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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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 ★★ あらら・・・。 : 児玉かすみ


「 ――― はい。よろしくお願いします。」


よし。


「7月4日の金曜日、3時45分から4時半まで。いつもの通りでOKだって。」


「よかった。ありがとうございます。」


ボランティア部の新しい部長、佐藤さん。

前からしっかり者だと思っていたけど、やっぱり間違いなかった。

中間テストが終わった今日、年に3回訪問している竹林保育園の初回の日程を確認に来たのだ。


「普段、あんまり顧問として役に立ってないから、このくらいはね。」


ボランティア部の活動日は月曜と木曜の週2回。

わりとおとなしい女子生徒ばかりのボラ部には、訪問する保育園や老人ホームとの調整以外はほとんど手がかからない。

ときどき、遠征や生徒同士のトラブルが多い部活動の先生たちに申し訳ない気がしてしまう。


「先輩たちが抜けてから初めての保育園訪問になるので、ちょっと心配です。」


「そうねえ。一年生も初めてだもんね。緊張しちゃうかな?」


「ええ、たぶん。わたしも去年はどうしたらいいのかわからなくて、おろおろしてましたから。」


「みんなそうよね。……ああ、そういえば、そろそろ文化祭の計画の時期だよね? 何か考えてる?」


「まだ何も……。普段の活動の成果を発表すると言っても、去年と同じように、施設訪問の様子を報告するくらいしか……。」


「それはそれで大事なことだと思うけど?」


「はい。でも、来てくれる人が少ないので……。」


ああ、そうだ。

展示だけだと、どうしてもお客さんの足が向かないもんね。

お客さんが少ないと、部員のモチベーションも下がってしまう。

みんなそれぞれ頑張っているのは、ほかの部と同じなのに。


「何か、その場で見せられるものがあるといいね。」


「見せられるもの、ですか……?」


「まさか、託児所を開いたりは無理だと思うけど……。まあ、みんなで考えてみてよ。」


「はい。では、失礼します。」


いい子たちなんだよねえ。

訪問している保育園では、保育士さんたちにも評判がいいし。

文化祭の部活参加って、結構思い出になるから、なんとかしてあげたいけど……。


「児玉先生。」


「あ、はい!」


あ、横川先生?


「なんでしょう?」


「あの……、ちょっといいですか、お時間いただいても……?」


「ええ、はい……。」


職員室では話せないこと……?





なんとなく人目を気にしつつ連れて来られたのは、廊下のはしにある職員用の女子更衣室。

横川先生は、並んだロッカーの奥にも誰もいないか確かめている。

こんな場所で話って……なに?


「何かあった? 困ったこと?」


横川先生はまだ若いし、女性だから、ほかの先生たちに相談できないことがあるのかも知れない。


「あの……、実はわたし……。」


ずいぶん言い出しにくいみたいだけど……。

わたしだけで解決できることなのかな?

体の悩みだったら、保健室の堀内先生に相談した方がいいことも……。


「い……、伊藤先生とお付き合いすることになって。」


「え? 伊藤先生? お付き合い?」


……あ。


なんだ〜、そんな話か〜。

ああ、ほっとした。

横川先生ったら、もじもじしちゃって、可愛いなあ。


じゃあ、伊藤先生、とうとう言ったのね。

横川先生が来てからずっと好きだったみたいなのに全然言わないから、最近はもう、見ているだけでいいのかと思ってた。


「そうなんだ。よかったね。」


「は、はい。でも、その……。」


「どうしたの? 何か……?」


何か都合が悪いことがあるの……?


「伊藤先生が……まだここでは公表しないでいようって……。」


「あ……、そうか、そうかもね。同じ職場だと面倒かも知れないね。生徒に知れるとうるさそうだし。でも……、わたしにはいいの?」


「はい。実はその……そういうことで、今度の日曜日、雪見さんのお宅にお邪魔するお話は……。」


…あ!


