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議場にて 3

全面かな? 説明じみた文面は相変わらずですが、手直しをしました。12・1

(えっと山神彩華さん、なぜあなたがそんなに怒っているんですか?)

 と、言っても理由は察しがついてますよ。


「今一度言おうか、天守近衛長!

 今の暴言を取り下げ、謝罪しろ!」

 彩華の全身から噴出する憤怒ふんぬの炎と、切れ長の目から発する凍てつく視線、双方の迫力に気圧けおされた天守近衛長は惨めなくらい縮み上がり、黙り込んでしまった。

 さすが普段から闘いの場に身を置く侍大将の一喝である。


「彩華……さん、なぜそんなに怒っているんですか?」

 今度は言葉に出して尋ねてしまった。俺は返ってくる答えを予想できていたが、ついついというやつだ。


「神楽だけならまだしも、鈴音をも侮辱するのは許せん!」

 ですよね――やっぱり尋ねるんじゃなかった。

 しかし、彩華の気持ちはわかる。

 戦災孤児の彩華も俺たちと同じく『本殿ほんでん』の施設に引き取らた。

 そこで一緒に育てられた鈴音は、彼女にとっても妹のような存在であった。いや、はっきり姉妹と言っても良い間柄だっだ。


 その鈴音を最悪の言葉で侮辱されたのだ。


(って、彩華さん、その腰の得物は、いつのまに出したんですか?)

 怒り心頭に発した彩華は、いつの間にか帯刀してる。そして今にも斬り掛かってやるぞとばかりに、柄に手をかけている。

 しかし議場のある本殿内は、特別な事情がない限り帯刀はもちろんのこと、武器類の持ち込みは当然禁止されている。

 帯刀はかなりの問題行為なのだが――それよりもなによりも、彩華に預けられた『上級侍』という称号が事をややこしくする。




 旧文明の技術が失われた今の時代、戦闘においてもその面影は残っていない。

 神楽が少年時代に図書室の本で目にした、空想世界の産物のような兵器や武器は、技術の消失と共に一気に退化して、千年近く過去へと巻き戻されたのではないだろうか。

 今の戦闘は、飛び道具は弓、基本は剣や槍での切り合い、突き合い、いわゆる白兵戦である。

 当然軍では、戦闘力のいしずえとなる剣術や槍術などの武術が発達する。そして、一定の水準に達した者が剣士と言われ、一般兵士として配属される。

 だが、中には更なる鍛錬たんれんの末、武術に秀でる者も出てくる。そういう者に『侍』という称号を預け、それぞれの技量に応じた規模の隊を、長として率いる。

 その侍の中でも、極一部の者に超自然的な力が発現する。魔法の力にも似たそれは、


「一の太刀で森を開き、二の太刀で山を崩し、三の太刀で海を割る」


 と、少々大げさな表現かもしれないが、それほどの戦闘力であった。

 その者達を『上級侍』の称号を預け、将官の地位と任を与えた。



 俺は少々焦る。

 全ての侍の頂点に立つ彩華が抜刀したら――剣光一閃、議場ごとバッサリ、天守近衛長は……『残念な人を亡くしました』と、ん? 微妙に言葉の順番が違うか?

 俺としては、色々な意味でかまわ――不謹慎な話はさておきです。

 まあ、彩華もその辺りは加減する――はずだろう?

