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策略 18

 今話は第二部「策略」の最終話ということで、ネタバラシ的なお話となっております。特に初めての方は、ご注意下さい。

 ネタバラシとか、たいそうな事を言っちゃいましたが、タイトル通り「よくある話」ですので、過度な期待は厳禁です。

 俺達の作戦が終了して、三日程経過した。

 宮殿陥落、帝国軍部と政権崩壊などの話題は、既に帝国内を駆け巡り、領民達のほとんどが知る事となっていた。ありがたい事に、今のところ大きな混乱はない。

 これも社守軍師の情報戦略の効果だろう。俺達は侵略や占領を目的とした敵軍としてではなく、皇帝を暗殺し反旗を翻した謀反人達を追い払った、義勇軍的な扱いを受けているようである。

 そして残されていた議会の連中や文官達は、あの手、この手を使って、早くも取り入ろうとする。保身に長けた連中はどこにでもいる。こういう輩は好きではないが、情報集めには重宝する。

 俺達はこうして集められた情報を基に、皇帝一族を探し出し、一時拘束をした。しかし、残念ながら第一継承権を持つ後継者は、やはり逃走した後であった。今後帝国再興を企む輩の、旗印にされるであろう。


 帝国領内での戦闘はほぼ終結し、懸念されていた反抗勢力は、今はなりを潜めている。

 残念な事に、現在なお帝国主要三砦では、戦闘は続いている。しかし彼らにも帝国崩壊の情報は伝わっているため、約半数の兵達が投降し、その数は時と共に徐々に増えてはいる。


 こうしてバルドア帝国は、事実上その歴史に終止符を打ち、神国天ノ原に併合されつつあった。


 そんな中、帝の本隊がトゥルーグァ宮殿に到着する。警護にまわった彩華の話では、途中物を投げつけられる程度の事はあったようだが、その他たいした混乱の無い道中のようであった。


「道中、お疲れさまでした」

「おう神楽、かた苦しい挨拶は抜きだ。しかしこういう様式は初めて見るが、ここが皇帝のイスという物か」

「聞くところによりますと、ここが謁見の間のようです。皇帝はここでその玉座に座り、陳情などを聞いていたようです」


「俺は思うのだが、陳情にくる者達より高い目線で話を受けるのは、実際どうなのかな。彼らと同じ目線でこそ、その真意がわかると思うのだが、神楽はどう考える」

「私は……それを意見する立場に無いのですが、帝のお考えはよくわかります。しかし、目線を揃えるという事は、陳情に来る者達と同じ水準の、生活をしないといけない事になります。

 王は王にふさわしい立場があってこそ、王と思います。ですから相応の物言いは、当たり前と思っております」

 帝と俺は謁見の間から奥に続く通路に入り、歩きながら話をした。


「なるほど、神楽は立場相応の物言いが必要と思っている訳だな。

 ところで契約主達の様子はどうかな」

「はい、当初は環境の急展開により混乱していたようですが、今はすっかり落ち着いております」

「ならば明日にでも、直接話を訊きたい。詳細は後で使いの者を送るよ」

 帝が足を止め、とある部屋に入った。


「承知いたしました。

 ん……ところでそちらの方は、どういったご関係の……あっ失礼、初めて拝顔……しますので……」

 帝に続いて部屋に入った俺は、奥に立っている人物が気になった。体の線から女性というのはわかるのだが、顔に仮面を付けているため素顔はわからない。


「驚かしたか、すまんすまん、到着直前に彼女から、この部屋にいると連絡があってな。

 紹介しておくよ。彼女は二守瑠理ふたつもりるり、俺の直属の忍女だよ。そうだな、特別諜報部隊筆頭といったところかな。

 本来忍には名は無いのだが、彼女はその立場上必要と判断し名乗らせた。忍大将の音無道進おとなしどうしんと同じ理由だよ」

「わかりましたが……」

「仮面が気になるか、まあ初対面だし当然だな。

 あまりいい話ではないが、彼女には内偵を頼む事もあるのでな、素顔を晒す事はできないのだ。先ほどまで、神楽のすぐそばにいたかもしれんよ」

「そのような冗談を……はは……」

「それはさておき、そんな訳で仮面を取らぬ無礼は許してやってくれ。あと声も同じ理由で勘弁してやってくれ」

「いいえ、理由があればこそですので、無礼などとは思っておりません」

 俺がそう言うと二守は軽く頭を下げた。


「今回の作戦において、瑠理は最大の功労者と言ってもよいだろう。彼女がいち早く、皇帝暗殺の情報をもたらしてくれたおかげで、静が素早く対応し、一気にここまで落とす事ができた訳だ。

