08
「カロロロロロ……」
数えるのも億劫になる魔法陣の数。
――だが、今はもう、俺の方が多く出せる。
「あの日のこと……一度たりとも忘れたことない」
俺は手を横に振り魔法陣を展開する。
一、四、十……数えるのも億劫になるほど増える魔法陣。通路を埋め尽くしてもなお、無尽蔵に増える魔法陣は魔物の背後まで伸びる。
「氷槍」
通路を覆い尽くした魔法陣が光り、魔物の作った魔法陣も炎槍もすべてを貫く。
「白狛雪豪」
攻撃の手を止めず、今度は猛吹雪が魔物を襲う。通路の気温が一気に下がり、息が白くなる。
通路を結露した水滴が覆い、それもまた一瞬で凍る。
吹雪が止んだ先は白に塗り潰され、真っ白な彫刻を一つ残して凍りついた。
呆気ない結末。怨敵を倒したたいうのに、俺の心は何も満たされない。
「白銀、大丈夫か?」
「こう見えて頑丈なんですよ? 私」
腕を捲る仕草をして強がっているが、明らかに消耗が激しい。
「すぐ帰るぞ」
これ以上ここで変な敵に会うのはごめんだ。
俺は魔物が宝箱を落としていないか探そうと、一歩踏み出して止まる。
……魔物は死ねば粒子となって消える。空洞の氷像など、いい加減崩れるはずだ。
なぜ、いまだにその場に形を残して立っている?
氷にビシッとヒビが入る、ガラリと音を立てて落ちた氷の中から、無傷の魔物が卵の殻を割って孵化するように現れた。
「ギロラレロロロロロロロ!!!!!」
過去最高潮の怒り声で叫ぶ魔物。だが俺にとって魔物の怒りなどどうでも良かった。
「嘘だ……ろ?」
俺の最高峰ですら敵わないという事実は、俺の心に残った深く大きなトラウマを再発させるには十分だった。
「カロロロロロ!」
魔物の背後に魔法陣が現れる。相変わらずの醜い見た目に反して美しい魔法陣からは、炎槍が顔を覗かせる。
「っ氷壁!」
俺は魔物との間に氷の壁を作る。
俺はまだ床に座り込む白銀の元に行く。
背後でドンっドンっと音が響く。そう時間は稼げないだろう。
「白銀、これを飲め」
俺は換金し忘れ、手元に残っていたエリクサーを取り出し白銀の口に近付ける。
「おい、早く飲め!」
「だって、そんな貴重なも、モガっ!?」
顔を逸らして避けようとする白銀の顎を押さえてエリクサーを口に突っ込む。
「この程度いくらでも手に入る」
俺はエリクサーが空になるまで口に無理矢理流し込む。
「どうだ? 良くなったか?」
「すごいです! 全然痛くありません!」
立ち上がってその場で何度か跳ねる白銀。顔色が明らかに良くなっていて、俺は胸を撫で下ろす。
「よし、それなら今すぐ帰れ」
俺は転移石を取り出し、割ろうとするが、白銀に止められ、取られてしまう。
「えっ!? いや、一緒に倒しましょうよ! 二人なら勝てますよ!」
「無理だ。俺の全力で勝てなかったんだ」
あの頃と変わらない結末。だが、あのとき同様、一人は逃げられる。
「安心しろ。隙が出来たら適当に逃げる。さっさとそれ使って脱出しろ。足手纏いだ」
ライラには悪いが、こんな結末なら、軽く怒られるだけで済むだろう。
「カロカラララララララララリル!」
「早く使え!」
魔物は勢いのまま俺たちのほうに走って来た。




