第5章「食料は、やっぱりシェフに頼むべし」
今日の異世界は空腹スタート!?
お腹がすいた神門、
”推し召喚”でまさかの“シェフ”を選びます!
異世界にキッチン冷蔵庫出現、村人に囲まれ、
まさかの「女神様」コース!?
笑って食べて、異世界ごはん回、はじまります!
この世界の朝になった。
お腹が……空いた。
昨日は賢者ロイドさんのスープで何とかしのいだけれど、
今はもう何も残っていない。
「セレス、何か食べ物……あったっけ?」
【この辺りに食料っぽいものは落ちていないな。食べられるのは草かな……】
「無理、絶対無理……!」
思わず泣きそうになった私は、
今日の“推し召喚”の使いみちを迷わず決めた。
「よし決めた!もうお腹空いてたら何も始まらないもんね!今日の推しは…最高のシェフ!」
私は大好きなグルメ小説のタイトルを思い浮かべ、心の中で叫んだ。
「セレスティアノーーート!いでよ、『異世界グルメ伝説』のシェフ・フラン!」
朝の草原に、白いコック服に身を包んだ、爽やかな青年――
長身で髪を後ろで束ねた“理想の推しシェフ”が、フライパン片手に颯爽と現れた。
「ボンジュール!君が本日のご依頼主かな?」
「は、はい!えっと……朝ごはんを、何とかしてほしくて……」
神門が頼りなく説明すると、フランはふっと微笑んだ。
「よろしい、では早速…」
彼が指を鳴らすと、
何もなかった草原の一角に、
ピカピカの冷蔵庫と本格的なキッチンが、魔法のように現れた!
「え、え、え!? これって、召喚の範囲……?」
【推しキャラの能力によっては、こういう“セット”もごく自然に発現するみたいだな】
セレスが長いしっぽを振りながら、冷蔵庫の前をうろうろしている。
「異世界の草原に、キッチン……最高すぎる……!」
シェフ・フランは冷蔵庫を開き、中身を吟味している。
「ふむ、見慣れぬ野菜、謎の肉、そして――ん?これは“虹色たまご”か。面白い食材が揃っているね!」
「さあ、リクエストはある?」
「朝ごはんっぽいのがいいです……ごはんでもパンでも、あと…スープも……」
「おまかせあれ!」
シェフ・フランは、魔法のような手さばきで、異世界素材をどんどん切り分け、フライパンと鍋を巧みに操る。
「セレス見てみて!!卵焼き作ってる……!ほら、におい、すごくいい!」
【お、おお……これは……なかなかやるな、推しシェフ……!】
香ばしいパンが焼ける香り、虹色のたまごのスクランブルエッグ、野菜たっぷりのスープ……
あっという間に、色とりどりの朝ごはんがテーブルに並んだ。
「さあ、召し上がれ!」
みかどとセレスは顔を見合わせ、
「いただきます!」
と元気よく朝ごはんを頬張る。
ふわふわのパンと、優しいスープの味。
見知らぬ異世界なのに、なんだか家にいるみたいな温かさ。
「……フランさん、ありがとう! 本当に、おいしい……!」
フランはちょっと照れくさそうに、にっこり微笑んだ。
「料理は、誰かを笑顔にするためにあるんだ。
異世界だろうと、笑顔は変わらない――君がそう思ってくれるなら、僕は嬉しいよ神門ちゃん!」
神門は、”推し”に名前を呼ばれ、
“推し”と一緒に、また新しい一日を始められるんだと喜びを実感していた。。
すると、突然、
朝ごはんの香りにつられて、
知らない男たちが次々に現れる。
「こんな所で、何をしてるだ?」
「おいしそうな匂いだなぁ、少し分けてもらえないか?」
神門は警戒しつつも、フランが作った料理をお裾分けした。
「な、なんだこれ?本当に食べ物か?うめ〜ってもんじゃない、初めて食べたぜ。」
「ありがとう、旅の人。少し歩くと…俺たちの村「ラテール村」があるんだ。 そこに来てぜひ、村のみんなにも食べさせてくれないか?」
「君たちみたいな優しい人、なかなかいないよ、ありがとう、さぁ、こっちだよ。」
そう言ってにこやかに、神門とシェフ・フランを村まで案内する村人たち。
しかし、村の入口に着いた瞬間――
「さて、お嬢ちゃんも料理人も、手を後ろに。今持っている食料全部、俺たちが頂く!」
突然、村人たちの態度が豹変。
神門とフランは後ろ手に縄で縛られ、村の見張り小屋へと連れていかれた。
「えっ、どういうこと……!? 私たち何もしてないのに!」
「旅人風情が村の外で、あんな美味しい物を食べやがって。俺たちみんな、食料がなく生きるのに必死だってのに。全く…腹が立つ奴らめ」
セレス(ぬいぐるみ)は、バックに隠れて何とか気配を消す。
牢屋みたいな小屋の中で、神門は混乱しながらフランと顔を見合わせる。
「……ごめんなさい、私が不注意に…人にご飯を渡したりしたから、こんなことに……」
