16.リリィの葛藤
リリィは拗ねていた。
ゆで卵から生まれて小鳥、ピリカ。
その姿はもう、彼女のそばにはなかった。
ここ数日間、仕事はこなすが、ずっと不機嫌だった。
リュウは近寄らない様にしていた。
絶対に八つ当たりがくるパターンだ。
なぜ彼女・リリィがここまで不機嫌なのかと言うと——
ある日、いつも通り図面を書き終え、製作のためゴーレムンに渡しに向かったところ、
いつもはリリィの頭で寝ていたピリカが、突如ゴーレムンの肩に乗り、そこから離れなくなったのだ。
リリィに近づくときは、ごはんの時だけだった。
いくら呼んでも来ないピリカ。
ゴーレムンを気に入ったピリカ。
そして、満更じゃない感じのゴーレムン。
ピリカと離れて、数日たち——
いまだに拗ねているリリィであった。
リュウは作業机の裏から、そっと様子を窺っていた。
『これは……近づくべきじゃないな……』
工具を磨く手を止め、息をひそめて身を潜める。
しかし——
その目線がリリィに見つかり、歩み寄ってくる。
凄い勢いだ。
「主任!!!どうしてゴーレムンなんなのね!!」
声とともに机が揺れるほどの迫力。
「えぇーーーー、知らないよーーーー!」
リュウの肩がすくみ、工具を落としそうになった。
リリィの瞳には涙が貯まっていた。
小さな肩が震えている。
『ああ……これはいかんやつだ……』
このままだと仕事に影響が出かねないと考えたリュウ。
しばらく腕組みをして考えて答えを出した。
すると、何かを思い出した。
「そうだ!学校から手紙が来てたよ!」
話題をすり替えた、リュウ。
学院と言うワードに我に返るリリィ。
ピタリと動きが止まり、眉がピクリと動く。
リリィは有限公社エルフ製作所のスタッフではあるが、正規雇用ではない。
実習のため、リュウの下で勉強をしている、本業は学生なのだ。
事務所兼設計室に束で置かれていた封筒。
リュウはその中から、一枚の封筒を引張だし、リリィに手渡した。
そこには、確かにリリィ宛の、スタンハイム魔法院と書かれたものだった。
リリィは乱暴に封筒を破り、中の手紙を確認した。
そこには
「実習レポートの提出が遅れているため、早急に提出されたし」
と書かれていた。
それを見てはっとするリリィ。
二か月に1度は実習成果をレポートにまとめ報告しないといけなかった。
彼女は、全然提出していなかった。
「主任!困ったのね!」
困ったと言いながら、どこか堂々している感じのリリィだ。しかも鼻息が荒い。
ピリカを取られたことによる、嫉妬と妬み、スネ、驚き、すべての感情が交じり合い、
おかしな感情になっていた。
「困ったって言われても・・・レポート提出したらいいじゃん・・・・」
リュウは机の上の図面を整理しながら、ボソリと答える。
すると、腕組みをしたリリィが言う。
「何をレポートしたらいいのね!?」
その威圧感に逆にリュウが追い込まれていた。
「えーーーーっと・・・」
しばらく考えて答えを出すリュウ。
「リリ丸を持っていけばいいじゃないの?魔法院のレポートは書物だけではなかったよね。
俺も成果物で提出したことがあるよ・・・」
すると、リリィの目がパチリと開き、輝きだした。
「主任!それなのね!リリ丸を見せてくるのね!」
その声とともに、リリィはヘルメットを掴み、
椅子を蹴るように立ち上がり、工房から飛び出した。
少し間を開けて、再び扉が開き、リリィが顔をひょっこりと出した。
「主任!ピリカのご飯忘れないようになのね!」
それだけを残し、
リリィは再び、乱暴に扉を閉め、
リリ丸と共に、大森林の中へと消えて行った。