22話 良縁の義のためにドラゴンの住処へ(辺境伯3男アルディス視点)
「皆、集まったな」
「『皆、集まったな』ってよく言うわね。あなた、どれだけ遅れてきたのか分かっているの? 全員、あなたを待っていたのよ。まったく、皆の先頭に立つあなたが遅刻するなんて。昨日、遅れないようにとあれだけ言ったのに、聞いていなかったのかしら?」
「い、いや、すまん。いろいろと手間取ってな。」
「それもよ! 2日前には必要な作業を終わらせるよう言っておいたのに、昨日の時点で終わっていないなんて。一体昨日まで何をしていたのです!」
予定よりも30分遅れて、父上が集合場所へとやってきた。ただでさえ母上は時間に厳しいのに、しかもこんな大切な日に遅れてくるなんて、母上が怒るのも無理はない。
しかし、今日集まっている騎士たちから離れているとはいえ、これだけ大きな声で騒いでいては。このしょうもない会話を聞かれてしまい、これから大切な良縁の儀に向かう前なのに、皆の集中を切らしてしまうかもしれない。
まぁ、父上と母上のことは、大体の騎士たちが知っているから、『またか』で終わるかもしれないが、初めての騎士たちもいる。ここは止めて、戻ってきてから続きをやってもらおう。
「母上、ここではあまり。聞こえてしまっては……」
「あ、あら、そうね。皆緊張して待っているのに、私がこれではダメね。……あなた、この話は戻ってから、じっくりとしましょう。そう、じっくりとよ」
「……戻ってきたらすぐに、何かやらなければいけない事はなかったか? ……帰るまでに何か考えておこう」
「あなた?」
「な、何も言っていないぞ!」
こうして母上を止めると、すぐに皆で騎士たちのもとへ向かう。騎士たちは父上の姿を見た瞬間、一瞬で動きを止めしっかりと父上を見据えた。
父上が鞘ごと剣を地面に叩きつけ、その音を合図に騎士たちに語りかける。
「これより我らはドラゴンの渓谷へ向かう! お前たちにとって、この儀は何よりも大切なものだ。初めてで契約を果たす者もいるだろう。しかしこの中の半分以上は、幾度も渓谷を訪れ、良縁の義を続けている者たちだ。幾人もの者が諦め故郷へ帰る中、それでもお前たちは諦めずにここへ集っている」
今回の良縁の義の参加者は、最終的に全部で31人。その中で初めての騎士が10人、他は何度も良縁の義に挑んでいる騎士たりばかりだ。今回は何人、契約ができるだろうか。
「忘れるな。契約とは、力だけで成るものではない。真に重要なものは、自分たちの心の中にある。魂が響き合い、互いを相棒と悟るその時こそ、絆は結ばれる。心を整え、胸に希望を宿せ。これより渓谷に向かい、己が運命の相手たるドラゴンと出会うのだ!!」
「「「はっ!!」」」
全員が右手の拳を胸に当て、声を揃えて返事をする。
「全員ドラゴンに跨り、良縁の儀へ赴け!!」
まだ契約をしていない騎士たちは、渓谷まで連れて行ってもらうため。事前に決められていたドラゴン騎士たちの元へ行き、その背に乗り込む。私たちもすぐに移動し、それぞれドラゴンの背に乗り込んだ。そして父上を先頭に、空へと飛び立つ。
『天気がよくて良かった』
「ああ、そうだな」
『たぶん帰るまで、ずっと天気』
「そうなのか?」
『雨だったら留守番』
「いや、今日は全員で行くと言っていただろう」
『留守番』
「はぁ。まぁ、晴れたから問題なしか」
「ハハハハハッ!! 今日は晴れて良かったな!」
「何かの拍子に、荷物が雨に濡れることもないからな」
「おい、せっかく天気が良いんだ。訓練をしながら行くか!?」
「それは良い! 剣はどうだ?」
「何が『それは良い』ですか! 今回は大切な良縁の義に行くのですよ! 皆、これからのことに集中しているというのに、あなたたちがそれを邪魔してどうするの! しかも剣だなんて」
まったくだ。皆集中しているのに、どうして兄上と姉上は、訓練のことしか頭にないのか。
「でもそうね。そんなに訓練をしたいのなら、ちょうど良い訓練があるわよ。この訓練なら、誰の邪魔にもならないし、それにあなたたちも静かになって良いかしら。あなたたち2人は、魔力の質を上げる訓練をしなさい」
「母上、それは」
「母上私たちならば、剣でも静かに訓練を……」
「いいからやりなさい」
「「…はい」」
魔力の質を上げる訓練。確かにそれならば、騎士たちの邪魔にはならないだろう。もちろん私たち家族にも。なにしろじっと動かず、話さず、集中しなければいけいけない。
兄上と姉上が渋々、訓練を始めた。ようやく周りが静かになり、私たちは渓谷に向かって、どんどん飛んでいく。何も問題が起きなければ、3日でドラゴンたちが住む渓谷に着くだろう。
ドラゴンたちは皆、元気にしているだろうか。今頃向こうも、良縁の義の話で盛り上がっているだろう。そういえば前回、あのドラゴンは子供が生まれたと言っていたな。子供たちは元気に成長しているだろうか。




