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第1話

 人を飲み込むような自然。太陽が昇っているはずなのに、僕という存在をそのまま溶かしてしまいそうなほど、その森は闇を孕んでいた。


 どこから入ってきたかなんて分からない。ただ、今は歩くしかない。僕の背中には足を怪我したニーナがいるんだ。絶対に村に連れて帰らなければいけない。




「…なさい。起きなさい、翔太!いつまで寝てるの、学校に遅刻するわよ!?」


 苛立ちを大いに含んだ母親の声に、僕は焦りながら目を覚ました。これ以上母親を苛立たせないために、僕は布団を出てから機敏に動いた。母親からの追撃を許さない速度で朝の準備をして家を出た。気が立ってる時の母は怖いのだ。


 ときどき夢を見る。自分が全く知らない人の人生を歩んでいる、そんな夢。

 ただ、全く知らない人といっても、実際その人の一生を体験したら思い入れも強くなる。夢の中ではたしかに自分の名前も出会う人々の名前も知っていて、完全に"その人"の自我があるのだ。もちろん、起きたら"翔太"としての自我が戻ってくるけど。

 そして何より面白いのが、この夢を見始めると、一ヶ月くらいの時間をかけて少しずつその人物の死まで体験することだ。これが結構娯楽になる。

 

 今日は「ヴァン君」の人生を体験した。といっても、まだプロローグ程度だろうけども。

 初めての外国人の人生に対する興味と、彼の幼馴染であるニーナちゃんが理由で、僕はこれからの一ヶ月間に少し期待していた。



 朝の準備をかなりのスピードで済ませたおかげか、起きた時間の割には早めに教室に着いた。

 朝のホームルームの時間まであと数分。必要な荷物は全て片して暇を持て余していたため、時間を潰すためにトイレを済ませた。

 教室に帰ってくると、教卓に担任がいた。もうすぐホームルームが始まる。


 チャイムが鳴った。担任が喋り出す。


「はい、皆さんおはようございます。突然ですが、今日からこのクラスに転校生がやってきます。」


 クラス中がざわめきだした。中学生にとって、転校生がクラスにやってくることは大きなイベントだ。僕も例に漏れずワクワクしていた。


「男の子かな?女の子かな?」

「ゴリゴリのマッチョかも。」

「かわいい子であってくれ!」


 周りのクラスメイトがそんな会話をしだした。


「は〜い、転校生を紹介できないので静かにして下さい。」


 担任がそう促すと、普段はなかなか静かにならないクラスメイトたちは、転校生が気になるからなのだろうか、会話をやめた。


「では、早速転校生に入ってきてもらいましょう。山本さ〜ん、入ってきてください。」


 担任が廊下に向かってそういうと、教室の前の扉が開き、黒のリュックを背負った女の子が入ってきた。


「山本しずくです。あの、よ、よろしくお願いします...」


 メガネをかけた転校生は、どうやら人見知りなようだ。



 結局、その日は学校でその子と関わることはなかった。その子の座席が自分の座席と離れた場所になった。


 メガネを外したら結構かわいいかもな。そんなことを考えながら、僕は一人帰り道を歩いていた。他の人と帰り道の方向が違うだけで、決してぼっちではない。誰にするわけでもない、そんな言い訳をしていると、後ろから走ってくる足音が聞こえてきた。

 

 気になって振り向いた。転校生の女の子だ。その子は僕の元に駆け寄ってきた。えっと、名前はたしか…


「山本しずく」


 僕は息切れをするその子に向かって彼女の名前を口にした。


「名前、覚えててくれたんですね。」


 そう言いながら彼女は、息を整えながら微笑んだ。


「僕に何か用?」


 学校で全く関わらなかった僕に何か言いたいことでもあるのだろうか。僕の名前すらまだ知らないだろうに。


 もしかして一目惚れされた...とか?

なんて内心ドキドキしていたけども、彼女が口にした言葉に、そんな浮かれた気持ちはかき消された。


「あの...あなた、ヴァン君ですよね?」


 僕は固まった。なぜ初対面のこの子が僕の夢のことを知っている?いや、そもそも人の夢の内容を知っていること自体がおかしい。僕は夢のことについて誰にも喋ったことがないから、僕に関わる誰かに聞いたということもないだろう。

 混乱して思考が絡まっている僕に、彼女は続けて口を開く。



「その...私、ニーナです。」

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