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策略 13

「なんだって! 皇帝を暗殺した犯人として逮捕されたって、いったいどういう事なんだ」

 明姫達がここまでの経緯を話し始めた直後の事だった。

 明姫からいきなり飛び出した言葉を、俺や鈴音は鵜呑みにはできなかった。


「主君殺しは、帝国側でも最も重い罪じゃないのかしら? いったいあなた達の契約主は何を考えてそんな事を……」

『全く、お主達はさすが「魔界コンビ」の契約主じゃのう。しっかり話を聞いておったのか? そんな事で、妾達の通訳が務まるのかのう』

『そうよお姉さんは、何らかの謀略に嵌められて、濡れ衣を着せられたと言ったはずよ。しっかり聞いてよね、神楽ちゃん』

「ごめん明姫、あまりに話が……なんていうのか飛びすぎてというのか……予想外だったから……」

『もっともお姉さん達は、最初からその場所にいなかったから……そもそも、本当に暗殺を実行していないという証拠も無いのです。

 だから本当に暗殺を実行して、逮捕された契約主の助けをもとめに、ここに来たと思われても仕方ないです……当然、敵なのですから、そこまで疑われるのも覚悟の上です』

『確かにのう、今は妾達を信じてもらうしかないないのう』

 気落ちしている明姫達を気遣ってか、鈴音が話し出した。


『契約主とお人形は、お互い嘘はつけないわよ。それは例え他のお人形の契約主であったとしても、基本的には同じです。

 だって、心に思った事がわかるんですから、こうして話をしている限り、お互い嘘をつく事は簡単ではありません。

 ですから、あなた達が言っている、何らかの謀略に嵌められたというのは、事実だと思います』

『当然だよぉ、鈴音ちゃん。白姉ちゃんと金ちゃんは、性格は残念かもぉなだけどぉ、根は良いんだよぉ』

『黒鬼闇姫さん、本人を目の前にして、そんな失礼な事を言っては駄目ですわよ。

 そういう事は、本人のいないところで、こっそりと言うものなんですわよ』

『あらら闇姫ちゃん、鬼姫ちゃん。なんだか凄い事を言ってるように、お姉さんには聞こえるわよ。いったい、どうしてでしょうかしら? 体に訊いて、お口を正直にしてもらおうかしら』

