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策略 12

「お人形達を中に通すから、神楽達はすぐにお人形達を連れて会議室に来てくれ」

 突然現れた二体の「お人形」を前にして、俺も鈴音も予想外の出来事に呆気にとられていた。そこに帝の命が伝音管を伝わり聞こえてきた。


「帝、よいのですか? 敵の魔法使いを倒す、またとない機会です」

「神楽、お前はそれでよいのか?」

「……」

 帝の問いかけに、俺は何故か言葉に詰まった。これには俺自身が驚いた。

 厄介な魔法使いの「お人形」が、無防備でやってきたのだ。普通に考えるなら、今倒しておくべきなのだろう。しかしそれを良しとしない、もう一人の俺が「今はその時でない」とマッタをかける。


「わかりました、ただちに連れて行きます」

 多少納得できないところがある。しかし今は、心に潜むもう一人の俺を信じる事にした。


『うんうん、そうだよぉ神楽君。やるときは正々堂々、ズルは駄目なんだよぉ。

 それに白姉ちゃんや金ちゃんは、困ってるんだよぉ。ここはお友達として、助けるべきなんだよぉ』

『闇姫さん、俺は敵に友達はいないけど……まあ、話のスジが通っているなら、彼女達の契約主を助けるように、帝へ掛け合うよ』

『おぉ神楽君、かっこいい、さっすが黒の契約主さんだねぇ。惚れ直っしゃったよぉ』

『確かに今の神楽様は一段と素敵ですわ。鈴音様が一番愛しているのも頷けますハッ……!』

『鬼・姫・ちゃん……そのお口、どうしてほしいのかしら』

『まあまあ鈴音、落ちつて。とにかく彼女達を迎えに行こう』

『はい、兄さん』

 階段を降りようと向きを変えると、闇姫が待ったをかける。


『神楽君ちょっと待ってねぇ。

 おぉい白姉ちゃん、金ちゃん、今から黒達が行くから、門のところで待っててよぉ』

『闇姫ちゃん、お姉さん達を受け入れてくれるのですね』

『うん、帝兄貴がどうぞって』

『ありがとう……ありがとうございます』

『じゃあ今から行くねぇ。ちゃんと大人しく待ってるんだよぉ』

 そう闇姫が伝えると俺達は櫓から降りて、正門に向かった。


 俺達が正門に到着すると、伝音管の前が何やら騒がしくなっていた。


「帝様、本気でおっしゃってるのですか」

「当然だ、天鳥達が到着したら開門せよ」

「しかし……」

 事態を見かねた鈴音が話しかける。


「どうなさったのですか? よろしければ私がお話を伺います」

「えっと、お嬢さんにお話をしても……」

「おい、馬鹿、鈴音様だよ、魔法使いの天鳥鈴音様だよ」

「へっ? し、失礼しました」

「気にしてません、それよりお話をお願いします」

「はい、帝様が開門せよと……そのうえ敵のお人形を中に入れよと……」

「それでしたら、大丈夫ですよ。その為に私達が来たのです。

 それに、お人形といっても、魔法使いがいなければ、たいした事はできません。

 だから安心して下さい。そして私達にお任せください」

 そういうと鈴音は深く頭を下げた。


「そ、そんな、鈴音様、頭を上げて下さい。私らなんかに頭を下げないでください」

「いいえ、あなた達の気持ちもわかります。魔法は恐怖そのものでありますし、お人形はその象徴ですからね。だから恐れるなとは言いません。でも少しだけ私達を信じて下さい、お願いします」

「わ、わかりました。と、とにかくすぐに開門します」

 慌てて兵士達が開門作業に取りかかる。


(すっげぇ、鈴音はいつの間にそんな人心掌握術を覚えたんだろう)


