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策略 3

 地の文と少々言葉使いを変更しました。10・3

 微妙に付け加えました。12・24

「だから何で、ナ・ン・デ、こうなっちゃうわけなの! 全くわからな・イ!」

 バルドア帝国首都の要所ようしょトゥルーグァ宮殿に響き渡るような大声で悪態あくたいくのは、その声に似合わず小柄な少女、アリエラ・エディアスである。白い肌をほんのりと赤く染め、愛らしい目尻をつり上げ、その銀髪のツインテールを左右に振り乱し、小さな体にあった短い手足でオーバーなジェスチャーは妙に微笑ましい――かな?


「軍議のたびに怒っていると身が持たないぞ、アリエラ」

 周りの目を気にしながら、小柄な巨大暴風姫をなだめるのはヘリオ・ブレイズである。その大きな体を小さく縮めて、情けなく言う姿は非常に滑稽こっけいである。


「だって今回・モ、おかしいでしょ。変でしょ・ウ!

 なんで、ド・ウ・シ・テ、潜入する強襲部隊からアリエラ達が外されているのよ。

 どこを間違っちゃったのかしら。カ・シ・ラ」

 そんな凸凹コンビを見る周りの目は、けっして奇異の者達を見る目ではない。明らかに恐怖の色が混ざった目である。少なくともこのバルドア帝国では、毎度の如く騒ぎ立てる奇妙な凸凹コンビは、恐怖の対象として認識されている。例え、どんなに奇妙な行動をしているとしてもだ。





 軍議を終えて部屋に戻ると同時に、会議中はなんとか我慢できていた私の怒りが三日前と同じく爆発しました。

 私の怒りの原因となり、本日軍議で主題となった情報の詳細とは、敵国の頭は十月三十日に、彼らのいう第一砦に向かって出発します。

 第一砦までは三日程の道のりで、その道中は領内という事もあり、護衛は魔法使いの二人と近衛隊の約五十人と必要最小限であると、要約するとそんな内容でした。

 前回の軍議で日和ひよりを決めていた帝国軍上層部に対して、先んじて詳細の報告を受けたアリス・ガードナー参謀がその対応策として、少数編成の部隊で第一砦までの道中を狙い、強襲きょうしゅうすることを昨日提案をしたのです。

 これを受け本日の軍議において、イスカラ・ストントーチ参謀長、そしてナドウッド・ナイグラ元帥も強襲に賛成し、皇帝陛下も強襲案に対して正式に許可を出しました。

 もっとも軍上層部の偉い方々のお考えという建前はさておき、本音は「全くうるさい娘だ。だが、これだけ情報があるんだから形だけでも動いておかないと、気まずいかもしれん。とりあえず動いておけば、もしかすると良い結果が出ちゃうかも」と、意味をはき違えた義務感と、甘い見通しといったところでしょう。


「あのおばさん、どんなすごい事をしたのか知らないけど、強襲案をヒヨヒヨ共に認めさせたのはめてあげるわ。

 でもね、デ・モ・ヨ、人選が気に入らないの!」

「アリエラ、ガードナー参謀はまだ二十代半ばだよ。

 おばさんはちょっと言い過ぎじゃないか?」

 ヘリオ先輩は、私の言葉に弱々しく返します。


「アリエラより十歳以上・モ・年上よ、充分おばさんよ。気に入らなければ、オ・バ・ア・サ・ンでいいのかし・ラ。

 何さ、ヘリオ先輩までかばっちゃって、あのおばさんにやられちゃってるわけなの。ワ・ケ・ナ・ン・ダ」

「そんな、やられちゃってって……女の子がそんな言葉使っちゃ駄目だよ」

 弱々しくたしなめようとするヘリオ先輩。でも私、はしたない言葉遣いなんて思ってませんからね。


「使ってもいいの! ヨ・イ・ノ・デ・ス。 

 でもあのおばさん、こんな意地悪をするなんて、きっとアリエラの可愛らしさや若さに嫉妬しているからなんだ、ナ・ノ・ヨ」

「確かにアリエラは可愛いけど……でも、それが理由というわけじゃないと思う……」

「あれ、ヘリオ先輩もたまにはいい事を言うのね。

 でも、デ・モ・ネ、そうなの、意地悪・ナ・ン・デ・ス。あのおばさんの色毒いろどくにやられちゃった先輩の頭でも、ちょっと考えればわかるですよね。ハ・ズ・ヨ・ネ!

