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議場にて 7

 全面的に手直ししました。 12・4


「って……てか……いくら義妹とはいえ、口に出してはいけない言葉を聞いた気がするんだが……」

「妹、義妹、二言めにはそればっか。

 養子縁組したとか、再婚相手の連れ子じゃないです。本当の義兄妹でも無いんです。

 戦災孤児として施設で一緒に育てられて、たまたま私が年下で、妹的存在として周りが勝手に扱って、だから妹と言われる事に違和感も無くなって……

 名前だって、他の大将達と同じで代々受け継がれた名前をしきたりで名乗っているだけで、家族のつながりの証じゃない。

 だからこの気持ちは近親愛なんかではないんです。至極普通の恋愛感情なんです」

 そう言うと鈴音の大きな目から一筋の涙が頬を伝わって流れ落ちた。

 あまりに唐突な告白に、俺はかける言葉が見つからないでいた。


「兄さんは、彩華姉さんの事が好きなんですか?」


 口を閉ざしたままの俺に、鈴音が改めて尋ねてきた。

 俺と彩華ははっきりしないまま、そういう関係にもあった。

 それは多分鈴音は知っているだろう。


「――彩華の事をそう聞かれれば、多分、好きなんだろう。でも間違えないでくれ、それは恋愛の対象としてではない――」

 ろくでもない嘘つきがいる。


「――先が見えてて、一方的に相手を不幸にする事がわかっているのに、恋愛ができるはずもない――」

 今ひとつ踏み込めないでいた、ろくでもない嘘つきは心に引っかかるものを、自身で納得するために、ここぞとばかりに吐き出す。


「鈴音、お前も契約している者である以上、理由はわかっているだろう。

 だから、俺の恋愛の対象となるのは、魔法使いとしての契約の事、対価の事、そしてリスクの事、全部がわかっている人じゃないと駄目なんだ。つまりは同じ魔法使いじゃないと駄目なんだ」

 この場を取り繕うためだとしても、彩華に対して、とてつもなく後ろめたい気持ちのまま、固まった口をなんとか開いて、ここまで言った。 この時俺は、遠回しであるが鈴音に告白している事に気が付いた。

 しかし同時に自身の心の中で、もやがかかっていた気持ちを口に出して、はっきりとした形にしてしまった事で、今まで兄妹として鈴音と接してきた俺は、この後どのように彼女と接して良いのか、わからなくなってしまった。

 そして兄妹としての関係を、壊すきっかけを作ってしまった軽はずみな行為を懺悔ざんげした。


「兄さん、今の言葉、そんな遠回しでなく、もっとはっきりとした言葉で聞きたかったのですが……何となく気持ちは伝わってきました。まだまだ言いたい事はありますが、私の特別を見てしまった件につきましては許るすことにします」

 俺の話を聞き終えた鈴音はそう言って許しを出し表情を少し穏やかにした。


(まったく兄さんは、鈍感というのか礼儀知らずというのか、ガサツというのか……こんなの好きな人に見せる為に決まってるでしょう。

 今回はこれを付けた私が勝負している姿を想像しておいて下さい。実物は近いうちに披露いたします)


『鈴音さん、呟いたのか、聞こえるように言ったのかわかりませんが、かなり慎みがないような気がしますよ、今の発言。

 まあそう言ってもらえるのは、非常に光栄な事なのですが……』

『えっ! ……あっ!』

 再び顔を赤く染めた鈴音は、『お花畑』を抱えたまま寝室に逃げ込んでいった。

 今回は鈴音自身の失言が招いた結果だから、怒りようがないと思う。しかししばらくは出てこないだろう。


『キャー! 何をなさるんですか、黒鬼闇姫くろきやみひめさん!』


 突然、銀界鬼姫ぎんかいききの悲鳴が頭の中に響き渡った。

 俺はすぐさま悲鳴の聞こえた方を見た。そして同時に頭を抱え込んだ。

 その時俺の視線に飛び込んできたのは、鬼姫のスカートをめくりあげて、ニコニコしている闇姫の姿であった。しかし二人とも何故か『本物の人形』のように固まっていた。


『闇姫さん、聞くまでもないのですが、何をなさっているんですか?

