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誰がために 17

 神国天ノ原の魔法使い、天鳥神楽あめのとりかぐらが自国の王、天命あまめノ帝を討ってから一週間が過ぎた。

 この日の午後、体制側は七代目天命ノ帝の崩御を発表。皇子がいない彼の後を継ぎ、午前に『戴冠の儀』を終えた天鳥神楽が帝の地位に就いた事も、合わせての発表となった。

 神国天ノ原、天鳥あまどりノ帝の誕生である。

 当然異論はあった。

 中でも宮内尊文みやのうちたかふみ侍従長や天守命あまのもりめい近衛長など、古き時代より天命の家系に使える者達の反発は激しかった。

 だが、天命ノ帝の遺書が、彼らを黙らせた。

 それは、全てを見通し、丸く収めるために書かれていた、それこそまさに、この日のために準備されていたかのような遺書であった。

 だが神楽は逆に『用意周到な不自然さ』、この一点が納得出来ないでいた。

 確かに、国を治める地位にある者が、いつ何があっても混乱を招かぬよう、そうした準備をしておくのは、当たり前の事かもしれない。

 だが、あまりに出来すぎていた。

 神楽が帝を討ったのも、計画を立てて行った事ではない。帝の言葉に対して、神楽自身が突発的に起こした行為の結果、天命ノ帝を討った。

 つまりは、何があってもおかしくない出来事の極めつけだったのだろう。

 それにもかかわらず神楽は、全てが脚本にそって決められた道筋を通って今に至ったような気がしてならないでいた。




 神楽達が帝を討った翌日、社守静やしろもりしず二守瑠理ふたつもりるりが揃って、神楽の下に帝の遺書を持ってきた。

 そこに書かれていたのは、次期帝に神楽を指名する事や、軍部に対する指示、処遇等、当たり前の事であった。

 だが、突発的な事柄で討たれたにも拘わらず、準備されていた遺書には、既に神楽の名前が書かれていたという、不自然な文面であった。

 神楽は思う。

 ――確かに事実を知らない者が素直に受け取れば、問題は無いのだが――

 帝自身、討たれる事が前提のような遺書だと、神楽はそんな思いを払拭出来ないでいた。

 更にそんな気持ちに輪をかけるようなもう一通の遺書があった。それには『開封は「戴冠の儀」を終えてから』と、神楽個人に宛てたものであった。




 形骸化したような儀式と全てを発表した夕刻。

 神楽は納得いかない気持ちを引き摺ったまま、自身に宛てた遺書を開封する事にした。

 場所は天命ノ帝が執務室と使っていた部屋。そこに天鳥鈴音あめのとりすずね山神彩華やまのかみあやか、社守静、そして二守瑠理と、事情をよく知る彼女達を呼んでいた。

 部屋の中央に用意された机を囲むように、奥側中央に神楽、右手に鈴音、左手には彩華が座る。そして神楽の正面向かって右手に二守、左手に社守が座った。

 先ず挨拶代わりに神楽が、

「――全員揃いましたので、始めたいと思います」

 言って、自分の前に未開封の遺書を置いた。

「天鳥ノ帝、私や二守がこの場にいても良いのですか?」

 社守が問いかけたが、慣れない名で呼ばれた神楽は一拍間を置くと、自分が呼ばれた事に気が付き、

「――あっ、すみません」

 慌てたように答える。が、それを二守に、

「天鳥ノ帝。帝たるものが簡単に頭を下げてはいけません」

 指摘される。

「えっ、ああ、すみません」


「「ほらまた。帝たるものが簡単に頭を下げてはいけません!!」」


 よほど重要な事なのだろう、本物の姉妹である社守と二守とが、神楽の左右に控える美人姉妹以上の、所謂いわゆる本物の迫力を持って、息ピッタリに、再度の指摘をした。

「あっ、はい、ごめ……いや、すみ……こ、これまでしょっちゅう謝っていましたので――」

 と、気圧けおされる神楽の言葉をさえぎり、

「ほう、かぐ……天鳥ノ帝。私達が悪いと言う訳だな」

 先ず彩華の軽い口撃が入る。当然呼応するかのように、

「そうですか、にい……天鳥ノ帝はそうやって、自身が情けないのを棚に上げて、幼気いたいけな私達に責任をなすり付ける訳ですね。

 そうですか、私達の教育方針が間違っていたようですね。今晩からは、さらに厳しくいたします」

 鈴音が大きな目を細めて、真っ平らな口調で追い打ちをかけた。

「ちょ、ま、って、そ、それは、ご、ごめ――」

 神楽が言ったところで社守と二守の鋭い視線に言葉が強引に止められた。

