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三年前、あの町で

作者: 黒楓
掲載日:2026/04/15

 ふと、ノートを取る手を止めて黒板から目を逸らせ、カーテンに半分隠れた窓の外に目をやる。

 白い雲があるものの明るい青空

 ああ、こんなにも春なのに!

 私は三年前のあの町を、不意に思い出す。


 もう、二度と住みたくは無い、あの町の事を……



 ◇◇◇◇◇◇


 目が覚めると、窓の外はどんよりしていた。

 階下からは、お母さんのぎこちない方言とおばあちゃんのベタな方言がやっぱりぶつかり合って漏れ聞こえて来る。


 先月からの“非常事態”で……小学校へは子供達だけの登校はできず、大人の付き添いが必須だった。

 各々の理由で御近所へ頼む事に気が引けるお母さんとおばあちゃんは……どちらかが私を学校まで連れて行かねばならず……その事で毎朝揉めていた。


「でも、ひょっとしたら今日は臨時休校になるかもしれへんよ」


「そうですわね……私もウワサ聞きましたから」


「それ、家宅捜査の話やろ?」


「ええ……」


「『はよ、捕まえ!』って感じやけどなあ」


「ホント! 迷惑ですから……」



 迷惑って!!

 そんなに親しいわけでは無かったけど……

 私の元クラスメイトの事なんだけど……

 亡くなった方に対して使う言葉では無いよね!

 そんな事!

 6年生の私なんかよりもっと小さい子達だって分かるはず!


 大人って……自分の忙しさを理由にして

 平気で心無い事をしでかすのね……


 こんな思いで……

 私はため息をつき、ベッドから起き上がったら

 お母さんが部屋に入って来た。


「今、保護者ラインで連絡があったわ。今日、臨時休校だって。良かったわね。外はもう雨降ってるから」


 お母さん達は……それを涙雨とは思わないんだろうな。



 ◇◇◇◇◇◇


 おばあちゃんを畑へ送り出すと、お母さんは慌ただしく出掛ける準備を始めた。


「4時前には帰れるから。 お昼は夕飯の残りが冷蔵庫にあるからおばあちゃんと食べなさい」


「おばあちゃんと?」


「当たり前でしょ! ちゃんとおばあちゃんの分も温めてあげるのよ」


「お母さんの分は? 今日はお弁当じゃないの?」


「えっ?! 私は今日は新藤さんと一日同行だから……」


「新藤さん?」


「美咲も会った事あるでしょ?」


「ああ、あの人ね……」って私は忘れていたフリをする。


 もちろん、本当は覚えている!

 前に『お母さんの上司』と紹介されて……ランチをご馳走になった人だ。


 帰ってから「どう思う?」って聞かれたから

「お父さんよりカッコいい」と卒なく答えた。


 仕方ない。

 すべては私の自業自得。


 小4の頃、私はいじめで……しばらく不登校に追い込まれた。

 それを理由に、お父さんは“私とお母さん”をこんな田舎のおばあちゃんの家へ押し込めた。


 東京生まれで横浜育ちのお母さんがこんな田舎に馴染めるわけも無く、お母さんは再就職して、その居心地の悪さから逃げ出した。


 お父さんにも『好きな人』が居るみたいだから……それはそれでトラブルにはならず、私はおばあちゃんの愚痴をひたすら聞かされるばかりだった。


 でもこれも自業自得。

『いじめられる方も悪い』って理屈と同じみたいだ……


 あ~あ! 今日はお昼もおばあちゃんの愚痴を聞かされるのかと思ったのだけど……

 その翌朝はもっと悲惨だった。


 雨上がりの空にヘリコプターが飛び交い、テレビや新聞は大騒ぎになっていたから……



 ◇◇◇◇◇◇


 その翌年、おばあちゃんが不慮の事故で亡くなって……我が家の“不具合”が露呈した。


 あんなにここを嫌がっていたお母さんは東京へは行かずに新藤さんを選び、渡りに船のお父さんは佳織さんと一緒になった。


 私はまた邪魔者になりそうになったのだけど……親の扶養義務は絶対だから……私自身がどちらかを選ばせて貰える事になった。


 熟慮の末、私は“佳織さんと上手くやる方”を選んだ。

 その選択に影響を及ぼしたのは……確かにクラスメイトの死があったからだろう。


 おかげで私は……今、東京の空を見上げ、夏休み前の三者面談には、佳織さんに来てもらおうと考えている。



                        

                            <了>


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― 新着の感想 ―
子供が亡くなる事件や事故って、本当に辛いです。 というか事件や事故で人が亡くなるたびに、辛いです。 京都の事件も、もう亡くなったことは確定しているのですが、亡くなった子が辛い思いをしながら亡くなったの…
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