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虚像と残響の歌





王が衣を裂いて嘆きを示し、膝を低くしてとある隠者を訪ねた。

栄誉栄華を謳歌(おうか)する王であっても、聖者を侮れば報いを受けることを古今東西の例が教えるからである。


「この世のベールを持ち上げて、人知れぬ神秘を観測する御方よ。どうか知恵を授けたまえ」

極めて慇懃(いんぎん)に王は隠者に頭を垂れた。


粗末な庵の暗がりから襤褸(ぼろ)をまとう隠者が答えた。


「広大な俗塵(ぞくじん)御代(みよ)を統べる王よ、どんな必要なものも全てあなたの世界に揃っているはず。生者も死者も、豪奢も荒廃も、金銀も泥も。どうしてこんな世界の外れに頭を垂れにいらっしゃったのか」


「我が姫が、どうしたことか忘れ去られた寺院に迷い込み、古き禁忌に遭遇したのか、亡霊に呪われたのか。壁画に描かれた、弓持ち金の鹿を追う少年に恋をしたのです。彼と一緒になれなければ命を絶つと食事も致しません。そしてあろうことか、我が姫が壁画の中に入って行ってしまったのです。どうか呪いを解くか、姫を救う知恵をお与え下さい」


「かつて神の気まぐれな祝福を受けて、石に生命を与える彫刻家がいる。かの者に姫君を掘り起こさせれば、或いは救い出せるかも知れぬ。最もあの者たちは代々に石になる病を得て、呪いの結末を迎える運命。果たして今いる末裔が、望みを果たせる状態にあるかどうか」


「その者の名前は?」


「ハーラン」


王は感謝し、望みを問うた。

隠者は、望んだ。

王宮の宝蔵庫にしまいこまれている涙を流す彫像を耳の聴こえないものに壊させて水の底に沈めるように。

それは神世の名残を持つ善くないもので、地上に憂いを撒くものだと。


王は暗がりから動かぬままの隠者の存在を祝福し、去った。

だから隠者が焼けただれた耳を持つことを知らぬままだった。

隠者の庵の水瓶の底に壊れた女の彫像の頭部が沈んでいたことも。


王の去った後に魅惑的な女の笑い声と水音が響いた。

女の望みが通ったことを隠者は理解していた。

が、さりとて彫刻家のある限りこの魔の彫像たちが風化しないことも誰かを(そそのか)す悪さを止めないことも理解していた。


隠者は人生の途上に、この魔の彫像に遭遇してしまったことで世を捨てたのである。


神々のとうに消えた時代でも、魔はいつも通りにどこにでも密やかに忍んで、人の人生を陰らせていた。



隠者は瞑目し、運命の道具となった自分の身に静かに思いを馳せた。


悪しき彫像の復讐の念を手助けしようとも、最終的に彼らを削り減ずるのならば人にとっては善きことだった。


神々の痕跡を刻印された女彫刻家は、祝福と呪いで魔と深く運命を結び付けており、双方を永らえさせていたのである。

復讐が果たされれば、女彫刻家の運命に附随する魔も共に伝説の向こうに消え失せよう。




王は女彫刻家を探しだし、望みを叶えた。

女彫刻家は壁画から、王の娘を救った。

さらに娘の懇願で、金の鹿を追う狩人を彫り出した。


壁画の中でどういう物語を生きていたのか、金の鹿を追う狩人の彼の目もまた、金色の鹿の目だった。

彼は息吹きを与えぬ内に、金色の目を輝かせ自ら動いたという。


彼はやがて王の娘の婿として、王になった。

そして王妃となった娘は、いずれ石の心臓を持った御子を生むことになるがそれはまた別の物語である。




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