表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
4 五月の章
31/129

金曜の夜の電話


5月30日、金曜日。

月曜日から入っていた1年生の情報の授業8クラスが無事に終わった。


……ほっとした。

先生が紹介した本を借りてくれた生徒もいたし、ほかのパソコン関係の本も借り出されていた。

5月はスポーツの特集もそれなりに効果があったみたいだし。


一度借りてくれると、必ずまた図書室に返しに来ることになるから、リピーターになってくれる可能性が大きい。

そうやって利用者が少しでも増えてくれるといいな。


……ああ、それに、図書委員と話ができるようになってきたのは大きな収穫だ。


今日は「名作って、なんとなく押しつけがましい気がして読みたくなくなる。」なんて愚痴っていた男の子がいたっけ。

受験用に読めって言われるからな。

だけど、そんなふうに話してくれること自体が嬉しい。

俺のお気に入りの本を紹介したけど、どうだろう……?


5月の開館日は今日で終わり。

利用者も、貸し出し冊数も、少しだけど増えてきた。

職員室に持って行ってる本も、週に1冊か2冊は必ず誰かが借りてくれるし、校長先生が図書室に来るようになった。


まずまず、ってところかな。




あれ? 電話だ。

……児玉さん?!


夜に電話なんて、何かあったのか?!


「は、はい! 雪見です。」


「あ、雪見さん? ごめんなさい、夜に電話したりして。」


落ち着いた声……大丈夫なのか?


「いいえ。どうしました?」


「ねえ、この辺で一番近い電器屋さんってどこかなあ?」


「え? 電器屋ですか?」


なんだかのんびりした話題。

夜に?

電器屋?


「うん。歩いて行ける所にある? 炊飯器って、届けてくれるのかなあ?」


「……炊飯器?」


「そうなの。実はね、炊飯器が壊れちゃって。」


「あ…、そうでしたか。」


事件や事故じゃなくてよかった……。


「そう。朝、タイマーでセットしておいたのに、帰ってきたらスイッチが入ってなくてね、どこを押してもダメなの。びっくりしちゃった。」


「あれ? じゃあ、夕飯は?」


「冷凍チャーハンで済ませた。」


残念!


「で、明日かあさって、買いに行こうと思ってるんだけど、近くにある? 炊飯器って配送してくれると思う?」


「配送ですか?」


「うん。あんまり大きくないから、お持ち帰りしかできないかな? でも、重いよね?」


もう!

児玉さん!


「児玉さん。俺、車出しますよ。」


「え? 車?」


「そうですよ。どうしてこういうときに当てにしてくれないんですか?」


そんな相談の電話はかけてくるのに。

……まあ、俺のことを思い付いてくれただけでも嬉しいですけどね!


「そうか。車ね……。いいの?」


「もちろん、いいですよ。お弁当のお礼です。」


児玉さんと一緒に過ごせるなら、どんな理由でも!


「お礼はお米をもらってるよ。」


「ははは! じゃあ、貸しです。」


「うん、ちゃんとお返しします。ええと……、明日でもいい?」


「炊飯器がないと困りますよね? 明日でいいですよ。」


俺は毎日でも。


「じゃあ、明日の午後。よろしくお願いします。」


「はい。車で迎えに行きます。じゃあ…、」


「あ、待って! 何かお礼の希望を考えておいて。」


俺の希望を言ってもいいんですか?


「わかりました。……おやすみなさい、児玉さん。」


「え、あ……、おやすみなさい、雪見さん。」


児玉さん。



俺の欲しいものは………言葉にするだけでは手に入らないんです。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