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狗と呼ばれて 11

「ちょ、ちょっと待て!

 残念なお知らせって、何だ!

 な、何を勝手な事を言ってるんだ!」


 賊のリーダーらしい男は、いきなり私達が打って出るとは思っていなかったようです。

 明らかに焦りの色がにじみ出ています。


「あら、私の言葉が理解できませんでしたか?

 それともお子様にご説明するような、もっと噛み砕いたお話しでないと、ご理解頂けないのでしょうか。

 でも、困りましたわ。あれ以上は、どう噛み砕けば良いのでしょう、私に教えて頂きたいですわ」


 鈴音お姉様は、起伏のない口調で淡々と話します。それが彼の焦りと怒りを更に煽る事になります。


「お、お前、馬鹿にしているか!」

「あら、そう聞こえてしまいましたかしら。

 それはそれは大変失礼しました。

 私、馬鹿にしているつもりは、一切ございませんわ」

「要求は飲めないだと、だいたいお前のどこにそんな権限があるんだ。

 勝手な事、言ってんじゃないぞ!」

「勝手と言われましても……私は、こう見えて大将扱いですから。

 現場ではかなり突っ込んだ事まで、判断出来る権限を持ってますわよ。

 ちなみにあなた達をここから出さないというのも、私の判断ですわ」

「それは立派な事で……でも、こっちはその要求は飲めねえな」

「それは残念ね。穏便に終わらそうと思ってましたが、仕方ないですわね」


 ここまで賊相手に話をしていた鈴音お姉様は、話し相手を私に切り替えます。


『アリエラちゃん、準備は出来てますか』

『はい、準備の方は大丈夫ですが……

 逮捕が前提ですよね……』

『そうです、つまり生け捕りが前提です。

 何か問題でもあるのですか、アリエラちゃん』

『明姫姉が言うには、今のアリエラがピンポイントで狙えるのは、一度に八人が限界みたいです。

 鈴音お姉様、どうしましょう』

『情けないわねアリエラちゃん。

 いいわ、正面の護衛五人と東門の三人をやりなさい。西門の三人と広場の十一人は私がやりますから』

『では賊のリーダーはどうするのですか?』

『あらアリエラちゃん、気付いていないのかしら、彩華姉さんが来ている事に』

『へっ?』


 私が振り向くと、警察軍の中央で腕組みをした彩華お姉様と視線が合いました。

 目尻をつり上げた不機嫌そうな表情で、私達を睨みつけています。

 私は慌てて視線を正面の賊に戻し、鈴音お姉様に問いかけました。


『うぅぅ……彩華お姉様、何だか凄く怒っていませんか?』

『当たり前じゃない。私達は彩華姉さんの命令を無視して、暴走したようなものですから。

 この一件が一段落したら、いろいろとされちゃうかもね』

『……』


 私はこの時、何かがこみ上げてくる気がしました。それはある種の恐怖と言ってもよいでしょう。もし明姫姉とつながっていなければ、あまりの恐怖に耐えきれず、気絶していたと思います。


