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歪曲と具象の歌


黒い石を吐いた。

石は水面に沈まずに地面にバウンドして足元に落ちた。


わたしは、まじまじとそれを見た。

一つだけ。

ポツンと転がった石は歪な形をしていた。


「ハーラン」

薄れて聞こえなくなっていた声が、記憶の底からわたしを呼ぶ。

何て可哀想な娘、何て不幸な娘……。


この歪な形の石はわたしが最後に吐く石だ。

ぼやけた未来で何度も見た。


わたしは喉元を抑えた。

絶望は吐き尽くした。

もう外へ出ていくことはない。

わたしの体はこれから石になってゆく。


……砕かれる運命の石に。


砕かれるのは心が石になる前だろうか、後だろうか。

苦しいだろうか、解放を感じるのだろうか。


自分を砕く、自分が彫り出した作品の顔を知っているのに、自分の最後の気分はわからない。

彼を自分の芸術作品、とそんな風に思う自分も本当はよく分からない。


わたしを砕くのは、わたしが石から彫り出して生き生きした物語の表情から悲しい表情(かお)に変えてしまった石。

今はもう、人間だった。

そして、歪められた物語でもある。


物語が置かれるべき安らかな永遠からわたしは彼を、限られた時間の檻へと彫り出してしまった。

彼は途絶した自分の物語を外からながめるものになってしまった。


そして、いつかわたしを破壊する呪いの物語の一部にしてしまった。

わたしは自分の運命の結末を自分で彫り出したのだ。



彼の己の物語との結びつきはこの上なく深いものであることを、息吹きあるものとして彫り出したわたしは知っている。

金の鹿を追う彼は、壁画の主人公であった。

だからその(たぎ)らせる憎悪を理解する。

わたしは彼の軸と世界を奪い去ったのだ。


途切れた物語を見たくないほどの絶望もまた、わたしによって深く刻まれた。

自分の人生が物語であると知った時、もう一度そこに戻って素知らぬ振りで愛し憎むことができるだろうか?

だから振り返らず壊す、この世の者となってしまったことの証として。

それが彼の結論だった。


以前繋がっていた世界の(よすが)を全て破壊して、ここで生きていく覚悟を選んだために。

壁画のあった僧院も、わたしも、無きものに。

彼は別の呼吸の仕方を学べる者であったから。


「ハーラン、ハーラン」

嘆く声がする。

実際わたしは憐れまれるにふさわしい者かも知れなかった。

たった一つの世界しか知らないのに、そこで息をすることもできないのだから。

それなのに、誰かを別の世界へ引きずり出す罪を犯すことはできる。


声が呟く。

なんて可哀想な、人であることを見失って石となりゆく最期の呪いの娘……。


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