★★ 仕方ないなあ。 : 児玉かすみ
『児玉さ〜ん。助けてください。』
4月28日の日曜日。ゴールデンウィーク最初の3連休の真ん中の日。
お昼すぎにかかってきた電話から、雪見さんの情けない声が。
「どうしたんですか?」
『弁当箱を買いに来たんですけど、どれを選べばいいのか分からないんです!』
あら、まあ。
「どれをって……?」
『大きさも形も何十種類もあるんですよ〜。自分がどのくらい食べたらいいのかも全然……。』
「ぷ。」
やだ。思わず笑っちゃった!
「どのくらい食べたらいいのか」って……。
お弁当箱のコーナーで、大きな体で途方に暮れてる雪見さん? それも可笑しい!
『2段重ねとか、平らなやつとか、どんぶりみたいなのとか、保温機能付きとか……。見れば見るほど分からなくなって。フタの閉め方だっていろいろ違うんですよ〜。』
あらら。
相当困ってるのね……。
「あの、雪見さん?」
『はい。』
「とりあえず、自分が食べられそうな大きさを選んでみたら?」
それ以外、考えられないでしょう?
『そんなこと言ったら、特大サイズになっちゃいます! 児玉さんが詰めるのが大変ですよ。』
詰めるのが大変?
そうか。夕飯はお弁当2つの人だっけ。
それはちょっと困るな。
「この前のパックくらいの大きさは?」
『厚みとか形が違ってて……。』
ああ、あれは浅めだったもんね。
フタを嵌める分の縁もあったし。
『容積がいろいろ書いてあるんですけど、児玉さんなら分かりますか?』
容積? 何ミリリットルとか?
「お弁当箱の容積なんて、考えたことなかったよ……。」
『そうですよね……。』
しょんぼりした声出しちゃって。
もう。
仕方ないなあ。
「雪見さん、どこにいるの?」
『今ですか? 烏が岡の白鳥屋です。』
烏が岡の白鳥屋って……デパートじゃない! 鳩川のスーパーじゃなかったのね。
そうか。だからたくさんあって……。
「じゃあね、今から行ってあげる。」
『え?』
「一時間くらいで行けると思うけど……、あ、雪見さん、忙しい?」
『い、いえ、今日は何も用事はありません。』
「そう。じゃあ、白鳥屋の入り口のオルゴール時計の前で1時半に。大丈夫?」
『はい。…はい! ありがとうございます!』
「うん。じゃあ、あとでね。」
たしか、あそこのデパートで北海道フェアをやってたよね?
行ってみようと思ってたから、ちょうどよかったな。
それにしても、あんなふうに電話をかけて来るなんて。
すごく困ってたからなんだろうけど、ちょっとかわいい。
もしかして、わたし、懐かれてるのかな?
まあ、雪見さんって、どこか放っておけない感じがするし、いいひとだから構わないけど。
ちょっと手間のかかる弟みたいだよね。