第14章「”推し”との冒険」火山への旅路【前編】
ついに旅に出ます!
神門たちの目指す先は、伝説のドラゴンが眠る火山。
だけどその前に、
野生のちびモンスターとの出会い(なでなで可愛い)や、草原でのピクニックちょっとだけ寄り道も?
今回は、記念すべき“推し召喚10人目”達成回です!
いったいどんな推しが来てくれるのか、
そして…何かが起きる?起きない??
朝焼けの光が街を染めるころ、神門たちは冒険の旅に出発した。
「じゃあ、歩いて火山へ向かうルートにします。道中の村は経由せず、三日くらいで到着する予定だ。問題ないな?」
「了解です、兄様」
【問題ない。】
「うんっ!楽しみーっ!」
神門はやる気に満ちた笑顔で、ギルド前に立つルルナとクロード、そしてふよふよと浮かぶセレスを見渡す。
【……あまりはしゃぎすぎるな。転ぶぞ】
「へーきへーき!Lv9ですから!冒険者っぽいでしょ!ぐへっ!」
石ころにつまずく神門を無視して、たわいない、会話をしながら、街の門を抜けて進んでいくと、草原の向こうに小さな丘が見えてきた。
「うわぁー!緑がすごい……って、あれ?なんか動いてる?」
「あれは……ちびモンスターで野生です。無害なハズなんで、基本的は人を避けるはず……」
クロードの言葉が終わる前に、ちびモンスターがこちらへ近づいて来る……
「えっ……クロード様?……こっち来てない!? 襲ってくるの!?」
神門は焦って身構えたが――
「……あれ……?」
ぺたん、と神門の足元にすり寄って、モンスターが小さな身体をこすりつけてくる。
「うわあああっ!?!?
かわいい〜〜〜〜〜!!」
そのまま、神門は目をキラキラさせながら言った。
「この子……仲間に……!」
「……神門さん、それモンスターです。ペット枠じゃないんです」
ルルナが真顔で冷静につっこんだ。
「でも、ほら、こんなにもなついて……よーし、名前つけよう!」
「だめです」
「名前は……ミニチュア、ミニミニハニーレタス!!」
「神門さん……聞いてませんね。
(ネーミングセンス無いわっー。)」
【同感だ。】「同感です」
ちびモンスター“ミニチュア、ミニミニハニーレタス”は神門の手のひらに乗って、ぴょこぴょこと跳ねていたが、途中で急に飛び去っていった。
「えっ!?レタスちゃん……あぁ、短い出会いだったね……(涙)」
【バカのうえに情緒不安定とはな……】
「誰がバカですかっ!!」
そんな調子でわいわいしているうちに、昼時となった。
クロードが手際よく小さな焚き火を起こし、鍋にスープを仕込む。
「いただきます〜っ!」
「……ちょっと、神門さん。さっき拾ったその実みたいなの、食べて大丈夫ですか?」
「だって、お腹すいちゃって……おいしそうだったし!大丈夫でしょ!」
ぱくっ。
「……」
「……?」
「……わ、わ、舌がピリピリする〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
「……だから言ったのに」
「水っ、水ください〜!!」
【異世界の植物を無断で食うなと……何度言えば……】
セレスがスープの味見をしながら、ため息をつく。
「…うぇー。…にしても、クロード様!!クロード様が作る料理普通においしいですね!」
「ありがとう。旅慣れしてるからな。元々、ルルナと二人暮しだしな……」
「そっか……。二人だけで生活なんて大変そう。すごいなぁー」
「兄様がいてくれてるから私は全然大丈夫ですよ。」
【仲良くしていて、悪いことはない。良かったな……】
楽しい昼食のあとは、再び歩き出す一行。
陽が少し傾いたころ、神門が足元を踏み外した。
「あっ、わっわわわあああああああああっ!?」
【だから言ってるのに……】
「神門さーん!!」
神門は地面の下へ、すとんと消えた。
クロードとルルナが駆け寄ると、足元には細い落とし穴がぽっかり。
「神門さーん!大丈夫ですか??」
「な、なんとか……いてて……あれ? なんか、壁に絵が描いてある……?」
そこは古代の祠のような空間だった。
壁には、見たことのない紋章や生き物の姿が描かれていて、奥には土に埋もれた小さな箱がひとつ。
(これ……なにかの箱?……?)