『兄さん、聞こえてます。そんなんじゃありません!』

『あっ、ごめんなさい……でも鈴音、いつか教えてくれよ』

『だからそんなのではありません!』

『そうですよ、神楽様は既に手に入れてます。だから鈴音様もお心をウビャファフェフェ……』

 見ると鈴音が鬼姫の頬を引っ張っていた。


『このお口かしら、おかしな事を言うのは……』

『ひょふぇんひゃひゃい……』

 気が付くと周りの兵士達が鈴音と鬼姫を注目している。すると一人の兵士が俺に尋ねてきた。


「あの……鈴音様は、お人形を虐待しておられるのですか?」

「そうじゃないんだ、これも鈴音から鬼姫に対する愛情表現なんだ……はは……いつもの事なんだ……はは」

 そうこうしているうちに正門が開きだした。

 敵の攻撃に対抗するため、ふんだんに使われている金属によって、重厚かつ強固に作られている門である。それが今、低く重い音を立てて、少しずつ上がっていく。そして俺達が無理なく通れる高さまで上がると停止した。

 俺の目に外の風景が映り込む。その中央には二体の「お人形」並んで立っている。それを確認したと同時に、その二体に向かって闇姫が一番に駆け出していく。


『おっ待たせぇ、白姉ちゃんに金ちゃん。久しぶりだねぇ。

 さぁ、神楽君達も早くぅ早くぅ』

『あ、こら闇姫、待つんだ』

 俺達は駆け出した闇姫を、慌てて追いかけた。そして、二体の「お人形」の前で立ち止まった。


『えっと……形式張ってますが、まずは名前から……』

『やだなぁ神楽君、白姉ちゃんと金ちゃんだよぉ。何度も言ったじゃん』

『あの闇姫さん、そういう事ではなくて、こういう事は儀礼的だけど必要です。彼女達もやりにくいでしょう』

『そうなの? じゃあ黒鬼闇姫くろきやみひめです。これでいいんだよねぇ』

『相変わらずですね闇姫ちゃん。

 申し遅れました。お姉さんは白輝明姫しろきあけひめ、後ほどお話しいたしますが、契約主のアリエラ・エディアスはここにはいません』

『なんだかんだとめんどくさいのう。

 妾は金剛輝姫こんごうききじゃ。契約主である下僕のヘリオ・ブレイズは、明姫と同じくここにはおらぬ』

『えっと……少々独特な言葉と出で立ちで……あっ失礼、俺は神国天ノ原独立魔戦部隊、筆頭魔術師天鳥神楽、闇姫の契約主です』

『同じく天鳥鈴音よ。鬼姫ちゃんの契約主です』

『言わずともわかってますわよね。私が銀界鬼姫ぎんかいききという事は、白輝明姫さん、金剛輝姫さん。お二人とも、滞在中は大人しくしていて下さいませ』

 全員の簡単な自己紹介を終えたところで、俺が尋ねる。


『ところで闇姫、四人は知り合いなのか?』

『神楽君も人の話を聞いてないなぁ。さっき黒はお友達って言ったよぉ。一回で覚えないと駄目なんだよぉ』

『はいはい闇姫さん、それは失礼しました』

『神楽ちゃん、お姉さんが言うのはスジ違いかもですが、「はい」は一回って習いませんでした?』

『そうであるぞ、神楽。言葉は正しく使うが、良い下僕への第一歩じゃ』

『……えっと明姫さん、輝姫さん……いや、今はいいです。

 とにかく案内しますから付いてきて下さいね』

 喉まで出かけた言葉を押し殺した。俺達は砦内に戻り、兵士達が固唾をのんで見守る中、彼女達を帝が待つ会議室まで案内をはじめた。

 その途中、気になっていた事を彼女達に尋ねた。


『えっと、その服は帝国の民族衣装なんですか?』

 明姫の黒地の服に白い前掛けの姿は、どことなく納得できた服だった。しかし何とも納得しがたいのが、輝姫の服装である。黒皮のようなもので作られており、体の線を強調するように密着している。言い換えると怪しく艶っぽい服である。