 今まで見た事がないくらい怒ってる訳だ――えっと……万が一という事もある。

 天守近衛長はさておき、彩華がこれで罪人になってもらっても困る。

 とにかく俺は、彩華を落ち着かせる事に専念する。


「どこから出したか知りませんが、その腰の得物はヤバいですよ、彩華さん」

「これか? 呼んだ」

 彩華の端的な返事に頭を抱える俺。そうだった、彼女の刀は「魔剣」や「妖刀」の類であった。

 といっても彼女の刀は、何かに取り憑かれたり、呪いや祟りを受けるような物ではない。言うなれば呼べば来てくれる、便利な正義の味方みたいな物である。

 もっともそれだけでは無いようだ。

 噂では、太刀の力か、彩華の力か、それとも相まってか、魔法を切り裂き敵の魔法使いを退けたとも――って、それ本当か? もし本当なら、俺は彩華に何一つ勝てないぞ。

 口は――無理、口数の少ない彩華だが、男じゃ女に絶対勝てない。

 じゃあ、腕力か――無理、彩華は厳しい鍛錬を積み重ねている訳です。ハンデ貰っても勝てる気がしません、はい。

 残るは――噂が真実なら。ハイ残念。

 黒丸三つの俺は完全敗北である。

 てか、この現場を止めれんぞ――別の意味で焦る俺。


 それはさておき、今は彩華の説得が最優先だった。


「って、本殿内は呼んじゃ駄目だろう」

「何を言っているんだ、神楽。

 今が特別な事情の時でなければ、いつがその時なのだ」

 今までにない程、頭に血が上っているらしく、彩華本人も何を言ってるのか、わかっていないようである。


「へ理屈を言ってないで、大事になる前にしまいなさい! 彩華さん!」

 俺が少し強い口調で諭す。

 俺の口調が予想外だったのか、『ピクリ』と小さく体を揺らし、もの言いたげな目で俺を一目する。

 議場は、鏡のような水面に投じた一石の波紋が消え、静けさが包む。

 そんな沈黙の間が彩華を冷やす。

 そして多少落ち着きを取り戻し、今している事がわかってきたようだ。

 体に渦巻く怒りという炎を全て吐き出すように『はあ』と一つ、大きく息を吐いて、柄から手を離した。

 ありがたい事に、ここまでの事は周りも見て見ぬふりをしてくれている。


(大事にならずにすんだか……)

 俺も『フウ』と一つ息を吐き、肩に入った力を抜く。

 と、思うも束の間、鏡に戻った水面に水切りの一石が次々と波紋をたてるかの如く、天守近衛長が口を開いた。


「いやーホント、スマンスマン。

 そこまで怒れちゃう事だとは思わなかったよ」


(ちょっ、誰か、こいつを黙らせてくれんか)


 彩華とのやり取りで、収まりかけていた俺自身の怒りの炎が再燃する。

 しかし、その状況が見えていない彼は、おかまいなしに、萎縮してふさいでた時間を取り戻すかのように、次から次へと残念な話を続ける。


「ところで天鳥兄妹って、本当に戦う事ができるの?」


(はい? こいつ何を言い出しちゃってんだ)


「ほらさ、帝国軍のマホー使いに対する抑止力とかなんとか言って、戦場に行くみたいだけど、実際に何かしているところを見た事がないんだよね」


(こいつ残念馬鹿か? 抑止力が何かしちゃ駄目だろう。何もしなくても、相手が同程度の攻撃ができなくなるから、抑止力って言うんじゃないのかい。

 もっとも俺は、テメーが戦っているところを見たことないぞ。

 って、彩華達のおかげで、帝がそう言う状況に追い込まれた事がないか。助かってるな近衛長殿)


「そもそもオレって、目で見た事しか信じないからさ、マホーって信じられないんだよね」


(こいつ、本当に馬鹿か? それとも俺と真剣に喧嘩したいのか?)


「一度は見てみたいんだけど、そのマホーっていうやつを……ホントにあるならばね。

 黙ってないで教えてチョーダイ、天鳥君」


「いい加減、口がすぎるぞ!」


 先ほどの件があった為か、俺と天守のやり取りを黙って聞いていた彩華が、我慢の限界とばかりに、再び声を荒らげた。


「いい加減、口を閉じやがれ! この残念馬鹿野郎が! ――」


 そして彩華と同時に俺も叫んでいた。

 しかし今回は俺が彩華の口をさえぎる形となった。

 彩華と目が合って一瞬の間があいたが、今回は俺が続きを頂いた。

 そして、怒りの感情を抑えるように冷ややかな口調で続けて彼に話しかけた。


「――なんだ、魔法が見たかったのか。

 もっと早くに言ってくれれば、いらん誤解を生まなかったのにな、アマノモリ……近衛長殿」

「ひっ! いや……」

 どうやら俺の返事が予想外のものだったらしい――どんな返事を期待していたのか知らないが、こうなる事はわかっているだろう。


 天守近衛長は短い悲鳴をあげると、先ほどの勢いを完全に失い、その細い目の奥の瞳を左右へと動かし、俺と視線が合わないようにしている。


「でも、実際に見ないと信じられないんだろう?