 神楽は猛烈に後悔していた。大人の社守と二守は、味方になってくれると、甘い期待を抱いていた。

 が、そんな保険も何も無い期待は脆くも崩れ去り、神楽にとって脅威となる女性が、四人になってしまった。

「――って、てかですね、先程の質問ですが、社守軍師と二守筆頭のお二人にも、是非この場にいて頂きたいのです」

「天鳥ノ帝にそこまで言われるのなら、そういたします」

「私も同様に」

 社守と二守は答える。

 二人の答えを聞いた神楽は、

「では、開封しますよ」

 言って、自身の前に置いた遺書を手に取ると、乾いた音と共に封を切ると、中から書面を取り出した。折り畳まれている書面を開き、無言のまま神楽は、先ず目を通す。

「………………って」

 ポツリ言うと、そのまま動きが止まり、項垂うなだれた。

「かぐ……天鳥ノ帝、どうした」

「に、にい……ああもう、天鳥ノ帝、何が書いてあるのですか」

 それを見た、彩華と鈴音がほとんど同時に声を上げた。

「……ああ、これ……」

 神楽は項垂れた頭を上げる事無く書面を差し出した。それを受け取った彩華が一読、

「…………はあ」

 大きく嘆息すると、がくりと肩を落とし、

「えっ? 何? 彩華姉さん?」

 訳のわからない鈴音が、彩華から差し出された書面を受け取ると一読、

「………………」

 大きなお目目のまばたきも忘れ、口をパクパクと、言葉を失った。

 丁度再起動に成功した神楽が、固まった鈴音の手から書面を抜き取ると、

「社守軍師、二守筆頭、ご説明願えますか?」

 言って、彼女達に文面を向けて差し出した。

 無理もない。そこには、


 ――神楽、彩華、鈴音、嫌な役を押し付けて心苦しく思った。すまなかった。

 おかげで、ようやく肩の荷が下りたよ。

 何かと疑問もあるだろう。詳しくは静、瑠理に聞いてくれ。

 そうそう、何を聞いても彼女達を恨むなよ――


 と、あった。

 軽く顔を見合わせた社守と二守は、神楽の方へと向き直ると、

「「わかりました。お話しましょう」」

 息ピッタリに言った。

「――とは言っても、何からお話をいたしましょうか。天鳥ノ帝、何かございますか?」

 逆に社守に返されると神楽は、

「と、言われても、俺もいろいろとあって……

 えっと、とりあえず、帝はこうなる事を予想――いや、仕組んでいたのではないですか?」

 神楽の先ずの疑問に、社守と二守は薄ら笑みを見せて、

「当然、そう思いますよね」

 先ず、社守が言う。続いた二守は、

「いきなり核心ですね」

 と、書かれたメモを見せた。

「って、二守筆頭。言葉で良いと思いますよ」

「あっ、癖よ、く・せ」

 言いつつパチリとウィンクをしながら、ちょろりと舌を出して、テヘ、のポーズを決めた。

 ――二守筆頭。仮面の下でもそれをしていたのですね。でも、ちょっとだけお年を考えて下さいよ――

 そんな神楽と二守を優しい目で見ていた社守が、

「そろそろお話をしたいのですが、もうよろしいでしょうか?」

 静かに言った。そんな社守の言葉を聞いて、背筋に冷たいものを感じたのだろう、神楽と二守は、姿勢を正すと耳を傾ける。

 と、正面の二守が神楽の目に入る。

 ――表静ちゃん、怖いから――

 社守から死角になる絶妙な角度で、いつの間に書いたのかメモを出している。しかも怒った社守の、可愛らしいデフォルメイラスト付きあった。

 思わず吹き出しそうになる神楽。当然それが見える彩華と鈴音も僅かに肩が揺れた。

 そんな怪しい空気を感じ取ったのだろう、社守がグルリと睨みをきかし、咳払いを一つ入れると、場が凍りついた。

「では、しっかりと聞いて下さい。

 天鳥ノ帝がおっしゃった事は、ほぼ間違いありません。

 天命ノ帝は、そうなるようにしむけました。私や二守筆頭も、全ての事情を知った上で協力をして来ました。

 あの時は、わかりきっていた結果にもかかわらず、自分で思っていた以上の衝撃を受けましたが……」

 言った社守は視線を落として一息つく間に二守が、

「ですが、あれは帝が望んだ事です。私達は誰を恨むという事もありません。

 そう、私達は以前よりそうなる事を承知で、帝を愛してきました」

 神楽の心配を言葉だけでも払拭する。が、二守の言葉に僅かに引っかかりを覚えた神楽が、

「ん? 以前? とは?」

 顔を上げた社守が答える。

「以前です。それは私達が帝を男性として意識するより前。

