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策略 6

微妙に改稿しました。2・26

 帝の護衛として同行した二日目の朝、慣れない枕のためか、珍しく朝早く目を覚ました俺だった。そして目覚めた俺に、いち早く気が付いた闇姫が、大声で朝の挨拶してきた。


『神楽君おっはよぉ! 今日モゲ……』


 しかし中途半端なところで口ごもった。

 不思議に思った俺が、寝ぼけまなここすりながら周りを見渡した。まず目に入ったのは、黒鬼闇姫くろきやみひめの口を青い顔でふさいでいる銀界鬼姫ぎんかいききの姿。そして次に可愛らしい寝息を立てて、幸せそうな寝顔の鈴音。

 起きがけで状況判断が鈍っていた俺は、その寝顔に目を奪われながら、少しずつ自分のおかれた状況がわかってきた。


『いっ、いかん! 鬼姫、そのまま闇姫を抑えていてくれ!』

『神楽様、承知……』

 俺は闇姫と鬼姫の二人を抱え、部屋の外に飛び出した。

 意味も無く起こされた時に現れる、黒化鈴音の恐怖を俺と鬼姫は知っている。あれは決してこの世に現れていいものではない。

 しかし部屋に戻るにも、天然目覚ましの闇姫を連れたままでは、部屋に戻れない。しかたなく俺達は、休憩所で時間をつぶす事にした。


『ふう、なんとか鈴音の黒化は阻止できたようだ』

『はい神楽様、間に合いましたでございますです。

 それにしても黒鬼闇姫さん、あれほど静かにして下さいとお願いいたしましたのに、困りますでございますわよ』

『だってぇ、銀ちゃん駄目だよぉ、朝の挨拶は元気よくしないと駄目なんだよぉ』

『確かにそうでございますですが、それは神楽様と二人の時だけにして下さいませですわ』

『銀ちゃん意味わかんないよぉ。挨拶は元気な方が……あぁっそうかぁ、鈴音ちゃんは神楽君に優しく起こされたいんだもんねぇ。そうか、黒、気が付くのが遅かったよぉ』

『闇姫さん、相変わらず大幅な勘違いありがとうございます。

 正直に申しましょう。俺達は鈴音を起こす事を、極力避けて通りたいんです』

『そうでございますですわよ。いくら鈴音様が神楽様を愛しているからと言っても、あの状態は……』

 言葉を途中で止めて、固まった鬼姫の視線を追った俺も、振り向いた状態のまま固まった。


『兄さん、銀界鬼姫さん、本当にあなた達は……私もお話に加わって、よろしいかしら』

 俺達……主に俺と鬼姫を見下ろし、至極不自然な笑い顔を浮かべた鈴音が、その胸のけしからん膨らみを誇示こじするかの如く(俺の主観です)腕を組んで、いつの間にかそこにいた。


『そっ、そうだね鈴音。会話は楽しくしないと……目が笑っていないようですが……』

『私が心から笑えないのには、理由があります』

『鈴音ちゃん、おっはよぉ。今日もいい天気だよねぇ。遠足日和だよねぇ』


(闇姫、お前は本当に凄いよ。今の鈴音に……あっ……しまった)


『遅いです。全部聞かせて頂きました。お・に・い・さ・ま』

『ご、ごめんなさい、心より謝罪いたします』


 こうして慌ただしい朝は過ぎていった。

 朝食をとった俺達は、出発の支度をすますと、宿の前の広場に出た。

 そして集合していた視察団は、帝の支度が終わると定刻通り出発した。


「今日も何もないと良いですね。

 それと今晩の部屋割りも気になります」

「鈴音、道中はいざ知れず、部屋割りについては、あきらめた方がいいと思う」

「やっぱりですか……むしろ歓迎……」

 最後には口ごもり、何を言ったかわからない鈴音の不安について俺は、心当たりがあるのですが……


 昨日は途中立ち寄った村での会談が長引き、三時の休憩が遅れた。

 当然、三時のおやつにこだわっていた闇姫が騒ぎまくった訳です。幸いな事にそれ以外、特筆するような事件は起きなかった。

 ただ宿の部屋割りで、経費節減とかで俺と鈴音は、同室させられた。

 今朝の騒ぎが予想できた俺は、財務担当の貝塚に文句を付けにいくと、「兄妹なので問題無いのでは、それとも問題になるような、いかがわしい関係なのか」と、天守命あまのもりめい近衛長殿に入れ知恵されたとしか思えない、嫌味たっぷりな答えが返ってきた。


『鈴音ちゃんは神楽君と一緒に寝るのは嫌なのぉ?』

『えっと「寝る」って闇姫ちゃん、微妙な意味合いの言葉ですけど……それは全然、嫌とかじゃなくて……むしろ歓迎……って、ななな何を言わすんですか』

『鈴音様、他の方に聞こえない時くらいは、素直に「その腕に抱かれて、一緒に寝たい」と言ってしまった方が、よろしいかと思いますで……はっ! ご、ごめんなさいでございますです』

