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上と下 9

気が付いた変換ミスを直しました。1・9

「おはようございます。本日もよろしくお願いします」


 朝食を終えた俺達は、その足で西方国境警備司令部に入って、微妙に場違いな挨拶を、俺が契約している『お人形』黒鬼闇姫くろきやみひめと一緒に、元気よく行った。ちなみに闇姫の声は一般の人には聞こえません――あ、あれ? 鈴音さん、彩華さんもご一緒にお願いしますよ。

 と、うつむく美人姉妹のうっすら桜色に染まるほほは、寒さの為ではないのだろう。事務仕事をしている兵士達の少々冷ややかな視線が、そうさせたのかもしれない。

 ちなみに彼女達を姉妹と言っても、義姉妹である。彩華、鈴音、そして俺は、同じ時期に戦災孤児の施設で育てられている。便宜べんぎ上周りから姉妹とか兄妹と言われて、それがすっかり定着している訳である。


 さて、時間は午前八時半を回ったところだ。約束の時間には少々早いが、案内役の石原? ――そう言えば石原としか紹介されなかったぞ。年齢は俺より上、多分二十歳といったところだろう。君か? さんか? うじは変だし、無難ぶなんに係官で良いのかな?

 と、おかしな心配をしていると、奥の司令官執務室(多分?)から噂の男性が出てきた。それを見つけた俺は、

「おはようございます、石原……係官」

 と、挨拶がてら声をかけた。すると男性は迷惑そうな表情で、

「おはようございます。それと石原で構いません」

 と、返してきた。

「いえ、そう言う訳には――」

 と、いう俺の言葉をさえぎり、

「では、お好きにどうぞ。

 それと、時間までそちらでお待ち下さい」

 と、石原係官は迷惑そうに告げた。

 彼にも段取りがあるのだろうと、俺達は入り口脇に設置されている待ち合い用の長椅子にかけて待った。


『変な方ですね、兄さん』

『こら鈴音、聞こえていないからと、そう言う事は言っては駄目ですよ』

『はぁ~い』

 そんな周りに聞こえない不謹慎ふきんしんな会話はさておき、静まり返っているから、雑談をする訳にもいかない。ちなみに俺達魔法使いは、お互いが直接確認できる範囲で、『お人形』を介して、声に出さない会話が出来る。良いか悪いかは別としてですが――まあ、たいていは悪いというのかマズい事を聞かれるわけでして。

 そんな司令部は時間が経つのが異常に遅い訳です。鈴音も彩華も手持ちぶさそうに、というのか、どことなくイライラしているようだ。

 全く困ったもんだと、胸中きょうちゅうなげいていると、約束の午前九時の時報と共に、石原係官が俺達の前にやってきた――几帳面きちょうめんなのか?


「本日はどちらをご案内いたしましょう」

 と、必要最小限の事を、迷惑そうな表情で彼は言う――この表情は標準設定なのか? とも思える程の徹底ぶりである。まあ確かに、招かざる客とは思ってますが、微妙にへこみますよ。


「とりあえず、首長と警察軍司令に挨拶をしておきたいので――」

「そうですか、では、ご案内いたします」

 と、またもや俺の言葉をさえぎり、石原係官が言う――って、ここでは、先読みが流行はやっているんですか?


「はあ……」

 溜め息とも返事とも取れない返答をする俺であった。そんな俺達を置き去りに、さっさと歩いていく石原係官――って、出入り口と反対だし、どこへ行くんですか。

「皆さん、何やってるんですか――」

 あわてて追いつく俺達に、

「――こちらです」

 と、案内されたのは、応接室であった。


「「「はい?????」」」」


 疑問符を五つ六つ浮かべる俺達をよそに、石原係官が目の前の扉を軽く叩くと、一拍おいて、

「どうぞ」

 と、国境警備軍山並賢吾やまなみけんご司令の声が聞こえた。

 それを聞いた石原係官が扉を開けると、

「私は、司令部にいますので、必要なら呼んで下さい」

 と、迷惑そうな表情そのままに言って、返事を待たずにさっさと立ち去った。

「………………」

 で、呆気に取られて何も言えず、無言で見送る俺達だった。


『やっぱり変な人ですね』

 と、声に出さない鈴音の言葉に

『ああ、そうだな』

 と、声に出さない言葉で俺は返事をした。


 さて、気を取り直して部屋の中に視線を向ける。ずんぐりとして、愛想だけは良さそうに見える坊主頭の山並司令を挟んで、二人の男性が出迎えてくれた。事の流れ上、首長しゅちょうと警察軍司令であろう事は、推測するに容易たやすかった。てか、あの石原係官か、仕組んだのはあの石原係官なのか? 実はスゲー出来る奴なのか? ――まあ、偶然は無いにしても、予定されていた事なのだろうと、冷静に判断する俺。


