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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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生徒からの相談


テストが終わってから、放課後の利用者が増えた。


テスト前の放課後に、学習スペースで勉強していた生徒は10人弱で、去年と同じくらいだった。

その前は野村くん一人。


昨日でテストが終わり、今日は・・・なんと、3人!

野村くんのほかに、男子と女子が一人ずつ。

部活動を引退した3年生? 机にスポーツ飲料のペットボトルを置いている。

これから部活動を引退する生徒が増えるはずだから、もう少し期待してもいいかも。


そのほかに、自由席の1つの机には、図書委員の当番の子を待っているらしい女子生徒が2人。

大谷先生がくれた人形を何度も並べたり戻したりしながら、くすくす笑って内緒話をしている。

もう1つの机では男子生徒が一人、イヤホンで何かを聞きながら、音楽の雑誌を読んでいる。

3人のくつろいだ雰囲気が、 “自由席” という名前に似合っている気がする。


書架の間で本を見ている生徒は4、5人。

すでに借りて出て行った生徒も何人かいるし・・・。


「あのう・・・。」


「はい?」


ああ、よく来ている女子生徒だ。

いつも自分の読みたい本が分かっていて、どんどん見付けて借りて行く。

話しかけられるのは初めてだけど。


そんなに恐る恐る話しかけなくてもいいのに。

俺って、怖そうに見える?


「この作者さんの新しい本って、まだ入りませんか・・?」


誰?

・・・ああ、何年か前に人気があったライトノベルの。


「ちょっと待ってて。発注書を見てくるから。」


ほら、怖くないよ。 ・・・のつもりで微笑んでみる。

少しはほっとしてくれた?


たしか、新刊のリストに出てるのは見たけど・・・ああ、あった。

だけど、購入は保留にしたんだ。新しい人気作家を優先にしたから。


「ごめんね。その本、まだ注文してないんだよ。」


「そうなんですか・・・。」


ああ、がっかりしてる。


「でも、リクエストってことなら、なるべく早く買うよ?」


「・・・リクエスト、ですか?」


「知らなかった? 読みたい人がいれば入れるっていうのが、ここの方針だから。ほら、あそこに貼ってあるだろう?」


『資料収集方針』は入り口からまっすぐ見える場所に貼ったつもりだったんだけど・・・。

窓の上じゃあ、高すぎるか。


「まあ、できる範囲内で、だけどね。」


「リクエスト・・・。」


「うん、購入前の予約みたいなものだね。入ったら一番に読めるよ、今は誰もリクエストしていないから。」


「ええと・・・、じゃあ、します、リクエスト。」


ようやく笑ってくれた。


「じゃあ、カウンターで・・・。」


図書委員さんたちも初めてのリクエストの受け付けだな。

今日の当番は河合さんと佐藤さんか。


「リクエストなんだけどね、この用紙に・・・」


一人でも制度を使ってくれる生徒がいれば、ほかの生徒にも広がる可能性がある。

俺は、まずは宣伝係ってところだな。





「じゃあ、失礼しまーす。」


「はい、お疲れさま。」


放課後の図書委員が当番の時間を終わって帰って行く。

自由席にいた女子生徒2人が河合さんと一緒に、楽しそうに出て行った。


球技大会のあと、図書委員の生徒たちが、気軽に話しかけてくれるようになった。

中にはサッカー部の男子生徒もいて、練習やプロリーグの話に花が咲いた日もあった。

球技大会の参加にこれほど大きな効果があるとは思っていなかったので、正直なところ、とても驚いている。


「雪見さん。今日の日報です。」


「ああ、ありがとう。」


A4用紙を上下に分けた日報に、昼休みと放課後の当番の図書委員が利用者数を書き込んでくれることになっている。

放課後の利用者数の合計が、今日は「15」。四捨五入したら20人!

嬉しい!


「あの、部活の都合でお当番を交代するんですけど・・・。」


「ああ、それじゃあ、カウンターにある当番表に書いておいてくれればいいよ。」


「はい。」


部活の用事か。


「そういえば、佐藤さんは何部? 試合前とかで忙しくなるのかな?」


「あ、いいえ、試合なんかありません。ボランティア部ですから。」


「ボランティア部?」


児玉さんが顧問をしている部だ!


「ボランティア部って・・・何をしてるの?」


「ええと、保育園と老人ホームの訪問です。今回は保育園で、7月4日の放課後なんですけど。」


「保育園の訪問?」


「はい。園児に絵本を読んであげたり・・・」


「ああ、おはなし会みたいなことをやったりするんだ?」


「え? おはなし会?」


「あ、違う?」


「ええと、わたしたちは普通に遊んであげるだけで・・・。」


「ああ、そうか。子どもたちの好きなように、一緒に遊んであげるんだね。ふうん、いいね。」


児玉さんにも似合いそう。

小さい子を膝に乗せてあやして・・・、それを見ながら微笑んでる俺・・・なんて♪ やだな〜。


「あのう・・・、雪見さん?」


わ!

ついぼんやりして・・・。


「あ、なに?」


「あの、さっきの “おはなし会” って、どんなものですか?」


おはなし会? ああ。


「知らない? 子どもを集めておはなしを聞かせるんだよ。15分くらいの短いものもあるし、30分から40分くらいで、テーマを決めたりしてやるときもあるよ。」


「へえ・・・。」


この様子だと、参加したことがないんだな。

図書館だけじゃなくて、最近は小学校でやっているところもあるようだけど。


「絵本とか、ストーリーテリングとか、小さい子のときは紙芝居なんかを取り混ぜたりね。」


「ストーリーテリング?」


「うん。 “語り” とか “素話すばなし” とか言われることもあるよ。覚えて語るんだけど、暗誦とは違うんだよ。」


「語り・・・。」


「もとは、お祖母ちゃんや親が子どもにしてあげる昔話なんだよ。」


「ああ! 『むかーし、むかし、お爺さんとお婆さんが・・・』みたいな?」


「そうそう。」


「雪見さん、詳しいんですね。」


「あはは! こういうのは司書の資格を取る勉強の中に入ってるから。」


「え? じゃあ、できるんですか?」


え?!


「い、いや。今は無理無理。ちゃんと練習しないと。今は知識の切れっ端だけ。」


「ふうん・・・。」


あ。

もしかして、興味があるのかな?


「たしか、ここにも資料があったと思うけど、見てみる?」


「え? あるんですか?」


ああ、やっぱり。

まっすぐな目をして。


「うん、こっちに・・・。」


ええと・・・。

ああ、この辺だ。


「このあたりに・・・まあ、たくさんじゃないけど。自分で選ぶ方がいいかな?」


「はい。」


「じゃあ、ごゆっくりどうぞ。」


佐藤さんの興味がいい方向に進むといいな。

今すぐにじゃなくても、彼女の人生のどこかでプラスになるといい。




・・・そうだ。

あさってはいよいよ児玉さんがうちに来る日だ。


横川先生が来られなくなったときは、児玉さんにも断られるかと思ってドキドキしたけど、大丈夫そうでよかった!

頑張っていいところを見せなくちゃ!







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