第6章「旅の計画と迫り来る罠」
神門はセレスと一緒にラテール村を旅立った。新たな旅に胸をふくらませるけど、
何やら怪しい影が――?
次なる冒険と、迫るトラブルの気配をお楽しみに!
ラテール村の皆と別れ、新しい一日がはじまる。
神門はふわもこのセレスを抱えて、草原を歩きながら、しみじみため息。
「ねえ、セレス…。
これから私たち、どうしよう? このまま旅をすればいいの?ラテール村にずっと居た方が、安全だったんじゃないかな?」
セレス(ぬいぐるみVer.)が、のんびりしっぽを振る。
【ふむ……ラテール村は神門が住んでも、村人たちはOKするだろうな。救世主の女神だもんな。(小さい少年に求婚もされてたしな)だがな、旅も良い…。この、広い異世界を、見て周りたくはないのか?神門は何がしたい?
仲間を集めたりすのも、RPGっぽいぞ?】
「仲間……欲しい!この世界で“推し”以外の友達できたら、もっと面白そう!でも、この世界は危険なんだよね…」
【世界征服…とかもできるぞ? 一度は誰もが憧れる“大ボスムーブ”ってやつだな。】
「やめてー!推しのハロルド様に(勇者)に倒されるのだけは嫌!」
ふたりで他愛もない冗談を交わしながら、
“これからの人生プラン”を語り合う。
「とりあえず、地図とかないの?セレスは案内役でしょ?今日、野宿は嫌よ。とりあえず、村が街か見つけたいよね?」
【そうだな。“推し召喚”もうまく使いつつ、とりあえず、落ち着ける街でも探すか…】
セレスは魔法を使った。
セレスが光だし、目の前に”地図”らしきものがでてきた。
「地図あるんじゃない!ありがとう。セレスがいると何とかなる気がする!」
……そうやって気が緩んだ、ほんの一瞬――
バサッ!
突然、草むらの奥から大きな音が響いた。
「……今の音、何?」
セレスの耳がピクリと立つ。
【神門、気をつけろ。どうやら今日は“ただの旅”じゃ済まなそうだ…。】
草原に広がる緊張。
足元に魔法陣――次の瞬間、視界が真っ白になった。
――気づけば、魔王城の広間。
重厚な玉座の上から魔王ノア・ヘルシオンが、
神門を冷たく睨んでいる。
魔物三兄弟も左右に並び、逃げ道をふさぐように立っていた。
「転移者か……また世界を乱しに来たのか?」
玉座から足を組んで睨みつけてくるノア。
「ノア様……こいつですか?ノア様が言ってた“転移者”って……」
三人のうちの一人が口を開く。
神門はあまりのことに、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
「こらこら、いきなり『こいつ』だなんて失礼だよ」
もう一人がたしなめる。
「ようこそ、魔王ノア様の城へ。
私たちはノア様の部下――
僕がザイラス。左が妹のライザ。そして口の悪い弟がガイラス。以後お見知りおきを」
「っけ。兄様、こんな女さっさと消してしまいましょ」
「そうだぜ兄貴、こいつら俺たちで片付けちまおう――」
「黙れ!」
ノアの一声に空気が凍りつく。
全員の視線が玉座に集まった。
「“選ばれし者”はこの世界に災いしかもたらさない。俺の“兄”が消えたのも、お前たち“転移者”のせいだ。お前が生きていても、良いことは一つもない――消えてもらおう」
ノアの手が魔力に包まれ、広間の空気がずしんと重くなる。
「やれ」
三兄弟が剣を抜き、同時に魔法の詠唱を始めた。
その瞬間、
セレス(ぬいぐるみVer.)が神門の腕の中で激しく震える。
【神門!今は逃げるぞ!】
「えっ、セレス……?」
【目を閉じろ!絶対、私に任せろ!】
「う、うん……!」
ノアたちの魔力が一気に解き放たれる――その瞬間。
セレスの体が虹色の光を放ち、みかどの周囲に転移の魔法陣が走る。
眩い光に包まれ、
二人は一瞬でその場から消え去った。
ノアの怒号が響く。
「……っ!追え!!」
「はっ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
気づけば、見知らぬ森の中。
息を切らして倒れ込む神門。
セレスも力尽きたように、ふわっと腕の中で重くなる。
「セレス……大丈夫……?」
セレスはしばらく黙ったまま、
【……色々、聞きたいことがあると思うが……詳しい話は今はまだ“言えない”。すまない】
とだけ、ぽつりと答えた。
神門は、
“なぜ自分がこんなに狙われるのか”
“セレスが何を隠しているのか”
ますます分からないまま、ただ震える手でセレスを抱きしめていた――。
神門は混乱したまま森の暗闇を見つめている。
昨日まで“村の女神様”なんていわれて、浮かれていたのに…急に命を狙われる立場になった。
胸がぎゅっと締めつけられ、涙が浮かぶ。
「……怖いよ……私、死んじゃうのかな……」
ぬいぐるみ姿のセレスが、そっと神門の腕の中で光を灯す。
【大丈夫だ、神門。
お前には“推し召喚”の力がある。
……そして、私も…。】
ふわっと温かい虹色の光が、森の静寂に溶ける。
「ありがとう……セレス……」
みかどはそのまま、セレスを抱いてしばらく森の木陰に身を寄せていた。
けれど…
夜が更け、森の奥から不穏な気配が近づいてくる。
バキッ……ザザッ……
どこからか、誰かの足音……
あるいは“ノアたちの追手”が、すぐそこまで迫っているのか。
【神門。まだ力は残っている。
今日の“推し召喚”、誰にするか決めてくれ。油断すれば、本当に……命が危ないぞ】
セレスの声は、珍しく強張っていた。
神門は涙をぬぐい、
震える手で“母からの本”を開いた。
森の奥に、ザザザッと草をかき分ける音が迫る。
【神門、来るぞ……!】 セレスが緊張した声で警告する。
「……セレス、もう決めた!」
みかどは涙目で本を開き、震える声で叫ぶ。
「セレスティアノーーート!いでよ、 『最強の魔王に転生します』の魔王・サタン!!」
まばゆい黒紫の光が森を満たし――
ドカンと現れたのは、漆黒のローブに赤い瞳、悪魔のような巨大な角を持つ“魔王”!