『とにかく、一人ぐらい彩華姉さんに残しておかないとね。

 わかったら、始めますわよアリエラちゃん』

『はい』


 鈴音お姉様と私は一瞬見合いました。しかし鈴音お姉様に譲られるような形で、私から先に動きます。


『鈴音お姉様ありがとうございます。

 行くよ、明姫姉』

『了解ですわ、アリエラちゃん』


 そして私は「印の舞」と同時に詠唱を始めました。


「我は古の封印を解き放つ者

 八首の竜王よ

 我が召還に応え給え

 天壌の恵みをもたらす力を持って

 穢れを清め滅ぼせ」

『豊穣への人身御供』





 アリエラが詠唱を終えると、明姫の影が渦を巻きながら膨れ上がっていく。

 そして渦の流れが止まると、影は禍々しくも雄々しい姿の八首の竜へと変化をとげる。

 顕現した八首の竜は全ての鎌首をもたげ、紅玉のような真紅の目で、獲物を確認するかのように一睨みする。


「な、何だあれは!」

「ちょ、あれは竜?」


 突然目の前に現れた、伝説の生き物に賊達が慌てふためく。


「何であんなものが……へっ! 体が動かない」


 その直後、アリエラが狙いを定めた賊達の動きが止まる。俗に言う「蛇に睨まれたカエル」状態である。


 施設正面でアリエラ達と対峙している賊達は何が起きているのかわかっている。しかし東門の賊達は、突然体が動かなくなってしまった。


「か、体が動かない」

「な、何事が……」

「何が起きたんだ」

「だ、誰か、助けを……」


 何が起きているのかわからず、かろうじて動く口で助けを求めるだけである。


『アリエラちゃん、固めるだけなんてお上品なのね』

『へっ? そ、そうですか』





「お、おい、お前達大丈夫か?」

 賊のリーダーが、私の魔法で動けなくなってしまった仲間に、慌てて声をかけます。


「あ、あの竜に睨まれてから、体が動かないのです」


「お、お前、何をしやがった」

「あら、ちょっと魔法を使っただけですわ。

 あまりちょろちょろされても、逮捕するのが面倒ですから」

 意識を集中している私の代わに鈴音お姉様が答えます。


「お前ら……ただですむと思うなよ!」


「それは怖いですわ。

 でも、私も仕事をさせて頂きますわよ」


 そう言うと鈴音お姉様は、振り向き彩華お姉様に話しかけます。


「彩華姉さん、こちらの方はお任せします。私は残りの賊を片付けますわ」


「こ、こら鈴音、勝手に……仕方ない。

 山城分隊長、あの暴走女子が全ての賊を固めたら直ちに突入し、人質の解放と逮捕に踏み切るぞ」

「承知しました。直ちに両翼に伝えます」

「鈴音、派手にやりすぎるなよ」


「わかってますわ彩華姉さん。

 それでは鬼姫ちゃん、いきますわよ」

『承知です、鈴音様』


 鬼姫ちゃんはその手に巨大な槍を持ちました。

そして鈴音お姉様は、「印の舞」と同時に詠唱に入りました。


「古より語られし

 偉大なる魔槍よ

 彼の者共を穿ちたまえ」

『影国からの刺突』





 鈴音が詠唱を終えると、鬼姫は手に持つ槍を空に向かって投げた。

 鬼姫の手を離れ勢いよく上昇する槍が、飛行の頂点を迎えると、推力を失い穂先を下に向けその場に一瞬止まった。

 すると一本の槍がいく筋かに分裂する。

 その数、十四本。

 それぞれが個別に意思を持つ様に、鈴音が狙いをつけた賊めがけて、方向を修正しながら落下を始める。


ドス ドドス ドドドドドス


 十四本の槍は、ほぼ同時に鈍い音を立てて地面に突き刺さった。

 その全てが賊本人ではなく地面に映る影、それもちょうど心臓の位置を、正確に捉えて突き刺していた。


 鈴音達がいる正面からでは、その様子はわからない。しかし確かなのは、影に槍を突き立てられた賊達は、完全に体を拘束され、更には激痛が体中を駆け巡っている。


「うぅぅぅ……」

「あぁぁぁ……」


 突然訪れた拘束と激痛は、彼らから言葉さえ奪い去り、その現場には低いうめき声だけが響いている。

 既にその激痛に耐えかねて、動かない体のため立ったまま、気を失っている者もいる。


 広場に集められている人質も、突然の出来事にどのように対処して良いのかわからず、誰一人その場から逃げ出そうとしないで、苦しむ賊達を見つめるだけであった。


『鈴音お姉様、これって何だか凄く残酷です』

『あら、これくらいはっきりとわからせないと駄目よ』





「さてと、彩華姉さん完了です。いつでもどうぞ」

 一区切りついた鈴音お姉様が彩華お姉様に話しかけます。


「了解した鈴音。全く無茶をして……

 山城分隊長、両翼に突入命令!」

「承知しました」

 山城分隊長は直ちに伝令を送り、突入が開始されました。

 とは言っても、内部の賊達は既に私達が固めていますので、それぞれを縛り上げ、それと同時に、人質を安全な場所に誘導していくだけの事です。


「さて、残るはあなた一人です。

 悪い事は言いません、投降しませんか?」


「はん、なにぬるい事言ってんだよ」

 彼はそう言うと、上着を脱ぎ捨てました。

 その体には爆発物が巻き付けてあります。

 しかし鈴音お姉様は、それを見ると表情を緩めて言いました。


「それを今更どうするのかしら?