 潜入した強襲部隊がどんな状況に置かれるかなんて、ナ・ン・テ」

 私が怒っている最大の理由に辿り着けない上に、妙にガードナー参謀を弁護するヘリオ先輩へ、最大級のヒントを出しました。


「……あっ、そうか」

「ようやく、ヤ・ッ・ト、その毒されたニブチン頭でもわかったよう・ナ・ノ・ネ。

 向こうの護衛には魔法使いがいるのに、不思議だよね。デ・ス・ヨ・ネ。

 向こうにとっては、強襲部隊の人数は一人だろうが、それこそ帝国軍全軍をあげて強襲しようが、その軍勢に魔法使いがいないなら、数の多い少ないはマッタク、ゼ・ン・ゼ・ン・問題じゃないわけ・ナ・ノ・ヨ。

 むしろ、ム・シ・ロ、大勢でお手てつないで、仲良く行進してきてくれた方が、一網打尽にできて都合がいいわけよ。

 つまり、ツ・マ・リ・ヨ、無駄な犠牲が出るのがわかっているのよ。だから、デ・ス・カ・ラ、おかしいでしょ、変でしょ・ウ。

 この作戦からアリエラ達が外されちゃうなんて、意地悪以外考えられないわ」

「意地悪かどうかは別として、確かに言われてみればだよ。

 僕はてっきり、アリエラが戦闘に参加したかっと思っていたから……」

 ヘリオ先輩の思いがけない一言は、ただでさえ不機嫌な私を逆撫でました。


「ヘリオ先輩! 言っていい事と悪い事があるのを知っていますか? 知って・イ・ル・ン・デ・ス・カ・! 

 今の言葉は凄く失礼です! シ・ツ・レ・イしちゃいま・ス!

 アリエラはそんな好戦的な女ではありません・デ・ス!

 アリエラは『戦闘が起きる前に、止めたい』と願っているし、それが主旨なんで・ス! 知ってるでしょう、知って・イ・マ・ス・ヨ・ネ!」

 鈍いヘリオ先輩が、ようやく私の怒りの原因をわかってくれました。しかし今まで信頼をしていて、そのうえ私の契約の主旨を知っているヘリオ先輩に、最悪の勘違いをされていた事がわかって、悔しさのあまり涙があふれ出してきました。


「ア、アリエラ、ご、ごめん。そんなつもりじゃないんだ。だから……その……涙は……本当、ごめん……」 

 不用意に放った自分の言葉で、目の前の女の子を泣かしてしまったヘリオ先輩は、かける言葉を見つける事が出来ないのか、そのまま黙り込んでしまいました。

 その直後、この状況を見かねたのか白輝明姫姉しろきあけひめねえ金剛輝姫こんごうききちゃんの口を挟みます。


『あららアリエラちゃん、今日も元気いっぱいご機嫌斜ごきげんななめで、お姉さん嬉しくなっちゃうわ』

『明姫、意味不明な事を言っておるでない。

 しかし馬鹿下僕が本当に申し訳ない事をした。

 わらわもこうして頭を下げるでの、なんとか穏便おんびんに済ませて欲しいのじゃが、いかがなものかのう、アリエラ。

 しかし、この馬鹿な下僕には手を焼いておるのじゃが、まさかここまでとは、全くもって情けないことじゃわい』

 いつもながら、微妙に的を外した言い回しと、本心から出ているのかどうなのか、なんともつかみ所のない明姫姉と輝姫ちゃんの言葉でしたけど、少しだけ傷ついた私を優しく慰めてくれます。


『お姉さんは、アリエラちゃんが何を考えているのか一番わかっていますからね。

 誰がなんて言っても、何があっても、アリエラちゃんの味方ですよ』

『妾にもしっかり伝わってきておるぞ。

 本当にアリエラは優しい娘じゃ。

 一応契約というのもがあるでのう。表立って、明姫のように言えぬのが非常に残念じゃ。

 さっさと馬鹿下僕との契約なんぞ解除してアリエラと契約し直したいぐらいじゃ』

 輝姫ちゃん、それって言ってもいい事なんですか?


