ポテトサラダ。

ポテトサラダはすでに出来上がって、冷蔵庫に入っている。

ホイル焼きはホイルに包むところまで終わっている。

味噌汁は、児玉さんが来てからで十分に間に合う。

それと、買ってきたひじきの煮物。


実を言えば、ポテトサラダは得意料理の一つだ。

親の手伝いで、小学生のころから作っていたから。


食事を買うようになってから満足できなかったことの一つは、ポテトサラダだった。

どこで買っても求めている味じゃなかったのだ。高い店でも、安い店でも。

好きなのに買うとがっかりするなら、買わない方がマシだ。

だから、自炊を再開したときに、真っ先に作ったのがポテトサラダだったのだ。


久しぶりに作っても、ちゃんと美味しかった。やっぱり我が家の味だから?

児玉さんが気に入ってくれるといいんだけど。


帰りは送って行く予定。

全部が上手く行ったら・・・「好きです。」って言っちゃおうかな?



・・・あ、チャイムが。



「はい!」


服装は・・・大丈夫だな。

今朝、このチノパンが入ってラッキーだった。

このシルエットだと、少し痩せて見えるから。


玄関の扉を開ける前に室内を見回す。


――― OK?


今となっては、何かに気付いても仕方がない。

さあ、いざ。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


素敵な笑顔。

たぶん俺は、今日一日、この笑顔を見るために過ごしてきたんだ。


「狭いですけど、どうぞ。」


「はい。お邪魔します。」


我が家への第一歩は俺が抱き上げて・・・という関係ではないですね、今はまだ。

せめて手を取って、と行きたいところだけれど、それも無し。


今日の児玉さんは七分袖のカーキ色のセーターに太めのベルト、ギャザーが3段になっているクリーム色のスカート。

セーターの胸元が広めに空いていて、重ね着しているタンクトップの朱色と茶色がのぞいているところにちょっと慌ててしまう。


児玉さんのために買ってきたスリッパは淡いグリーン。

本当は彼女にはピンクが合うような気がしたけれど、女性用のスリッパを常に用意している男だと勘違いされたら困る。


「すぐに分かりましたか?」


狭い部屋ではリビングまで案内するまでもない。

それでも、少しドキドキしながら先に立って、児玉さんをエスコートしているつもり。


「はい。地図が完璧でしたから。」


部屋は・・・気に入ってくれるだろうか?


「とりあえず、ソファにどうぞ。」


「あら・・・。綺麗にしてるんですね。さすが雪見さん。」


よかった! 片付けた甲斐があった!


「これ、飲み物とデザートなの。少しですけど。」


デザートか!

思い付かなかった・・・。


「デザートは気が付きませんでした。ありがとうございます。冷蔵庫・・・かな?」


「うん、そう。杏仁豆腐と缶入りのカクテル。雪見さん用にはアルコールの入ってないのを買ってきたから大丈夫だよ。」


うわ。

なんだか、ものすごく楽しみになって来た。

夕食のあとに、二人でカクテルを飲みながら?

照明を落として・・・なんてできるような照明器具を使っていないんだよな。消したら、ただ真っ暗だ。

ああ・・・もっと早く気づいていれば!


「児玉さん用に、ビールを買ってあるんですよ。」


「え、ほんとう? 気を遣わせちゃって、ごめんなさい。」


「あはは、いいんです、今日はお客様ですから。でも、アルコールを買うのは初めてで、レジで身分証明書を見せろって言われてびっくりしました。」


「ああ、そうなのよね。ときどき、『見た目で判断してよ!』って言いたくなるけど。」


「児玉さんは・・・その、可愛いですから・・・。」


思い切って言ってみたけど・・・どうなる?


「まあ、小さいから仕方ないかな。」


あ、流された?

気付かなかったのか? 俺の言い方が控え目過ぎたのか?


「ねえ、雪見さん。お夕食のメニューはなに?」


全然気付いてないんだな・・・。


「あ、ええと、味噌汁と鮭のホイル焼きとポテトサラダです。あと、ひじきの煮物を買って来ました。」


「え? 買ってきたのはひじきだけ? あとは雪見さんが作るの?」


「そうですけど・・・?」


何か不都合なことが?


「なんか・・・普通のメニューだ・・・。」


普通のメニュー?

・・・ああ!


「すみません。ご招待したのに豪華なメニューじゃなくて。」


「やだ、違う、違うの。そうじゃなくて、何て言うか、慣れた感じのメニューだなあ、と思って。今までやってなかったひとにしては。」


・・・あれ?


「もしかして、児玉さん、俺が料理ができないと思ってました?」


「え・・・?」


「あ、やっぱり。俺、苦手だとは言わなかったと思いますけど? 面倒になってやめたって言いませんでしたっけ? 2年前までは、ちゃんと自炊してたんですよ。」


「あ・・・。」


あれれれ、ものすごく驚かれちゃったよ・・・。


「ごっ、ごめんなさい! 失礼しました!」


こんなに慌ててる児玉さんなんて初めてだ。

真っ赤になっちゃって、なんて可愛いんだろう!

ああ、もう、笑顔が止まらない。


「いいんです、どっちにしても、上手なわけではありませんから。でも、どんな料理を想像してたんですか?」


「いや、まあ、生焼けで出てくるハンバーグとか・・・、豪快なラーメンとか・・・。」


「くくく・・・。だいぶ覚悟して来てくれたんですね。たぶん、生焼けの心配はいらないと思いますけど、味は期待しないでくださいね。」


「い、いえ。味も期待しています。」


「そうですか? では、お楽しみに。」


さて!


児玉さんのために、精一杯頑張ろう!







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