第4章「異世界の夜の過ごし方」
異世界で迎える“初めての夜”
危険も多いけれど、神門の冒険は、
まだ始まったばかりです。
今回の章では、夜がテーマです。
“推し召喚”の力と、頼れるセレスと一緒に、
みかどの異世界生活がどう進んでいくのか……
見守ってください。。。
太陽がゆっくり沈むと、異世界の夜がやってきた。
見知らぬ草原の中、辺りはあっという間に薄暗くなり、
空には、見たことのない色の星がいくつも瞬いている。
「……セレス、この世界の夜って、危険なの?」
ふわもこのクマネコぬいぐるみ…セレスが、長いしっぽをぴくりと動かす。
太陽が沈み、草原は闇に包まれた。
夜の静けさに耳を澄ますと、
どこか遠くから、獣の低い唸り声が聞こえる。
「……セレス、今のって……」
【あれは大型の魔物だ。近くに来なければ安全だが、夜は特に警戒が必要だぞ】
私は体を縮こませて、セレス(ぬいぐるみ)の羽にしがみつく。
風が強くなり、焚き火の火も心もとない。
そのときだった……。
近くの茂みが大きく揺れた。
「誰かーーーー助けて……!」
暗闇の中、かすかな人の声が聞こえた気がした。
「……いま、誰かの声?」
【油断するな、神門。夜の魔物は、人の声を真似ることもある】
鼓動が早くなる。でも放っておけない。
「……行ってみる」
私は焚き火の小さな炎を頼りに、そっと茂みに近づく。
すると、
地面に倒れこんだ少年が、うっすらと見えた。
息が荒く、明らかに怪我をしている。
「大丈夫……?」
返事はない。
その時、背後から何か大きな影が近づいてくる気配がした。
【神門っ!!今のお前に“推し召喚”の力は残っていない。慎重に行動しろ】
夜の闇の中、
本当の“危険”と“選択”が、神門に迫っていた…
「どうしよう……!セレス、お願い……!このままじゃ、この子、死んじゃうよ……!」
セレス(ぬいぐるみ)はしばし沈黙し、じっと私を見上げる。
【……本来なら、”おためし召喚”をしたお前は今日の分は使えないんだぞ。それがルールだ】
「でも今は緊急事態だよ!!…このまま見捨てられない。お願い。セレス!」
私は必死にセレスにすがる。
【……分かった。ただし、今回だけ“特別”だ。
お前の頼みを一度だけ聞いてやる。そのかわり、“借り”だからな…。後で“言う事を一つ”聞いてもらう。いいな?】
「……わかった!わかった!
なんでもするから。お願い”力”を使わせて!!」
【よし、じゃあ……召喚の力をもう一度…】
セレスの体から虹色の光がふわりと立ちのぼる。
“推し召喚”の力が、私の体の奥から蘇るのを感じた。
神門は迷わず、頭に出てきた本のタイトルを言い放った。
「セレスティアノーーート!いでよ、
『夜からはじまる異世界生活』の賢者ロイドさん!」
私の叫びと同時に、まばゆい虹色の光が夜の草原を包み込む。
次の瞬間、
銀髪で髪を一本に結んだ、ローブ姿の大人の雰囲気をまとった男性が、静かにそこに立っていた。
「ふむ……呼ばれてすぐに、ピンチの気配とは…。さて、お嬢さん、どうやら君が“召喚主”らしいね?」
ロイドさんは優雅に笑みを浮かべ、杖をくるりと回す。
「あなたは……!?あの“夜からはじまる異世界生活”の賢者ロイドさん!?」
「その通りだ。君が困っているなら、頼ってくれていい。出来ることには限りがあるが、この杖と知恵で、できることは何でもしよう。」
彼が呟くと、
杖の先から魔法の光が溢れ――
近くに寄って来ていた、魔物を一瞬で追い払い、さらに倒れていた少年に治癒の光を注ぐ。
「す、すごい……」
少年は元気になりお礼を言った。
「あ、あ、ありがとうございます。誰だか分かりませんが…助かりました。本当にありがとうございました。こ、この近くに僕の村があります。ぜひ立ち寄って下さい……それでは先を急いでいたんで。すみませんっ」
少年は急いでその場を後にした。
神門は呆然と見送る事しかできなかった。
「あ…あっという間に、居なくなっちゃった…。
それにしても、賢者ロイドさん!ありがとう!セレスもありがとう!みんな無事で良かったよね。」