 いいよ、他でもない天守近衛長の頼みだ、特別に見せてやるよ」

「だ、だから、今じゃなくて……」

「そうか見るだけじゃ不満なんだ。

 直に触れて感じたいんだ。

 しかたない、今回は特別の特別だ。おまけもつけて直に感じさせてやるよ」

「ちょ、そ、それは、て、敵に……」

 天守近衛長の目に溜まっている涙を俺は見逃さなかった。


「まあ、遠慮するなって」


 そう言うと俺は薄ら笑いを浮かべた顔の前で、指先だけが触れるように手のひらをあわせた。そして、気を込めるようなそぶりをした後、大きく両腕を左右に開いた。すると先ほどあわせていた左右の指先をそれぞれ繋ぐ、七色の光で煌めく糸が五本現れた。

 その直後、五本の光の糸は、真ん中で絡み合い、やがて一つの形を作り出していった。


 俺や鈴音は、魔法使いとか魔術師なんて言われている。しかし呪文を唱えて炎を放ったり、杖を振りかざして雷を落としたり、手を振り風を起こし竜巻を作り出すなどという事は直接できない。


(まあ、そういう事は、空想世界を描いた漫画や小説にまかせてあります)


 では何ができるのかと……強いて言えば、召還に類する事になるかもしれない。

 と言っても出てくるのは、いかにも強そうな『魔界のなんたら』とか、『なんとか神』などと言うものではなく、可愛らしい『お人形』である。

 実際のところ、それが本当に『お人形』なのか、はたまた『生きている物』かはわからない。しかし一応『最終兵器』と恐れられているからには、只の『お人形』でないことは確かである。

 それは、いつ、誰に作られたのか、どこからくるのか、『神の贈り物』とか『魔王の使い魔』など、いろいろと言われているが全て謎である。

 そして俺や鈴音はその『お人形』を操って、一般的に言われる魔法使いのような力を使う事ができる。

 それが魔法使いと言われる所以ゆえんである。


 もっとも俺としては、人形使いや傀儡士とか言われる方が合っていると思う。しかし残念な事に、その辺りの役どころは既に存在している上、彼らには『人形に魔法を使わせるなんて、邪道だ!』なんて言われてしまったわけで、仕方なく魔法使いとか魔術師と言われるのを受け入れている。


 一応、力の加減はできるのだが、一瞬で城塞都市が消えたとか、一個師団が突然全滅したなど、『最終兵器』の名に恥じない物である。

 ありがたい事に俺たちは、それほどの力を使う場面に今まで出くわした事がない。

 しかしそれらは、今までの史実に出てきた六人の魔法使いの記録に、はっきりと記されている事実である。

 そんな危険な戦闘力を持つ魔法使いは、陰陽関係で一時代二人の存在が原則であった。だが現在この天ノ原に二人、バルドア帝国に二人の合わせて四人も存在しているのだ。

 当然どちらかがその破壊力を行使すれば、一時的に戦局は行使した方が有利になる。

 しかし、この世に『報復』という言葉が存在している限り、どちらかが先行して魔法使いの戦闘力を使うことができないでいる。

 過去三回あった魔法使い同士の戦闘記録を見ても、一対一の闘いでありながら、かなりの被害が出ている。それが現在は四人、つまり二対二の闘いになるという事である。それは本当に『破壊神の囁き』の再来となり、今度こそ人類は完全に滅亡してしまうかもしれない。

 したがって今のところ俺たちは、相手を牽制する為の抑止力としてのみの存在である。


 ちなみに、この大きすぎる力を得るためには、この『お人形』と契約する事が必要となってくる。それは、一体ににつき一契約、つまり魔法使いと言われる人間は、『お人形』の数だけしかいない。

 確かにこんなとてつもない力を持っている者が何百、何千人もいたらと、考えるだけで恐ろしくなってくる。

 だが、そんな凄まじい力の持ち主との契約は、その力を手に入れたいからと望んで結ぶことはできない。『お人形』が契約主を選び、むこうからやってくるのだ。

 そんななか、何の取り柄もなく、さえない俺がどうして契約できたのかは謎である。言ってみれば、選考基準がわからないのである。


 俺が『お人形』と契約したのは、戦災孤児となり施設の引き取られた七歳の時である。

 その当時、自分から両親を奪い去った戦争を恨んで、『いつか戦争をなくしてやる』と子供ながらに思っていた。

 そんな時に、目の前に現れた『お人形』に言われるがまま意味もわからず、半ばだまされたような形で契約を結んでしまった――と言うのか、黒鬼闇姫くろきやみひめが勝手に間違えた訳です。

 まあ、それはそれで良かったと、後悔はしていない。


「おいで、黒鬼闇姫」

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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