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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
2 作戦開始
16/129

児玉屋のお弁当 その3


あんな幸せな展開になるなんて。

しかも……。


「今日の臨時会議の校長先生の勢い、すごかったですよね?」


「そうですね。」


初めて児玉さんと帰りに一緒に歩いてる。

今日は何年かに一度しかないくらいのラッキー・デイだったんじゃないか?


「ゴールデンウィークのご予定は?」


「今のところ、特にありません。家でゴロゴロするだけかな?」


「あらら。それじゃあ、また太っちゃいますよ。」


じゃあ、児玉さん、一緒に出かけませんか……なんて、言えたらいいのに。


「そうですね。少し運動もしないといけないですね。」


そうだ。

昔使ってたダンベルがあるから、DVDでも見ながらやってみるか。


「そういえば、そろそろ4月も終わりですけど、図書室の利用者は増えました?」


「ええ、まあ、ほんの少し。」


“増えた” と言うのが図々しいほどの増え方だけど。


「放課後に、当番の図書委員の友達が、仕事が終わるまで待っていることがあるんです。中には彼氏とか彼女とかのこともあって。」


「ああ、あの自由席ね。」


「はい。面白いのは、待っているのが友達のときは、その子とおしゃべりしたりして仕事がおろそかになりがちなんですけど、彼氏や彼女のときは真面目に仕事をしてくれるんですよね。ときどき微笑み合ったりしてますけど。」


カップルたちには気付かないふりをしているけど、微笑ましくて、つい笑顔になってしまう。


「そうなんですか? うふふ。なんだか可愛い。」


「ええ、ほんとうに。それ以外は、ときどき新しい生徒が来るんですけど、リピーターが少ないんですよね。みんな忙しいのかなあ?」


「ああ……、どうでしょうね。うちの学校は学力的には真ん中くらいですから、生徒もいろいろですよ。」


「いろいろ、ですか?」


「ええ。高校生活をエンジョイしている生徒もいれば、何をしたらいいのか見付けられない生徒もいます。勉強や部活をがんばる子もいるし、やる気のない子もいます。」


「ああ。それじゃあ、暇な生徒もいるんですね。」


「ええ、きっと。」


「そういう子が来てくれるようになるといいなあ。あ、そうだ。よかったら、児玉先生も図書室で本を借りてください。」


もっと図書室に顔を出して欲しいです!


「え……? ああ、そうでしたね! 借りられるんだ!」


「やっぱり忘れてますよね……。学校図書館は生徒と先生のための図書館なんですよ。」


「そうでした。でも、ほら、学校と駅の間に市立図書館があるでしょう? ついあっちに行っちゃうのよね。」


「向こうの方が蔵書数が多いので仕方ないですけど、一応、リクエストがあれば買う方向になっているので……。」


「あ、そうだよね。でも、自分にも当てはまるとは思ってなかった……。」


児玉先生でさえこうってことは、ほかの先生も同じか。


……そうだ。

ゴールデンウィーク中に、先生を対象に、何か作戦を考えてみようかな。

うん、いいかも。

たとえば……?


「あ、またぼんやりしてる。やっぱりね。」


「え? してましたか?」


「してました。まあ、雪見さんは背が高いから、わたしが視界に入らなくなるのは仕方ないけど。」


「い、いえ、そんな……、すみません。」


児玉さんにそんなふうに思わせるなんて!

何やってんだ、俺は!


「ふふ。べつに謝らなくてもいいですよ。」


笑ってくれてるけど……。

俺が児玉さんにどんな態度を取ろうと興味がないってことなのか……?


いや。

でも、少しは……。


「あの……、お弁当を引き受けてくれて、ありがとうございます。」


そうだよ。

全然興味がなかったら、引き受けてくれたりはしなかったはずだ!


「いいえ。」


「でも、毎日なんて、いいんでしょうか?」


「いいですよ。痩せましょうって言い出したのはわたしですし、乗りかかった舟ですから。」


うー……。

やっぱり、その程度?


「でも、無理しないでくださいね。」


「はい。作れない日は連絡しますから。」


「そうしてください。」


ああ、そうだった。

お礼の話をしなくちゃ。


「あのう、お弁当のお礼なんですけど……。」


「ああ、はい。」


「お米でいいですか?」


「え? お米?」


「はい。お米って、重くて買って帰るのたいへんですよね? 僕のお弁当にはたくさん必要そうですし、児玉さんが食べる分も含めて、これからは僕が買うってことで。」


「わたしは助かるけど……重いですよ?」


「だから僕が買うんです。そうじゃないと、お礼の意味がありません。」


「大丈夫?」


「はい。車がありますから。」


「あ、車があるの?」


「はい。僕のアパートは駅から遠いですけど、その分、駐車場付きなんです。」


「そうなんだ……。じゃあ、お願いしちゃおうかな。」


「はい! ただ……。」


ここが重要なポイントなんだけど……。


「なんでしょう?」


「お米をお届けするのは、休みの日か夜でいいですか?」


「あ、ええ、もちろん。ありがとう。すごく助かります。」


「じゃあ、そういうことで。」


「はい。契約成立ね。ふふ。」


やった!

これで、休みの日にも児玉さんに会える!


「あ、そうだ。お弁当箱も必要ですね。」


「え? 弁当箱ですか?」


「だって、これからは毎日だから。使い捨てのパックじゃもったいないでしょう?」


お弁当箱のお弁当?

児玉さんの手作りの?

……こんなに幸せでいいのか?!


「雪見さん、お弁当箱持ってますか?」


「いいえ。」


「じゃあ、買わないとね。自分で買いますか? それともわたしが適当に選んでも?」


「あの、」


“一緒に買いに行って欲しい” って言いたい。けど……図々しいか……。


「……自分で買ってきます。」


ああ……。

俺って “もう一歩” が出ないんだよなあ……。


「そうですか。じゃあ、買ったら持って来てくださいね。」


「はい。」


まあ、いいか。

これからは、児玉さんのお弁当が食べられるんだから。


「僕、痩せられるように頑張ります。」


「ええ。かっこよく痩せて、素敵な彼女をゲットしましょうね!」


え?


「彼女……ですか?」


「そう。今はなんとなく頼りなさそうに見えるけど、痩せたらきっと、自信がつくと思うの。だから、頑張りましょうね!」


「え? あの、」


「彼女を自分で見つければ、お見合いなんてしなくて済みますよ!」


「あの」


「それじゃあ、わたしはここで。さよなら。」


「あ。はい……。さよなら……。」



“素敵な彼女” をゲットしましょう?

“頼りなさそう” ?



“俺の彼女は児玉さん” という設定は、無し?

児玉さんにとって、俺はやっぱり、単なる同僚?

……っていうか、俺、男として見られてないのか?



そんな!



――― いや。

これはもしかしたら、逆にチャンスかも。


児玉さんは俺のことを警戒していないんだから、これを利用して仲良くなれるんじゃないか?

友人として親しくなって、そこからいつの間にか恋人に……なんて!

そういうのって、ちょっとドラマっぽいよな〜♪



……いやいや、そんなに都合よくはいかないんじゃないか?



ああ、だけど、もしかしたら……。




あ〜、わからない!

どっちなんだ〜〜〜!

俺はどうすればいいんだ〜〜〜!!








第2章「作戦開始」はここまでです。

次から第3章「お近づきに」に入ります。

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