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上と下 10

アップした直後に様々な問題に気が付きました。内容的には変更は無いです。1・9

「彩華姉さん、ここから入ってみましょう」

「そうだな、先ずは軽いものからだな」


 美人姉妹の天鳥鈴音あめのとりすずね山神彩華やまのかみあやかの二人に手を引っ張られるまま買い物に連れ出された俺の役回りは、荷物持ち(まあ当たり前ですが)と支払担当らしい(当然、彼女達の財布を預かっている訳ではない)。そんな涙目必至の役回りを知らない他の男性諸氏しょしから見れば、うらやましい姿に映るだろう。あっ、代わっても良いですよ。支払担当は。いつでも申し出て下さいね――はい、身勝手でした。

 てか、お二人さん、『○○から』って何ですか? そんな、まだまだ序の口みたいな台詞は、今日一日で俺は、干涸ひからびちゃいますよ。

 などという俺の意見は、一切考慮されず店内へと引っ張っていかれた。


「いらっしゃ……いませ」

 と、ピンクの可愛らしい服を着た女性店員は、尻窄しりすぼまりに声が小さくなる。多分ちょこまかとついてきた『お人形』を見て、『何かとちまたを騒がしている魔法使い達』と認識をしたのだろう。

 今、一歩退いたような、しかも微妙に涙目だ――大丈夫ですよ。俺達は大人しいですよ。


 という訳で、どうやらここは小物などを扱う店のようだ――うん、先ずはお安い物から始めて、俺の金銭感覚を徐々に麻痺まひさせようという魂胆こんたんですね。昔からよくある、催眠商法というやつですか、その上美人二人のエスコート付きとくれば、デート商法を加えた悪徳ダブルですね。

 俺はだまされないからな、その手は無駄だからな。と、呪文のようにつぶやく俺に、

「兄さん、選んで下さい」

 と、言う鈴音は、髪をまとめる細いリボンを見ていた。

「じゃあ、これだな」

 俺は、鈴音の栗色の髪に淡く映えそうな蒲公英色たんぽぽいろのリボンを選んだ。

「は~い、後で付けて下さいね」

 と、妙に嬉しそうな返事を返す鈴音。

「神楽、こっちも」

 と、手を引く彩華も、少々太めのリボンを見ていた。

「う~ん、彩華にはこれだ」

 と、彩華自慢の艶やかな漆黒しっこくの髪を引き立てるようなべにのリボンを選んだ。

「うむ」

 と、口角を上げて一言で納得した彩華だった。

 まあ、二人の無垢むくな笑顔を見ると、たまにはこういうのも良いかも、と思う――散財覚悟でなんですが。


『黒はこれねぇ』

『私はこちらをお願いいたしますですわ』

 と、怪しい声に振り向くと、黒鬼闇姫くろきやみひめくしを、銀界鬼姫ぎんかいききはカチューシャを、その手に持っていた。

『って、はい? 闇姫さんに鬼姫さんもですか?』

『そうだよぉ、神楽君。黒だってぇ、女の子なんだよぉ』

『そうですわよ、時には殿方として、甲斐性かいしょうというものを見せて頂きたいことですわ』

『はい、了解です。オーケーです』

 半ば開き直りの俺。

 ならば、と、いうことで、俺は目についたシュシュを適当に三セットと、カチューシャを二つ、一つはヘッドドレスの様なもの、一つはティアラの様な装飾がほどこされたものを手にとった。言うまでもない、近々会いに来るであろう、わがまま美少女アリエラ・エディアスと、『お人形』白輝明姫しろきあけひめ金剛輝姫こんごうききのものである。

 それを見ていた女性陣は、何とも言い知れぬ視線を投げ掛けて来たが、この場では黙っていた――微妙に後が怖いのだが。


 そんな感じで買い物が始まった。しかし、どの店の店員も反応は似たり寄ったりで、尻窄まりの挨拶に、一歩退いて微妙な涙目――こっちが涙目になりそうです。別の意味でもですがね。