 当然立案された作戦に沿って、それぞれの役割をしっかりと果たしてくれた、神国の兵士達があってこその勝利だけどね。

 俺は良い家臣達に恵まれたよ」

「そう言って頂けると幸いです」

「そうそう瑠理の存在は内密に頼むよ。忍の中でも超一級の隠密だからね。

 どんなに功労があっても、公に恩賞や褒美を取らしてやれないよ」

 瑠理はその時「そういう物はいりません」と言わんばかりに首を横に振った。


「はい、心得ております。それでは私はこれで」

 そう言うと俺は部屋を後にし、自室代わりに使っている部屋に戻った。


 しかし何故だろう、この三日間、俺の部屋には三体の「お人形」がいる。当然それに伴いヘリオとアリエラもいる。


「あの……お二方、何故この部屋なんですか?」

 俺が試しに問いかけてみた。

「アリエラは鈴音姉さんの部屋に行ったら、銀界鬼姫さんに追い出されたんで・ス」

「これだけ部屋があるのに、別の部屋で過ごそうと思わないのですか」

「えっと天鳥さん、僕達が逃げるという事を考えないのですか」

「ヘリオ・ブレイズさん、本当に逃げるつもりなら、とっくに何らかの行動を起こしているでしょう」

「まあ、確かにね」

「とりあえず、この話題はさておき、明日帝がお二人と話をしたいと言ってました。詳細は後ほど使いの者が伝えにきます」

「それって会っても、数分で終わっちゃう訳かな。なら行きたくないよ」

「アリエラさん、これは正式な会談と思ってもらって構いません。断るなら、正式な理由をお願いする事になります」

「でも……」

 俺もアリエラくらいの年の頃は特に理由も無く、ただ単に「めんどくさい」とか「うっとうしい」などと思って、公式の行事などに参加したくなかった。だから気持ちはわからないでもない。と、俺が勝手に想像しても、アリエラには何かしらの理由が有るのかもしれない。


『だいじょうぶよアリエラちゃん。お姉さん達も帝兄貴とはお話したけど、皇帝陛下とは違いますわ』

『確かに、帝兄貴は気さくな方だったのう。妾はああいう男が好きじゃよ。下僕よ、よく話を聞いて、見習うがよいぞ』

「明姫姉達がそう言うなら……わかりました」

「帝兄貴って……闇姫か……まあ、良いか。ヘリオ・ブレイズさんもよろしいかな」

「はい、問題ないです」

「ではそれはそれで良しとして……部屋だけどせめてアリエラさんは、女の子なんだし……」

「いいえ、いいんで・ス! あんな恥ずかしい姿を見られた以上、神楽さんには嫁になってもらいま・ス!」

「アリエラ、恥ずかしいって……何を見られたんだ?」

「ヘリオ先輩は黙っててくださ・イ!」

「その話をぶり返すと、鈴音が……遅かった」

「兄さん、まだもめてるんですか! アリエラちゃんもいい加減にしなさい!」

「ひえっ! 鈴音姉さん、ご、ごめんなさい」

「……」

 こうして俺達の賑やかな夜は更けていった。



 その頃、帝の寝所では、二人の女性に挟まれた帝が、その女性達と静かに会話の時間を過ごしていた。



「この数日のために、十年の長きに渡り大義であったな……」


 今より十年ほど前、天鳥神楽が「お人形」と契約し、神国初の魔法使いとなった。この時「魔法使いは表裏一体で現れる」という言葉通りに、仇敵バルドア帝国にも魔法使いが現れた。