「お待ちしておりました。さあ、どうぞ入って下さい」

 と、山並司令が言う。って、俺達が待たされてたんだけど、と、ぶつぶつ胸中でつぶやきながら、部屋に入り、最後に入った彩華が静かに扉を閉めた。

 俺達が席につくと、山並司令は、

「先ずはご紹介いたします――」

 と、彼の右側に座る六十半ば程だろう、少々やせ気味で、どことなく媚びた目つきの、油が利き過ぎで気持ち悪く黒光りする髪を、七三分けにした男性の方へ手をやる。

「――こちらが『万年丘まねおか』の首長、俵山源治たわらやまげんじです」

 言われて会釈えしゃくする俺達を見下すように男性は、それでも俺達に合わせてちょこりと頭を下げた。


「それから――」

 と、続けて左側に座る、何かを疑う鋭い眼光を光らせ、短く刈り込んだ髪が、武闘派というのか現場からのたたげを示すような、多分五十前半の男性に手をやる。

「――こちらが、警察軍司令の大垣政幸おおがきまさゆきです」

 会釈する俺達から目を離そうとしない男性は、視線をそのままに、軽く頭を下げた。

 その後、俺達の紹介も終える。

「えっと、先ず持って皆様にお話を――」

 と、言う俺の言葉をさえぎり――って、またかよ。

「私どもから一つ二つお願いが――」

 と、俵山首長が言う。

 まあ、こんな感じに会合は始まった訳だが……

 気が付くと、

「――と、くれぐれもよろしくお願いします。有意義な時間を過ごせました。機会がありましたらまた、ゆっくりとお話でもいたしましょう」

 と、最後に俵山首長が会合を締めていた。

 約三十分程の会合だったのだが――通常業務三日分の疲れがどっと出た。

 さて、肝心かんじんの話の内容だが、言葉通り非常に有意義なものであった。というのは、先方の弁である。何でも、また有意義な話をする機会を持ちたいそうだ――俺は、ごめんこうむる訳ですが。

 はっきり言って、事は穏便にすませて欲しいと、昨日山並司令から、言われた事を繰り返された訳だ――大切な事だから仕方ないかもですが。

 とは言うものの、俺としては『勅命ちょくめい』をうけたまわって、ここに来ている訳ですよ――皆さん、知ってますか『勅命』って、帝が出した直接の命なんですよ。この神国天ノ原しんこくあまノはらの王様ですよ。その天命ノ帝あまめノみかど本人からの命なんですよ。わかってますでしょうか? そりゃまあ、俺はそれを無視した前科がある訳ですが……ごめんなさい。

 ですから、だからこそ退くに退けない場合、万が一の事も考えて一応断っておこうと思ったのだが、一切受け入れられず、というより、一方的に言いくるめられたというのか、俺が話す機会が全くなかったというのか、出来れば、口が達者な、鈴音か彩華(?)に相手をしてもらいたかった訳です。

 で、会合が終わって、さっさと出て行った偉い面々と違って、呆気あっけに取られて何も言えず、応接室に残っている俺達であった――アリエラさんにヘリオさん、さっさとこの街から逃げ出してくれませんかね。

 そんな本音はさておき、一日この応接室にいる訳にもいかない。が、予定していた事が、物の三十分で片付いてしまった訳で、さてどうしたものかと考える。すると、鈴音と彩華がおもむろに立ち上がった。


「兄さん、街に出ませんか?」

「神楽、ちょっと買い物に付き合え」

 二人は落ちついてゆっくりとそう言ったのだが、微妙にいらついているようにも見受けられる。多分会合のやりきれない苛つきを、買い物で紛らわそうという事なのであろう。俺は、女子のそういう行動心理についてはよくわからんが、それで二人が穏やかになってくれるのなら、ありがたいという訳で、

「そうだな、ここにいても仕方ないから行こうか」

 と、俺は軽く返事をした。

 が…………、

「兄さん、男には二言は無いという言葉を知ってますよね」

 と、不気味ぶきみに確認をとってくる鈴音。

「はい?」

「神楽、男が女の買い物に付き合うという意味も、当然知っておるな」

 と、不気味に問いかけてくる彩華。

「はい?」

 あのですね、お二人さん。その小悪魔的な笑みは一体なんですか? そりゃまあ、荷物持ちぐらいはいたしますよ、可愛い上に美しい二人が、穏やかになってくれるなら、それくらいの労力は何ともないでしょう。

「――兄さん勘違いしてますよ」

「――うむ、それ以前の話だからな」

 うっすら頬を紅色に染めて言う美人姉妹。

「はい?」

 って、俺、声に出してないよな、間違っても言葉にしていないよな。

 いやいやいや、それよりも『勘違い』とか、『それ以前の話』とか、何だかかなり怪しい話題に切り替わっているような気がするんですが。


「「支払担当」」

「はい?」

 ま、ままま待て待て、怪しい無理矢理の四字熟語が聞こえたぞ。


「良い返事だ、神楽」

「気持ちのいい返事ですね、兄さん」

「はい?」

 お二人は、闇姫と同じなんですか? 『はい』と『はい?』の意味を簡単に間違えちゃうんですか? ――って、明らかにわざとですよね。だって二人とも、不気味に口角が上がってますよ。


