第13章「”推し”と私のパラメーター」
今回も「推し召喚」は登場しません。(笑)
だけど、異世界初心者・神門が少しずつこの世界に馴染んできたようです。
ついにパラメーター測定!気になる数値とは……?
属性を聞かれた、神門はなんて答えたか!!
クロードとセレスがギルドで討伐依頼の手続きをしている間、神門とルルナはギルド近くのアイテム屋へと足を運んでいた。
「うわぁぁ!アイテム屋さんなんてはじめて、装備とアイテムなんてまるで夢みたい!!」
「あんまり騒がないで下さい。目立つの、好きじゃないから……」
神門のテンションに、ルルナは少し顔をしかめながら言った。
どこか距離を取られているような空気だ。
「えーと……じゃあ、オススメのアイテムってある?」
「ドラゴン討伐だから、食料と……基本は回復薬。あとは、パラメータ強化系もあった方がいいと思う。攻撃力とか、防御力を一時的に上げてくれるやつ、全て私が魔法でできるけど、詠唱時間がある分、アイテムの方が早いから。」
「パラメータって……その……なに?」
ルルナは小さくため息をついて、棚から一冊の説明書を取り出した。
「……神門さん本当に異世界から来たんだね……。じゃあ、簡単に説明しますね。」
ルルナは手を胸の前で組みながら、
少し事務的な口調で語り始める。
「この世界では、目には見えない力の源…
“パラメータ”が存在するの。たとえば──
HPは体力、ゼロになると戦闘不能。
ATKは攻撃力、与えるダメージに影響する。
DEFは防御力、受けるダメージを軽減。
AGIは素早さ、回避や行動順に関係。
INTは魔力、魔法攻撃やアイテム使用効果に影響する。
それと、LVLとEXP(経験値)。戦って経験を積むことで成長していくの」
「おお〜!やっぱRPGっぽい!……っていうかルルナさん、説明うまっ!」
ルルナは神門の手を取って、小さなクリスタル球の前に立たせた。
「ちょっと、あなたのパラメータを見てみましょう。……えっ?神門さん……あなたのレベルだけど、、うそ、信じられない。」
「え?レベル?何レベなの?私!」
「神門さんのレベルは……」
「私のレベルは…………ゴクリ。」
「9Lvだそうよ。はぁ……
(ドラゴン討伐、推奨レベルは50Lv以上なのに……。
本当に大丈夫かしら?)」
「え!9Lv!私すごーい、早くセレスに言わなくちゃー」
ウキウキと無邪気にはしゃぐ神門を見て、ルルナは呆れたような目をしていたが、
ふと、その表情が一瞬だけゆるんだ。
「あ、ご、ごめんね……はしゃいで、説明してくれてありがとう!分かりやすかったよ!」
「……いいえ。理解してもらえたなら、それでいいです」
ルルナは、少しだけ表情をやわらげながら、棚からINTのアイテム(魔力上昇効果)を手に取った。
「これはINTを上げるアイテム。魔法は使えるの?
まぁ、9Lvじゃ何とも言えないけど、属性は?」
「”推し属性”……ですかね?……」
ひゅうぅぅん……と
店の外から、ちょうど風が吹き抜ける。
「何?その属性…………。」
「ま、まぁいいわ、今からパラメーター見るからじっとしていて。」
「はい!お願いします!」
「…え?何?このパラメーター……。」
ルルナが完全に無表情で神門を見た。
「いや、あのね、うちの世界では“推し”ってすっごく大事な存在で、心の支えで、時に超パワーアップの源で……推し属性があってもいいとら私は思うをんですが……。」
「……。」
「ルルナさん?聞いてますか?」
「えぇ、まぁ、その…
(この異世界人、INTがMAX?どういうこと?)」
ルルナは笑顔を保ちながらも、
頭の中は大混乱だった。
パラメーター確認用の水晶が、
"INT:999"という常識外れの数値を示していたのだ。
(いや、これは何かのバグ?……いや、この水晶は王宮でも使われている正式な計測道具……まさか、異世界人ってこんなにも変なの……?)
「……まぁ、とりあえず、神門さんは魔法攻撃に回ってもらいます。兄様はギルドマスターなので、負けることはほぼないですけど。」
「わぁ、そんなに強いんですねクロード様。
分かりました。!
(私には”推し召喚”があるから大丈夫)……!」
「……」
ルルナがつい目をそらしてしまったそのとき、神門はさらに一歩近づいて――
「ねぇルルナさんも”推し”っている?