 過去何度か繰り返され、その度に悲惨な結果を招いた、魔法使い同士の戦闘を知る前帝は、過去の轍を踏まぬよう、この計画が立案させた。

 自軍の魔法使いをいかに勝たせるのではなく、帝国の魔法使いを自軍の魔法使いの手で、懐柔させるための戦略として……結果として、それは帝国を崩壊させるシナリオでもあった。


「……そして、仲の良い姉妹をお互いの任務のためとは言え、長く引き離してしまった事は心苦しく思うよ」

 帝は傍らで仮面を外して寄り添う瑠理に言葉をかけた。


「いいえ、充分楽しませてもらいました。特に静ちゃんにはね」

「私も瑠理姉さんとの知恵比べは楽しかったです」

 帝を挟み、反対側で寄り添う静が答えた。


「私も甘いわね。だってね、途中を凌げば最後は逆転できるようにしていたの。静ちゃん、わかったかしら?」

「それとなく気が付いていましたが……瑠理姉さんの掌で踊らされてたようですね」

「もっとも、負け続けちゃうと帝国参謀の地位から外されちゃうから、四分六で神国が勝てるように設定していたのよ」

「ふふ……瑠理姉さん、あたしもそれを考えて……うふ……調整していたわ……ふふふ」

「裏静ちゃんも相変わらずね。

 おかげで長く参謀を務める事ができた訳だし、軍上層部を上手く反逆に誘導できたわ。

 あいつら、ちょっとお尻を蹴飛ばしたら、すぐその気になっちゃってね、ふふ。勝手に段取りを進めちゃって、うふふ。

 最後に計画書を見せられて『どうだ』なんて聞かれたから、『良いんじゃないんですか』って返事したの、ふふふ。

 そりゃそう言うわよね。クーデターを失敗させるために、あたいが組もうとした計画と全く一緒なんですから、ふふ。手間が省けて喜んじゃったわよ、うふふ。

 予定通り最後は全てが裏目に出て、計画が吹っ飛んだときのあいつらの顔……泣きそうな顔であたいに責任を押し付けようとしちゃって、うふふ。

 全く! ああいう奴らがやりそうな事ね! いい加減にしろっての!

 でもあの顔、静ちゃんにも見せたかったわ。

 それにね、あたいが最後に見限って出てくる時に言った最後の言葉、えへへ……『ごきげんよう』って、自分自身笑っちゃったわよ、ふふふ。『どこぞのお嬢様じゃないわよ』ってね」

「うふ……いいな、羨ましいな……ふふ……あたしもやりたかったな……ふふふ……帝、次はお願いよ……うふふ」


「あの二人とも、ぼちぼち表の性格に戻って下さいね。魔女の会話みたいで、聞いてるこっちが怖くなるよ」


「取り乱したようで、失礼しました。

 それにしても瑠理姉さん、魔法使い達が上手く動いてくれましたね。

 あの二人、結構くせ者に思えるけど」

「そうね、確かにアリエラちゃんは鋭いわね。だけどまだ子供よ。言いたい事があっても、ツッコミたくても、言葉が足りないのよ。その上、言葉にできないから、感情的になっちゃうのよね。

 どちらかというとヘリオちゃんの方が、くせ者だったわ。それなりに落ち着いているし、アリエラちゃん程じゃないけど鋭いわよ。

 でもね決定的な欠点があるの。彼は女性に泣かされるタイプよ。私は彼から『契約の主旨』を聞くために、色技を使っちゃったけど、泣きでも充分落とせたわね。もっとも色技を使ったおかげで、後々御しやすくなったけどね」


「アリエラちゃんは、瑠理姉さんの話を聞く限り、鷹に思えるけど、宮殿警護なんて任務をよく引き受けましたね。強襲部隊にくっついてくるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてましたわ」

