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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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球技大会、お疲れさま。


球技大会が6月2日と3日の2日間で行われた。

3種目で行われた球技大会で、教職員チームはバレーボールにエントリーしていた。


男子の部だけれど、選手が集まらない俺たちは男女混合。

“混合” と言っても、女性で出場したのは児玉さんだけ。

彼女は小柄ながらも中学・高校とバレー部だったそうで、このチームでは、毎年セッターとして活躍しているらしい。

「レギュラーではなかったけどね。」と笑う児玉さんは、紺のジャージが凛々しく決まっていた。


ほかのメンバーは伊藤先生と中林先生(二人とも結構上手い。)、経験者だという副校長の大谷先生(でも、年齢的にキツそう。)、今年の新人の岸部先生(運動は苦手と全身で表現している。)、そして、俺。

控えに入っている横川先生がピンクのジャージ姿でみんなの世話と応援団を引き受けてくれて、明るい雰囲気になって楽しかった。


俺は球技ならそれなりにできる ――― いや、できた。昔は。

体育の成績は10段階評価で「9」だった。

でも今は、体重が重くなってしまって、動きが鈍い。月に一度くらいのフットサルでは運動不足だし。

それでも、昔とった杵柄で、ブロックとサーブくらいはどうにかなった。



一日目の最初の試合は一年生が相手だった。

最初の見た目で相手が油断したらしく、第1セットはあっさりと俺たちが勝ってしまった。

けれど、そもそも俺たちが現役高校生と戦うのはスタミナ的に無理がある。

第2セットはなんとか接戦で戦えたけど、第3セットは10点しか取れないで終わってしまった。


敗者復活戦で始まる二日目は、久しぶりの運動による筋肉痛と疲れを抱えた状態で、全員、思うように動けなかった。

きのうの善戦はどこへやら、あっという間にストレートで負けて、出た言葉は「いや〜、怪我しなくてよかった!」だった。

けれど、きのうの最初に思いがけずいい試合をしたことで生徒が大勢詰めかけて、試合は大盛況だった。

生徒たちが「たまちゃ〜ん!」とか「中林せんせ〜!」と叫ぶ中、俺の名前も何度か聞こえて嬉しかった。

児玉さんが言っていた “盛り上げ役” の役割は、十分に果たしたと思う。






「かんぱーい! お疲れさま〜!」


打ち上げは、駅前の中華料理屋。

丸いテーブルにメンバーの7人と堀内先生が集まって、試合の話で賑やかな笑い声が上がる。

その合間にそれぞれ腕を揉んだり、肩を回したりしている姿にまた笑う。


「大谷先生は、今でもママさんバレーの指導に行ってらっしゃるんですよね?」


年齢の割にきびきびとした動きに感心していたら、児玉さんが大谷先生に言った。


「そうなんだよ。妻がいつまでもやめないから、仕方なく引きずられたままでね。はははは。」


なるほど。

普段からボールに触ってるわけか。どうりで。


それにしても、さすが児玉さんだ。

誰とでも気さくに話せるだけあって、副校長先生のそんな情報まで把握している。

やっぱりこれも、彼女の人柄のなせる技だ。


「今日は生徒たちの応援がすごかったですね! 大谷先生のサーブが決まると女の子たちが『キャー!』って。」


俺の左隣に座っている横川先生が笑顔で言った。

横川先生はコートの外もよく観察していたらしい。


「授業を持たなくなると生徒との接点が少なくなるから、ああいうのは嬉しいね。だけど、応援の量では中林先生にはかなわないなあ。」


そうだった。

普段はいかにも文系な雰囲気の中林先生は、体操服が意外に似合っていて、しかもアタックを何本も決めた。

試合が進むにつれて、中林先生への声援がどんどん増えていたのは間違いない。


「あはは、ありがとうございます。授業もあれくらい熱心に聞いてくれたらいいんですけどね。」


「雪見さんの名前も呼ばれてたみたいですよ。」


気を遣っていただいて、ありがとうございます、横川先生。


「ええ、少しだけ。図書委員が何人か見に来ていたみたいで。」


「雪見さんのジャージ姿、初めて見ましたけど、お似合いなんですね。普段からフットサルをやっているからかしら?」


「あ、そうですか? ありがとうございます。」


お世辞でも嬉しい。

でも実を言えば、胴まわりが気になって、暑いのに、ジャージの上を脱ぐことができなかったのだ。


児玉さんにはどう見えたんだろう?