こう、誰かを見て“尊い!”ってなったりする感じの人いる??」
「わ、私は別に……兄様以外に、そういうのは……ないです……///」
「あ、クロード様か!!!!!!」
「ちょっ、ちがっ、今のは、その……!」
「ルルナさんの“推し”は兄様のクロード様!!いいですね〜」
ルルナは顔を真っ赤にしながら、棚の奥にあるポーション瓶を神門に押しつけて話題をそらした。
「と、とにかく、これも持って行ってください!回復用の特上ポーションですから!」
「わー!ありがとうルルナさん!やっぱり優しい〜!」
(変な人だけど、悪い人じゃないな。。神門さん)
ルルナはそんなことを思いながら、そっとため息をついた。
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その頃、クロードとセレスはすでにギルドで討伐依頼の手続きを終えていた。
神門とルルナが戻ってくると、
ふたりの様子を見たクロードが、
ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「……良かったな、ルルナ友達ができて。」
「なっ……!」
「少し打ち解けたみたいで安心したよ」
「べ、別に……そんなわけじゃ……///」
「うちの妹は人見知りが激しくてな。けど……話してる顔は楽しそうだったぞ」
そう言ってクロードが神門に視線を向けると、神門は胸に手を当てて。
「はいっ!ルルナさんは私の”推し友”です。心に決めました!ね、ルルナさん!」
「……」
「……兄様、話題変えて……お願い……」
「ふっ……そうだな、そろそろ行こうか」
クロードは苦笑しながらギルドの
受付カウンターへ向かい、
4人を手招きする。
受付嬢がカウンターの奥から大きな紙を広げて見せた。
「こちらが《伝説級ドラゴン討伐》の詳細となります。討伐対象は“紅き尾の古竜〈ヴァルゼリオン〉”、出現地域は王都から北西の《灰の火山地帯》と報告されています」
「ヴァルゼリオン……火山地帯か……。間違いなく高温地帯になるな」
【ヴァルゼリオンか。厄介だな……。】
セレスが低く小さくつぶやく。
「なお、討伐条件は、“竜の爪”の持ち帰り。確認できた時点で討伐成功となります」
「それと、パーティは最低3名以上と記載があり、本来は推奨Lv50ですが、ギルドマスター様がいらっしゃいますので今回は3人で問題ありません。神門さんのギルドカードへの正式登録も完了しております」
「ありがとう。助かるよ……」
クロードが深く礼をし、紙を受け取った。
神門はカウンターの上に置かれた地図をのぞきこみながら目を輝かせた。
「火山とかドラゴンとか……
ほんとに本の中のゲームみたいだ……!」
「師匠、神門さん、覚悟はしておいて下さい。ヴァルゼリオンは、Sランクの討伐難度って言われてるドラゴンですから。」
ルルナが真剣な目で神門を見た。
「うん!大丈夫!クロード様とルルナさん、あとセレスがいるんだもん!楽勝よ」
クロードが巻物を軽く巻き直しながら言った。
「楽勝……ならいいんですけどね。準備は今のうちにしっかり整えて下さい。出発は明朝。それまでに装備の確認、食料と水、耐熱用のアイテムも忘れないでください」
「了解です!」
神門は小さくガッツポーズを取ると、
また少しだけルルナの方を見た。
ルルナは気づかないふりをしながらも、目線の端でその様子を見て――
ほんの少しだけ、微笑んだ。
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宿の帳場で、クロードが
「明日出発なので、今夜だけ追加で」と話を通してくれたおかげで、神門たちはもう一晩、この街に泊まることができた。
夕食も済ませ、各々が部屋に戻っていくころ。 神門はセレスと並んで、窓辺の椅子に腰かけていた。
「……ふぁぁあ。今日はいろんなことがあったなぁ〜」
【そうだな。初めてのアイテム屋で、パラメーター測定やって来たのか?】
「えへへ……セレス!見てみて……ほらっ!」
神門は胸を張って、指をぴんと立てる。
「今の私のレベルは堂々のLv9!これって、けっこうすごくない!?」
【……。どうだかな。INT999の方が問題な気がするがな。】
「え?なんで今わかるの?アイテム屋さんでルルナさんに見てもらったのは、パラメーター確認用の水晶で、だよ??」
【だから、私を誰だと思ってるんだ?魔法で見れば水晶など必要ない。】
「えーそうなんだ。セレスって本当に変なぬいぐるみだね。」
セレスは空中をふよふよと漂いながら、神門を眺める。
【お前がここに来た頃は、立ってるのもやっとだったくせにな……ずいぶん成長したな】
「そう? ……へへ、そっか……」
神門は少し照れくさそうに、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。
「それにしても、私、モンスターと戦ったりしてないのに、なぜLv9なんだろう?」
【”推し召喚”今何人呼んだ?】
「うーん。ハロルド様、ロイド様、シェフ・フラン、サタン、マザーマミー、問詰学さん、サスケ様とハヤブサ、あとエリアス様の9人だ!!」
【たぶん、この世界の住人じゃない神門がレベルをあげるには、”推し召喚”が鍵らしい。”推し召喚”をするたびにレベルが上がる仕組みになっているみたいだな。】
「えーじゃあLv100は100人の推しに会えるの?ぎゃぁぁぁーーーー最高かも」
セレスを持ち上げそのままベッドに横たわる。
窓の外は星が瞬いていて、街の喧騒も遠くに聞こえるだけ。
「……セレス。ありがとう。一緒にいてくれて。セレスが何か隠してても、私気にしない。だってセレスは私の味方だから……」
【………。私は案内役……だからな。】
「でも……案内役以上に、大事な存在って気がしてるんだ、セレスって」
【……。明日ドラゴンに頭から食われないといいな。】
「えぇー!?ひどい! こっちは真面目に言ってるのに〜」
そんなふうに笑い合いながら、神門は伸びをして、セレスを抱きしめる。
「さてと、ちゃんと寝なくちゃね!」
【あぁ。寝不足で転ぶのだけはやめてくれ……】
「あはは、それは絶対ある自信ある……」
【自慢にならん……】
笑いながら布団に潜り込むと、神門はふわっと目を閉じた。
「明日、どんな“冒険”になるんだろ……うきうきして、寝れないかも」
【早く寝ろ……】
「はい……おやすみ、セレス」
【おやすみ……神門……】
そうして、静かな夜が、星の下で流れていった。
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ご覧いただきありがとうございました!
今回も――そう、今回も!
「推し召喚」はできませんでした!(涙)
まさかの属性は「推し属性!!」そんな属性ないわっ!笑
でも、初めてのアイテム屋・初めてのステータス確認・そしてLv9の理由が明らかになりましたね。
そしてセレスとの信頼関係が、静かに深まっていく夜でした。
次回はやっとドラゴン戦…かな…?
召喚できるかどうかも含めて、どうぞお楽しみに!
(もう9人も召喚してたとは。笑
次は10人目……何か特別な事が起きるのか!!笑)