 と、いう訳で、二店目三店目と店を回る度に、重くなっていく両腕の荷物に比例して、軽くなっていくお財布であった。




 その者は市井しせいに溶け込んでいた。

 極々、至極普通に溶け込んでいた。

 それは逆に不自然な程でもある。

 周りの誰も気が付かないうちに、一通の書面を焼いた。




 時間も午後一時、俺達は買い物に一区切りをつけて、昼食をとった。美人姉妹の目に止まったのは、以前『サーベ』で、某女性係官に案内されて入った所にも似た、高級と頭に付きそうなレストランであった。選んだメニューは、お昼の定番であるランチとしては、少々お高い一五〇〇円程の高級ランチ。実際何が値段を引き上げているのかは、わからないのだが値段通り美味かった――まあ所謂いわゆる値段マジックというのかも知れないが。

 さすがにここは美人姉妹が支払を分担した――何ともお優しい二人である。

 しかし、冷静に考えてみれば一人当たり七五〇円程で、俺のお財布を自由に――細かい事は、まあ良いでしょう。ここは一発、甲斐性を見せますよ……ちっぽけなガラス細工の様なものですが。

 とりあえず、夜なら間違いなく二人に、素敵な笑顔で『ごちそうさま』と言われる訳で、昼という時間に万歳である。


「さて、もう少し見て回りたいのだが、神楽は大丈夫か?」

「えっと彩華さん、少々言葉足らずのようで、それは何をもって大丈夫かと言えば良いのですかね」

 彩華は、徐々に増える荷物と、軽くなる財布の俺を心配して口に出したという事は、簡単に推察すいさつできた。が、俺は少々意地悪く言葉を返した。

 と、俺の意地悪な言葉にかぶさる様に、あらぬ方向から返答が聞こえた。

「でも、大丈夫です。兄さんは、見かけによらず力持ちですし、甲斐性だって、実はすごいんです。甲斐性持ちなんですよ」

 あっ、あれ? 鈴音さん、微妙に意味がわかりませんが、過大なるご期待を誠にありがとうございます――優しい妹へ、間もなく干上がる兄より。


「そうか。鈴音が言うなら大丈夫だな。

 では、次に行くか」

「そうですね彩華姉さん。まだ見たい物が、いろいろとありますしね」

 ちょ、ままま待て待て、いろいろとか、ななな何か怪しい言葉が聞こえたが、別に今日でなくても良いだろう。


「そうだな、ぼやぼやしてると、アリエラ達が来るかもしれないからな」

「彩華姉さん、そんな怪しい旗を立てないで下さい」

「すまんな。これは神楽の役目だな」

「あっ、ここ入りましょう」

「そうだな、ちょうど買ったものを入れて持ち帰るかばんが欲しかったところだ」

「可愛いのがあるかな」

 会話に遅れがちな俺が、足も遅れないようにと、美人姉妹はしっかりと俺の手を引いている――逃走防止的な意味もあると思うが、逃走ですか? そんな大それた事はしませんよ、後が怖いですからね。




 その者は、街の外へと向かう民衆の流れに溶け込んでいた。

 その歩みは、早くもなく遅くもなく、極々、至極当然のように歩いていた。

 周りの誰も気が付かないうちに、一人、また一人と追い越して行く。




 時間は午後三時少々前、俺の両手に吊るす荷物を六つ程増やしたところで、三時のおやつと、騒ぎ出した闇姫のため、手ぶらの優しい美人姉妹は、喫茶店で休憩をとることに了承した――同じ文字なら手ブラにして欲しいと……あっ、人前ではさすがにですね。では、夜の楽しみにと、って――あれ? なぜこのタイミングで、二人そろってこっちを見るのですか? はい、不謹慎ふきんしんでした、ごめんなさいです。


「神楽、すでに謝っているのかもしれんが――まあ、そのうち……」

「兄さん、そういうのは、あまり感心しません――でもこれ、手で隠せるかしら……」

 お二人さんには、もう何も言いますまい。相変わらず最後まで聞き取れないのだが。

 さて、そうこうしているうちに、注文したものが出てきた。騒ぎ出した闇姫は既に二つ目のケーキに突入している。ちなみに俺がコーヒー、彩華と鬼姫は紅茶、鈴音はホットミルク――それか? そのけしからんふくらみを作り出したのはそれなのか?