『待つのじゃ、明姫。あやつらの口の悪さは今に始まった事ではない。しかも今は、鈴音の姐御がついておる。口惜しかろうが今は我慢するのじゃ』

『……ちっ、命拾いしたですわね。鈴音の姐御によくお礼を言っときな、ですわ』

『ですから、あなた達は私を一体なんだと……』

 すると帝が会話に割って入ってきた。


「何をやっているんだ。ちっとも話が進まなくなったぞ。

 とにかくだ、バルドア皇帝が暗殺されたっていうのは、間違いないのだな。で、その犯人は彼女達の契約主なのか?」

「明姫の話では違うようです。

 何らかの謀略に嵌められたようです。ただ残念な事に確実な証拠はないそうです。

 しかし俺達はお人形の契約主として、彼女達の言っている事を信用したい思います。

 その前提の上で、一つよろしいですか?」

「ああ、言ってみろ」

「できれば、明姫達の契約主を助けたいのです。

 謀略に嵌められたとなると、まともに裁判を開くとは思えません。多分……いや死刑は確定でしょう。

 唯一の救いは彼女達がここにいる限り、刑の執行が行えないということです。彼女達もそれを見越して、ここへ送られてきたのだと思います。

 ですから……」

「みなまで言わずともわかってるよ。

 既に本殿の静宛に光信号を打った。明日の昼過ぎには、彼女達要職の者は、ここに来るだろう。

 今後の行動は全て彼女に任せる事にしよう」

「そこまでお考えとは、さすが帝、対応が早いですね。

 でも彼女達がいる限り刑の執行は……」

「神楽、今は好機と思わぬか? 皇帝が不在、しかもここに明姫達がいるわけだ。

 お前の望みは何だった? ここで帝国を討ち一つになれば、その望みに向かって何歩も前進できるのではないのか?」

 俺は帝に言われて初めて気が付いた。帝は俺達に気遣いながらも、もっと先を見ているのだ。


「確かに……という事は、今後の動きというのは、統一に向けた動きという事なんですね」

 と俺は軽く言ってみたものの、長く続いてきたこの戦乱の世が、あと数日で終わるかもしれないという歴史的な出来事と、統一後の世の中を全く想像できないでいた。

 しかし、これが成し遂げられれば、戦争は無くなり、しばらくは平和な時代が訪れるだろう。

 つまり俺の契約の主旨である「争いを無くす」がほとんど達成できるという事である。


「さて、有意義な話を聞いたのだが、静がここに来るまではゆっくりしよう。

 俺自身、いろいろと考えは有るけど、勝手にやると静が怒るからね。

 なあ神楽、この国の女性は怖い……いや強いな」

「確かに……」

 俺はつい鈴音を見てしまった。

 しかし俺の行動を完全に読み切っていた鈴音の、鋭い視線と言葉の逆襲を受ける。


「怖い女性ですか? 当然私もですね! よくわかりました。今後はそのつもりで行動いたします」

「い、いや怖いじゃなくて……強いって……もちろん良い意味だよ……帝も、何か一言……」

「神楽は俺に頭を下げろというわけだ」

「いえ、そういう事ではなくて……ほら鈴音が……」

「兄さんは、私が悪いというわけですね! 私が謝ればいいんですね!」

「いや、だから違うって……俺が悪かったです。二人とも勘弁して下さい」

「いや、すまんすまん、鈴音もこの辺りで勘弁してくれないか?」

「えっと、帝がそうおっしゃるなら」

 どこで間違ったのか、いったい何故だろう、間に挟まれた俺が謝ったところで、めでたしとなった。


「ゆっくりとこんな話をしていたかったが、好機とはいえ、悠長な事は言ってられないのが現状だよ」

「えっと、それはどういう事ですか?」

「兄さん知らないの? 帝国はこういう事が起きても、一週間もあれば元通りになるのよ」

「神楽、少しは帝国側の事も勉強しろよ。どういう敵と闘っているのかを知っておかないと、いつまでたっても争いを終わらせられないよ」

「はい、すみません」

「つまりな、帝国はこういう事態が起きても、三日程で次の皇帝が決まって、遅くとも一週間で新たな政治体制が整うんだ。

 今は確かに帝国を倒す好機だが、それもこの三日間が勝負というわけだ」

「それにしても、こちらとは随分違うんですね」

「政治体制が我が神国とは違うからね。

 神国では政治にしろ軍にしろ、基本的には議会が決定権を持っている。

 元来、帝という地位は象徴的な地位だからね。基本的には議会で決定した事を、俺は事務的に処理しているに過ぎないんだ。

 だから不測の事態で俺がいなくなっても、大した不都合は起きない。つまり一応継承順位は決まってはいるが、その時の時勢にあった後継者をじっくりと選び出す事ができるんだ。

 もっとも、お飾りとはいえ議会と軍部の最高責任者として、暴走を抑えるために絶対的拒否権や、ご都合主義的な決定権を持ってたりするから、後継者選びは早い事にこした事はないけどね。

 ところが帝国は違う。全ての決定権を皇帝が持っているんだ。それこそ議会で決まった事を、皇帝の一言で覆るなんて日常茶飯事らしい。

 だからこそ皇帝の後継者は素早く選び出さなくてはいけないんだ。何も決まらなくなってしまうからね。

 でもそれをあざ笑うかのように、皇帝は短命なんだ。

 考えてみろ、神国と同じ約二百年前に立国した国の王様がこっちは七代目だが、向こうの次期皇帝は十五代目になるんだ。その歴史の中には、即位後半年もしないうちに暗殺された、乳飲み子の皇帝もいたという。全く嘆かわしい事だよ。

