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その年下男子、訳ありにつき ~崖っぷちキャリア女子の逆転オフィスラブ~  作者: naomikoryo


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20/21

第21話:私が選んだ、この場所で

それから一年が経った。


アリュール・ファクトリーは、今や業界内外から注目される「再生の象徴」となった。

久美が工場長としてリーダーシップを発揮し、優斗は開発責任者として次々と新たなヒット商品を世に送り出す。

ふたりが築き上げた信頼と実績は、単なる地方工場の枠を超え、アリュール・コスメティクスそのものの価値を塗り替えるまでに至っていた。


かつて沈んでいた工場の空気は、今では一変している。

最新の設備が導入され、現場は効率的かつ風通しの良い環境に。

社員たちの表情は明るく、自分の仕事に誇りと意味を見出していた。


誰もが未来を見つめていた。


その中で、久美と優斗の関係も静かに、けれど確実に変化していた。

仕事では互いを尊重し合う、対等なパートナー。

プライベートでは深く信頼し、思いやる恋人同士。


その日、ふたりは懐かしい場所にいた。

思い出の詰まった、工場の屋上だ。


夜風が心地よく頬をなで、眼下にはライトアップされた工場の建物が浮かび上がる。

ネオンのひとつひとつが、ふたりの歩んできた日々をそっと照らしているようだった。


久美は、柵の前に立って夜景を見下ろした。

左手の薬指には、シンプルで控えめな指輪がきらりと光っている。

それは、優斗が贈ってくれたものだった。


「こうして見ると……工場がまるで、宝石箱みたいね」


柔らかな声に、優斗は隣から小さく頷いた。

そして、当たり前のように、彼女の腰に手を回した。


「ああ。でも一番の宝石は、お前だよ」


真顔でそんなことを言う優斗に、久美は吹き出しそうになる。


「もう……そういうこと、恥ずかしげもなく言うようになったのね」


「だって、本当のことだからさ」


軽く返すその口調の裏に、深い愛情がにじむ。

彼はふと、久美の髪をそっと撫でた。


いつからか、彼は彼女を「久美」と呼ぶようになっていた。

そして久美もまた、自然と「優斗」と呼ぶようになった。

距離が縮まったからこその呼び名。

それは、肩書きや年齢を越えた関係の証でもあった。


「なあ、久美」

「なあに、優斗」


久美が応えると、彼は一呼吸置いてから、まっすぐに言った。


「俺、お前に出会えて、本当に良かったよ」


その一言に、久美は黙って頷いた。


「私もよ」


言葉はそれだけ。

でも、それで十分だった。

互いの心は、すでに深く繋がっていたから。


ふたりはどちらからともなく顔を寄せ合い、静かに唇を重ねた。

それは、華やかなものではない。

けれど、とても穏やかで、深くて、確かな愛を確かめ合うキスだった。



この一年を振り返れば、すべてが順風満帆だったわけではない。

社内の摩擦もあった。

過去の亡霊のように現れるしがらみや、予期せぬトラブルもあった。


でも——ふたりでいれば、乗り越えられた。


久美は、ふと思う。


この道を選ばなければ、自分はどうなっていただろう。

もし東京本社に残っていたら、もっと早く昇進していたかもしれない。

けれど、それはきっと「私」ではなかった。


ここに来て、出会って、ぶつかって、悩んで、笑って、泣いて。

優斗と、工場の仲間たちと、ひとつひとつ積み上げてきた時間が、久美を「本当の自分」に変えてくれた。


「私は——この場所を選んでよかった」


小さく呟いたその言葉に、優斗は何も言わず、ただ強く彼女の手を握った。



絶望の淵から、久美を救ってくれたのは、一人の年下の青年だった。

不器用だけれどまっすぐで、嘘がつけなくて、でも誰よりも強くて優しい人。

彼の存在が、久美の人生を、そしてアリュール・ファクトリーを変えてくれた。


これは一人の女性の、華麗なる逆転劇。

同時に、不器用なふたりが、愛を見つけ、本当の人生を取り戻していく再生の物語。


夜空には星が満ち、静かな未来が広がっていた。


そして——


ふたりの物語は、まだ始まったばかりだ。


(完)

『その年下男子、訳ありにつき ~崖っぷちキャリア女子の逆転オフィスラブ~』を、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


この物語は、「キャリアを捨てたくない女」と「自分を捨てかけた男」の、再生の物語です。

はじまりはどこかぎこちなく、温度の違うふたりがすれ違いながらも、少しずつ歩幅を合わせていく。

それは決して劇的な展開ばかりではなく、むしろ静かで、泥臭く、息苦しいほどに“リアルな感情”に寄り添ったものでした。


主人公・久美は、強くありたいと願いながら、実はとても脆い人です。

優斗は、どこか達観したような顔をしながら、実は誰よりも「誰かに必要とされたかった」人。

そんなふたりが出会い、ぶつかり合い、互いの痛みに気づき、やがて支え合って生きていく――

彼らの関係が恋愛だけで完結しない「人生の伴走者」になっていく過程を、私は丁寧に描きたいと思ってきました。


この物語の舞台となった地方工場には、かつての私自身の心象風景も投影しています。

誰にも期待されない場所。努力しても報われない日々。

けれど、そこに光を灯すのは、「信じてくれる誰かの存在」なんですよね。


きっと誰の人生にも、予想外の“異動”や“転機”はやってくる。

そして、その時に出会う“たった一人”が、未来を大きく変えることだってある。

そんな希望を、この作品を通じて感じていただけていたら、これ以上の喜びはありません。


最後に。

もし、あなたの心にも、少しでも“誰かと寄り添って歩きたくなる気持ち”が残っていたら——

その感情を、どうか大切に育ててあげてください。


本作にお付き合いいただき、心から感謝を込めて。


―― naomikoryo

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