 ……直ぐにその手を下ろしなさい』

 目が点状態の俺の言葉で我に返った闇姫は、スカートをめくっていた手を下ろした。


『だってねぇ鈴音ちゃんが、凄くエッチィパンツを持ていたから、銀ちゃんも凄いの付けているのかなぁって……で、めくってみて黒はびっくりだよぉ。

 だって、かぼちゃだよぉ、カボチャ……あまりに予想外な結果だったんで、黒は固まっちゃったんだよぉ』

『黒鬼闇姫さん、あまりの事に固まったのは私の方ですわ。

 それにカボチャではありませんですわ! 失礼な……これはドロワーズですわ!』

 旧文明で言うところの市松人形に近い形をとっている闇姫と対照的に、鬼姫は西洋のアンティークドールとかビスクドールと言われる類の物に近い形をとっている。当然ドレスを着ておりその中も、それに見合う物を着用していて何ら不思議はない。


「ど、どうしたの鬼姫ちゃん、何があったの?」

 鬼姫の悲鳴を聞きつけて、寝室に閉じこもっていた鈴音が、まだ周りに赤みを帯びた大きな目をパチクリさせて、遅れながらも飛び出てきた。


「今の会話を鈴音は、聞いていなかったのか?」

「兄さんごめんなさい、あまり集中していなかったので、聞き流していたようです。

 なんか、カボチャがなんとかとか……」

『鈴音様……黒鬼闇姫さんにスカートをめくられたのですわ。それでドロワーズを見てカボチャと……』

『なるほど、そう言う事ですか……闇姫ちゃん、女の子がスカートをめくるなんて、はしたない事をしちゃ駄目ですよ』

『ハァーイ、鈴音ちゃん。でも何で何でぇ?』

『闇姫ちゃんだって、お着物のすそをめくられたら恥ずかしいでしょ』

『あっ、そうかぁ。黒は何にも穿いてないからぁ、丸見えになっちゃうねぇ……ほんとだぁ、恥ずかしいや。神楽君見ちゃ駄目だよぉ』

――って、なんで俺?


『だからね、自分が恥ずかしい事を他の人にやっては駄目なんですよ』

『良ぉく、わかりましたぁ。銀ちゃん、ごめんなさい』

『って、黒鬼闇姫さんは何も付けていらっしゃらないのでございますか?』

『お着物なら当然のことですよぉ。

 へっへっ、黒、偉いえらい?』

『……闇姫さん、ここは誇るところではありません。

 と、いうことで皆さん、パンツ話に区切りがついたところで、本題に入りますよ』

 俺は半ば強引にここまでのドタバタ劇に終止符を打ち、真顔で口を開いた。


『本日の軍務会議で勅令が発布された。

 内容は次回、帝の戦場視察に俺と鈴音が同行しなさいというもので、わざわざ勅命とする程のものではないと思う。しかし公の場で正式な形で発布されたわけだから、何らかの真意があると思う。

 鈴音は先ほど帝と話をしたんだろ? 何か聞いていないか?』

『あれは……ごめんなさい、方便です』

『はい? 何ですと?』

『あっ、いえ、決して悪気があってではなくて――突然消えた闇姫ちゃんを追って議場に行って、そこで見た爆発しそうな兄さんを止める為、咄嗟についた方便です』

『――ばれたら総長達にどやされるな……まあいいか、その時は鈴音も一緒だからな』

『はぁーい……』

 トーンの下がった鈴音の返事を聞いた俺は元気づける為に付け加えた。


『まあ、感謝はしているから、その時は叱られ慣れている俺が矢面に立ってやるよ』

『ありがとう……』

『まあ、鈴音が知らないなら、俺からの話は以上だ。そのうち帝から何らかの形で、その真意を教えて頂けると思うしな』

 そう言うと、俺は鈴音の話を聞く為に視線を向けた。なんだか新たな気分で真正面から鈴音の顔を見た気がする。肩程の長さで切り揃えられた、栗色の髪の毛が必要以上乱れないように、左右両側を細いリボンでまとめて清楚な雰囲気に包まれている。そして何かを訴えかけられると、断る事ができなくなってしまうほどの目力を持った、大きめの眼がこっちを見ている。

