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恭子【きょうこ】は鏡台の前に座り、母の香奈子【かなこ】が髪の毛を夜会巻きにするのを待っていた。

自分でもできるが、香奈子がやった方がいつも気に入った上に香奈子は恭子を着飾るのが好きだった。

今日は、午後から弟の裕【ゆたか】の結納がある。

本来であれば座敷のある料亭で食事をするのであろうが、今日は軽井沢にある青山家の実家でやることになっている。

青山夫妻が経営しているブライダルサロンを秋野一家に見せるのが最大の目的だ。

ふたりの挙式披露宴を自社所有の邸宅で行いたいと青山夫妻は考えていたからだ。

そのためにも、婚約相手の秋野一家を青山家に招待し、週末を利用して軽井沢観光も含めてもてなそうとしているのだ。


「マーマ!美優【みゆ】のチェックのリボン知らない?」

妹の美優がそう言いながら、ノックもなしに私の部屋に入ってきた。

「さあ、自分でどっかにやっちゃったんじゃない?ママは知らない。」

7年前に実家をでた恭子は、可愛いとは思うものの11歳の美優のことはよく知らない。

そして、弟妹たちが、恭子が実家に帰ってすぐは恭子が帰ったことを喜んでくれるのに、しばらくたつと香奈子を独り占めしてしまう恭子のことを疎ましく思い始めるのを知っていた。

今の美優も、リボンのことは本当はどうでもよくて、香奈子に甘えに来たのだ。

「美優ちゃん、リボン探して来なさい。」

「美優も恭子ちゃんみたいにして。」

「いつもみたいにしないで、アップにするの?」

香奈子が聞くと、美優はこっくりと頷いた。

「恭子ちゃんのが終わったらやってあげるから、ちょっと待ってて。太【ふとし】はいい子にしてる?」

「悪い子にしてる。」

「イタズラ盛りだからね。美優、ふたりのお着替え終わっているか見てきてちょうだい。」

「わかった!」

美優は、小走りに部屋を出ていった。

ふたりというのは、7歳の星空【るきあ】と2歳の太のことだ。


昼食会は12時からの予定になっていて、すでに10時半。

香奈子は段取りで焦っていた。

恭子と美優の髪の毛を結ったら、自分も着物を着なければいけない。

11時過ぎには料理が届き、サービスマンとシェフがひとりずつ披露宴会場から派遣されてくる。

サービスマンは披露宴会場の副支配人のひとりで勤続15年の岡部が、シェフはフレンチのスーシェフで、昨年フランスから帰国したのを採用した北村が担当することになっていた。

夫の利明【としあき】と15歳の遥【はるか】は、朝からテニスに行ってまだ帰ってきていない。

こんな日だけでも休んで欲しいとは思うものの、遥は中学の1年では県代表、2年と3年では全国大会まで残っている。

受験勉強でストレスも溜まっているので、週末だけはしっかりとトレーニングをさせてやりたいと夫婦で考えていた。

しかし、いくらなんでも遅すぎる。

利明は、予定をくるわせて香奈子をイライラさせることがしばしばあった。


「香奈ちゃん、イライラしてるでしょ。」

「まあね。いつものことだけど。」

「あんまり溜め込むと、寿命が縮んじゃう。」

恭子の髪の毛が結い上がったので、今度は香奈子が座って恭子が髪の毛を結っていた。

「もう、とっくに縮んでいるんじゃないかな。こんなの毎日よ。」

事実、兄弟の中でも恭子以外はそれほど聞き分けが良くはない。

「でも、みんな 大人になればわかるようになる。もう少し頑張れば、仕事も子育ても引退できるわ。」

「裕がもっと頑張らないとね。」

「あと、樹里【じゅり】さんも…。やってもらうことがたくさんある。彼女に務まるかしら。」

「無理にやらせることないよ。あと2年もすれば綾音【あやね】も帰ってくるんだし、会社は私達に任せて香奈ちゃんはゆっくりして。」

「そうできればいいんだけどね。」

美優が、バーバリーの赤いワンピースに着がえて、リボンを持って戻って来た。

「清美【きよみ】さんが、綻んでるのを縫ってくれてたんだって。」

と嬉しそうに差し出した。

「良かったわね。」

「ママ、やっばりいつもみたいにして。」

「いいわよ。」

香奈子が左に少しずれて、ひとつの椅子に美優と並んで座った。

香奈子は、美優の髪の毛を真ん中でふたつに分けて耳の横でまとめてリボンで結んだ。

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