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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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せつない帰り道


「雪見さん、楽しかった?」


帰りの電車に乗りながら、児玉さんが尋ねた。

いつものようにニコニコと楽しそうに。


「球技大会ですか? はい、もちろん。筋肉痛にはなりましたけど、体を動かすのは好きなので。」


「そう。よかった。」


こうやって、少し酔った児玉さんと一緒に帰れることも嬉しいし。


「雪見さん、サッカーをやってたって言ってたけど、バレーボールも上手だね。」


おお!

褒められた!


「そうですか? 高校生のときにバレー部の友達にしごかれたからかなあ?」


「しごかれた? どうして?」


「球技大会で優勝を目指して、です。俺は背が高いからって、ブロックとアタックを徹底的に。」


「球技大会のため? すごいお友達だね。」


「そうなんですよ。現役のバレーボール部員はアタックを打っちゃいけないルールになっていて、『だからお前がやれ。』って言われて。」


それが今、役に立っているんだから、感謝しなくちゃ。


「ふふ、そうなんだ? じゃあ、来年はもっと痩せてるはずだから、アタックも楽々いけるかもね?」


「児玉さんのトスでですか? それなら一週間くらい前から、タイミングを合わせる練習をしないと。」


「えぇ? そんなことしてたら、当日は疲れ切って動けなくなっちゃう。」


「あはは! そうですね。」


ああ……楽しい!


児玉さんと一緒にいると、どんな話でも楽しい。

いや。

話をしない時間でも、頭の中に、楽しい考えばかり浮かんでくる。



けれど、そんな時間は過ぎるのは早い。

あっという間に電車は鳩川駅に着いた。

一緒にいられるのはあと少し。


「あ〜、ちょっと待って、雪見さん。」


「はい?」


駅からロータリーに出る5段ほどの階段を降りかけたところで振り返ると。


「脚が筋肉痛で……。」


めずらしく、弱気な表情の児玉さんが。


「みんながいる場所では我慢してたんだけど、痛いのよ……。」


ああ。


「わかります。階段は下りの方が辛いんですよね。向こうのスロープを回りますか?」


「いい。ゆっくり降りるから……イタタタ。」


笑っちゃ悪いけど……可笑しい。

でも、チャンスだ♪


「よかったら腕につかまってください。」


“よかったら” じゃなく、 “是非” どうぞ!


「……いいの? ごめんなさい。」


児玉さん、そんなつかまり方じゃ、意味がないですよ。


「いたーい! あー!」


そうそう、そうですよ!

しっかり両手でね!

あ〜、もう!

笑顔が止まらない!


……なんて言ってるうちに、終わりか。


「ふぅ……。」


……児玉さん?

手は離さないまま?

なんか、寄り掛かられてる気が。

おでこが腕に……。

もしかして、筋肉痛は口実で、ほんとうは…あ、やっぱり終わりか。


「ごめんなさいね。」


ああ……その笑顔。

なんとなく、 “期待させちゃってごめんなさい” と言われているような気がします。


「いいえ。ゆっくり歩きましょう。」


「はい。ありがとう。」


いいえ、そうじゃないんです。

ゆっくり歩きたい理由は、児玉さんが考えていることとは違うんですよ。





二人で歩く夜の道。

少し酔っている児玉さん。


ロマンティックな雰囲気になる要素はあるはずなのに、そうならないのは……児玉さんにその気がないからですか?


「横川先生も褒めてましたね、雪見さんのこと。」


横川先生?

俺は児玉さんが褒めてくれる方が嬉しいですけど。


「まあ、気を遣ってくれたみたいで。」


「そうかな? でも、たしかに体操服も似合ってましたよ。」


「あ、ホントに?」


やった!

少しはカッコいいって思ってくれたのか?


「ええ。太めなのが気にならなかったもの。」


え……?

それはつまり、 “想像していたよりもマシだった。” という程度の……?


「よかったよねー、このあたりが細くなって来てて。」


!!


「あのっ、児玉さん…。」


わき腹を……くすぐったいんですけど?! うわ、つままないでください!

いつもより遠慮がないのは、お酒が入ってるせいなのか?!


「あの、くすぐ…。」


「うーん、もう少しなんだよね。」


ほ……。

やっと離してくれた。


もう……、ドキドキするじゃないですか!

あ〜、油断してた……。



だけど……胴まわりの太さなら、いっそのこと、抱き付いて確認してくれたらいいのに。

そうしたら…いやいや、何を考えてるんだ、俺は。


それにしても、いつも触るのは児玉さんばっかりで、ずるくないですか?

たまには俺だって……ダメに決まってるだろ!


ああ、もう!


なんだか落ち着かない!

こんなに近くにいるのに!



ため息が出てしまう。



児玉さん。

俺に……可能性はありますか?



「さて、じゃあここで。お疲れさまでした。」


ああ…、もうお別れですね。


「はい。お疲れさまでした。」


もう少し一緒に。

ほんの何秒かでも……。


「あの……。」


「はい?」


引き延ばせる立場じゃない…のかな。


「……いえ。おやす」


「あの、またね、雪見さん。」


「あ? はい。また……明日。」



………?



行ってしまった。

なんとなく急いでいたみたいな……?


なんだろう?


見たいドラマでもあったのかな……?







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