第15章「“推し”を忘れた試練」火山への旅路【中編】
今回の舞台は、ついに火山地帯!
でも、寝不足のみかど(神門)が大ピンチ!?
火山の魔獣に襲われて、気づけば“暗闇にひとり
そこで彼が呼び出すのは、幻想と幻影を操る“気まぐれ妖精の女王”。
選ばされたのは、「幻影」か「幻想」か。
“過去”と“願い”の狭間で、神門が見たのは――?
前回のちびモンスターの名前は……
“ミニチュア、ミニミニハニーレタス です。
──2日目の朝。
「……うぅ……ねむい……。目の下が……重力に逆らえない……」
神門はふらふらと歩きながら、昨日の寝不足を引きずっていた。
【当然だ。あれだけ夜ふかしをして……】
セレスが冷ややかに言うと、ルルナがさらに一言。
「……というか、寝言で“ラグナ様の初級編”って何度もつぶやいてました。何の夢見てたんですか」
「夢じゃない……推しとの学びの時間だったんだ……(遠い目)」
【……バカだ。】
一行は火山地帯へと向かって歩を進めていた。道はしだいに岩場となり、空気が熱を帯びてくる。
「道が辛い!!火山は険しいねぇ……。あれ、そういえば……」
【どうした?】
「クロード様……。今日の……昼ごはんはなんでしょうか?」
「……。」「……」
【はぁ……。】
三人のため息が揃った中、突然、岩陰から“何か”が現れた。
「来るッ……!みんな、構えて!」
クロードが前に出ると、そこに現れたのは、全身を黒い霧のようなもので覆った
“幻影の魔獣”だった。
「な、なにこの黒い霧……。目が、うまく見えない……!」
ルルナが身構えると、魔獣は一閃──
「うわっ!?」
神門の視界が、歪む。
足元が崩れるような錯覚のあと ──パリン
鏡が割れるような音と共に、ハ!っと、気づくと“何もない暗闇”に一人でいた。
「……え? あれ? クロード様? ルルナさん……? セレス……? どこ……?」
どこにもいない。 音も、風も、色もない空間。
ただひとり、神門だけが、取り残されていた。
「っ……」
怖くなって、胸元をぎゅっと押さえる。
「…セレス…お願い。誰か…誰か来て……!」
そうつぶやくと、胸のあたりがふわっと光を放つ。セレスがいるような温かさ。
”推し召喚”を思い出した。
神門は深呼吸して、手を掲げた。
「セレスティアノーーート! いでよ、
《幻想の妖精》女王リフェイレル様!!」
風が巻き、淡い光が空中を漂う。
そこにふわりと舞い降りたのは、透き通る羽と長い銀髪を揺らす、妖精のような美しい少女だった。
だが──
「んふふ……来たわね、異世界の“鍵よ”。
呼んだのはあなた?
それともあなたの“恐怖”?
どっちかしらね?ふふふ」
彼女──リフェイレルは、瞳に悪戯な光を宿しながら笑う。
「え、あの、私、神門と言います。リフェイレル様……お願い助けてください。……ここ、どこかも分からないし……前が見えないんです。」
「助けて? そんな簡単に願っていいの?あなたの願いはそんなに簡単なの?」
「え……」
リフェイレルはくるりと宙に舞いながら、うっとりと語りかける。
「幻想と幻影──どちらが好き?」
「え……えっと……どういうことですか?……?」
「私は助けに来たわけでもないし、
助けない訳でもない。
ただ、あなたとお話がしたいの。
どちらかを選ぶのか。知りたいの。
……だから、この鏡から出られないのよ」
神門はごくりと息をのむ。
リフェイレルは、空中に二つの鏡を出現させ、指先で触れながら言う。
「幻影は──
“実体がないものが実在するかのように見える状態”。
過去の記憶が蘇るような感覚や錯覚。精神的なトラウマや、失ったものを見せられるかもしれないわね。痛みと再会する旅」
「幻想は──
“現実離れした空想や、実現不可能な願望”。
夢のような理想の世界に浸れるけど……そこから出られないかもしれない。永遠の夢の中、幸せなまま終わる正に夢の世界。」
「──さぁ、選んで?」
神門は、息をのんだまま立ち尽くす。
目の前に浮かぶ、“二つの選択肢”。
過去の幻影か。
叶わぬ幻想か。
神門は、ふたつの鏡を見つめながら、ぎゅっと唇を噛んだ。
「……わたし……どっちを選べば、みんなに会えるの……?」
鏡に手を伸ばしかけて、ふと止まる。
「“過去の幻影”……戻れないって分かってても、見たいものが、ある気がする……」
胸がぎゅっと苦しくなる。
「“叶わない幻想”……幸せになれるって言われたら、ちょっと……揺れるなぁ……」
暗闇のなか、声が震えた。
リフェイレルは、にやりと笑った。
「揺れたままでいいのよ。 あなたが、あなたのままで、決めればいい。 私は、あなたの“選んだその先”にだけ、手を貸すわ」
「……選んだらだら、助けてくれる?」
