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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
3 お近づきに
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デパートでデート気分


まるでデートみたいだ!

休みの日に児玉さんと一緒に買い物だなんて。

思い切って電話してよかった〜。



……あ、あれか?

うん、そうだな。


くーーーっ、かわいいよ!


青い七分丈のパンツに、淡い紫色のスモックみたいなブラウス。白いバッグ。青いサンダル。

ショートカットで小柄な児玉さんらしい、コンパクトな可愛らしさ。


ああ、そうだ。

喜んでる場合じゃないぞ。

休みの日にわざわざ出て来てくれたんだから、もっと申し訳ない態度でいないと。


それに、児玉さんにとって、俺は単なる同僚だし。

でも、俺のために来てくれたってことは、少しは期待してもいいんじゃないか?


「お待たせしました。」


この笑顔!

やっぱり期待してもいいのか?


「あ、いいえ。すみません、わざわざ。」


「いいんです。ここでやってる北海道フェアに来ようと思っていたので、ついでですから。」


北海道フェア?!

そっちが優先?

俺は北海道フェアに負けてるのか……。


「お弁当箱売り場って、何階でしたっけ?」


「7階です……。」


ああ、がっかり……。

期待した分だけ、落ち込み度が激しいよ……。


「ああ、テナントの雑貨屋さんですね。」


「はい。」


「たしかにたくさんありそう。じゃあ、行きましょう。」


?!


うわわわわ。

もしかして児玉さん、背中に触ってる?!


今日は薄着だし……なんか、あったかいよ!

恥ずかしい!

くすぐったい!


どうしよう?! ……あ、もう離れた?

あ~、びっくりした~。



児玉さんは……いつもどおり?

あれは無意識?


……俺、過剰に反応しすぎ?





「うわあ、ほんと。たくさん並んでる……。」


「そうなんですよ。もう、何が何だかわからなくなっちゃって。」


さっき見た弁当箱売り場を、今度は児玉さんのあとについて歩く。

ちっちゃい後ろ姿もかわいいな……。


「雪見さん?」


「はっ、はい!」


もちろん正面もです。


「どんなタイプが好きですか?」


いきなり俺の好みを?!

こんな質問、どう受け取ったらいいんだ?!


「え、あ、あの、『どんな』って……?」


「とりあえずは見た目。」


見た目か……。


「あの、小さくてコンパクトなかわいい感じの……。」


これで気付いてくれないかなあ……。


「ああ、持ち運びしやすい方がいいのね。カバンに入れたい?」


持ち運び? カバンに?

児玉さんを?


……うわ、弁当箱のことか!


「え、ええと、その方がいいかな……。」


バカか俺は~!!

当たり前じゃないか。

児玉さんは弁当箱を選ぶ手伝いをしに来てくれたんだから。


「うーん……、この辺かな?」


児玉さんが立ち止まったのは、ほっそりした楕円形、二段重ねの弁当箱の前。

白、黄色、黄緑色、青、水色、赤……何色あるんだ?


「中は……、あれ、意外に小さい。」


「そうですか?」


「うん。この前、わたしが詰めた量は入らないな、これじゃ。」


少ないって言われると不安になる。


「じゃあ、もう少し大きめで……。」


「そうだね。」


少し奥に入ると、和風のデザインが並ぶ棚が。


「あ、これならいいかも。」


児玉さんが手に取ったのは、黒い長方形の二段重ね。

つやのあるフタには三毛猫と手毬の絵が、蒔絵風に描いてある。


中を確認してから、にっこりと俺を見上げる児玉さん。


「どうですか?」


楽しそうな、たまごの笑顔。

いつまでも見ていたい。


「かわいいです。」


「あ、可愛すぎる?」


……?


しまった! 弁当箱か!


「あの、それがいいです。はい。」


ぼんやりするんじゃない!