「ふふ、異世界の夜は危険が多いからね。君も、油断しないように。そうだ、僕は頭で考えた物を具現化できるスキルがあってね、君に必要な物を出してあげるよ。君は優しい人なんだね。」
そう、話す賢者ロイドは、
手のひらから”テント”“寝袋”や”焚き火セット”に“温かいスープ”、夜をしのぐ“ランタン”まで次々と取り出してくれる。
「な、なんでも出てくる……!」
「“夜からはじまる異世界生活”では、これくらいは日常さ。さあ、お嬢さんも、そこにいる……ふむ。不思議な生き物も、ゆっくり休むといいよ」
ロイドさんの微笑みと、
手の中に灯ったあたたかな光。
気づけば、さっきまでの恐怖や不安が、すうっと溶けていく。
「……本当に、助かったんだ。私……この世界で、ちゃんと生きていけるのかな」
ふわもこのセレスが、すぐそばで静かに見守ってくれている。
スープの湯気に包まれて、
私は初めてこの世界の夜に、
今だけ“安心”を感じていた。
これからの私に、何ができるのだろうか…
ロイドさんが、テントの設営を手伝いながら、
夜空を見上げて静かに微笑んだ。
私は、ふと思い立って尋ねる。
「ねえ、ロイドさん。……さっき、あなたが出してくれた物、テントとか寝袋とかって、消えたり…しちゃいますか?」
ロイドさんは優雅に杖を肩に乗せて、
私に目を向ける。
「心配しなくていいよ。僕がこの世界で“具現化”したものは、基本的に消えないみたいだ。
ただし、“君の思いでいらなくなった”時は自然と消えるようになってるみたいだね。」
ぬいぐるみのセレスがスープを飲み干した後、口を開く…
【基本、召喚キャラの作った物は、この世界の“現実”になる。つまり、普通のアイテムとして使える。ただし、ロイドも言った通り、神門が”いらなく”なった物は消えていくように、設定してある。】
セレスはスープのおかわりをしながら真面目に答えた。
「……じゃあ、これからも、使っていいんだね。良かったぁ!ちょっと…安心したかも」
賢者ロイドは、静かにうなずいて言う。
「君のように“人のために動こうとする心”があれば、きっとこの世界でも生きていけるさ。
困ったことがあれば、またいつでも”僕の本”で召喚してくれていいよ。夜の世界は、無限大だからね。僕は君の味方になるよ。いつでも呼んでくれ、神門。」
気がつけば…
私とセレス、ロイドさんの三人で、
異世界の夜を囲んで、
夢のようなひとときを過ごしていた。
そしてやがて、
「そろそろ夜明けだ。僕は、元の本へ戻るよ」
ロイドさんが静かに立ち上がる。
「ロイドさんありがとう。また、また呼んでもいいですよね?」
「もちろん。君が“夜のピンチ”を越えたいとき、僕は必ず駆けつける。また僕を、必要とした時呼んで欲しい。じゃあ、またね、神門。」
虹色の光が静かにまたたき、ロイドさんは優しい微笑みのまま、空へ溶けていった。
私は新しい寝袋の中で、セレスと夜空を見上げて、
星空にロイドさんを思い出しながら、
「……明日からも、きっと大丈夫」
そんな小さな自信とともに、眠りについた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、夜のハプニングから“賢者ロイドさん”との夜を描きました。
なかなかな、美形を想像したロイドさん。笑
今回のオリジナル物語りはこちら。
【『夜からはじまる異世界生活』あらすじ】
転生した世界で、主人公賢者のロイドとなり、“夜のピンチ”を知恵と優しさで乗り越えるキャラ。考えたものを具現化できるスキルを持ついわゆる、チート級な賢者ですが、色んな苦難を、乗越えこの世界で、生きていく物語りです。笑
神門ちゃんを守るため、テントやスープ、ランタンまでたくさん用意してくれましたね
チート級な設定ですが、まぁ許して下さい笑
異世界での初めての夜を越えて、
みかどの“異世界生活”が、ここから本当にはじまります。
次回からは、新しい村での出会いや、また違った“推し召喚”も登場予定です!
今後とも、どうぞよろしくお願いします!