 バルドア帝国皇帝は一個人として持っている力があまりに強大すぎる。

 下劣な輩共が、その強大な権力に取り入ろうと画策された謀略に巻き込まれ、ほとんどの皇帝がその犠牲となっていったわけだ。

 同じく国を預かるものとして、深く考えてしまうよ。

 もっともそのために、素早く後継者を選び出せる制度の構築ができたのだと思う。皮肉な事だよ」

「体制が、そんなに違っていたのですか。自身の勉強不足を恥ずかしく思います」

「そうですわよ、兄さん。もっと勉強してくれないと、私まで恥をかきます」

 この面子ではどう転んでも最後は、俺が悪者になってしまうようだ。


「今日のところはこんなところかな。いずれにしても明日、静、大石原それと彩華が合流してからの話だ。

 それとお人形の二人は、当面神楽達に預けるから、しっかり面倒みてやってくれ」

「承知いたしました」

 彩華の名前が出た時、一瞬たじろぐ俺に、鈴音の突き刺すような視線が飛ばされたが、何事も無かったようなそぶりで返事をした。

 そして俺達は会議室を出て、士官執務室に戻った。

 執務室に入り、くつろいでいると明姫達の質問が始まる。


『ねえ神楽ちゃん、お姉さんの質問を聞いてもらっていいかしら』

『それは、構わないけど……怪しい事は無しだよ』

『お姉さんはいつだって、真面目な事しか訊かないわよ』

『明姫の言う通りじゃぞ、お主達は妾達を残念な「魔界コンビ」と同一視しておるじゃろ。それは間違っておる上、妾達にしてみれば少々心外であるぞ』

『あぁ金ちゃん、また黒達を馬鹿にしてるぅ。そんな事言っちゃ駄目なんだよぉ』

『黒鬼闇姫さん、文句の言い方が間違っていますわよ。

 それでは、残念なところまで認めていますよ。百歩譲って「魔界コンビ」は良いとしても、けっして「残念な」を認めてはいけないのです。

 ですから、この場合はまず「誰が残念なのよ」から入らないといけませんわ』

『銀ちゃん、言ってる意味がわからないよぉ。

 別にいいんだよぉ残念って言われても、神楽君達がそう思ってなければいいんだからぁ。

 それにねぇ、最後は鈴音ちゃんが決めてくれるから、大丈夫だよぉ』

『あの闇姫さん、俺は残念とは……思ってないですよ……多分……ところで、なんだかまともな事を言ってますが、大丈夫ですか?』

『兄さん、それは闇姫ちゃんに失礼です』

『そうだよぉ神楽君、黒の言う事はいつもまともだよって、何度も言ってるよぉ』

『ようわかったわい。お主らは全員残念じゃ……』


『何だって!』

『何ですって!』

 輝姫の話を遮るように、俺達は口を揃えて言った……闇姫を除いて……


『だからぁ、そんな事はどっちでもいいんだよぉ。だってみんな「天然ちゃん」なんだしぃ、神楽君は、やれば出来る子なんだからぁ』


『……』

 そして闇姫の一言で一同沈黙であった。


『神楽ちゃん、そろそろお姉さんの質問を初めていいかしら?』

『あっ、ごめん明姫、どうぞ遠慮なく』

『先ほどの方、帝って、皇帝と同じ立場の方ですよね。そんな方と神楽ちゃん達は、いつもあんな風になんだか気楽に、そして楽しそうにお話をしているのかなって、それが凄く不思議に思ったの』