 確かに明姫と輝姫は、少女的な闇姫達とは違い、成人女性的な体型をしている。ある意味それに合う服装なんだが……輝姫のそれは少し行き過ぎている気がする。


『あらら神楽ちゃん、違うわよ。これはねメイド服よ』

『メイド? 冥土? 死後の……?』

『嫌ね神楽ちゃん、違うわよ。こっちの言葉では……そうね女性使用人と言うのかしら。

 つまりねお姉さんは、アリエラちゃんにお使えする使用人なのよ。だからメイド服なのよ』

『なるほどね……じゃあ輝姫のもそうなのかな?』

『ほう、妾を呼び捨てにするとは神楽よ、なかなか肝が据わっておるの……まあよいか、こちらも、これから世話になる身じゃ。

 して衣服の事じゃったのう。この妾の服は下僕の好みのようじゃ。何でも女王様とか言ってたかのう。しかし妾の記憶では、このような姿の女王は知らぬ。

 神楽達は知らぬか?』

『知ってたら、聞かないよ。鈴音はどうだ?』

『私も、見た事無い服装だから、気にはなってました。

 でもその服装で女王様って……なんだか淫靡な響きですわ……はっ! 私ったら……』

『そんなもんかのう……まあよいか。下僕に再会したら問い詰めてみるか。

 ところでその様子では、服装の事もそうじゃが契約の事など、あまり聞かされていない様子じゃのう』

『輝姫ちゃん、それは仕方ないわよ。話のできるお姉さん達と違って、なんていっても「魔界コンビ」のお嬢ちゃん達ですからね』

『確かに、会話にならぬからのう……残念な「魔界コンビ」相手では……まことに残念じゃ』

『あぁっ、白姉ちゃんに金ちゃん、そんな意地悪な、憎まれ口をたたいちゃ駄目なんだよぉ。

 鈴音ちゃんに指導されちゃうよぉ。こっわいんだよぉ、この世のものじゃないんだよぉ』

『そうですわよ! 全く何が残念な「魔界コンビ」よ、失礼しちゃいますわ。

 さあ鈴音様、こんな方々いつもの様に……お口に……バッテン……のり付け……』

『されたいのかしら、輝姫ちゃん達は……そもそも私をなんだと思っているのかしら。

 いいわ、それをお望みなら……全員並びなさい!』

『黒もなの?』

『はい』

『妾達もか?』

『当たり前です!』

『私もですか鈴音様』

『輝姫ちゃんは、それを言う資格はありません!

 とにかくゴチャゴチャ言わないで、すぐ並びなさい!』

 そして「お人形」達にとって恐怖の時間、鈴音の指導が始まる。


『本当にあなた達は……』


『こ、この妾が震えているじゃと……これが恐怖というものか……体の戦慄きが止まらぬ……今後は姐御と……なにとぞ穏便に……』

『お姉さんも……体中が警報を……この人に逆らっては駄目と……これが恐怖というものなのね……お姉さんも姐御と……お呼びします』

 明姫と輝姫はこの時、初めて恐怖を体験したようだ。


『わぉ、さすが鈴音ちゃん。

 あっという間に、白姉ちゃんと金ちゃんを制圧しちゃったよぉ。かっくいい』

『そんな事をいってる場合ではないですわよ、黒鬼闇姫さん。あなたもその対象になってますわよ』

『えぇ、黒もなのぉ? ねぇねぇ鈴音ちゃん、黒もあんな風にされちゃうのぉ』

『姐御って……全くあなた達は……もういいわ。それに闇姫ちゃんや輝姫ちゃんを一生懸命叱ってる私が……自分自身がなんだか可哀想に思えてきたわ』

『えぇ、なんでなんで可哀想なのぉ鈴音ちゃん、黒が慰めるから話してよぉ』

『黒鬼闇姫さん、それ以上鈴音様にツッコミを入れると、黒化するので控えて下さいませ』

『鈴音ちゃんが黒化するってぇ? 黒になっちゃうのぉ? じゃあ、黒はどうなっちゃうのかなぁ? 銀ちゃん、言ってる意味がわからないよぉ』

『もういいです。輝姫ちゃんに闇姫ちゃんは放置です』

『あの恐怖に打ち勝つとは……恐るべきは「魔界コンビ」じゃのう』

『あらら、でもやっぱり会話にならないのね、ふふ』

 鈴音の指導が一段落したところで俺が割って入る。


『さて、話はついたか。帝を待たせてしまっている。会議室に急ぐよ』

 俺達は会議室に向けて足を急がせた。

 俺はその途中歩きながら、金剛輝姫が言いかけた事を尋ねた。


『輝姫はさっき、服装とか契約とか言ってたよね。それって何の事かな』

『なんじゃ、そのような事は闇姫にでも聞けば良いじゃろう』

『いや、だからさっき明姫や輝姫が言ったじゃないか……会話にならないって……』

『あぁ神楽君、そういうことは言っちゃ駄目なんだよぉ。黒だって、ちゃんとお話しできるんだしぃ、それに会話ができないのは神楽君だよぉ。いつも話しが脱線しちゃうんだからぁ』