 私達の家系も古き時代より帝に使えておりました。表の宮内や天守と違って、どちらかというと暗部ですが。

 そして私達の家系は、天命の家系が何を望んでいたかを知った上で、それにそうように動いてきました。

 天鳥ノ帝、今のこの結果は帝の家系の望みでもあったのです」

 社守は、着物とお揃いの派手な色合いの風呂敷を机の上に置き、おもむろに開くと、包まれていたものが姿を現す。

 そこには、鈍色にびいろの銀光を申し訳程度に放つ刀が見えた。だがそれは中程で綺麗に折れている。天命ノ帝と対峙した神楽が、袈裟懸けさがけの一振りで斬った帝の刀、天命の家系に受け継がれてきた宝剣と言ってよいものであった。

 突然、

「こ、これは――なんたる不覚」

 それを見た彩華の言葉であった。

「ん? 彩華、どうしたんだ?」

「彩華姉さん、どうしたのですか? 大きな声を上げて」

 神楽と鈴音は、彩華の言葉の意味がわからないらしく、首を傾けている。

「か、神楽……あ、いや、天鳥ノ帝、これは装飾刀、所謂模造刀だ。こんなもので実戦が出来るわけない。

 わかっていれば、みすみす……あの時、それを見抜けなかった私自身が情けない。

 社守軍師、これは一体――」

 対峙の時、一度でも神楽と帝が切り結んでいたのなら、神楽はともかく、彩華は気付いて止めただろう。もっとも、その一度の切り結びすら出来ない程度のものであった訳だが。

 机を一度叩いた彩華は立ち上がると、上半身を机の上に乗り出して、真正面の社守に詰め寄る。

「ですから、これが天命の家系の望みです」

 社守は、折れた帝の刀に手をやりながら言った。

「望み? 社守軍師、言っている意味がわからないのですが」

 神楽は言いつつ首を更に傾げる。鈴音や模造刀と見抜いた彩華も、同じく首を傾げている。

 社守は、表情を僅かに緩めて、でしょうね、と、前置き、

「――この刀は模造刀と言っても、天命の家系が代々受け継いできた、正装や儀式等にも使われる正式な宝剣です。見た目に派手さが無いですが――」

 刀の素性を明かし、どうぞ、と、折れた刀を差し出した。

 言われて手に取り、しっかり見ると、刀にうとい神楽でも本身との違いがわかる。

 刀身は確かに金属なのだが、玉鋼ではない全く別の金属を使っているようで、異様に軽い上、柔らかそうに見える。そんな人を斬るには頼りないとも言える、柔らかそうな金属で形成されたは、皮膚に切り傷をつける事が出来たとしても、骨は当然、肉すら切れないだろう。

 ――帝はこんな刀で、俺と対峙していたのか――

 とは言っても刀の形をしているので、切っ先で突けば刺し傷は出来るだろうし、場所によっては致命傷ともなるだろう。

 それに金属の刀身である事には違いないので、数発程度なら打撃武器として使えるかもしれない。

 だが、刀の素性を確かめたところで神楽達の疑問は解消された訳ではない。

 ――いくら闇姫の刀の切れ味が良いからって、剣術を知らない俺が、魔法の助力も無しに、文字通り一刀両断してしまった訳だぞ。

 帝はそんな刀で何を――

 それを読み取ったのだろう社守は、

「天命ノ帝は、儀式を行ったのです」

 だが、神楽、彩華、鈴音は更に、

「「「はい???」」」

 揃って首を傾げて疑問符を浮かべた。

「――儀式って降霊術?」「――呪い?」「――黒魔術?」

 社守は、そんな怪しげな言葉をつぶやく神楽達を見て、クスリと僅かに笑みを作り、

「天命の家系のけじめと言った方がわかりやすかったでしょうか」

 だが三人は、更に首を傾げて疑問符を浮かべたままだ。

「静ちゃん、ちゃんと説明した方が良いよ」

 視界が九十度傾いているであろう三人を見かねた二守が助け舟を出す。

「そうね。この三人は変に鋭いのに、ちょっとだけ残念さんですからね――」

 ボソリ、呟くように言う社守の言葉は、神楽達には聞こえなかったようだ。

「――天鳥ノ帝、これは天命の家系の歴史とも言えます。

 先ずは初代がこの地域を平定し、神国天ノ原としました。もっともその当時は、この『本都』程度の領地で、周囲もいくつかの小国に囲まれていました。

 そして初代から三代目までは、地域の安定を図るため、先頭に立ち民衆を引っ張り領土を拡大して行きます。

 それが良い結果を出したため、天命の家系は、絶大な権力を手に入れる事が出来たのだとと思います。つまり、領主と領民が『地域の安定』という大義のもと、一丸となって周囲と戦争をしていたのです。