『妾もそう思ったぞ。そもそも皇帝は、そう簡単に話をできる方ではなかったしのう。

 ほれ、ようアリエラが怒っておったのう。それを必死に妾の下僕がなだめておった』

『そうね……アリエラちゃん達、どうしているかしら』

『大丈夫だよ、明姫。俺達がすぐに助けにいくから、もうしばらくの辛抱だよ』

『そうよ、帝はわかってくれてるし、社守静やしろもりしず軍師も、二人の救助を織り込んでくれるわよ』

『今日初めて会ったお姉さん達の言い分を信じてくれて……感激です』

『白姉ちゃん何言ってるのぉ、黒達はお友達なんだから当たり前だよぉ』

『そうですわよ、ですから私達の事を間違っても「残念な」なんて言わない事ですわ』

『鬼姫ちゃん、その話をぶり返さなで! 闇姫ちゃんに今度は「不思議ちゃん」て言われるわよ』

『あの、何度も会話に割り込んですみません。お姉さんの質問の答をお願いしたいのです』

『そうじゃ、妾は焦れておる。全くもって残念組じゃ……』

『金剛輝姫さん、あなたは私達に喧嘩を売っているのですか? はしたないまねはおやめになって下さいませ』

『鬼姫ちゃん、売られても、いちいち買うんじゃありません』

『妾から一つよいかのう、どうも輝姫きき鬼姫ききが紛らわしくていかん。妾を呼ぶときは輝姫様と呼ばぬか?』

『呼びません! いっそ金輝姫と呼びましょうか!』

『ご、ごめんなさい、鈴音の姐御』

 鈴音の迫力ある視線と刷り込まれた恐怖に負けた輝姫である。

 

『あの、いつになったらお姉さんの質問に答えてくれるのかしら……』

『明姫ごめん、他に割り込まれる前に、俺が今すぐ話すよ。

 えっと、俺達は戦災孤児なんだ。

 この神国天ノ原では、「子供は国の宝」という言葉が有るんだ。だから戦災孤児に限らず、何らかの理由で親元を離れた子供は、国が面倒みてくれるんだ。それで俺達は何カ所かある施設のうち、本殿内の施設に引き取られた。

 本殿内という事もあって、帝は即位前、その施設に毎日のように顔を出して、俺達のまるで兄貴のように遊んでくれたんだ。結果、その名残というのか、まあ即位されてからは、お互いそれなりに気を使っているけどね。

 と、こんな訳だけど』

『いい関係なのね。国が変わると本当に何もかも違うのね。帝国では、弱い者は淘汰されて当たり前だったから、ちょっと信じられないわね。

 アリエラちゃんもこの国に仕えれば、あんなに怒りんぼにならなかったわね、きっと……』

『そんなに短気なのか?』

『そうじゃないけど、まだちょっと幼いところが有るかもね。これ以上は、会ってからのお楽しみよ』

『じゃあ金輝姫ちゃんの下僕さんはどうなの?』

『鈴音の姐御、その呼び方は……なんとかならんかのう』

『じゃあ、姐御をやめてよ』

『いや、これはその敬意を込めてそう呼んでいるのじゃ。じゃからやめる訳には……』

『じゃあ、私もそうするわ。で、どうなの下僕さんは』

『まあ、ヘタレじゃ。会うのを楽しみにするほどの価値はないぞ』

『そこまで言われる契約主って……』

 俺と鈴音は、つい口を揃えて言ってしまった。


『ところで、今晩はどうするんだ。どこで寝てもらおう』

『そんなの決まってるよぉ神楽君、黒が白姉ちゃんも金ちゃんもまとめて面倒みるから大丈夫だよぉ』

『闇姫さん、それは俺の部屋で寝るという事ですか?』

『そうだよぉ。神楽君も可愛いお人形達に囲まれてウッキウキィのデッレデレェだよねぇ』

『あの闇姫さん、何かを勘違いしてますよ』

『そうですわよ、黒鬼闇姫さん。神楽様はお人形より鈴音様とイッジョニ……痛いのです……ごめんなさい』

 今やお約束である、鈴音の鉄拳制裁が鬼姫の脳天を直撃した。

『本当に鬼姫ちゃんは……一言余分なんだから』


 あいかわらずのドタバタを繰り返した俺達の、慌ただしい一日は暮れていった。


 一夜明け、午後に社守静軍師をはじめ、大石原厳おおいしのはらげん総長、山神彩華やまのかみあやか侍大将が到着すると、すぐに軍議が始まった。

 読み進めていただき、ありがとうございます

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