 人質もいないし、脅しにならないわよ。

 もしかして自決用なのかしら」


「どうとでも受け取ってくれ」


『鬼姫ちゃん、簡易結界だけは準備して』

『大丈夫です鈴音様、いつでも発動できます』


「鈴音、あれは私の獲物だろ」

 突然話しかけてきた彩華お姉様に、鈴音お姉様は驚く事もなく、淡々と返事を返します。


「当然ですわ、彩華姉さんにおまかせしたのですからね」

「それでは片付けるか」

「一応言っておきます。彼は爆発物を……」

「問題ない、だが万が一の時は頼むぞ鈴音」

「承っておきますわ、彩華姉さん」


 彩華姉さんは私達と話を終えると、賊のリーダーに向かって足を進めていきます。


「そ、それ以上、ち、近づくんじゃねえ!」


 体に巻いた爆発物をみせてもなお、堂々と歩みを進める彩華お姉様に、怯えるように彼は制止を求めます。

 すると足を止めて彩華お姉様が冷たく言い放ちます。


「これ以上は、近づきたくない。

 気持ち悪い」


(そんな事を言って足を止めるなんて……彩華お姉様も彼を煽るのですね)





 この時、剣を使わないアリエラにはわからなかった。

 当然の事だが彩華が足を止めたのは、賊の彼が気持ち悪いからという、言葉通りの理由からではない。

 それは万が一彼が動きを見せた時に対処出来る距離、彩華の間合いの最外縁である。そして言い放った言葉は、彼にそれを気取られないための迷彩であった。


「言う事欠いて、気持ち悪いと来たか……

 本当お前達は口が悪いな。

 見てくれはそれなりに評価できるが、性格がこれじゃ残念だな」

「お前に褒めてもらおうとは思ってない。

 それこそ気持ち悪い」


 相変わらず、彼を怒りの炎に油を注ごうとする彩華であった。しかし彼の言葉でそんなやり取りに終止符を打った。


「ちっ! ったく下らねえ。

 こうなった以上は仕方ないが、それでも俺は最後まで要求を通すための行動を行う。

 例え、この命を散らす事になってもな」

「私はもう一度、投降を勧めるつもりだったが、そこまで覚悟が決まっているなら、何も言いう事もないな」


 彩華は残念そうな表情で、投降を受け入れない彼を見つめ、そして話に耳を傾けた。


「我々『ナイグラ機関』は帝国主義を排除し、民衆が失った権利を取り戻すために、行動する者である。

 そのために、現在不当に逮捕監禁されている同志、百五十四名の解放を要求する。

 諸君らの賢明な返事を頂きたい」


 彼は話し終えると、腕を組み正面に立つ彩華を睨みつけ、その返事を待った。

 ここで要求が通らなければ、自決する覚悟を決めている。

 だからと言って彩華が要求を飲む事はない。


「立つ位置が違えば、信じる正義が変わるのは道理だな。

 お前のような強い信念の持ち主と、同じ立ち位置に並んでみたかったな。

 残念だが要求を飲む事は出来ぬ。これが私達の答えだ。

 これにて幕を下ろさせてもらう」


「ふ……」

 彩華の言葉を聞いた彼は、固く結んでいた口を一瞬ゆるめた。

 その直後、彼は予想通りの行動にでる。


 ズボンのポケットからマッチを取り出し、素早く点火させた。


「うわっ!」


 それは一瞬の出来事だった。


 彼がマッチを点火させるために、視線を彩華から着火剤に一瞬だけ向けた。

 その瞬間を彩華は見逃さず、踏み込むと同時に抜刀していた。

 そして短い悲鳴と同時に、点火したマッチを持った右手が飛んだ。


 そのまま彼の脇をすり抜けた彩華が切り返すと、刀の峰で二の太刀を彼の足めがけて振り下ろした。

 打撃武器となった刀に足をすくわれ、彼はそのまま転倒し、彩華に取り押さえられた。


「すまん、火種を持つ指先一つ切るつもりが、このような事に……主の反応を見切れなかった」


「おいおい、なに調子狂う事言ってんだ。勘弁してくれ」