恐懼感激きょうくかんげき

叩頭三拝こうとうさんぱい

「はい?」

 な、ななな何をおっしゃるんですか? 怪しい四字熟語シリーズですか? いいいきなり感謝の意を表されてもですね。

 て、てててか、そ、そりゃ、確かに、お二人が美しくなって頂く為には、俺もそれなりに協力をいたしますよ、それに、立場上、多少は良いお給料を頂いているわけですしね、でもね、でもですね、お二人さんと、たいしてかわりませんよ、それにね、そのですね、何と言いますか、その底無しのお二人さんの欲望にお付き合いさせられるとですね、あっという間に干上ひあがる訳でしてね、そんな内情を察してですね、それなりに遠慮して頂けるというのは有りですよね、彩華さん、鈴音さん。


「何を買ってもらおうかしら、楽しみですね、彩華姉さん」

 大きな目を輝かせる鈴音。

「うむ、思う存分甘えるとするか、鈴音」

 切れ長の目尻をほんのわずか下げる彩華。

「てか、あれ? ここは心中を読み取ってくれないんですか?」

 誰が見てもわかる涙目の俺であった。こんな時こそ石原係官、一っ走り街に行って、魔法使いの暴れん坊が来るから店を閉めなさいと騒ぎ立ててくれないだろうか――あの性格じゃ無理っぽいな。うん、無理だ。


「では、行くぞ」

「さあ、行きますよ」

「ちょ、こら、二人とも引っ張るなって」

 と、言う俺の意見は通らず、そのまま応接室から連れ出された。

 司令部の前を通りがてら、俺は石原係官に、

「今から、街に――」

 と、言ったところで、またまたさえぎられた。

「ちょ、ちょっとお待ちを」

 と、珍しく慌てたそぶりを見せて奥の司令執務室(?)に行くが、その表情はやっぱり迷惑そうだった。

 すぐさま奥から出てきた山並司令は、


――山並司令、そこは司令としてガツンと一言、美人姉妹の暴走を止めて頂けると……。

 

「街に出て行かれると伺いましたが――」


 と、言ったところで、微妙に青ざめた顔色に、表情を引きつらせて、

「――あっ、いえ、どうぞごゆっくり――」


――あっ、あれ? 駄目ですか? 駄目なんですね、そのご様子じゃ、無理もありませんね。


「――ただですね、先ほどの件は――」

 と、言ったところで、


「「わかっています!!」」


 と、息ピッタリの鈴音と彩華にさえぎられた。さすがは我が軍勢のほこる女性陣――まあ、俺入れて全員で三人の軍勢だけどね。あっ、『お人形』入れて五人だ。それに女性陣って、俺以外はみんな女性ですね。はい、しっかりしろ男性陣、応援ありがとうございます。

 てか、美人姉妹のお二人さん、その表情はマズいですよ。山並司令の表情が引きつった原因がわかった気がする――そこまでして、俺に何かを買わせたい訳ですね。


「お気をつけて……」

 恐怖に涙を浮かべたような表情の山並司令であった。

「で、ではご案内を――」

 と、言う及び腰な石原係官の言葉もさえぎり、


「「本日は結構です!!」」


 と、見事なカウンター口撃こうげきを放つ美人姉妹であった。今後の会談は是非お願いしたいものです。

 さすがにこの時ばかりは、石原係官の表情は恐怖を浮かべていた――はい、こちらは期待していませんでしたよ。


「それでは行きましょう、兄さん」

「行くぞ、神楽」

 司令部にいた十名程の兵士が見送る中、俺は鈴音と彩華に手を引かれて街へと出て行った。


 確かに山並司令の懸念けねんはわかる。俺達が街に出て行けば、『離反組』のアリエラ・エディアスやヘリオ・ブレイズと対峙たいじする可能性もあり、それは先ほどのお偉い方々が想像しているような、この平穏へいおんおびやかされる可能性も秘めている訳だ。

 もっとも俺は、今はその可能性は少ないと思っている。多分俺達に会いたがってるのは、あのわがまま美少女のアリエラだけだろう。あの性格だから、今は少々感情的になっているのだと思う。

 とは言うものの、『離反組』で逃走を説得するのは、あの情けないヘリオ一人しかいないのだが。彼はああ見えて、案外切れ者だから、多分こっちの意図には気付いていると思う。ただ、アリエラを説得しようにも、逆に気圧けおされているんだろう。

 まあ、『お人形』も逃走を選択するだろうが、白輝明姫しろきあけひめは契約主アリエラに沿って動くだろうし、金剛輝姫こんごうききは……とりあえず、明姫に頭が上がらないみたいだし――と言っておくぞ、下僕げぼく扱いの契約主ヘリオよ。

 と、『離反組』内の意見統一まで、まだしばらくはかかるだろう。


「兄さん、何をぶつぶつ言ってるんですか」

「買い物に付き合うのが不満か、神楽」

「い、いや、そうじゃなくてだな――ちょっと考え事だよ」

 ある意味不満はあったのだが、当然口には出せない――このところは、口に出さなくても伝わるようだが、所謂いわゆる以心伝心か?

 気が付けば、鈴音と彩華の手に引っ張られるまま、『万年丘』の中心地に来ていた。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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