「気にしないで。お腹を空いた子達はみんな機嫌がわるいのさ。しかし、ピンチの時こそ、料理人は冷静さを忘れないもの。
この世界の“味”も、人も、予想外のスパイスが効いているからね」
小屋の薄暗い隅で、
神門は“推し召喚”で招いた異世界のトラブルと、初めて本気で考えるようになった。
「セレス…私はあの時、あの人達にご飯を渡したらダメだったのかな…」
泣きそうになりながら、座り込む神門。
シェフ、フランは何やら考えている…
するとセレスが何も言わずに、
バックから外に出て、小窓から外に出て行った…。
「うわっなんだ。この動物は?なんだ?羽が生えてる?飛んでるクマか?あっちいけー。。。うわーーー…。」
騒がしかった見張りの声は、次第に消えていき、小屋の外から「ガチャっ」と音がした。
次の瞬間、眩い光の中からセレスが見えた。
「セレス…!!すごい!ありがとう」
【神門…もう少し行動を自重しないと……命がいくつあっても足りないじゃないか…。】
「ブラボー!!キャットベアー殿。神門くん、今のうちに早く出てしまおう!」
【まだ話の途中だが…まぁいい。】
三人は牢屋から抜け出し、神門たちは村の広場に向かった。
そこには空腹で倒れそうな子どもや、お年寄り、疲れ切った村人たちが大勢集まっていた。
そこに見覚えのある少年が一人、みんなの看病をしていた。
「……あ、昨日助けてくれた、お姉ちゃんたち…」
神門に駆け寄ってくる少年。
確かに昨晩、助けた少年のようだ…。
「来てくれたんだね。もしかして、助けに来てくれたの?」
「え、あ、ごめんなさい。私たちここの村の人たちに連れてこられたの…。今まで、牢屋みたいな小屋に捕まってて…」
少年は立ちたがり、広場のみんなに向かって大声を上げた。
「誰だよ!!このお姉ちゃんたちは僕を助けてくれた恩人だぞ、誰が捕まえたんだよ!!」
「俺だよ…トトリ。」
広場の奥から男の人がこちらに寄ってきた。よく見ると、さっき神門を捕まえた男たちが顔を伏せていた。
「トトリを助けてくれたのはあんたらだったのか。すまなかった……俺たちも、村の食料が尽きて、どうしようもなくて……。
でもわかってくれ。この世界は…食料を誰も分けてはくれないんだよ。」
「兄ちゃん!!それでも人から食料を奪ったら泥棒だよ。ダメだよ。全部、全部返してあげて。」
「それはできない。この村を救う方法は奪った食料で生き残るしかないんだ。すまない。トトリ、すまない。旅人……」
神門は少年に微笑みかけ、フランに視線を送る。
「フランさん、お願い。村のみんなのために、“みんなが元気になる料理”を作ってあげてほしい!」
フランは優雅にうなずき、口を開く。
「実は…ずっと考えていた。牢屋みたいな小屋にいる時から、村のみんなに振る舞う料理の事を…。うーん。よし!決まった!特製の“異世界カレー”だ!村のみんな、動けるものは手伝ってくれるかい?」
「俺たちはあんたらに悪いことをしたのに、いいんですか?」
シェフ・フランはみんなの前で言った。
「シェフは料理が命。困っている人を料理で救うことが出来るのは私しかいない!!さぁ、つべこべ言わず、手伝ってくれ」
「「「はい!!」」」
村人たちの中で、動ける者は一斉に立ち上がり、
畑の野菜、森のきのこ、保存してあったお米や肉をフランの前に運んできた。
「カレーって何だ…?」「おいしいのか?」
「辛いのか?甘いのか?」
みんなの好奇心が広がる中、
フランが魔法のごとく、キッチンを出していた。
みんな、見た事ないステンレスのキッチンに釘付けだった。
大きな鍋でスパイスの香りがふわっと広がる。
「ああっ……!何この匂い、はじめて嗅ぐ!」
煮込んだ野菜とお肉、
お釜からご飯の香りがふわっと、食欲がそそり、
炊きたてごはんの上にカレーをたっぷりとかけて、
村人たち一人一人に手渡す。
「さぁみんなで、せーの!」
「「「いただきます!!」」」
一口食べるたび、
空腹だった村人たちの表情が明るくなり、
涙ぐむ者も。
「うまい……あったかい……生き返る……!」
神門も一緒にカレーを味わいながら、
“食べる幸せ”と“推し召喚の力”が、
本当に人を救えるんだと実感するのだった。
カレーを食べ終えた村人たちは、
「ご馳走様でしたー。」
ひとり、またひとりと
神門とフランのもとに集まり、
両手を合わせて深く頭を下げた。
「この味……きっと一生、忘れません」
「こんなにお腹いっぱいになったのは、何年ぶりだろう……」
昨日助けた少年が、涙をためて、神門の手を握る。
「本当にありがとう、お姉ちゃん……。
僕、大きくなったら、お姉ちゃんのお嫁さんになりたい」