『あらら輝姫ちゃん、そういう事は思っても口に出しては駄目でしょう。

 確かに鈍感で、何度言っても馬鹿な事をしでかしてしまい、とても主様などと口が裂けても呼べず、かといって下僕としても全く使えない非常に残念な契約主の彼かもしれません。

 でも、何かの手違い、それとも間違いであっても契約を交わしてしまった以上、せめて必要最低限の取り決めぐらいは守って差し上げないと可哀想ですよ、輝姫ちゃん。最低限でいいのですからね。

 ほら見てご覧なさい、ヘリオ君、すっかりしょげちゃって、ふふっ、落ち込んでいるわよ』

 明姫姉――凄く手厳しい事をさらりと言ってませんか?


『その微妙な間合いでの笑みは……なんだかさらりと、もの凄い事を言っておる気がするのじゃが、明姫。

 下僕にトドメをさしたような気がするぞ。

 ふう……この一件、明姫が一番怒っていたようじゃの。まあ、無理もない事じゃがな』

『それと輝姫ちゃん、どさくさに紛れて怪しい事を言っていましたわね。お姉さんはしっかり聞いていましたよ。

 アリエラちゃんと契約するとかなんとか。

 当然、そんな事は許しませんよ』

『ほっ、矛先が妾に……ほ、ほらあれは……その……なんだ……ほれ言葉のあやというものじゃ。

 なによりも、アリエラなら妾一人増えたところで、しっかりと受け止めてくれるだけの器はあるじゃろう』

『何が言いたのか、よくわからない輝姫ちゃんはさておき、さあアリエラちゃんも涙をいて下さいね』

『うん……ありがとう。

 もう大丈夫、だいじょうぶだ……よ』

 私は明姫姉にうながされた通り涙を拭いて、少し軽くなった気分で顔をあげる事が出来ました。


『そうそう、アリエラちゃんには涙は似合わないわね。笑顔が一番似合っているわよ。

 お姉さんはアリエラちゃんの笑顔を見ている時が一番幸せなのよ』

『何を月並みな事を言っておる。そんな事はわかりきっているではないか』

『なんですって! 輝姫ちゃん。このお口がそんなひねくれた事を言うのですか』

 そう言うと明姫姉は、輝姫ちゃんに向かって素早く手を伸ばし、指先で上下の唇を挟んで引っ張ります。


『……ふぉ・ふぇ・ん・ひゃ・ひゃ・い……ふぃひゃふぃふぇひゅ……』

『輝姫ちゃん、それはどこの言葉なんです。何を言ってるか、お姉さんには全くわかりませんよ。もう一度言ってご覧なさい』

 明姫姉は輝姫ちゃんの口を解放しました。


『ごめんなさい……痛いです……』

『そんな事はもういいとして、アリエラちゃん、皆の前で簡単に涙なんか出しちゃ駄目よ』

『えっ、アリエラだって、悲しい本を読んだり、感激する事もあるんだよ。そんな時も駄目なの、明姫姉』

『あらら、うまく伝わらなかったわね。

 涙はね、男を落とすための最大の武器になるのよ。私たちと一緒、最終兵器よ。

 ちょっとアリエラちゃんには早い話かもしれないけどね。

 でもねほら、ヘリオ君見てご覧なさい。アリエラちゃんの涙を見ただけで、あんなになっちゃったのよ』

 何だかおかしな話になってきた気がします。


『あれ? でもあれは明姫姉が……一応聞こえていたんだよ』

『イイエ、あれはアリエラちゃんの涙で既に自我じが崩壊ほうかいしていたのです。お姉さんは最後にちょっとだけ、ほんの少し、わずかに背中を押しただけなのよ。

 だからね、最後の最後までとっておくものなのよ』

 少々ジト目の視線を送る私。


『なんだか、あのおばさんみたいで嫌だな』

『でもね、そういう事を少しずつ覚えて大人の女になっていくのよ』

『うん明姫姉、わかったよ。アリエラもがんばっていろいろ覚えて、大人の女になるからね。

 でも、あのおばさんみたいにはなりたくないな』

『あららアリエラちゃんは、アリスさんの事が嫌いなのかしらね』

『好きとか嫌いとかじゃないんだよ。

 今回の作戦がどうしても納得できないのね』

『アリスさんには、何かしらの考えがあるんじゃないのかしら、軍では一番の切れ者なんですから』

 先ほど明姫姉に放置され、落ち込んでいた輝姫ちゃんがようやく我に返り口を開き出しました。


『じゃが面妖めんような話である事には間違いないのう』

『えっ、輝姫ちゃんどうしたの、真面目だよ。どこか壊れちゃったのかしら?』