だが、その顔はどこか優しく、どぎまぎした雰囲気。
「え? ここどこ……? あ、僕また違う世界に召喚されちゃった感じですか……
えっと、こんにちは、山田勇気、いや……“魔王サタン”です!」
するとさっきの三兄弟が神門に追いつき、”推し召喚”された、魔王サタンを目にして絶句している…
「な、な、なんだ!? 魔王……!?」 三兄弟が驚愕して足を止める。
「……まさか、ノア様と互角の魔力だと?それじゃまるでこいつも魔王級じゃないか!?」
「誰なんだよ?お前…誰だ?!」
サタンは、首を傾げながら優しく微笑む。
「ちょっと待ってください、とりあえず、皆さんで話し合いませんか?僕は山田勇…魔王サタンと申します。本当は平和的に生きたいんです……とりあえず落ち着きましょ!ね!」
ガイラスが剣を振り上げる。
「チッ、遠慮はいらねえ!こいつもろとも“転移者”を――!」
その瞬間、サタンの魔力が森を震わせる。 巨大な黒い障壁がみかどたちを包み込み、三兄弟の攻撃を一瞬で跳ね返した。
「ごめんなさい、暴力は嫌いです。喧嘩はやめてください!」
三兄弟はしばらく圧倒されて、仕方なく退却する。
ザイラスが悔しそうに叫ぶ。
「…次はこうはいかないぞ、転移者!」
三兄弟が消えていくと、サタンはすぐに心配そうに神門の方へ振り返る。
「大丈夫ですか?怖い思いをさせちゃって……」
「えっ、あ、はい……(やっぱり優しくてかっこいいー!きゃー!)魔王の、さ、サタン様ですよね……?」
セレスが呆れたように鼻を鳴らす。
【ノアと互角の魔力の者を召喚とは……。
それも魔王級…神門の負担は大丈夫か。】
神門はサタンの優しさに安心して、ドキワクしながら、色々話そうとしたが…
サタン級の魔力が森を静かに包み込む。
神門は、安堵と疲労が一気に押し寄せ、
その場にふらりと膝をついた。
「神門さん!? だ、大丈夫ですか?」
サタンがすぐさま駆け寄り、
神門の小さな体をそっと支える。
「なんだか……体が……重い……」
“魔王級”の召喚は、神門の身体と心に強い負担を与えていた。
「無理は禁物です。…すみません、僕のせいで……」
サタンは迷わずみかどを優しく抱き上げ、
森の木陰の草の上に座ると、
自分の膝の上にそっと頭をのせた。
「少しでも休んで下さい。……しばらくは、僕が守ります。」
神門の頬に涙の跡が残る。
サタンは不器用に、
でもとても大切そうに、
神門の髪をなでてくれた。
――夜がふけていく中、
セレス(ぬいぐるみVer.)はそっとサタンの隣にちょこんと座った。
【……“推し召喚”の力を使いこなすには、まだ体が慣れていないようだ…。お前のような、魔力が桁外れな者を召喚するとな…】
サタンは困ったように笑って、
「そうみたいですね……でも、神門さんはとても勇敢ですね。力を使うことを恐れていない。知らない異世界で、さぞかし、不安でいっぱいか。僕にはよくわかります…。」
セレスはじっとサタンを見上げる。
【神門はただの転移者じゃない。……本当のことは、まだ言えないが…。サタン…君も、巻き込んですまない】
サタンは静かに首を振る。
「大丈夫じゃないですけど、大丈夫ですよ!僕は神門さんとどこか似ています。転生と転移は、全然違いますが…僕たちは何らかの世界に選ばれたんです。だから、きっと世界から認められて、いつか、幸せな道に進めると……僕はそう思います」
ぬいぐるみのセレスが、
ちょこんと羽を広げて言う。
【こっちの世界の魔王も、お前みたいな“魔王”なら神門が不安にならなくて済むんだがな……】
「ふふ、こちらの魔王様にも会ってみたかったですね。」
【もしかしたら、会えるかもな…また、神門が危ない時は、召喚されてやってくれ。】
サタンは少し照れくさそうに微笑んだ。
「はい。よろこんで!」
そして夜明け前の森。
サタンの膝の上で静かに眠るみかどの寝顔を、二人はずっと、優しく見守っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、まさかの“魔王級推し召喚”――
まさかの推しに“ひざまくら”まで。
魔王のチカラはすごかったけど、その分、みかどの身体にはやっぱり負担も……。
今回のオリジナル物語はこちら。
【『最強の魔王に転生します』あらすじ】
元・大学生の山田勇気さんが、交通事故をきっかけに異世界で“最強の魔王サタン”に転生。
外見は圧倒的な魔王だが、心は超平和主義の草食系男子。
圧倒的な魔力と鉄壁の防御で世界最強だが、日常ではどこか天然&お人好し。
推し召喚したら、全力で守ってくれる優しい魔王!
三兄弟とのバトルも迫力満点でしたが、
サタンの魔力で“守られる側”になった神門ちゃん。
セレスとサタンも仲良くなりそうな…個人的にお気に入りです!