 彩華お姉様の決着がついたところで、私が固めていた正面の五人が逮捕されました。

 ようやく魔法の制御から解放された私は、ヘロヘロになって座り込んでしまいました。


『アリエラちゃん、よくがんばったわね。お姉さん褒めちゃうわ』

『あ、ありがとう明姫姉』

『ところで、竜王様が怒ってましたわよ。

 次に呼んだら二倍、生け贄を食わせろってぼやいてお帰りになりましたわ』

『ひえっ! 二倍って……竜王様ごめんなさい』


 今回の反抗活動を鎮圧する過程で、「ナイグラ機関」と言われる、帝国の残党の作り上げた組織の存在を知りました。

 今も続く反抗活動を、中心でまとめいるようです。



 反抗活動の鎮圧が終わり、私達は一度庁舎に戻りました。

 当然、鈴音お姉様がおっしゃっていたように、彩華お姉様に呼びつけられました。


コンコン……


「どうぞ」

 私と鈴音お姉様は、恐る恐る彩華お姉様の軍務室に入ります。


「失礼します」

「……」


「彩華姉さん、本日は大変申し訳ございませんでした」

「……」


「あの……彩華お姉様、ご、ごめんなさい」

「……」


 彩華お姉様は部屋に入った私達を睨みつけたまま、口を開こうとしません。

 するとあまりの気まずさに、報告に来ていた山城分隊長が間に入ります。


「まあまあ山神侍大将、彼女達も良かれと思ってやった事です。それに結果として早い解決に結びつきました。

 この辺りで勘弁してあげて下さい」

「……まあ、仕方ない。

 今回は山城分隊長に免じて、大目にみよう」


「あ、彩華姉さん、ありがとうございます」

「ありがとうございます、彩華お姉様」


 しかし彩華お姉様の話はこれで終わりそうにありません。

 しっかりと私に視線を向けています。


「ひっ、あ、あの何でしょうか? 彩華お姉様」

「アリエラ、特に何かという訳ではないのだが、今日も例の発作みたいなものが出たようだな」


「は、はい……」


「大勢の前であれだけの事を言われたんだ、晒した醜態はさておき、心理的には多少馴染んできたのではないか?」


「は、はい……」


「なあにアリエラちゃん、その返事は……もっとしっかりしなさい」


「ひっ! はい!」


「そもそもアリエラちゃんは……」



 彩華お姉様のありがたいお説教は、いつの間にか鈴音お姉様までお説教する側に加わって、この後二時間に及びました。

 もっとも一番悲惨なのは、たまたま居合わせて、退室するタイミングを逃した山城分隊長ですが……


 夕食で一度中断されたお説教タイムでした。

 しかし、報告書は後回しという鈴音お姉様と、報告書の提出がなければ仕事がないという彩華お姉様の二人に引っ張られるまま、恐怖の入浴時間を迎えました。



「ねえねえアリエラちゃん、帝国時代は『銀髪の白鬼』なんて言われてたの?」

「ひっ! そ、その話は聞かなかった事にして下さ・イ」

「アリエラ、そんな風に言われてたのか、それとも呼ばせていたとか」

「ひえ! ま、周りが、勝手に呼んでいたんで・ス」

「彩華姉さんの黒髪も綺麗だけど、アリエラちゃんの銀髪も良いわね。

 それに通り名のように肌も白いし……ふふ

 でも、バツはしっかり与えないと駄目よね」


「あっ、す、鈴音お姉様……駄目です……ご、ごめんなさいです……ゆ、許して下さい……」


 私の懇願は、一度も受け入れられた事はないのですが、ついついしてしまいます。

 この懇願でお姉様達の指導に、一段と熱が入るともいわれるのですが……


 しかし、どこで間違ったのでしょう、本日も何故か私一人バツを受けながら、時間は流れていきました。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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