「兄様、これはただの落とし穴じゃなさそうです」
「……うむ、ここは少し調べておいた方が良さそうだな。だが、今は時間がない。神門さんを引き上げるぞ、せーの」
ロープで引き上げられた神門は、ほこりまみれになりながらも、
「うわぁ……びっくりしたけど……なんか、ちょっとワクワクしたかも!」
【まったく……】
「あ、セレス、穴に落ちたらこんなの拾ったよ!小さな箱!でもこれ、開かないの!全くビクともしない!うぬぬぬ……。」
【……】
「その箱から、邪気は無さそうなんで……持っていて大丈夫だと思います。」
「何かのアイテムかなぁ?」
その日の夜、野営の準備をしながら、セレスがふとつぶやいた。
【……なぁ、神門】
「ん?」
【”推し召喚”って、もう何人目だ?】
「えへへ、ついに10人目になりましたー!!」
【なら、そろそろ“あれ”が起こるかもな……】
「えっ、なに?“あれ”?」
【次、召喚したら……まぁ、レベルアップに伴い何かの能力が、もしかしたら追加されるかもな……】
そう言ってセレスは、焚き火のそばでふわりと宙に浮いたまま、空を見上げた。
火山は、まだ遠くに赤く滲んでいる。
神門は火山のふもとに近づく険しい道の途中で、ふいに立ち止まり、
胸元のにそっと触れた。母の本を開き……
「……10人目の“推し”召喚……。記念すべきこのタイミングで、行くよ……!」
神門は深呼吸を一つ。
そして、真剣な顔で天を仰ぎ、強く言葉を放つ。
「セレスティアノーーート!いでよ、
《ドラゴンバスター》の英雄──
伝説のギルドマスター! ラグナ・グランドール様!!」
【今呼ぶのか!!】
ゴゴゴゴゴ……!
地響きとともに、空間が歪む。
風が渦を巻き、地面が淡く赤く光り始める。
その中心に、燃えるような炎のごとき男が現れた。
「フハハハハハハ!! 呼ばれて飛び出たこの俺は、灼熱の男、ラグナ・グランドール!!」
全身を鎧に包み、背には巨大なバスターソード。
まるで登場そのものが爆発だったかのように、迫力だけでモンスターを追い払えそうな男だった。
「ふぅー!キターーーー!ラグナ様〜!!……本当に来てくれた!あのドラゴンを素手で投げ飛ばしたって噂の……!」
神門は目を輝かせ、感激していた。
だがその横で、クロードとルルナは完全に固まっている。
「……こ、これは……」
「……異世界から異世界人を“召喚”した?……」
「実は、私は”推し召喚”って言う能力を持っていて、わたしの推し様を召喚できるんですー!
きゃー!今回は頼もしいですよ!ラグナさまぁ、ドラゴン討伐の経験ありますよね!?」
「もちろんだ嬢ちゃん!!伝説SS級を三体、超大型を七体、そして……火山の主・マグマドラグを倒したときの話はな……それはそれは過酷な戦いでな……」
──そこから、止まらなかった。
ラグナの“ドラゴン武勇伝”が始まると、誰も止められない。
本人が何より楽しそうで……
神門も目をキラキラさせている。
だが──
「……もう日が暮れてるわ……」
ルルナがぽつりとつぶやいた頃、ようやくクロードが立ち上がった。
「ラグナ殿、ありがたいお話をありがとうございます。しかし、我々は明日、実際にドラゴン討伐へ向かわねばなりません。今夜はここで休むとしましょう」
「ふむ、そうか。では最後に、“ドラゴンの目を睨み返すコツ”だけでも──」
「それも聞きたーい!!」
【はぁ……ばかばしい……。】
クロードが強引に締めれ、ルルナは先に寝ている。
ラグナは潔くうなずいた。
「まーこんな感じだ。お嬢ちゃん、君はもう、ドラゴンマスター初級だ!!またいつでも呼んでくれ。次は中級問題だぞ!わははは。“推し”ってのは、応援されてこそ燃えるもんだからなァ!!」
その言葉とともに、ラグナは光に包まれて姿を消していった。
──数刻後。夜。
「……セレスぅ……もう寝た?……」
【ん?……何だ?……】
「ラグナさまぁ……初級って言ってなかった?
私、ドラゴンマスター初級で、明日大丈夫かな……?」
【……。】
「……。」「……。」
神門は目の下にくっきりクマをつくり、
ぬいぐるみのセレスをぎゅっと抱きしめたまま、テントに沈没していた。
【…はぁ…10人目の“推し召喚”をしたが何も起こらなかったか……まぁ…この先お前が、どう変わるか……見届けてやるさ】
「推し様ぁ〜えへへ」……Zzz
夜の帳の中、セレスは静かに神門の寝顔を見つめていた。
──旅の1日目は、こうして静かに幕を閉じた。
いかがでしたか?
今回は“推し召喚10人目”ということで、伝説のドラゴンバスター・ラグナさん登場!
火山への道はまだ始まったばかり。
でも、ラグナさんの話、ちょっと長かったですね(笑)
それにしても、“ちびモンスター”や、“開かない小箱”、そして神門のセレスティアノートには、
なにか意味がありそうな……?
今回のオリジナル物語はこちら
【『ドラゴンバスター』あらすじ】
にでてくる英雄の伝説のギルドマスター
ラグナ、グランドール。あらゆるドラゴンを倒してきた英雄だが、話がかなり長い。なので、英雄伝を語る前に皆がギブアップしていき、なかなか、伝わらない。笑 でも、もちろん強い。ドラゴンマスターだから。
推しは元気の源!
でも、次回もよろしくです。