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プロローグ

 ほとんど全面改稿となってしまいました。(11・27)

『汝、力を欲し求めるか?』

「はい?」

『ならば、我に汝の時間を差し出すが良い』

「はい?」

『我は黒鬼闇姫くろきやみひめ、汝と共に歩むものなり。

 これにて「契約の儀」を締結とする。

 我を使いこなし、「契約の主旨」の遂行に精進せよ』

「はあ? ……えっと……意味が……」


 少年は夢から覚めた。少年は『意味不明な言葉』を連ねる不思議な『お人形』と、『意味のわからない』会話を交わした。


 夢ではよくある出来事であった――目が覚めた少年の隣で、自由に動く『お人形』が加わった事以外は……



 とある日、少年は一冊の本を読んでいた。いや、正確には文字を見ていたという表現が、多分当てはまるのだろう。

 少年は、図書室と思われる部屋の片隅に敷かれている畳の上で、座布団を半分に折り曲げ、胸の下に入れて、うつ伏せに寝転がって『読書?』をしている。

 少年は時々、「ふーん」とか「へえ」など、納得や感嘆の言葉を呟いたり、鼻歌まじりに足をぱたぱたとさせたりする。

 そこに書かれている意味を、わかっているのかは怪しいが、開いたページの文字の羅列に目を通すと、ペラリとページをめくる。


 あたかも『空想科学物語』を読んでいるかのように、目を輝かせて、非常に楽しそうなそぶりを見せているのだが……


 しかし少年が『読書?』していた本は、史実をもとに、それなりに脚色がされた、『破壊神の報告』と題される戦記物語であった。

 噛み砕いた内容になってはいるが、七歳の少年が読むには、少々……かなり難しい内容であるはずだ。

 もしこの少年が、何かと難しい時期の『そういう年頃』で、なおかつ歴史好きであったならばと、事実を伝える本としては、悔やまれる。


 そう、『事実だった世界』が、その少年には、『空想の世界』として捉えられている。




 前世紀、この世界は全滅の危機に瀕していた。

 レッドデータブックも真っ青になる事態である。


 過去、幾度となく繰り返された世界規模の戦争。それまでは一定のルールの下に行われてきた戦争だった。

 しかし最後に勃発し、後に『破壊神のささやき』と言われる世界大戦では、早期終結を目指した愚かな支配者の一人が最も短絡的な行動に出てしまった。


 大量破壊兵器のせきを切ってしまった。


 一度流れ出した奔流ほんりゅうは止める事は出来ず、全ての支配者が連鎖的に報復という名の下、それを使ってしまった。

 人類史上最も愚かな決断の結果、当時百億人とも言われた人類は、三日、いや一日……数時間で、激減した。

 そして、支配者が消え去った国家は継戦能力、いや、全てを失い、全てが敗者となり大戦は終息に向かった。

 最後の戦闘が終わった後、この星に残ったものは、荒廃し汚染された大地と海、そしてわずかに生き残った人類だった。



 少年が『読書?』する『破壊神の報告』を大雑把にまとめると、旧文明のたどった末路が、物語調で書き記されている。

 当然そこには、当時の最高水準の技術で作られた、武器や兵器が描かれていたりする。

 少年の感嘆は、『今の時代』にはありえない、『空想の産物』と言ってもおかしくない、武器や兵器の挿絵を見た時に出るのであろう。



 今も、こうして旧文明の最高水準の武器や兵器――それに限らず、『文明の利器』と言われた物などは、こうして紙上の絵となり、資料としては残っている。

 しかし、資料を基にそれらを作り出そうにも、最高水準の施設や設備は無い。それを支える最高水準の技術も無い。資源も、燃料も無ければ、それを作り出す人的資源にも乏しい。

 最終大戦とも言える『破壊神の囁き』は、旧文明の技術を消失させ、時代を過去に巻き戻した。


 そもそも今の人類は、過剰な繁栄を許されていない。

 絶滅しない必要最小限の人口と、それを支えるわずかばかりの清浄な大地と水を、主の星に与えられているだけであった。

 それは、人類史上最も愚かな決断『破壊神の囁き』がもたらした功罪の、功の部分であろう。

 旧文明末期、この星の許容量を遥かに超えた人口をはじめ、様々な問題をたった数時間で解決してしまった訳だ。 

 そう考えると、『破壊神の囁き』はこの星にとって『正義』であった。

 つまり全てが功であり、罪は何一つ無い――いや、強いて言えば、『同じ過ちを必ず繰り返す人類』を、完全にリセットできなかった事が罪になるのかもしれない。



 少年が『読書?』している『破壊神の報告』の最後は、こんな皮肉った言葉で締めてあった。


 本の最後まで目を通した少年は、パタリと裏表紙を閉じた。


「正義か……」

 足をぱたぱたさせながら、ぼそりと独り言を呟く。どうやら、最後にあった『正義』という言葉が、強く頭に残っているようだ。


「俺だけに、こんな力があったら……」

 顔を少々しかめながら、今度もぼそりと、だが少々物騒な言葉を呟く。


 少年は、武器や兵器の挿絵が沢山載っているこの『破壊神の報告』を、『読書?』していたからといって、争い事や戦争が好きだという訳ではない――もっとも戦争が好きという人間は、ほとんどいないと思うが――むしろ憎んでいる。

 それは、今少年のいる図書室と思われる部屋が、神国しんこく天ノ原あまのはらにある戦災孤児の施設内におかれているという事からも、伺える。

 少年は、両親を戦火で失っている。

 だから、戦争を憎んでいる。

 そして、憎んでいるから、戦記を学んで、戦争を回避するための策を模索する――という三段論法は、七歳の少年には、無理な相談である。

 少年は挿絵を見て、それで武装した『正義の味方』となって敵を倒して、争いをなくす。そんな自分の姿を想像していたようだ――こっちの結論に至る三段論法なら有りのようだ。



 ちょっと前まで、そんな事を思っていた少年であった――が、今は『魔法』という強大な力を、手に入れてしまった。


 例えそれが少年の隣で、にっこりと笑い顔を浮かべている『お人形』黒鬼闇姫が、『はい?』の意味を、勝手に勘違いした結果であったとしてもだ。




 あれから十一年、少年は十八歳になっていた。

 しかし今なお神国天ノ原は、唯一の隣国バルドア帝国と戦争の真っ最中である。


 強大な力を持つ『魔法使い』は、それぞれの国に二人ずつ、合わせて四人。

 それは異常な事態でもあった。

 百年以上続くこの戦争、これまでに現れた『魔法使い』は、十名――百年以上かけた時間で、彼ら四人を含めて、十名である。

 一人でも一国を滅ぼすには充分すぎる力を持つ者が、今、四人もいる。

 絶滅の危機にあっても、争いをやめない愚かな人類を、完全に滅ぼそうとする、天の意思か、星の正義かは定かでない。


 ともあれ、あまりに強大な力、故に両国の支配者とも、彼らを敵国に対して攻撃力としてではなく、抑止力としてしか有効に活用できなかった。


 そして、決定的な戦果を上げる事が出来ない両国の戦争は、こう着し、いたずらに長引ていく事となった。

 読み進めていただき、ありがとうございます。

 更新期間が空くかもしれませんが、よろしくお願いします。

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