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策略 10

10月3日 地の文を変更しました。

「やっぱり全滅か、当然の結果になったね、アリエラ」

「それにしてもよ、報告では全員が土壁に磔って……まるで公開処刑よね。どうしてガードナー参謀の深いところにある意図がわかったのかしら。相手は距離に関係なく、心が読めるのかな。それとも中枢にまで諜報員が入り込んでるのかしら」

「その辺はどうかわからないけど、こうも考えられるよ。

 この帝国で、もし皇帝陛下の暗殺計画を実行して捕まれば、事の成否にかかわらず当然死刑だよ。そして、二度と同じ事を起こさないように忠告……いや見せしめのために、公開の場で残酷なやり方で、刑を執行すると思う。それは当然向こうにも当てはまるはずだよ。

 もっともそれは、国内における犯罪行為として処理する場合の話だけどね。

 他国の者が起こした場合、本来なら捕虜として拘束するのがスジなんだよ。

 まあ、そんな事しちゃうと、聴取だ裁判だなんて手間がかかっちゃうし、なによりも自国の罪人達より、条約なんかで手厚く保護されてるから、それこそ処刑なんてできなくなったりするんだ。だからといって、理由をこじつけて無理矢理執行しちゃうと敵国のナショナリズムを煽ったりして、下手すると後の戦況に影響したりするしね。

 だから結局は戦場で『公開処刑? いいえ、全て戦闘行為です』なんて言い訳で、全部処理しちゃうんだよね」

「ヘリオ先輩、何か悪い物でも食べました? そんな長々と喋るなんて……でも、そうなのかしらね」

「僕もたまには……って、あれ? ところでアリエラ、あんな報告を受けても騒がないなんて、珍しいな」

 強襲部隊が全滅という、私としては一番避けたかった事態になったのにもかかわらず、いつものように騒がない事を不思議に思ったのか、ヘリオ先輩が問いかけてきました。


「ヘリオ先輩、あんなのは全滅前提の計画、わかりきった結果なんですよ。それで何で騒ぐ必要があるんですか? 

 ソ・レ・ヨ・リ・モ……珍しいって……それじゃまるでアリエラは、いつも騒いでるみたいじゃないです・カ!

 ヘリオ先輩は、アリエラをサイレンか何かと思っているのカ・シ・ラ!」

「あ、いや、そういうわけじゃないけど……ほら、昨日とか一昨日とか……」

「ヘリオ先輩、あれはアリエラが全て悪いというわけです・ネ! それは、タ・イ・ヘ・ン・失礼しまし・タ! ごめんなさ・イ!

 だから、デ・ス・カ・ラ、あんな恥ずかしい姿で、宮中を引き回されちゃったわけなのカ・シ・ラ!

 しかも、シ・カ・モ・ヨ、まだ乙女な私の可愛いふくらみまで掴まれて、あれは騒音をまき散らす、アリエラの受けた罰だったのです・ネ!」

「だから違うよ、そういう意味じゃなくて……」

「じゃあ、どういうイ・ミ・なのです・カ! 何度言われてもすぐに騒いじゃう、馬鹿なアリエラにはわかりませ・ン!」


 一瞬間が空いたその時、ヘリオ先輩から思いもしない言葉が返ってきました。


「わかりまし・タ! 僕が悪かったで・ス! ごめんなさ・イ!」

「うぅぅ……まねしないで下さ・イ! アリエラのオリジナルなんで・ス!」

「それはすみませ・ン! 知りませんでし・タ!」

 ヘリオ先輩に私の口まねをされるという思わぬ反撃にあい、議論にならない論議となり、堂々巡りが始まります。そんな状況を見かねたのか、輝姫ちゃんが会話に割って入ってきました。