「アリエラちゃんは、言動や行動でそう思われやすいのよね。でもわかりにくけど、あの子の本質は鳩なのよ。

 それは『闘いが起きる前に止める』という、あの子の契約の主旨にも表れてるわね。

 それにね、アリエラちゃんって可愛いところがあって、突っ走るだけ突っ走って、最終的にはヘリオちゃんの判断に、従っちゃう事が多いのよ。

 私は、ヘリオちゃんを懐柔しちゃったから、そう言う意味では扱いやすかったわ。

 でも暴走少女一人のため、最終段階を台無しにされちゃうのは困るから、あの二人がそれなりに納得して、宮殿警護をするように手は打ったけどね。

 そのために疫病が流行だした集落一つと、犯罪に手を染めた兵を集めた部隊を、もっともらしい理由をつけて全滅させた……

 私は、全く罪の無い人達の住む集落一つを、公文書上では『反逆者の村』にしてしまったのよ。

 疫病の流行拡大を防ぐために、犠牲になったのとでは……今思い出しても、心が痛むわ……」

「瑠理姉さん……気に病む事はありません。その時の判断は間違っていません。私でも同じ事をしました」

「瑠理よ、今更、帝国の公文書に何の意味があるというんだ。後の世に正しく伝わればいいんだ。

 いずれにしても、アリス・ガードナーなる人物は、もう存在していないわけだしね」

「はい、でも少し寂しいです。

 この計画が立案された十年前、忍女の私が生まれて初めて名乗った『アリス・ガードナー』と言う名前が……存在が消えてしまった訳ですから……」

「今のお前には『二守瑠理』という神国天ノ原の名があるじゃないか。

 それとも不満かな」

 そう言うと帝は瑠理を抱き寄せる。


「不満はありませんわ、うふ。帝が抱きしめて下さるなら、あたいはそれで満足ですわ、ふふふ」

「ふふふ……ずるいですわ、瑠理姉さん……うふふ……あたしも、抱きしめて下さい……ふふ」

「ですからお二方、表のままでお願いします」

「どうも駄目ね……気分がハイになってくると、抑えきれなくなっちゃうわ、うふ」


 こうして帝と天才姉妹の熱い夜は過ぎていった。



 一夜明け、俺達魔法使いの四人は、帝との会談を行うため、用意された場所に向かった。

 予定の時間より少し早くに到着し、帝が現れるのを待った。


「天ノ原の近衛兵達は、警護に立たないのですか?」

 辺りを見渡したヘリオが口を開いた。


「神国では、いつもこんなもんだけど」

「僕達には考えられないよ、ねえアリエラ」

「……扉ごとに立っている近衛兵がいない……うそだ! どこに消えたの? お願いだから出てきて……アリエラは……困ってます」

 アリエラは幻と闘っているようだ。


「俺もついこの前知ったんだけど、帝国の主君の代替わりは、きな臭い話が多いようだね。対して神国の帝は今まで全員が、自ら引退して代替わりしてるんだ。持っている権力や権限が違うんだろうね。だから……とは言わないけど、わりと開かれているんだ」


 俺達がそうこう話しているうちに予定時間を回り、少々気になり出したところで帝が姿を現し、会談が始まった。


 主たる内容は、ヘリオ・ブレイズ、アリエラ・エディアスの処遇である。

 帝は当然、神国軍に入る事を強く進めた。これに対して、ヘリオ・ブレイズは概ね了承する。

 その一方、アリエラ・エディアスは決めれないようである。魔法使いであり、強大な力を持ってはいるが、まだ十四歳の少女である。

 戦争中は自らが持つ力のため、仕方なく軍に身を置いていたのであろう。

 その事を知ってか知らないでか、帝も答えを急がなかった。

 そして当面の間、俺と鈴音が身柄を預かる事になった。


 宮殿開門から一ヶ月が過ぎると、三砦の戦闘も完全に終わり、旧帝国領のほとんどが、神国天ノ原の統治下となった。

 今の俺達の仕事と言えば、時々旧帝国の残党が引き起こす、反乱まがいの騒ぎを鎮圧する程度となった。

 読み進めていただき、ありがとうございました。

 前書きにも描いたように、ようやく第二部の最終話となりました。

 主たる内容は薄く、余分な話はたっぷりと、気づいたら予定の倍近いものとなってしまいました。

 なにぶん薄っぺらな内容ですが、感想など頂けたら幸いと思います。

 次回より新展開を迎えるのですが……何かと不安がつきまとっております。

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