『アリエラ、壊れてはおらぬ。妾とて時には真面目に……えい、何を言わすのじゃ。

 とにかくじゃ、此度こたびの妾たちの役目というのが少々気になる』

『輝姫ちゃんもやっぱりそう思うでしょう。アリエラ達が皇帝陛下をお守りする為に、宮殿に残るなんておかしいわよ、変だよ。

 どう考えても、戦場視察がおとりで、別に控えている本隊が宮殿に攻め入ってくるなんてあるわけ・ナ・イ・ワ・ヨ。

 あのおばさんだって、そんな事はわかっているはずなの、ナ・ン・デ・ス。

 でも、デ・モ・ヨ、それなのにこんな事をさせるなんて、アリエラ達を戦場から遠ざけたいのかしら、カ・シ・ラ』

 本当に今回の作戦は、おかしいのです。わざわざスキを作っているような配置で、それに何の伏線も無いのです。全く意図がわかりません。


『アリエラちゃん、相手が絶対に無いと思っている事をするから奇策は成功するのよ。

 もっとも今回に限っては百パーセントそんな奇策は使ってこないでしょう。というより、そんなのは策とかのレベルじゃなし、単に勢いで飛び込んでくるだけの無謀ですからね。

 そうなるとアリエラちゃんの言っている通り、お姉さん達を戦場から遠ざけたいというのが本音ですわね。

 もしかしてアリスちゃんって契約の主旨しゅしを知っているのかしらね。

 それならお姉さん達が戦場から遠ざけられた理由もわかります。何があっても敵を叩き潰したいと思っている主戦派には、非常に厄介な主旨ですからね。アリエラちゃんどうなんでしょう』

『アリエラは言った事ないけど、もしかすると今までの行動から推測されちゃったのかな?

 でも、あのおばさんは立場的にも情報集めが趣味になっているから、何らかの方法で知ったかもしれなよ。

 あっ、もしかしてヘリオ先輩かしら、カ・シ・ラ』

 私がヘリオ先輩にスパイ疑惑を投げかけると明姫姉達は、彼を注視しました。


『アリエラちゃんはどうしてそう思ったのかしら』

『だってほら、さっき明姫姉が大人の女には男を落とす武器があるって言ってたじゃない』

『あららアリエラちゃん、どこを間違っちゃったのかしら、まだお姉さんが教えていないはずの、はしたない方の武器に変わっちゃっているわね。

 それはまた今度、お姉さんが教えてあげると

て、さっきみたいにアリエラちゃんが泣き叫んで喋っているのを、盗聴されてたのかもしれないわね。

 ふふ、さっきは可愛かったわよアリエラちゃん』

『明姫姉……恥ずかしいよ』

 さっきの失態を明姫姉に指摘されて、ちょっと恥ずかしいです。


『おぬし達、何をおかしな空気を作り出しておるのじゃ。

 それと……これ下僕よ、いつまでもほうけておるでないぞ。

 ほれ、どうなんじゃ。アリエラの言った事は本当なのかのう』

 輝姫に頭を小突かれたヘリオ先輩はちょっとだけ自我を取り戻しました。そして私たちは固唾かたずをのんで彼に注目し言葉を待ちます。


『……アリエラ……ごめんよ……でも、あんな凄い……』


『うむ、何に対して謝罪しておるのかわからぬが、これは駄目じゃのう。

 すまぬが今日のところはそっとしておいてくれぬかのう。こんな下僕でも、一応は妾の契約主じゃからのう』

『なんだかヘリオ先輩、凄い事になっちゃって、輝姫ちゃん、ごめんなさい』

 ヘリオ先輩は、大きな外見ですが、何かと小さそうで――あっ、当然、その気が小さいという意味ですよ。


『気にせずともよい。元はこの下僕のしでかした事でもあるしのう。また正気を取り戻したら、今まで通り付き合ってくれればよい』

『うん、当然だよ。

 じゃあ、アリエラは、今回の作戦の意図をあのばばあに直接聞いてきます』

 そう言った私は、すぐさま部屋を出ていったのですが、作戦の詰めの段階とか、なんだかんだとはぐらかされて、今日は話が出来ませんでした。


 それから二日後、強襲部隊の出発日を迎え、つまりは動き出した作戦の変更が簡単に出来なくなった日に、ようやく私はガードナー参謀と直接話をする事が出来ました。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

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