『下僕に小娘、朝から何を騒いでおる。

 そもそも下僕よ、いまだに小娘一人を手込め……手懐けられずになんとする。だから何かと騒がれるのじゃ。

 いい加減扱いを覚えて、小娘を卒業させてやればよいの……じゃ、って……ごめんなさい』

 急に口ごもった輝姫ちゃんの目に映り込んでいたのは明姫姉の姿でした。


『まったく輝姫ちゃんは、どうしてそんなにお口が軽快なのかしら。

 半分くらい縫い付けちゃった方がいいのかしらね、アリエラちゃんはどう思います?』

 明姫姉はどこから持ち出したのか、縫い針と糸を手に、輝姫ちゃんに向かい穏やかな笑い顔で、手招きをしています。


『明姫姉、それ怖いから……輝姫ちゃんも反省してるわよねっ』

『はい……海より深く……反省しています』

『あらら輝姫ちゃん、本当かしら? ちょっとこっちに来てみない。お姉さんは心が読めるから……大丈夫よ、本当に反省しているなら、なぁんにもしないから……ふふ』

『ご、ごめんなさい明姫……ア、アリエラ、妾をかくまってくれ』

 そう言うが早いか、輝姫ちゃんは私の後ろに隠れるように回りました。


『ねえねえ輝姫ちゃん、何でアリエラの後ろなの? 普通ならヘリオ先輩じゃないの、一応は契約主なんだから』

『わからぬかアリエラ。あの下僕に明姫の凶行を止めれると思っておるのか?』

『……なるほど、そうだね』


「信頼されてなくて、すみませ・ン! 情けない契約主でごめんなさ・イ!」

 突然私達の耳に飛び込んできたのは、悲痛な叫びとなった、涙目のヘリオ先輩の言葉でした。


「あのヘリオ先輩、その言い方を泣きながら使うのはアリエラ的には、間違っていると思います。怒りながらが正解なんですが……」

「いいえ、いいので・ス! これで合っているんで・ス! 僕、ヘリオのオリジナルなんで・シュ!

 それと、まだ泣いてませ・ン! 涙目なんで・シュ!」


「シュって……輝姫ちゃんごめん、ヘリオ先輩、壊れちゃった」

『あらら、本当壊れちゃったみたいね。

 お姉さんもびっくりよ』

『いずれはこうなると思っておったのじゃが……アリエラよ、気に病む事はないぞ。下僕の精神が弱かったのじゃ。とりあえず、今は放置しておくかの』


 こうして騒がしい午前が過ぎていきました。ドタバタのあるときは、最後にヘリオ先輩が凹んで終わることが多いのです。

 そして今回もそのようになったのですが……この後皇帝陛下に呼ばれた茶会があります。それまでには立ち直ってくれないと困ります。


 昼食時間になる頃、ヘリオ先輩は正気を取り戻してくれました。しかし、ここにきてまた凹まれては困るので、優しい私は、全てを我慢して受け答えをしました。


 そして午後二時が茶会開始の予定時間です。私達は、警備の都合で何度か近衛兵達に止められる事を考え、午後一時半に控え室を出て、会場である特別談話室に向かいました。

 特別談話室は、宮殿敷地内にいくつかある別館の一つに入っています。そこは、特に秘密が必要とされる会談を行うときに使い、室内で話された内容は、当事者が口を開かない限り、決して外部には漏れることがないといわれてます。

 別館といっても規模はそれなりのものです。ところがその外観は他の建物に合わせる為のハリボテのようなもので、建物内には部屋が一つあるだけと聞いています。

 その部屋は幾重の壁に守られて、外と完全に別れているようです。噂では、何らかの不可思議な力で現次元から、完全に隔離されているとも言われてる程です。

 

 私達は、宮殿から手入れの行き届いた庭園に出て、右回りに外周の歩道を歩き、三つ目の曲がり角を左に折れ、特別談話室のある別館への一本道を進みます。

 しかし本日の警備は一段と物々しいのです。一本道に入ると、十メートル程の間隔で近衛兵が歩道の左右に並んでいます。そして私達を嫌な目つきで睨みつけます。プライドからなのか、その目は「皇帝陛下は俺達近衛が守る、お前達に用はない」と言わんばかりでした。


(……こいつら妬んでいるのかしら……)


 威圧感たっぷりな百五十メートル程の一本道を終えて、別館の正面玄関に着きました。

 当然、ここにも近衛兵がいる。私達の階級は彼らより上であるが、それでもフリーパスとはいかないようです。

 そして止められた私達に彼らが問いかけます。


「所属、階級、氏名をお願いします」


 実際、特殊なところに所属している私達です。その上、私は一目見れば忘れられないくらい可愛い女の子です。いちいち確認されなくてもわかるはずなのです。

 そんな確認は、どこにでもいるような男子の、ヘリオ先輩だけにしてほしいです。

 でもこれって、もしかしてスリーサイズとか聞かれたら、答えないといけないのかしら……きっと通してくれないのですよね。建前恐るべしです。


「特殊遊撃部隊、中将、ヘリオ・ブレイズです」

「同じく、少将待遇、アリエラ・エディアスです」

「伺っております。どうぞ」

 そう言うと、近衛兵達が玄関の扉を開きます。


(ってか、なんなのここ……)


 開かれた扉の奥を見た私の目には、次の扉と警護の近衛兵達の姿が飛び込んできました。

 とりあえず別館の中に一歩足を踏み入れました。

 すると背後の扉が静かに動きだし、最後に重く、ゆっくりとロックの掛かる音を残して閉まりました。


ガッ……チャン


(ここって、恐怖の館なのかしら……)


 そして私達が足を進めると、当然近衛兵達に止められ、先ほどと同じ事を尋ねられ、同じやり取りをします。


「所属、階級、氏名をお願いします」

「特殊遊撃部隊、中将、ヘリオ・ブレイズです」

「同じく、少将待遇、アリエラ・エディアスです」

「伺っております。どうぞ」

 そう言うと、近衛兵達が扉を開きます。


(って……これっていじめかしら。間違いないわ、妬みとかじゃなくて、精神的ないじめよ)


