53話 表情の変わらないセバスチャンさんとモフリモの頭の毛
「おや、もうお戻りで?」
お屋敷に戻ると、玄関ホールで執事長のセバスチャンさんが、使用人さんたちに何かの指示を出しているところだったよ。
「ちょっとな。……そうだな、後で報告でも良いが、なるべくだったら来てもらった方がいいか。知らせを出すなら、少しでも早い方が良いだろうからな」
「アルベルト様?」
「グレイオルに連絡は取れるか? オリヴィアでも良い。ちょっとした問題というか、良いことではあるんだが、面倒ごとでもあってだな」
「それは一体……」
セバスチャンさんの問いに、アルベルトさんは近くにいる使用人さんたちを見たよ。
今はとりあえずポケットの中にしっかりと潜っていろと、お屋敷に戻っている最中に、モフリモに言ったアルベルトさん。モフリモは言うことを聞いて、今も私の胸ポケットに入ったまま。
国で保護対象に決められているくらい、とても珍しいモフリモだもんね、今は他の人に見せると、大騒ぎになるかもしれないから、隠したんだろうし。それなのに、ここで大きな声で話すのはと思ったのかも。
「……なるほど、少々お待ちを」
するとアルベルトさんの様子に、何かを感じたらしいセバスチャンさん。軽く頷き、使用人さんたちに指示の続きをすると。
19人くらい集まっていた使用人さんは、すぐにそれぞれどこかへと向かって行って、数分で玄関ホールには、私たちとセバスチャンさんだけになったんだ。
「これでよろしいでしょうか。それで一体何が」
「ああ、悪いな。だが緊急事態でもあってな。ユイ、ポケットの中身をセバスに。だが、そいつが嫌そうなら、話しだけにする」
「うん」
私はすぐにモフリモに話しかけたよ。話している間にモフリモを確認する私。帰っている途中で、モフリモのふるふると震えている感じが消えたな、と思っていたんだけど。今のモフリモは確かに震えが止まっていて、最初よりも落ち着いた表情になっていたよ。
良かった、少しは落ち着いてくれたみたいで。本当、さっきは倒れそうだったもんね。まぁ、その原因の1つは、エルドレッドの怖笑い顔だけどさ。元の原因を突き止めて、それを取り除くことで、モフリモが安全に暮らせるのなら、それをしてあげなくちゃ。
それから私とガオとポヨ、そしてモフリモが運命の相手っていうのは、すべてが解決してからだな。そうじゃないと、大切な話しなのに、ゆっくり話せないもん。
『かわいいこ、でてこられる?』
『ちょっとだけ、さっきみたいにお顔だけ』
『ダメならあたまだけでいいよ』
『それもだめなら、あたまのけだけでもいいよ』
あー、確かに少しで良いんだけど。頭か頭の毛だけなら、私たちの部屋に戻ってから、ゆっくり出てきてもらって良いからね。
ガオとポヨの言葉に、目をぱちぱちしたモフリモ。それから頷いて、頭の毛だけポケットから出してくれた。……うん、ありがとう。
「ああ、ガオとポヨの言うことを聞いてくれてありがとな」
アルベルトさんもなんとも言えない表情で、モフリモの頭の毛を見ていたよ。
「おや、そこに小さなお客様ですか?」
いつもと表情を変えずにいるのはセバスチャンさん。
「その色だと、ミミクロでしょうか、それともポーポーでしょうか」
「確かに色はそうなんだがな、実は……」
セバスチャンさんに近づき、小声で何かを話し始めたアルベルトさん。たぶんモフリモの説明をしているんだろう。その間に少し慣れたのか、頭の毛だけじゃなくて、頭まで出てきてくれたモフリモ。
『ここはあんぜん』
『こわくない』
『おもしろい、たのしいがいっぱい』
『あっ、でもときどきあぶない』
『そのときは、みんながささっとかいけつ』
『だからやっぱり、しんぱいない』
ガオとポヨの説明に、ついにおでこまで出してくれたよ。そうしてその頃に、アルベルトさんとセバスチャンさんの話しも終了。
ただ、モフリモの話しを聞いただろうセバスチャンさんの表情は、やっぱり少しの変化もなかったよ。
「かしこまりました。旦那様、奥様と連絡を取ってまいります。どちらでお待ちになりますか?」
「ユイたちの部屋にいる。その方が落ち着くだろうからな」
「承知いたしました。ではご連絡の後、お茶をお持ちいたします。私が運びますので、ご心配なく」
「よし、みんな部屋に戻るぞ」
『あのね、おへやにも、おもしろいとたのしいが、いっぱいあるよ』
『ほかよりも、いっぱい』
『オレたちのたからもの、みせてあげる』
『みんなのたからもの。かわいいこも、いっしょにくらせばいいよ。そうしたらかわいいこの、たからものにもなる』
「ほら、話しは後だ」
そうそう、家族の話しはもうちょっと待とうね。
「頭を出してくれて、ありがとうな。これから行く場所まで、また潜っててくれ」
ゆっくりとポケットに戻るモフリモ。そうして私たちは自分の部屋へ向かい始めた。
ただ途中で、アルベルトさんにポケットに入っていろと言われているのに、少し慣れたのか、モフリモが顔までポケットから出してきたの。
そうしたら反対側から、お屋敷で働いているコックさんたちやってきて、慌てて隠れさせた私。その時モフリモが、とっても悲しそうな顔をしていたんだ。
このモフリモの悲しそうな顔が、まさかな出来事に繋がるなんて、思いもしなかったよ。