 当時は集落程度の小国のそれぞれが、安定を求めてせめぎあう戦国の時代でもあった訳ですから、領主としては当然の行動です」

 と、社守は一息入れながら、神楽達の表情を伺う。

 ――残念さんと言っても、この程度は理解出来ているようですね――

 社守は、そして、と、つなげ、

「四代目となって間もなく、この地域は神国天ノ原とバルドア帝国の二極状態となりました。

 ですがこの時、神国天ノ原より多少歴史のあるバルドア帝国を見て、『ほころびの見え出した専制君主制』は領民のためにならないと、四代目は思ったそうです。

 そこで『領民のための執政』と天命の家系の家訓にそって、一つの方針を打ち立てました。

 『全てが一つになった時、領民に全てを返す』と――」

 社守は間を少々取り一目する。

 ――残念さん達は、ちゃんと付いてきてますね――

 安心するように薄く微笑みながら、

「――とは言っても、いきなり全てを返されても領民達はまごつくだけです。ですから、四代目は徐々に議会の権限を拡大させるように、自ら引いて行きました。そして、五代、六代と引き継ぐうちに、帝の位は象徴的な意味合いを強めました。

 当然、バルドア帝国とは交戦中ですから、押さえるところは、しっかり押さえていましたが。

 そして七代目となった時、天鳥ノ帝もご存知、いいえ、天鳥ノ帝がいたからこそ、バルドア帝国との戦争を終結し、この神国天ノ原が唯一の国となりました」

 話を続けながら、社守は思う。

 ――この方達、本当に理解しているのでしょうか――

 そんな社守の心配をよそに、神楽達は難しいとも、にこやかとも取れる複雑な表情で頷いていた。

「さて、ここからが核心となります。

 ここまで世襲という形を取ってきた天命の家系で気付いた事はございませんか?」

 社守の問いかけに、神楽、彩華、そして鈴音は、

「「「気付いた事……ですか???」」」

 揃って首を傾げる。

「ではヒントです。七代目天命ノ帝が亡くなり、これまで世襲だったにも拘わらず、特段の異論も無く、天命の家系でもない天鳥ノ帝が誕生しました。不思議だと思いませんか?」