その隣で、少年の兄はカレーと言葉を詰まらせながら、口を開いた。
「……俺たちのせいで、つらい目に遭わせてしまったのに……
それでも、こうして俺たちに……“食料”を分けてくれて…本当にありがとうございました。」
と、何度も頭を下げる。
神門は、みんなの笑顔と、
あたたかな涙を見て、
胸がじんわり熱くなった。
(食べること、笑い合うこと、
こんな小さな村でも、私の”推し”と一緒に“幸せ”を生み出せたんだ)
「本当にありがとうございました!!!」
少年トトリと村人たちの言葉に、神門は思わず涙をこぼしてしまう。
セレスもそっと、
【良かったな。神門。】と微笑んだ。
ラテール村では、神門にとって、
この世界の最初の人間たちとの出会いだった。
村人たちは、神門をじっと見つめて、
一人の村の村長が、声を張り上げる。
「この娘は…ラテールの女神様が遣わした“救いの乙女”に違いない!」
ざわめく村人たち。
「女神様!?」「やっぱり普通じゃないと思ってた……!」
神門はあたふたして、
「えっ、ち、違います!私が女神?違う違う。え?フランさんのおかげで、私は何もしてないんだけど…?」
村の少年や子どもたちは目を輝かせて、
「女神様、また美味しいごはんお願いします!」「女神様、ありがとう!」
「神門が居なかったら、僕はこの世界で料理を、振舞っていないよ。まさに、女神だな。」
シェフ・フランまでみんなと神門を囲んで、まるで本当に“救い主”を見る目で見つめてくる。
セレスは神門を見つめながら…
【しばらく女神様でいれば? 悪い気分じゃないだろう】
と小さく耳元でささやく。
神門はちょっと困りつつも、
“人に喜んでもらえるって、やっぱり嬉しいな……”
と、心のどこかでくすぐったい気持ちを抱えていた。
カレーの香りが消えないラテールの村の広場で、
村人たちは神門の手を握ったり、
頭を下げたり。
みんなの目がキラキラと光っていた。
「女神様、また必ず来て下さいね!」
「フランさんも、絶対またごはん作ってくださいね!」
神門はちょっと照れながらも、
「うん、また来る!!」と約束を返す。
そのとき、夕方の光が差し始め、
シェフ・フランが穏やかに神門の方へ歩いてくる。
「さて、僕の時間も、そろそろおしまいだ。
神門くんと一緒に料理できて、とても楽しかったよ」
「フランさん……本当に、ありがとう。
フランさんの料理があったから、みんなが笑顔になれたんだと思う」
「うん、君の“食べさせたい”っていう気持ちが、一番のスパイスだったんだ。
これからも、自分の信じる味を大切に、異世界生活を楽しんでおいで」
やさしい声に、みかどの目に涙が浮かぶ。
「また……呼んでもいいですか?」
「もちろん。君が僕を“推し”に選んでくれるなら、僕はいつでも駆けつけるさ」
フランは爽やかにウインクして、
光の粒となって本の世界へと還っていった。
見上げると、ラテールの村の空はすっかり夕焼けに染まり、
神門は大きく息を吸い込む。
(ここが、私の“はじまりの場所”――
また、みんなに会いに来よう)
セレスがそっと、神門の肩に乗ってきた。
こうして、“女神様”と呼ばれた一日が終わり、
神門は新しい冒険へ、
次はどんな“推し”と、
どんな一日が待っているのだろう。
私は、胸を高鳴らせながら、新しい道を歩き始めた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
今回の「ラテール村」での“異世界ごはん回”でした。
異世界でも、ご飯と人のつながりが、どれだけ大切か。
推し召喚の力で生まれた“食卓の幸せ”が、神門にも村人たちにも、
たしかな希望をもたらしたお話になったと思います。
今回のオリジナル物語はこちら
【グルメ小説『異世界グルメ伝説』】
の“推し”キャラ、シェフ・フラン!!
魔法のキッチンや、虹色たまごを求めて何人もの料理人とバトルし勝ち続けていく物語です(笑)
そして村中を笑顔にした「異世界カレー」……
カレーが食べたくなりました(笑)
【登場キャラ&ラテール村のその後】
今回登場した少年トトリと兄のサトリ、そして“女神様”と騒いだ村長ウラババは、
みんな家族や村人を守ろうと必死だった人たちです。
村人の大半は食料不足で死にかけていましたが、
フランが魔法の冷蔵庫とたくさんの食料、さらに畑で育てられる野菜の種までプレゼントしてくれたおかげで、村は自給自足できるようになり、みんなで助け合いながら元気に暮らせるようになりました。
神門と“推し”が来てから、ラテール村には本当の笑顔が戻りましたとさ笑。
次は、村を旅立った神門たちがどんな冒険をするのか
またぜひ見に来てください!