『銀界鬼姫さん、やっぱりそのお口は、バッテンのり付けかしらね』

 にこやかな表情の鈴音が、非常に優しく語る――怖いです。非常~に、怖いです。


 俺達がそんな馬鹿話をしているうちに、視察団一行は、本日最初の集落に到着した。

 戦場視察といってもとりでまでの道中、いくつかの集落を通る。お忍びならともかく、今回は『勅令ちょくめい』を発布はっぷしてまでの公的なものである。途中通過する集落を素通りする訳にもいかない、という帝の意向もあって、それぞれの集落で首長と会談をする時間を設けてある。

 そしてこの集落でも帝が首長と会談を行っていた。

 その時、会場を警護していた俺達に、住人から「不審な集団を見たと」いう情報がもたらされた。


「兄さん、大丈夫かしら」

「ああ、大丈夫だ。予想通りだよ」

 不安気な鈴音を安心させるためにそう言ったが、本当は「聞いた通り」が正解だった。

 出発前に軍師の社守静やしろもりしずから呼び出された俺は、「二日目にバルドア帝国軍の強襲の可能性がある」と聞いていた。確証が持てなかった今までは、いらない不安をあおるのを避けて黙っていた。情報にあった不審な集団は、間違いなくバルドア帝国軍の強襲部隊だろう。

 ただ、社守軍師はこうも言った。


「万が一、この馬鹿げた強襲作戦があったとしても、あなた達がいる限り、たとえ強襲部隊に魔法使いが入っていても、この強襲の成功はありえない。

 帝国側の軍師も、強襲が作戦として成り立たない事を間違いなくわかっている。

 それでも、もし強襲を仕掛けてくるのなら、それは派兵された強襲部隊に対して、なんらかの悪意を持っているとか、法で裁けない者を派兵して、敵に裁いてもらうという意味合いを持った作戦となる。

 うふふ、神楽ちゃん、強襲が有ると良いわね……おもいっきり、楽しめるわね……うふ……帝国側公認なのよ……ふふ……共同作戦ね……ふふふ……二日目が楽しみね……でも残念だわ、こんな楽しい出し物がありそうなのに、参加できないなんて……誰か変わってくれないかしら、あたしが一緒なら、どんな三文芝居も、最高の見せ物にしちゃうのに……うふふ、可能性の問題よ。

 でも万が一、そんな情報が入ったら、あたしの言葉を思い出してね。

 神楽ちゃん達が前面で、普通に戦えばそれで終わりよ。ふふ、でも死体はできるだけ残すようにしてね。帝もそれを望むはずよ。そこだけちょっと頭を使ってね。

 あとヘタレの天守達には盾でも持たして、帝の周りを固めさせておけばいいわ」


 とりあえず社守軍師の本音というか、二重な人格はさておき、軍師として信頼しきっている。そんな彼女の言葉もあって、俺は慌てる事はなかった。

 しかし視察団はその情報によって、ざわめき立っていた。

 無理もない近衛隊と言っても、基本的に戦闘とは無縁の集団である。もっとも後詰ごづめで座っているだけの俺達も似たようなものであるのだが……常に先陣を切って戦う、彩華をはじめとする、神国の優秀な侍や兵士に感謝である。