気になるけど……大谷先生と話していて、こっちを見ていない。

思い出してみると、宴会のときに児玉さんが隣に座っていたことって、一度もないな。


「横川先生こそ、何を着てもさまになりますよね。」


「そうですか? うふふ、ありがとうございます。」


綺麗な人は、自分に似合うものがわかるんだろうか?

それとも、似合わないものはないんだろうか?


児玉さんも、何を着ていても可愛らしい。

先週は調理実習だと言って、割烹着を着ていたっけ。

あの小柄な体にエプロンじゃなくて割烹着っていうところがすでに可愛いし、それが三角巾とおそろいのピンクのチェックで……。


「 ――― でしたよね?」


あ。

うっかり考え事を……。

横川先生、何の話をしていたんだろう?


「ええ、そうですね。」


そういえば、宴会のときに横川先生が隣に座っていることが多いような気がする。

職員室に持って行ってる本も、一番借りてくれているのは横川先生だ。

でも、図書室に来るほどではないらしい。いつも職員室で借りて、職員室で返してくる。

坂口先生は2回ほど、図書室に来てくれたけど……、まあ、図書室担当だからかな。


「伊藤先生は普段はスポーツは?」


俺が横川先生を独り占めしていないことを示すため、横川先生の向こう隣に座っている伊藤先生に話しかける。


「僕? 最近、土日にジョギングを始めたよ。顧問をしている登山部の引率だけじゃ、運動不足だって気付いて。」


「え? うちの学校に登山部なんてあるんですか?」


「あるんだよ、部員は少ないんだけどね。まあ、それほど本格的な登山じゃないよ。普通は日帰りだし。」


「でも、キャンプ用品のこととか、とっても詳しいんですよ! わたしも去年、バーベキューのコツを教えてもらいました。」


お。

横川先生が話に乗ってくれた。

ああ、伊藤先生、嬉しそうな顔しちゃって……。


「いや、あのくらいのことは誰でも……。」


「そんなことないですよ。便利グッズもいろいろ教えていただいて。」


ちょっとほっとする。


伊藤先生と中林先生が横川先生のことを気に入っているのは間違いない。

この三人の先生たちはみんな親切でいいひとだから、俺は三人ともと、仲良くやって行きたい。

だから、俺が横川先生を獲得する戦いに参加していると余分な勘違いをされないように、気を付けたいのだ。


「そういえば、岸部先生は部活の顧問はされてるんですか?」


頃合いを見計らって、右隣の席の岸部先生に話しかけてみる。


「あ、僕ですか? 僕は囲碁将棋部で……。」


「ああ、そういうの、得意そうですね。」


いかにも頭脳派っていう雰囲気だ。


「いえ、全然やったことがないんです。でも、異動で顧問がいなくなってしまったのでと頼まれて……。」


「はあ、そうなんですか……。」


「部員も少ないし、廃部寸前とか言われて……。」


暗くなっちゃったよ〜。

なんか、まずい質問をしちゃったかも……。


「うちとボランティア部が一番部員が少ないそうです。」


「え? ボランティア部?」


初めて聞いた!

前の学校にもなかったな。


「ええ。児玉先生が顧問をされているそうですけど……。」


児玉さんが顧問?

それも知らなかった……。


いったいどんなことをやっている部なんだろう?

今まで話題に上らなかったってことは、あんまり活発な活動をしていないのかな……?







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