「ええ。選んで、“現実”へ帰るなら、ね?」
神門は、そっと手を差し出した。
「……ねぇ、セレス……。
私は、どっちを選べば……みんなに会えるの?」
リフェイレルはくすっと笑って、”幻想の鏡”をそっと撫でる。
迷いながら、神門は“幻想の鏡”へ手を伸ばす。
──触れた瞬間、視界が白く染まる。
次の瞬間、そこには──
┈┈┈┈┈┈ここは?┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
クロードが料理を作ってる
ルルナが笑っている
セレスが神門に寄り添い、優しく微笑んでいる
推し召喚したみんなが集まって、キャンプファイヤーしている
完璧で理想的な“仲間たちとの日常”がそこにある。
「……ここが、幻想の世界……?」
「神門ーーー何してるんだ?早くこっちに来いよ」
神門は微笑む。でも──
(……みんな、優しい……温かい……なのに……)
少しずつ、違和感が生まれていく。
光がふわりと広がった。
まるで綿あめのように柔らかく、ぬくもりのある光に包まれる。
また場面変わり、気づけばそこは──
いつもの仲間たちが待っていた。
「神門さーん、おかわりありますよ」
ルルナがにこにこと皿を差し出し、セレスがふよふよと隣を漂う。
「また落とし穴に落ちるなよ」
クロードが笑いながら焚き火を整える。
温かくて、優しくて、幸せで。
──夢みたいな世界。
けれど、何か違う……。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【神門……お前が会ったモンスターの名前は?】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
?セレスの声が頭から聞こえてきた。
とっさに目の前でご飯をよそってるルルナに聞いてみた。
「……ねぇ、ルルナさん。 昨日……ちびモンスターに会ったでしょ?名前をつけたの……覚えてる?」
「もちろん。“ミニハニー・ちびタス”でしょ?」
「……え?」
神門の心が小さくざわつく。何か違う……
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【神門!!クロードに見つけた箱は”開いた”のか聞いてみろ!】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
また、セレスの声が頭に響いて導かれるように、クロードに箱が、開いたかを聞いてみた。
「クロード様、あのとき拾った箱……開きましたっけ?」
「あぁ。箱の中身には”ドラゴンの爪”が入ってましたよね。いやぁ、実は、僕はドラゴン苦手で……戦いに行かなくて本当に良かった。感謝します!神門さん!!」
「え?クロード様……ドラゴン苦手?
嘘……しかも、箱が空いた??どうなってるの?」
──どんなに美しい幻想も。
ほんの些細な“ズレ”が生じる、
現実と違う所を教えてくれる、
セレスはそれを教えようとしてたのだろうか………。
「そっか……これが“幻想”なんだ……。 みんなの顔は優しいけど……これは、私が見たいと思った、理想の世界なんだね……」
胸の奥が、きゅうっと締めつけられる。
「……帰りたい……本当の、みんなのところへ……!
そして、ドラゴンを……」
その瞬間。
幻想の空に、ひとつの亀裂が走った。
──ぱりん、と
まるで夢の泡が割れるように。
神門の手に、もう一度、“セレスティアノート”が灯る。
【──選べたようね。幻想を壊す勇気を。】
リフェイレルの声が、優しく響く。
「ありがとう。リフェイレル様……。私、やっぱり“推し”に会いたいんだ“本当の推し”たちに……」
「セレス……に会いたい……。」
──幻想の光が砕け、闇の奥から、本物の空が見え始めた。
今回は“幻想の妖精”リフェイレルが登場!
幻影と幻想、どちらを選ぶかは、きっと誰にでもある心の選択。選んだのは、“幻想”
だけど、そこで気づいた“本当の推し”の姿。
ほんの少しの違和感が、幻想を壊す勇気に変わる。
今回のオリジナル登場キャラはこちら
【『幻想の妖精』あらすじ】
幻想と幻影の支配者リフェイレル。
見た目は美しい銀髪の少女。
気まぐれだが、必ず道を示してくれる。
ふわふわとした態度で人を翻弄するが、内面は試練を与え人間の内面を育てる責任を持つお話。
夢か現か、彼女と対話できる者は、資格があるものだけとか。
”推し召喚”11人目です。神門は11Lvです。
次回はいよいよ火山の核心へ!
神門は本当の仲間たちと、再び歩き出せるのか?
“推し”は、心の力。新たなる能力発動なるか?
次回もどうぞお楽しみに