『闇姫さん、それは大変失礼しました。

 というわけで、どういう事なのかな、輝姫さん』

『仕方ないのう、契約の事については、妾が話すのはスジが違うので控えるぞ。それは闇姫に聞くがよい。

 妾達の服装など外観は、契約主であるお前達の願望や望みが基になっておるのじゃ。

 先ほども言ったであろう。妾の服は下僕の好みと……つまりじゃ、闇姫の服はお主の願望の表れの様なものじゃ』

『そんなもんかな……俺はあんまり意識してないけど……着物は好きかな……じゃあ鬼姫はどうなんだろう。鈴音の願望なんだろう。でも神国では見かけないからな……』

『私は、小さい頃に本殿の図書館で見た事があるのよ。えっと……ゴシックとかなんとかって言ったけど……すごくヒラヒラしていて可愛いなって……』

『そうね、あれはこちらより帝国側のドレスに近いわね。お姉さんの服だって、フリルを付けるとあんな風になるかもね。でもアリエラちゃんが、素敵なメイドさんが……っていうから、お姉さんはこの服がお気に入りよ』

『えぇ、黒はねぇ、あのねぇ……』

『あら黒鬼闇姫さん、それははしたないですわ……』

『じゃがのうそうはいっても妾は……』

『でも私はね……』

『お姉さんはだから……』

 俺は今、猛烈に後悔をしている。自分で服装の話しを切り出してなんだが……俺を除いて全てが女性であった。途切れる事無く続く会話は、会議室の扉を前にしても終わる事が無かった。

 とりあえず、打ち解けて仲良くお話をするのは良いとしても……突然、永遠に続くと思われた会話を遮るように、会議室の扉が開いた。


「何を外で騒いでいる。待ちくたびれたぞ、神楽。早く入ってこい」

 中から帝が姿を現すと、なかなか部屋に入ってこない俺達を、急かすようにそう言った。それと同時に、会話に花を咲かせていた女性陣が、揃って口に手を当てた。


「お待たせいたしまして、大変失礼いたしました!」

 俺達は、何故か息ぴったりに揃って、叫ぶように詫び、そして部屋に入った。


「独立魔戦部隊、筆頭魔術師……」

「堅苦しい挨拶は無しでいいよ。

 とは言っても、彼女達とは初顔合わせだから自己紹介くらいは必要かな。それと神楽に鈴音、彼女達が何を言っているのか、『俺にはわからないから』教えてくれよ。

 さて、まずは俺からだな。神国天ノ原天命ノ帝あまめのみかど、この国の頭となっている。まあ、せっかく我が神国に来たんだ。理由は今から訊くが、力になれる事なら全力を持って助けるよ。とりあえずはくつろいでくれ」

「では私から彼女を紹介いたします。

 こちらが白輝明姫、そちらが金剛輝姫です」

 紹介が終わると、帝がいきなり核心を突く話をしてくる。


「お前達の国で何が起きたのか、それはこれからゆっくりと聞くとして、お前達の契約主にただならぬ事態が起きた事は察しがつく。そうでなければ、破壊される危険を冒してまで、適地にお前達だけで来るとは思えないしね。

 そうそう俺は『命を共有する者』という話はは知っているよ。

 では改めて訊こう、帝国で何が起きた」

 そういうと帝は、腕を組み目を閉じた。

 帝の能力があれば、俺達を介さなくても話はできる。この能力は、今の時点では伏せておきたいという事は、先ほどの会話で俺達にもわかっている。

 彼女達が、これまでの経緯を話し出すと、俺達はその間に入り、帝に通訳をする。そして過程で、驚愕の事実を知る事になる。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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