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白銀と無魔  作者: 天空 浮世


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8/10

08

「カロロロロロ……」

 数えるのも億劫になる魔法陣の数。

 ――だが、今はもう、俺の方が多く出せる。

 

「あの日のこと……一度たりとも忘れたことない」

 俺は手を横に振り魔法陣を展開する。

 一、四、十……数えるのも億劫になるほど増える魔法陣。通路を埋め尽くしてもなお、無尽蔵に増える魔法陣は魔物の背後まで伸びる。


「氷槍」

 通路を覆い尽くした魔法陣が光り、魔物の作った魔法陣も炎槍もすべてを貫く。


白狛雪豪(ホワイトブリザード)

 攻撃の手を止めず、今度は猛吹雪が魔物を襲う。通路の気温が一気に下がり、息が白くなる。

 通路を結露した水滴が覆い、それもまた一瞬で凍る。


 吹雪が止んだ先は白に塗り潰され、真っ白な彫刻を一つ残して凍りついた。


 呆気ない結末。怨敵を倒したたいうのに、俺の心は何も満たされない。


「白銀、大丈夫か?」

「こう見えて頑丈なんですよ? 私」

 腕を捲る仕草をして強がっているが、明らかに消耗が激しい。

「すぐ帰るぞ」

 これ以上ここで変な敵に会うのはごめんだ。


 俺は魔物が宝箱を落としていないか探そうと、一歩踏み出して止まる。


 ……魔物は死ねば粒子となって消える。空洞の氷像など、いい加減崩れるはずだ。


 なぜ、いまだにその場に形を残して立っている?


 氷にビシッとヒビが入る、ガラリと音を立てて落ちた氷の中から、無傷の魔物が卵の殻を割って孵化するように現れた。

 

「ギロラレロロロロロロロ!!!!!」

 過去最高潮の怒り声で叫ぶ魔物。だが俺にとって魔物の怒りなどどうでも良かった。

「嘘だ……ろ?」


 俺の最高峰ですら敵わないという事実は、俺の心に残った深く大きなトラウマを再発させるには十分だった。

「カロロロロロ!」

 魔物の背後に魔法陣が現れる。相変わらずの醜い見た目に反して美しい魔法陣からは、炎槍が顔を覗かせる。

「っ氷壁(アイスウォール)!」

 俺は魔物との間に氷の壁を作る。


 俺はまだ床に座り込む白銀の元に行く。

 背後でドンっドンっと音が響く。そう時間は稼げないだろう。

「白銀、これを飲め」

 俺は換金し忘れ、手元に残っていたエリクサーを取り出し白銀の口に近付ける。


「おい、早く飲め!」

「だって、そんな貴重なも、モガっ!?」

 顔を逸らして避けようとする白銀の顎を押さえてエリクサーを口に突っ込む。


「この程度いくらでも手に入る」

 俺はエリクサーが空になるまで口に無理矢理流し込む。


「どうだ? 良くなったか?」

「すごいです! 全然痛くありません!」

 立ち上がってその場で何度か跳ねる白銀。顔色が明らかに良くなっていて、俺は胸を撫で下ろす。


「よし、それなら今すぐ帰れ」

 俺は転移石を取り出し、割ろうとするが、白銀に止められ、取られてしまう。

「えっ!? いや、一緒に倒しましょうよ! 二人なら勝てますよ!」


「無理だ。俺の全力で勝てなかったんだ」

 あの頃と変わらない結末。だが、あのとき同様、一人は逃げられる。

 

「安心しろ。隙が出来たら適当に逃げる。さっさとそれ使って脱出しろ。足手纏いだ」

 ライラには悪いが、こんな結末なら、軽く怒られるだけで済むだろう。

 

「カロカラララララララララリル!」

「早く使え!」

 魔物は勢いのまま俺たちのほうに走って来た。

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