第12章「転ばぬ先は”推し”について」
いよいよ三日目の朝――
最後の食事券、最後の街の風景。
でも、最後に現れたのは……まさかの網!?!?!?
神門、ピンチ?
そして明かされる新たな仲間の正体とは……?
三日目の朝。 「旅人の宿・シンフォニー」の食堂は、パンの香りと朝のにぎわいであふれていた。
神門は最後の食事券を握りしめ、
「これが最後の朝ごはんかも…!しっかり味わわなきゃね」 と、セレスと一緒にパンとスープを味わっていた。
【やはり、美味いな。ここの料理は……神門おかわり。】 セレスももぐもぐ。
食後、店員さんが神門に近づいてきて、小さなメモを手渡した。
「さっきギルドのクロード様から言伝ですよ。“街外れの小さな小屋に来てほしい”って。地図も預かってますよ」
「ありがとうございます! セレス、支度して行こう!」
二人はさっそく準備をして、地図を頼りに街外れへ―― 人通りも少なく、だんだん不気味な道になる。
「……なんか静かだね、セレス」
【まぁ、街の端はこんなもんだ】
やがて、小さな木造の小屋が見えてくる。
「……あれがクロード様の小屋?」
その瞬間―― 足元がガクッと沈み、
「きゃっ!」と神門が叫ぶが、ガバッと網が跳ね上がり、神門が木にぶら下がる!
「うわああああ!!なにこれーー!?」
【神門!?大丈夫か!?】
神門が網にぶら下がりバタバタしていると、小屋の扉が勢いよく開く。
「おい、何の騒ぎだ…って神門さん!?」
クロードがあわてて駆けつけてきた。
「ルルナーー!!」
近くの茂みから、小柄な黒とピンクの髪の女の子が顔を出す。髪には木の葉がついて、ちょっとバツの悪そうな顔。
「う、うぅ……やばい。……」
クロードはルルナの頭をゲンコツでこつん。
「何してるんだ!ルルナ!罠を仕掛けるなって何度も言ってあるだろう。それも大事なお客様が怪我でもしていたら、どうするんだ!神門さん、師匠。大丈夫ですか?」
「…だって”兄様”に知らない女に近づけさせたくないんだもん。」
「はぁ…?何を言ってるんだ。たくっ。」
クロードはため息をついて、神門の網を外す。
「ごめんなさい。神門さん、それに師匠。ルルナが悪ふざけを……ちゃんと謝れ」
ルルナはぷいっとしながらも、
小さく 「ごめんな…ぃ…」とつぶやいた。
クロードは低姿勢で、
「本当にすまない、迷惑をかけた。」
セレスも呆れたように
【”あのルルナ”か。…あんな小さかった子供がもうこんなに大きくなったのか…】とぼそり。
「ルルナは覚えていないかもしれないが、まだ小さかったルルナの命を助けてくれたのは、そこにいる師匠と、この娘の母君だぞ。ちゃんと謝りなさい。ルルナ!!」
「ママとセレスがこの子の命を?…セレス、やっぱりママとクロード様と一体何があっ……。!」
セレスは後ろに向きながら腕を組んでいる。
┈┈┈┈前回の回想┈┈┈┈
「セレス、私からもお願い。ママの事知りたい。だから、クロード様と協力して…」
【はあぁぁ。わかった。では、討伐まで、この話はなしだ。わかったな?】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「あ、ドラゴン討伐まで、聞いちゃいけない約束してたんだ。ごめんねセレス…。」
無言のまま、セレスはクロードの方に話に行った。
【クロード、ルルナの体調はどうなんだ?もう症状はでてないか?】
「はい。師匠たちのお陰で”ムラサキ”の症状はでていません…。師匠たちが根こそぎ、”ムラサキの花”を抜いてくれたので、今の今まで、花も症状も見ていません。」
【うむ、そうか…。なら良かった…。】
神門はソワソワしながら、グルグルと回って気持ちを落ち着かせている。
セレスに聞きたくて、聞きたくて、仕方ないようだ。
【神門!犬かお前は。。】
「テヘ!と、とりあえず、ルルナちゃんだっけ?よろしく、私は”本好神門”異世界から来ました!!神門お姉ちゃんと、呼んでね!」
「…っ異世界から!お兄様…あわわ。ヤバいって、代々伝わる巻き物に確か、異世界人はこの世界にとって悪……んんんっ!」
クロードはルルナの口を抑えて、さらにゲンコツを一発。ごつん。 ルルナは泣きながら小屋に走って行き、ドアをバンっ!と閉めてしまった。
「重ね重ね、本当にすまない。いつもはあんなじゃないんだ。すまない。。」
【…なぜ、妹をパーティーにいれるんだ?】
セレスが質問する横で、頭に「モヤモヤ」と書かれた文字が浮かんでるような神門を二人は無視して、話を進めていた。
「実は、ルルナは”女神のご加護”ヴィーナスの持ち主で、今は街のフォルテリア城に勤めています。」
【ほぅ…ルルナがヴィーナスを。それはすごい。】
「あの〜この質問はいいんだよね?”女神のご加護”ヴィーナスって、なんですか?」
クロードは少しだけ真剣な顔になり、
「……“女神のご加護”というのは、この世界でごくまれに選ばれた者が持つ特別な力だ。ヴィーナスは“癒し”と“幸運”を司る加護で、傷や病を癒したり、不思議な幸運を呼び寄せる。ルルナは生まれつきその力を持っていたんだと思う…。」
セレスもコクリと頷く。
【この街の人間も“女神のご加護”を持つ者はルルナ以外、いないみたいだな。珍しい存在だ。】
「へぇぇ、なんかすごい……! でも、そんなすごい子にワナにかけられた私はもっとすごいよね!!」
神門がちょっと冗談を言うが、クロードが申し訳なさそうに、
「……本当にすまない。妹は昔から体が弱くて甘えん坊なんだ……でも俺の大切な家族なんだ。すまない。」