「そう? じゃあ、これに決めましょう。」


「はい。」


あーあ。

今日はこれで終わりか。

あっという間に終わってしまった……。


「あ、それ、お金を払ったら、わたしが持って帰りますから。」


「え? ……あ、そうか。」


中身を入れてくれるのは児玉さんだもんな。



レジで袋に入れてもらったら、思ったよりもかさばる荷物。

これはチャンスでは?! 頑張れ、俺!


「児玉さん、これから北海道フェアに行くんですよね?」


「ええ。」


「混んでる場所では、これ、きっと邪魔になりますよ。」


「ああ……。でも、大丈夫よ。」


「いいえ。それでは申し訳ないので、荷物持ちで一緒に行って、帰りは車で送ります。」


よし、言えた~!


「あ、車で来てるの?」


「はい。」


「うーん……、どうしよう?」


……ちょっとでしゃばり過ぎたか?

もしかして、荷物よりも俺の方が邪魔だったりして……。


「あの、邪魔でしたら、どこかで待ってますけど……。」


やっぱり俺って、押しが足りない気がする。

自信がないから仕方ないけど……。


「雪見さん、デパートの催事場って行ったことある?」


「いいえ。」


「そう。慣れないと疲れちゃうと思うけど……。」


「連休で運動不足だからちょうどいいかも知れません。」


児玉さんと一緒にいられるなら、どこでも楽しいです!


「そう? じゃあ、一緒に行きましょうか。」


OK?!

よかった〜〜!


「はい。」


「じゃあ、もう一階上ね。休日ですごく混んでると思うから、雪見さん、迷子にならないでね。」


「はい。」


人混みで見えなくなってしまうのは、俺よりも児玉さんだと思いますよ。






「助かっちゃった。車があると、ホントに楽ねえ。」


俺の車の助手席で、後ろの席に置いた荷物を振り返りながら、児玉さんが満足そうに微笑む。

後ろのシートには俺の弁当箱のほかに、児玉さんが北海道フェアで買った品々と靴2足が載っている。


「お役に立ててよかったです。」


北海道フェアは、ほんとうにたくさんの人でごった返していた。

その中を小さい児玉さんはどんどん歩いて行き、俺は彼女を見失わないように必死で追いかけた。

児玉さんが味見のためにしょっちゅう立ち止まっていなかったら、俺は絶対に迷子になっていたに違いない。


その人混みの中でどうやって選んだのか不思議な気がするけれど、児玉さんは4軒ほどの店で品物を買った。

一つ一つは大きくなくても、さすがに4つもあると持ちにくいし、重い。

俺は荷物持ちとして存在価値をアピールすることができ、さらに彼女が、「それじゃあ、この際だから」と言って靴を買うことに決めたことも嬉しかった。

児玉さんが遠慮しないで俺を使ってくれるってことは、少なくとも俺に親近感を持ってくれてるってことだ。


「お弁当は、朝会ったときに渡しますから、食べ終わったら、わたしの机に置いておいてくださいね。」


「机ですか?」


堂々と?


「はい。うふふ、大丈夫ですよ、ほかの先生たちは気にしないから。原口先生のときも、そうしてもらってたしね。」


原口先生……。定年退職した……。

やっぱり俺って、そういう位置づけ……?


「あの、持って帰るのは面倒では?」


「ええ。でも、次の日にも作るには、わたしが持ち帰らないと。空っぽなら軽いし、バッグに入るから平気です。」


「そうですか……。」


さすがに、毎日一緒に帰るわけにはいかないもんな……。

ほかの先生たちに知られても平気ってことは、やっぱり児玉さんにとって、俺はただの同僚なのか。


「児玉さん。お米は明日、届けてもいいですか?」


せめて、一日一回、会いたいです。


「明日? うーん……、出かけるかも知れないから、夕方の6時以降にしてくれる?」


「わかりました。届ける前にメールします。」


「うん。よろしくね。」


6時以降……、夜中の12時までOK?



そんなわけ、ないよな。







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