「そうか……。」


「はい、その……、伊藤先生が心配しそうなので……。」


「そうだよね……。」


「すみません。」


そうだった。

あーあ、雪見さん、残念。

横川先生によく見惚れていたし、話しているときは嬉しそうだったのに。


「仕方ないよね。横川先生、綺麗なんだもの。伊藤先生が心配する気持ちもわかるよ。」


彼氏として立場を確保できたって、不安なのは当然だよね。


「いえ、そんなことじゃないんです。伊藤先生は、ちょっと焼きもちを……。」


「焼きもち?」


「はい。わたしが雪見さんのことを好きなんじゃないかって。」


あ……。


「実はそれ……わたしのせいなんです……。」


「え?」


「わたし……伊藤先生を焦らせようと思って、わざと雪見さんに……。」


「ええっ?!」


横川先生の態度……、雪見さんに親しげに話しかけていた……?

あれが……?


「わ……、わざとって……なんで?」


「だって……、伊藤先生、児玉先生とばかり仲が良くて……。」


「わたし?!」


うそ?!

わたしのせい?!


「あの、伊藤先生とわたしは、共通の友人がいて、それで、」


「それは分かっていましたけど……、でも……。」


そう見えたってこと?

で、横川先生は、伊藤先生を慌てさせるために、雪見さんとたくさんお話をしたってこと?


「あのお弁当も……?」


「はい……。」


雪見さん……気の毒過ぎない?

しかも、わたしも引っ掛かったってこと?

まあ、それは横川先生は気付いてないのか……。


「児玉先生。雪見さんは、大丈夫でしょうか?」


「は?」


「雪見さんが、わたしの態度を誤解していたり……とか?」


雪見さんが誤解?

ああ、雪見さんがその気になっちゃってる可能性があるかって?


……どうなんだろう?

たしかに横川先生とお話ししているときは嬉しそうだったよね。

でもそれは、横川先生の態度のせいとは限らない……けど、まあ、わたしも少しは思っちゃったわけだし……。


「児玉先生、お願いします。雪見さんにそれとなく、わたしが伊藤先生とお付き合いすることになったって、伝えていただけませんか?」


「……え? わたしが?」


「はい。」


「ええと……、どうして? 個人的に何もないなら、心配する必要はないんじゃない?」


……あ。

今度の夕食会は、個人的と言えば言えなくもないな。

でもそれも、わたしが誘ったんだよね……。


なんだか、わたしにも責任があるような気がしてきた。

何かと言うと、横川先生を引き合いに出したりしたし……。


「でも、伊藤先生が、その、危うく本気にしかけたって……。誤解されているなら、早いうちに……。」


気まずいことが起こる前に……だよね。

まあたしかに横川先生が雪見さんに、わざわざ伊藤先生とこのことを話すのも変なのかも知れない。


あれこれ考えるとこんがらがっちゃうけど、わたしから伝えるのが一番簡単なのかな?


「分かりました。横川先生がお夕食会に行けなくなったことはどうする?」


「あ……、それは自分で言います、『都合が悪くなった。』って。行けなくなったことを謝らなくちゃいけないし、避けているみたいになると、また変なことになりそうなので。」


「そうね。じゃあ、わたしは時期を見て、伊藤先生のことを話します。まあ、雪見さんのことは心配いらないと思うよ。」


「ええ……、そうですよね。ありがとうございます。それに、雪見さんが落ち込んだとしても、児玉先生ならフォローできますよね?」


「わたしが? ふふっ、どうだろう?」


落ち込んだ雪見さん? ちょっと拗ねて……?

気の毒だけど、想像できそうなところが笑える!


……横川先生、ほっとした顔をしてる。

伊藤先生に言われて、きっとたくさん悩んじゃったのね。


「児玉先生、わたし、今から図書室に行ってきます。」


「あ、今?」


「はい。今の時間の方が図書室に人が少ないですから。」


「うん、分かった。頑張ってね。」


……って言うのも変か。


「はい。」


行っちゃった……。


あーあ。

あんなふうに笑うとやっぱり綺麗だよね。



それにしても、綺麗な人には綺麗な人なりの心配事があるものなのね。

わたしなんか、誰と仲良くしようが、誰も気にしないもんね。


雪見さん。

横川先生のこと、残念だったね。


日曜日、わたしだけになっちゃってごめんね。







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