 心の中で叫んだ私の目には、先ほどと同じ光景が映り込んでいます。


 こんな時に明姫達がいてくれたら、ヘリオ先輩に文句を聞いてもらっていたのに……多分ヘリオ先輩も同じ事を思っているかもしれません。もっともヘリオ先輩は、私に愚痴る事はないでしょう。


(そもそも、この短時間で人が入れ替わったり、何かを仕組む事ができるとでも……これは人材の無駄遣いじゃないかしら)


 そんな心の声をよそに、このやり取りは合計五回行われました。

 そして五つ目の扉が開くと、私の目に今までとは全く違う、重厚な扉が映し出されました。

 でも近衛兵達はいたので、六度目のやり取りを何故か期待してしまった。

 しかしそういう時に限って何故か、何事もなく、鈍く響く音を立てて、重厚な扉は開かれてしまいました。


(あぁ、どうして、アリエラに言わせて……もう、あなた達を見ると言わずにはいられないの……「同じく少将待遇アリエラ・エディアスです」って……)


 ところが開かれた扉の奥には、また扉があります。

 そして私は目を疑いました。そこには近衛兵達が立っていないのです。

 今の私の脳内では、扉には必ず近衛兵達がいるという情報を処理し、記憶に刷り込んでいました。その結果、記憶と現状の相違で混乱し、固まってしまいました。


「おいアリエラ、呆然として大丈夫か? 調子が悪いのか?」

「あっヘリオ先輩……もう近衛の方達はいないですよね。もう大丈夫ですよね」

「……? ……?」

 私の言っている事の意味がわからず、挙動不審な私を覗き込むヘリオ先輩でした。しかし彼が声をかけてくれたおかげで、正気を取り戻す事ができました。


 でも刷り込まれた記憶はとうぶんの間、残るわけで……しばらくは扉を見ると、そこに近衛兵達が立ちふさがる幻覚を見そうです。


 とりあえず、正面の誰もいない扉に向けて歩みを進めると、やはり背後で今通った扉が重い音と共に閉ざされました。


 気を取り直したところで、時間を確認すると、午後二時の五分前でした。

 何事もなければ十分もかからない、道のりなのです。意味不明の嫌がらせとしか思えない検問のおかげで、たっぷりと時間を使ってしまいました。

 皇帝陛下の執務室からは直通のルートがあるらしいのです。そこなら警備の手も薄いかもしれませんので、十分もかからないと思うのです。しかし今の私達では、間違っても使わせてもらえません。

 やっぱり今通ってきた近衛団による精神攻撃の一本道しかなさそうです。

 早くに出て正解でした。


 私達は最後の扉をノックして少し間をおきます。しかし特に返事がありません。

 とりあえず私達は、その扉を開いて誰もいないと思われる部屋に入りました。

 初めて見る部屋です。広さは約百平米といったところで、それなりの広さがあります。しかし白で統一された壁や天井には、窓が一つもない閉鎖された空間でした。

 そのためでしょう、そこには少しでも開放感を与えるようにと、照明のランプが必要以上に設置され、明るく物を照らし出しています。

 壁には何枚かの風景画を飾り、床には薄い青色の絨毯を敷き詰めて、少しでも息苦しさを減らし、落ち着けるような彩りになっています。

 中央には、本日の茶会に合わせて一台のテーブルを囲むように、五脚のイスが設置されています。

 扉のところに立つ私達の正面に、皇帝陛下の肖像画が飾られています。

 その時、私達に背を向けて肖像画を見上げるように、一番奥のイスに座っている人影に気がつきました。


 間違いなく皇帝陛下です。


 ですがこの時、目に映った皇帝陛下の姿に私は不自然さを感じました。

 それに気を取られた私が、ヘリオ先輩にワンテンポ遅れて片膝をつき、頭を下げると、ヘリオ先輩が口を開きます。


「お待たせいたしまして、大変申し訳ございません。

 特殊遊撃部隊、中将ヘリオ・ブレイズ、少将待遇アリエラ・エディアスの両名、参じました。

 本日は、私どもにお声をかけていただき、誠に光栄にございます」

「……」

 ヘリオ先輩はこちらの問いかけに、何の反応もしていただけない、皇帝陛下を不思議に思ったのか、別の言葉で問いかけます。


「皇帝陛下、いかがなされました? ご気分を悪くされたのですか?」

「……」

 再度の問いかけに返事が返ってこないのを、不審に思った私は、ヘリオ先輩に話しかけます。


「ヘリオ先輩、どう考えても様子がおかしいです」

「確かに……皇帝陛下、いかがなされましたか」

「……」

「ヘリオ先輩、近くにいきましょう」

「うん」

 私達は、返事のない皇帝陛下に近づきました。


「えっ! これは……一体なにが……」

 ヘリオ先輩が異変に気づき声を上げます。


「こ、皇帝陛下……」

 私の目に映ったのは、胸に二本の剣が刺さった状態で、既に絶命した皇帝陛下の姿でした。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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