 と、そんな疑問はさておき、落ち着いたところで俺が、

「本日はお楽しみ頂けたでしょうか?

 大変名残惜なごりおしい事でございますが、間もなく天鳥神楽のお財布は、打ち止め、いや干上ひあがります。何卒なにとぞ、ご了承頂きたい」

 と、切迫せっぱくした実情を申し出ると、鈴音と彩華は顔を見合わせ、一瞬の沈黙をおいて、何かを決心したように言う。


「神楽、ここと、夕食は私達が出そう」

「ですから、もう一店行きますよ、兄さん」

 ご了承頂きって、あ、あれ? だから、ですから、どうしてそうなるんですか? 引きずり回されて、完全に空になるまで、しぼり取るつもりなんですね――てか、俺ってこの二人に何かしたか?


「じゃあ、どうしましょう、彩華姉さん」

「うむ、先ほど気になった店があったのだが」

「あっ、私もです。でも兄さんが……」

「それはもしかしたら同じ店なのかもしれないな。私も神楽が気になるからな……」

 はいはい、大丈夫ですよ、何処どこにでも付いて行きますよ。こうなりゃ、ガラス細工ざいくの甲斐性持ちの意地を通しますよ。

「これなら大丈夫ですよ」

「そうだな」

 ですから、もう何も言いますまいです。でも出来ればで良いですから、俺の悲しみあるれる心を読んで下さい。

「良い物を選んでくれそうです」

「うむ、非常に重要な事だからな」

「ああ見えて、兄さんのセンスって案外良いですからね」

「その点は、私も驚いているぞ」

 もう、何だか好き勝手に言ってますね。最後に何を買わされるのか、わかったもんじゃないな。


「それでは行きましょう、兄さん、彩華姉さん」

「うむ、行くぞ、神楽、鈴音」

「は、はい」

 えっと、何ですかその決戦場に向かうような雰囲気は。

 と、美人姉妹の勢いに気圧けおされながら、相変わらず手を引かれ街に出る俺達であった。




 その者は、街の外の風景に溶け込んでいた。

 街の外に出ると、極々、至極当然のように街道から消え去っていった。

 周りの誰も気が付かないうちに、隣にいた人が消え去った。




 時間は午後四時となっていた。

 俺達を道行く人々は、何とも言えない奇異きいなる者に向けるような視線を投げかける。それは、俺達が『巷を騒がす噂の魔法使い』だからというより、誰もが羨む美人二人に手を引かれ、両腕にはいくつもの荷物がつるるされた俺の姿が、ズバリ、漫画から抜け出したような駄目男のそれ、あまりに情けない姿をしているからなんだろう。