「えっと、帝には皇子がいなかったから――ですか」

 神楽の返答に、そりゃまあ、と二守が口を挟む。

「――私も静ちゃんも、帝とはやる事やってたのに、残念ながら仕込まれていませんでしたから」

 と、大きな咳払いと同時に真面目な表社守が、

「る、瑠理ちゃ……二守筆頭、そう言う事は言わないように! せ、せめて授かると言いなさい。

 あっ、す、すみません。取り乱しました」

 ほんのりと紅色に頬を染めた社守に、いえいえ、と首を振る神楽達であった。

 社守は、咳払いをもう一つ軽くすると、

「さて、続きをですね。

 そう、皇子、理由はさておき、皇子は確かにいませんでした。ですが、それは正解ではありません。

 そもそも帝位の継承者がいないのはおかしいと思いませんか?」

 ここまで言われれば、神楽達も気が付く。

「ああ、そうですね。

 ――でもなんで?」

 神楽の返答に、社守と二守は、イスから滑り落ちそうになるのをこらえる。

「ちょっと難しかったでしょうか、残念さん達には……」

 姿勢を正しながら社守は、ボソリと言った。

「だから静ちゃん、意地悪しないでお話してあげようよ」

 見かねた二守は、案外優しかったりする。それを受けた社守は、

「そうですね。では続けましょう。

 天命の家系は初代より、帝の継承権を持つのは、天鳥ノ帝もご存知の『人の心を読める』という、あの能力を受け継いだ皇子のみです。

 不思議とそれは、直系の第一皇子のみが受け継いだため、結果としてその第一皇子のみ継承権を持っています。

 つまり親戚筋も無く、皇子は常に一人だけであり、万が一その皇子が亡くなれば、それが天命の家系が途絶える時となります――」

 一息吐いた社守は、一つ決意したように、

「――そしてそれは、帝の意志で終わらせる事が出来るという制度でもあります」

 言った。

「終わらせる?」

 思わず神楽は返した。

「そうです。終わらせたのです」

 社守は、さも当たり前のように言った。

「そうです。それは四代目の決めた方針に従って」

 二守が続けて言葉を重ねた。

 神楽は、あっ、と短く言って思い出す。

 ――全てが一つになった時、領民に全てを返すと、あれか。そのために自ら命を絶つような事をしたのですか――

 だが、と神楽には一つの疑問が浮かんできた。

「天鳥ノ帝の疑問はわかります――」

 社守に心を見透かされたような言葉をかけられ、神楽は僅かに焦る。

「――大願成就のためには、天命の家系は完全に断たれないといけないのです。

 それも、天命の家訓を受け継いでくれると信じるに値する他人に手によって。

 そのために、天鳥ノ帝、いや、天鳥神楽を利用しました」

 はっきり言われた神楽は僅か肩を落とし、

「やっぱりですか」

 ポツリと呟くように言う神楽に社守は、

「そのために、皆さんのご両親の死も利用いたしました」

 告げた。

 が、妙だ、神楽は、彩華は、鈴音は思った。

 そして違和感。神楽は思う。

 ――自分達の両親は、反抗活動に加わっていたから『粛正』された。という、あの『北浜』での仮説は、残されていた資料によって、そして何よりも帝の言葉によって証明された。

 いや、違う。

 それでは、『粛正』ではなく『死』と言った社守軍師の言葉が合わない。

 まさか俺達は仮説を証明した訳でなく、その答えに誘導されたのか?――

 神楽が、そして多分同じ事に気付いたのだろう彩華も鈴音も、急激に体温が低下するかのように、一気に血色が悪くなる。

 僅かに震える口を動かす神楽、

「や、社守軍師……お、俺達は、どこの誰なんですか?」

 社守がすまなさそうに言う。

「天鳥ノ帝――出身や本名という事ですと、私達ではわかりません。いいえ、それこそ調べようがございません。

 ただ皆さんのご両親は、私の知る限りにおいては、私達の家系と同じく暗部、六代目天命ノ帝の直轄諜報でした。

 もっとも以前の二守筆頭のように、仮面で素顔を隠していましたし、そもそも幼少の私自身には、お話する機会もありませんでしたが」

「そうですか……」

 肩を落とす三人に社守が、

「もう一つ。皆さんのご両親が、戦火で亡くなったのは事実です」

 言うと、ゆっくりと頭を上げた神楽が、

「では、何故俺達を、あんな仮説に誘導したのですか?」

 反射的に問いかける。対する社守は、

「何度も申しますが、事の起こりは四代目の方針です。

 二極化した戦争が終結し、領民達が落ち着いた頃を見計らって、天命の家系の幕を引く。

 その幕引きのために、四代目も五代目も、そして六代目も準備してまいりました。

 皆さんは六代目が準備して、七代目が受け継いだ人材です。

 天鳥ノ帝や鈴音さんが魔法使いとなったのは、少々驚きましたが。おかげで、戦争の終結に向けて、上手く事が運びました――」

 と、続ける社守の言葉を二守がさえぎり、

「まあ、私がバルドア帝国の参謀やってたし、バルドア皇帝を暗殺したのも、わ・た・し・よ。

 びっくりした? ねえねえ驚いた?」

 打ち明けた。

 ――こ、この人は……衝撃の事実を、いともあっさりと――

 ガックリと力が抜けた神楽は思った。

「る、瑠理ちゃ……二守筆頭! その話は――」

 思わず声を上げた社守は、一度自身を落ち着けるように大きく息を吐き、

「――天鳥ノ帝。つまりは、皆さんの矛先が天命の家系に向かうように、仕向けた――」

 僅か悲しみの表情の社守の言葉を、神楽がさえぎり、

「結局俺達は――」

 言うが、言葉が続かない。そんな神楽の言葉を社守が、

「皆、犠牲者です――」

 補完する。更に社守は、最後に、と、

「――私は、天命ノ帝の言葉を、いいえ、最後の勅命を預かっています。

 それは天鳥ノ帝に、愛する天命ノ帝を奪われた、私達のささやかな敵討ち。と、取って頂いても構いません。

 ですが、拒否されれば私達にはどうする事も出来ません」

 言って、そのまま俯き一枚の書面を差し出した。

 神楽は受け取り、読む。


 ――全てを終えた後、無に戻ってくれ――


 神楽は、おもむろに立ちあがると一歩下がる。そして社守、二守に正対すると、片膝をついて頭を垂れ、

「承知」

 短く返事した。

 僅か遅れて、彩華、鈴音が同じく、

「承知」

「承りました」

 返事を返した。

 直後、社守、二守も最後の詔に対して、

「「承知いたしました」」

 揃って、告げてた。

読み進めていただき、ありがとうございます。

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