 そしてせきを切ったように鈴音が話し出した。


『私が魔法使いの契約とその対価を知ったのは、九歳になった時です。

 この頃、対価については秘密扱いだったようです。しかし実際は公然の秘密でした。

 私も対価について誰かに聞いたのですが、今ではどこの誰から聞いたのか思い出せません。でもその頃の私はませていたのでしょうか、兄さんを好きになっていた。

 そこに対価の話を聞いたのです。

 普通の人が人生の折り返し地点を迎える頃、兄さんは天寿を全うしたとしても、消えてしまう。そんな事がわかってしまった。

 残されてしまう私はそんな事、きっと耐えられません。その時が来たら、自ら命を絶つ――でも、時を同じくして自ら命を絶つつもりなら、少しでも兄さんの役に立ちたい。

 そう考えた私はそれから毎日、兄さんと共に歩んでいる闇姫ちゃんにお願いしたのです。「今ならまだ間に合う、私も魔法使いとしてあなた達と契約をしたい」と……彼女は私が十歳になったとき、鬼姫ちゃんを連れてきてくれた。そして私も残された寿命の半分を対価として鬼姫ちゃんと契約したんです。

 そして契約の主旨は「兄さんと共に歩み、そして守る」これが私の正義なんです』

 鈴音の話が一区切りしたところで、俺は口を開いた。


『馬鹿な兄を持つと、出来の良い妹は苦労するよな。

 でも、出来が良くても馬鹿だよお前は……こんな俺の為に莫大な対価まで払って――本当にごめんな、鈴音』

 俺はそう言いながら席を立ち、鈴音の隣に移りそして抱き寄せた。


『馬鹿な私が一人で暴走した結果なんです。兄さんが謝る事ではありません。

 でも決して後悔はしていません』

『ところでその契約主旨だと、さっき議場で一番危い存在だったのは鈴音じゃないのか?』

『確かに、感情消失状態でしたが、闇姫ちゃんの声が薄ら聞こえたんです』

『俺は何も聞こえていなかったけど……闇姫、何か言ったのか?』

『ウゥーん、黒は何にもおぼえていないよぉ』

『じゃあ、鬼姫か?』

『私は鈴音様と同期しておりましたから、私の声ははっきりと聞こえるはずです』

『間違いなく聞こえたんです。「神楽君はもう止まっている」と、だから私は鬼姫ちゃんを引く事ができたのです』

『そうか……何の声かはわからないけど、とりあえずは大事にならなくて良かった。

 しかし感情消失状態か……契約の主旨でうたった正義を遂行する為に、邪魔な感情を封印してしまうなんて、本当に厄介なリスクだよ。

 それにしても鈴音にしては珍しく危ない嘘をいったり、いきなり鬼姫に武装をさせてたり、理由がわかったよ。

 あの時、鬼姫の戦鎚は天守近衛長に向けられていたしね』

『当然です。

 私以外、兄さんを馬鹿にする人は許しません!』

『てか、鈴音さんは俺をいじめてもいいわけなんだね。

 という話はさておき、俺の契約の主旨を教えておくよ。

 単純に「争いを無くす」それだけだから。

 まあ、契約したのが七歳だったから深い考えはいっさい無し。でも、どうしたら良いのかわからなくて、実際困っているんだよね。

 まあ鈴音も手伝ってくれるし、何とかなるかな』

 俺達はその後も冗談めいた話や、世間話を交えながら契約や主旨、そしてリスクについて語りあった。


 更けゆく秋の夜長、ゆっくりと流れる時間の流れに乗って、俺と鈴音は通じ合った気持ちを更に深く確かめ合うように、そのまま身も心も結ばれた。

 読み進めていただき、ありがとうございます。


 長々と続いてきた、主に主要人物説明の第一部もようやく終了して、次回より一応新展開です。とは言うものの、まだ未登場の主要人物達が何人も残っているんですが……特に未だに一人も出てきていない敵国の主要人物たちとか……どうしよう……


 今後もアップペースやストーリー展開が遅くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。

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