「ここですよ、彩華姉さん」

「やはり、私と同じだったな」

「では兄さん、ここが最後ですから、覚悟を決めて下さい」

「神楽、お前にとっては最後の決戦場とも言うべき所だな」

 で、ですから、『覚悟』とか『決戦場』とか、非常に物騒ぶっそうな言葉が聞こえますが、一体……


「ちょちょちょ、こここここなんですか!?」


 俺の眼前には、

 1・カラフルな布地屋さん

 2・キュティーなお花屋さん

 3・ファンシーな水着屋さん

 へ? どれも違う。そうですね、無理に間違えても仕方ないですね。

 はい、正解は『下着屋さん』でした――パチパチパチ……

 ちなみに女性達は『ランジェリーショップ』と言うようだ。


「さあ、入りますよ、兄さん。気合いを入れてくださいよ」

「何をしている。さっさと入れ神楽」

「でででですから、待ちなさいって、おお俺ってかなり場違いな――」

 わずかににじむ涙目の俺の言葉をさえぎり、

「何を言ってるんですか、兄さん」

「そこに書いてあるだろう、神楽」

 と二人が指さす先に『カップルに限り男性の入店はオーケーです』と、ご丁寧ていねいに表示されていた。

「ままま待て、俺達はカップルじゃ無いぞ――」

 俺のちっぽけな抵抗も虚しく、美人姉妹にさえぎられる。


「「カップル です(鈴) だ(彩)!!」」

「――今更何を言ってるんですか、兄さん!」

「――しかも、毎夜のように同衾どうきんしているのに何をいう、神楽!」

 と、息ぴったりな口撃こうげきに、俺が返せる唯一の言葉は、

「すみませんでした」

 の一言であった。それを合図に俺は、不気味な生物の触手に捕まった食物の如く、店内に引きずり込まれた。


 男の俺からすると、別世界とも言える場所に入った訳だが、運良く(かな?)他にお客は無く、店内は俺達と、やっぱり涙目になって退いた女性店員だけだった。まあ、それが噂の魔法使い一行だからなのか、屈強くっきょうな女性二人に引きずり込まれた、単なる食物的な、情けない俺の置かれた立場に同情したのかはわからないが――せめてその涙目の原因は、後者であって欲しいものである。

 場所に対する動揺が少々落ち着き、改めて店内を見渡すと、何とも何とも言いがたい雰囲気に満ちあふれている。よくもまあ、集めたもんだと――って、別に下着ドロボーのアジトではない訳なので――感心する。

 これも女性用下着という、色や形や種類の豊富さがなし得るものなんだろう。もし男性下着専門店があったら――ごめんなさい。間違っても俺、入らないから。店内の想像すら却下です。

 と、店に入ってしばらくおしゃべりをしていた美人姉妹は、それぞれの好みに向かって散開し出した。それにしても、嬉しそうに品定めをしている顔はやっぱり可愛いです。

 実際、下着を買うだけなら、駐屯地にある売店でも事足りる訳だが――


「兄さん、ちょっと良いですか?」

「何だ鈴音」

 と、鈴音に近づくと、

「どれが良いかしら?」

 と、専門知識の無い俺には、非常になやましい質問を投げかけてきた。


「あのですね、その手のお話は、彩華とだな――」

「私は兄さんに選んでもらいたいのです」

 と、俺の言葉をさえぎり、そして突き出してきたのは、男の俺が見てもうなるような、見事なカップサイズのブラジャー。ローズピンク、スカイブルーのパステルカラー系とオフホワイトの三枚、それぞれ可愛らしいレースの飾りが入っている。


――と、そういう事です。軍の売店程度では、鈴音のけしからん膨らみを包み込める『特別なサイズ』が無い訳で、例え取り寄せたとしても、実用重視のよろいの様な物だそうで――俺は、着けた事が無いから、よくわからんが――、可愛い物が好きな鈴音(って、女子のほとんどだろう)の好みに合う物が無い訳です。


 しかしだな、そういう物を突き出されてだな、冷静な判断を俺からあおごうというのは、何か間違ってるぞ。

「あっ、兄さんが冷静な判断力を失う物を選んで下さい」

「って、いいい言ってる事がおかしいぞ、鈴音」

「そうですよね。物だけじゃ――では、着けてみますからそれで判断して下さい」

「こら鈴音――」

 こ、こらそれは幾度いくどとなく俺の反撃を鎮圧ちんあつしてきた『必殺のポーズ』ってか。それは反則だぞ。

 鈴音は、けしからん膨らみの前で両の手を組み、上目遣いの大きな目をウルウルさせて、俺を見つめる。


「――わかりました。三つともオーケーです」

「ええ! 良いんですか? ありがとうございます、兄さん。えっと、じゃあ、それから――」

「はい、下も三枚好きなの選びなさい」

「わぁ、ありがとうござます。見せても恥ずかしくな物を……ふっ」

――お、おい今、してやったり的な笑いを……考え過ぎか?

