03
Sランクの中でも当然、それぞれの強さには差がある。ギルドの付けた簡易評価でしかなく、本当にSランクなのか怪しいものもいる。
そんな中でも、白銀はSランクで上澄みの強さだった。
昨日と同じ洞窟。炎を吐くドラゴンに、隣に立っていた白銀が飛び込む。
吐き出された炎を、高速で回転する剣で容易くかき消し、首元に飛び込んだ白銀は、首に生えた逆鱗をすれ違い様に傷付ける。
傷付けられたドラゴンは、首から血を流しながら、怒りのままに叫ぶ。
横を通り抜けた白銀は、そのまま洞窟の天井に着地。振り返ったドラゴンの首を上から一刀両断にした。
「無魔さん! やりましたよ!」
ずるりと綺麗に切断されて落ちるドラゴンの首。道中の魔物を倒したときと同様に、白銀の鎧には傷どころか返り血ひとつ付いていない。
「……どうやら、本当に実力はあるみたいだな」
「分かってくれましたか!? それじゃあ」
「そうだな、じゃあ後日正式に審査結果をギルド越しに渡すから、今日は先に帰っててくれ」
「えー!? ……本当ですよね? もし来なかったらまた尾けますからね!」
子どものように駄々をこねる白銀。
「そもそも、白銀はどうしてそんなに俺と組みたいんだ?」
白銀の実力なら、大手の実力のあるパーティだって選びたい放題だ。
「それは……」
まっすぐと俺を見つめていた紫の目が逸れる。
「――なんでも良いじゃないですか! それじゃ! 私は先帰ってますね!」
「……あぁ」
無理矢理に話を終わらせた白銀。歯に詰まった物言いだったが、俺は特に言及せず見送った。
白銀と別れ、ドラゴンのいた部屋を抜けると、地面を削って出来た洞穴のような様相は一転した。
均一に組み立てられた灰色のレンガで組み立てられた長方形の淡く青色に光る通路という、全く別のものへと変わった。
「……あのときと同じだ」
白銀と一緒にいたことで緩まっていた緊張の糸が、急激に引き締まる。
普段はこの先もずっと、ここまでと変わらない茶色くて薄暗い洞窟だ。
こんな不気味な通路に変わったことは、これまでに一度しかない。
じりじりと、周囲を警戒しながら進むと、何もいなかったはずの空間から、蜃気楼のようにぼんやりと、しかし確実にそれは、実体を持って現れた。
マネキンのようにのっぺりとした顔に、節々が油の挿されていない人形のようにぎこちない動きの魔物が一体。細く鋭い剣を持って現れた。
手足をバタつかせて俺の方へ走ってくる人形。まるで無機物の身体を依代に、何者かが乗り移って動き慣れない身体を制御しているような不気味さがあった。
「氷槍」
ドラゴンを一撃のもとに屠った魔法は、避けられることなく人形の身体に当たるが、その身体を貫くことなく砕け散り、人形の身体には軽く霜が付いただけで、傷一つ付いていなかった。




