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18.黄色い稲妻の帰還

リリィが居ないため、リュウは一人で作図をしていた。

しかし、進捗は芳しくない。

同業他者と比べれば早い方ではあったが、リリィのスピードには到底及ばなかった。


「ええと……ここの厚みは……っと、あれ?……」


図面台に身を乗り出して、懸命に製図するリュウ。

だがそのすぐ横には、腕を組み、トントンと足を小刻みに鳴らすゴーレムンの姿。

その視線はまるで「図面はまだか?」と訴えてくるようだった。

リュウが図面に線を引くたび、ゴーレムンの首がカクンと一緒に動く。


彼は既に持ち場の作業をすべて終え、次の仕事を待っていた。

完全に「仕事くれゴーレム」と化しており、その職人気質ぶりには感服せざるを得ない。

だが、リュウにとっては完全にプレッシャーだった。


「ぐっ……また間違えた……!」


ペンを走らせた瞬間、ゴーレムンの視線にびびって線を引き間違える。

慌てて消して、また書き直す。

何度も繰り返すうちに、製図紙は消しゴムのカスでいっぱいになった。


そのゴーレムンの肩には、ピリカが止まっていた。

白く丸々としたその小鳥も、なぜかイライラしているように見える。

彼も図面を待っているらしい。


(頼むから、どっか行ってくれー!)


リュウの心の叫びは、無言のプレッシャーにかき消されていた。


そのとき――


「ただいまーーなのねーーー!」


工房の扉が勢いよく開き、甲高い声が響いた。

そこに立っていたのは、片手にヘルメット、もう片手には紙袋をぶら下げたリリィ。

服には土埃が付いていたが、その顔は晴れやかだった。


「しばらくぶりなのね!!!」


彼女は大きく息を吸い込み、嬉しそうに中へと入ってきた。

今日ほどリリィの姿がまぶしく見えたことはない――リュウは心の中でそう思った。


「ゴーレムン!ピリカ!元気だったのね!?」


事務所兼設計室の扉も勢いよく開き、リリィが駆け寄る。

だが、彼女はリュウには目もくれず、まっすぐにゴーレムンとピリカに向かった。

ピリカを指先でなでながら、頬をこすりつける。


リュウは図面台の上に肘をつき、ため息まじりに一言。


「やっと帰って来たか・・・・・」


すると、リリィは顔を向けず、視線だけをリュウに向けて言った。


「あぁ、主任……いたんですね……」


その声は明らかに冷たかった。

リュウは思わずゾクリと震える。


「な、なにかあったか……?」


リリィは返事もせず、紙袋をごそごそとあさり始めた。


「ほら!ゴーレムン、お土産なのね!」


彼女が取り出したのは、小瓶に詰められた琥珀色の液体――

それは高純度の魔導合成オイルだった。

不純物が一切入っておらず、粘度・浸透性ともにトップクラスの最高級品。


ゴーレムンはそれを見るや否や、目を見開き、ほんのり体が光り始めた。

喜びのあまり、肩を上下にカクカクさせている。


「あと、ピリカにはこれなのね!」


続いてリリィが差し出したのは、香ばしい匂いのする小さなパック。

中には、上等な鳥の燻製肉が詰まっていた。


「ピー―――!」


ピリカが声を上げ、羽ばたいて喜びを表現した。

そのままゴーレムンと共に、満足げに製造工房の奥へと戻っていった。


リュウはぽつんと取り残され、目だけで訴える。


(俺のは……?)


すると、リリィがズカズカとやってきて、図面台の上に乱暴に箱を置いた。


「主任には……これ……なのね」


明らかに怒りのこもった声だった。


「あ、ありがとう……」


リュウは恐る恐る箱を開けた。

中には小さく折りたたまれた一枚の紙。


そこには、大きくこう書かれていた。


《実習生の平均賃金表》


「え……?」


リュウの目の動きが止まる。

明らかに嫌な予感が走った。

おそるおそる後ろを振り返ると――


リリィは腕を組み、目をぎらぎらと燃え上がらせて立っていた。


「な、なぁリリィ……これは……?」


リュウの声は、紙の端が震えるほどか細かった。


リリィはため息をつきながら語り始める。


「久々に学校に戻って、同級生と再会したのね。

 みんな、実習に出てて、話が盛り上がったの」


「ほう……ほう……」


「でね……お金の話になったの」


「お、お金……?」


「『リリィ、貧乏なのね』って言われて……みんながおかしいって言うのね……」


リュウの額から嫌な汗がにじみ出る。


「そしたらね、主任。わたし……すごく安い給料で働いてたのね!!」


「ひ、ひいぃ……!!」


その後、リュウとリリィの賃金交渉は、日が暮れるまで続いた。


最終的に、リュウは折れた。


実習生平均賃金、金貨3枚


「最初からそうすればよかったのね!」


ふんす!と鼻息荒く言い放つリリィ。


交渉が終わるころ、リュウは机に突っ伏し、燃え尽きていた。

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