 とりあえず俺は、会談が終わるのを待って、帝の下に参じた。


「話は先ほど、天守から聞いたよ。

 あの馬鹿、慌てふためいて会談途中で、割り込んできやがって、全く困ったもんだ」

「彼の気持ちもわからなくもありませんので、その辺りで勘弁してあげて下さい。

 ところで、今後の予定はいかが致しましょうか」

「俺は予定を変えるつもりはないよ。神楽はどうなんだ。何か不安でもあるのか?」

「いいえ、特には――」

 俺は出発前に社守軍師と話した内容を伝えた。「ふっ、共同作戦か。我らが軍師は全てをお見通しのようだな。いかにも静らしい答えだ。

 なら何の不安もないな、予定通りの行動とする。我が身、我が命、お前達に預けるぞ、神楽」

「何があってもお守りいたします」


 出発予定時間となっても、もたらされた情報によって、ざわめき浮き足立つ一行に、姿を現した帝が一喝いっかつする。


「我になんら不安が無いのに、お前達は不安なのか! いい加減にしろ!」


 静まった一行を見渡した後、直ぐに籠に乗り込み、出発の号令をかけた。




 一行がしばらく歩みを進めた時、それまでおとなしくしていた闇姫が、怪しい歌と共に騒ぎ出した。


『三時のおやつ、三時のおやつはなんでしょぉ。

 ねぇねぇ鈴音ちゃん、今日は三時のおやつができるかなぁ』

『多分大丈夫よ、闇姫ちゃん』

『黒鬼闇姫さん、先ほどお昼を食べたばかりでございますですのに、少々いやしいことでございますですわよ』

『だってぇ遠足じゃぁ、おやつは最大の楽しみなんだよぉ』

『あの闇姫さん、もうじき敵襲があると思いますので、もう少し緊張感を持っていただきたいのですが……』

『神楽君、黒はそんなのわかってるよぉ。だからぁ、三時におやつができるか心配なんだよぉ。

 だってぇ、もうちょっと向こうに、変な人達がいっぱい隠れているもん。

 そんなこと銀ちゃんも知ってるんだよねぇ』

『えっ、鬼姫ちゃん、そうなの? どうして教えてくれないの?』

『あっ、はい、鈴音様をあまり不安にさせたくなかったもので……ございますです』

『もう、いらない事は、一言二言上乗せしてぺらぺら喋るのに、大事な事は言わないのかしら』

『闇姫、どれくらい向こうなんだ?』

『うぅん、神楽君の短い足で十五分くらいだよぉ』

『えっと……まあいいや。とりあえず帝に報告してくる』

 そう言うと、俺は直ぐ後ろの籠に駆け寄り、帝に話しかけた。


「今、闇姫たちが、不穏ふおんな気配に気が付きました。ここより時間にして十五分ほど先のようです」

「神楽、お前達の会話、聞いてて飽きないよ。

 待ち伏せの件もじっくり聞かせてもらったよ。

 だが、先ほども言った通り予定を変えるつもりは無い。闇姫ちゃんが楽しみにしている、おやつの時間に間に合うように、好きにやってくれ。それと――」

「帝、ご報告が!」

 帝と俺の話をさえぎるように天守近衛長が割り込んできた。

「天守、騒々しいぞ」

「し、失礼しました。

 しかし、この先に怪しい気配が立ちこめておりますゆえ、進行の停止をお願いしたく――」

「ならん、予定通りこのまま行く」

 ヘタレな天守近衛長は、家柄だけで近衛長に選ばれたわけではない。この人並みはずれた気配の察知能力を高く評価された結果である。もしかすると、ヘタレ、そして保身に長けている故に、持ち合わせている能力なのかもしれない。


「しかし、それでは、敵中に飛び込むような……」

「出過ぎた意見は許さぬ。

 こちらには天鳥達独立魔戦部隊がいる。さらには、事態を見越した社守からも策も授かっているようだしな、天鳥神楽筆頭」

「は、はい、ですが万が一味方が、私達の攻撃の巻き沿いになるのを防ぐために、私達の行動直前に一団の進行を、止めていただきたのです」

「確かにな。それは許可しよう」

「ありがとうございます。それでは合図は私が出しますので、天守近衛長は先方の近衛隊を、すぐさま帝の籠の周りに配置し、盾となって下さい」

「という事だ、天守。わかったら下がってよい」

「御意に」

 天守近衛長が戻ったのを確認した帝は、一つ言葉を付け加えた。


「そうそう神楽、奴らを消しちゃ駄目だよ」

「はあ、社守軍師もそのようなことを……」

「静は全部知ってるみだいな。

 それはさておき、帝国さんの軍師が、向こうじゃ参謀っていうみだいだけどね、何でも公開処刑を望んでいるみたいなんだよね。だからちょっと協力してあげようと思ってね」

「えっと、その話は一体どこから……」

「まあ、俺も個人的な間者かんじゃを放つくらいしているからね。

 とりあえず、後で絵にして向こうに送るつもりだから、死体は原型が残るようにお願いするよ」

「はあ……闇姫、出来るか?」

『当然だよぉ、神楽君、まっかせてよぉ。

 ちゃぁんと……違うなぁ……こういうときこそあれだぁ。

 こんな事も有ろうかと思って、用意しておいたんだぁ。

 うん、最高の決め言葉だねぇ。出来る子なら一度は言ってみたい一番の言葉だよねぇ。

 うんうん、黒はやっぱり天才だよぉ』

『あの闇姫さん、どこで覚えたのか知りませんが、間違いなく頼みますよ』

『だからぁ、黒は間違えないんだってぇ。

 間違えるのは、いつも神楽君なんだよぉ』

「やっぱりいいコンビだよ。

 じゃ、そういう事で任せたよ」

『おぉ、任せてくれぇ帝の兄貴ぃ』

 ニコリと笑う闇姫に、一抹の不安を覚える俺であった――怪しい旗を立てて……




 ここまで予定通りの進行を続けてきた一団は、俺の合図によって、待ち伏せ地点の約二百メートル手前で進行を止めた。そして当初の予定通り、天守近衛長はじめとした先行の三十名の近衛隊は、一度後退して帝の籠を囲う陣形を取った。

 この時俺は天守近衛長とすれ違いざまに一言声をかけた。


「帝の守りをよろしく。

 それと、魔法を見たかったんだろう。その目でしっかり見とけよ」

「…………」

 議場での事を思い出したのか、少々青ざめた天守近衛長であった。


 そして俺達四人は一団の先頭に立った。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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