 鈴音は既にニコニコしながら品定めに入っている。えっと、とりあえず見せても云々うんぬんは、さておきます。

 さて、彩華は……


「神楽、ちょっと良いか?」

 何だか都合良く、タイミングピッタリの呼び出しですね。

「どうした彩華」

 と、彩華に近づくと、

「どっちが良いかな?」

 同じような、微妙な既視感きしかんを覚えながら見る。

 彩華の手にしていた二つは、上下のセットであった。てか、ですね、カーマインとラズベリーのビビッドカラーは何と言いますか、悩ましいというのか扇情的せんじょうてきと言いますか、二枚重なっている生地の箇所かしょでも向こうが何となくけて見えるって……非常にけしからん訳ですよ。


「……あのですね彩華さん。すごいのを持ってきちゃいましたね」

 と、言う俺に、

「す、凄いのって言うな。か、構わんだろ、私の趣味だ。と、とにかくだ、お前に選んでもらいたいのだ」

 と、シューシューと何かが蒸発する様な音と共に、耳まで赤く染まった彩華は、持ってきた物とは不釣り合いな態度であった。


 実のところ彩華のそれは、そう、『趣味』なのであり、当然ながら軍の売店にはそんな『けしからん物』は無い。

 軍というのは、気が付くと、一日のほとんどを制服で過ごす訳だ。それこそ休みも取れず一年三六五日、寝る時以外というやつである。つまり、お洒落しゃれを楽しみたい年頃の彩華にとっては、外に見せるお洒落が、内のお洒落になってしまった訳だ。ちなみに鈴音の場合は、犠牲として銀界鬼姫が、フリルの塊となっているようである。

 で、勤務中はさておき、寝る前にとか、鏡に向かってだな、あの類の下着を着用している訳で……そもそもあの二枚重ねても向こうが透けて見えるという、防御力がほとんど無い、攻撃に特化した様な物でだな、目の前をウロウロされたりだな、寝床に入られたりだな、隣にはけしからん膨らみの持ち主もいる訳だし、二人とも美人で可愛い訳だし、よくもまあ俺は貞操ていそうを守ってこれたとだな思う訳で――あっ、貞操は守ってませんでした、はい。


「い、いや、選べって言われてもだな……」

 彩華の手にしているそれは、俺が見た中でも、一、二位を争える凄さではないだろか。


「な、何なら、試着するぞ」

「そ、そんな照れて言われてもだな……こっちが困る訳でだな――」

――そもそも、この場でだな、素敵なものを披露されてもだな、健全な男子としては非常に困る訳ですよ。

 って、こ、こらそんな目で俺を見るな。

 彩華は、その切れ長の目をウルウルさせて、上目遣いに俺を見つめる。もちろん、その美しく形の整っている膨らみの前で両の手を組んでいる。既に照れ状態マックスの彩華は、いつものように途中でくじけないようです――踏ん切りのついた女性の度胸は凄いです。


「――わわわかったから、二つともオーケーだ」

「そ、そうか。嬉しいぞ神楽」

 全く、彩華といい、鈴音といい、そんな笑顔を見せられると、空になった財布の事なんて忘れま――せんよね。でもあの笑顔を見れるのなら、たまには……良しとしましょう。

 と言う訳で、それぞれお気に入りが見つかったようで、めでたしでめでたしですね。

 支払を済ませた俺達は、いまだ涙目の店員を後に店を出た――その涙目は、空になった俺のお財布を見たからですよね。


 さて、これで俺は完全に搾り取られました。いくら美人姉妹相手でも、もう煙も何も出ませんよ。

 と、言う訳で、本日のお買い物予定は全て終了しました。お二人さん、おいしいものを食べさせて下さいね。




 その者は、道無き山中をけ抜けてゆく。

 極々、至極自然に、真昼の平地を駆けるかの如く、薄暮はくぼを過ぎ逢魔時おうまがときを向かえる道無き山中を、ただただ駆け抜けてゆく。

 周りのけものも気が付かない、そんな道無き道を駆け抜けてゆく。




 時間は午後五時を回っていた。初冬の今は日も暮れ、夜と言われる時間が始まっていた。

 そんな事も忘れそうな、街の灯が照らす中心地にいる俺達は、人が行き交う大きな通り差し掛かった。


「へ?」

「え?」

「……?」

 人の波が切れた刹那、それぞれ疑問符の付いた言葉を口にした。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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