【とりあえず、機嫌を直してもらわんとだな。】
神門は気を取り直して、
「ルルナちゃんと絶対仲良くなれる気がしてきた!絶対、神門お姉ちゃんと呼ばせるから!」
クロードが言いずらそうに口を開く。
「ルルナは小さく見えるかもしれませんが、あぁ見えて、26歳です。」
「え…、あ、そうなんですね!女神のご加護なんて、すごいなぁルルナさん……。」
クロードが何度か扉をノックするも、ルルナは小屋の中から出てこなかった。
「ルルナ……開けてくれ。話をしよう」
「……やだ」
静かに聞こえた声は、少しだけ震えていた。
「師匠、すみません。今の俺じゃあ、駄目かもしれない……す」喋っている途中にセレスは、
【ふんっ。】
セレスが扉の前に進み、クロードを左手で退かし、右手を出した瞬間、光の玉がドアに命中し、扉が粉々に。
【ルルナ。よく聞け。私たちはお前に怒ってなどいない。ただ、ずいぶん昔だが、お前とクロードを知っている、この異世界人も”私の知り合い”だ。だから、大丈夫だ。】
しばらくの沈黙。だがやがて、破壊された扉の向こうからぽつりと声が返ってきた。
「……話には聞いていましたが、昔の記憶はないです。だから、覚えていません。」
【そうだな。まぁ、知らない方がいい事もあるんだ。お前は”ヴィーナス”なんだそうだな。珍しい、大事に”使え”。】
クロードも破壊された扉に手を添える。
「ルルナ。師匠と……神門さんなら大丈夫だ。だから、昨日も話したが、ドラゴン討伐に協力してくれ。お願いだ。」
二人がルルナを説得している隙に、神門はこっそり部屋の奥に入り込んでいた。
(あの子がさっき言ってた“巻き物”ってどこだろう?……)
神棚の上。埃をかぶった一本の巻物が目に留まり、神門はそっと手に取った。
古びたそれは、いかにも“代々伝わる系”のにおいがする。
(開けてみても……いいよね。だってルルナさんがさっき…言ってた事気になるんだもん…)
コソコソと破壊されたドアを通り、三人が見えない場所で、そっと広げたその中には、見たこと無くとも読めそうな不気味な文字と、ひとつの記述があった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
“異世界人は、
この世界にとって悪の前兆となる。”
“悪の血を引く娘は皆を不幸にする。”
“血を流すは推し、血を捧げよ。なすれば悪の血は流され、大罪は免れよう。”
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……大罪?なにこれ……」
背筋がぞくりとする。
けれど神門は、直ぐさま、持っていた“赤いノート”を取り出し、カバンの中から羽根付きペンを取り出すと、急いで全文を書き写した。
(“推しの血”って……何?……)
ガサ、と音を立てて誰かが、歩いて近づいてくる……。
振り返ると、泣きはらした顔のルルナがそこに立っていた。
「……さっきは、ごめんなさい。神門さん………兄様……あと、ぬいぐるみ様……」
クロードがほっと息をつき、ルルナを抱きしめた。
「もういい。わかってくれたのならそれでいい」
セレスはため息をつきながら、
神門が隠しながら後ろに回した、
手に持っている巻き物に一瞬、目をやるが話題にはしなかった。
【神門、ルルナがドラゴン討伐行ってくれるそうだ。お前もちゃんと挨拶したほうがいいだろ。】
「え、あ、はい。えっと、”本好神門”(ほんすきみかど)です。歳はルルナさんより下みたいです、なので、神門って呼んでください!!これからよろしくお願いします!!」
自己紹介が終わると、ルルナが祈りのポーズをする。
瞬く間にルルナの体が黄金に包まれて、
髪の毛が金髪ロングに。
これぞまさしく美少女変身だった。
「私はルルナ・アークライト、女神の加護より“ヴィーナス”になり、街の人々を幸せにする役割を授かりました。兄様と一緒にドラゴン討伐、行かせていただきます……神門さん……よろしくお願いします。」
ルルナはまだ、目も合わせてはくれないが、先程のブラコンとは思えないほど大人の女神様だった。
この展開に……
神門のテンションMAXだったのだ。
「……きゃールルナ様!!変身カッコよすぎです、ヴィーナスなんて素敵すぎます。やばい、これは”推し”になりそうだわ。兄妹推しなんて、素敵すぎるーーー!」
神門は、
ぎゅっとノートを抱えながら笑って言った。
クロードとルルナは口を少し開けながら、
神門のテンションにビックリしていた。
【あ、二人とも気にしないでくれ、時々、神門は、よく分からない発作みたいなのがはじまるんだ……】
「そうね、これはもう、発作よ、本当に、心臓がドキワクして、あぁーもうルルナ様もクロード様もカッコ可愛くてどうしよう。きゃ〜」
クロードとルルナきょとんとしながらも、小さく喋り出す。
「…よ…よろしく、お願いします」
「よろしくお願いします師匠、神門さん」
【ああ……。】
「ふふ、お願いしまーーーーす」
クロードとルルナが少し落ちつき、小屋の方に案内してもらう事になったが、飛んでいるセレスを神門が小声で呼び止める。
「セレス。セレス。ごめんなさい。あの、これ、そっと小屋に返しといて欲しいんだけど……」
と、耳元で囁きながら、さっきの巻物をセレスに渡す。
【……巻き物読んだのか?】
「う、うん。でもよくわからなかったし、私、気にしてないから!今はドラゴン討伐に集中しないとね!」
【……そうか。わかった。そっと返しておこう。】
セレスは右手ですっと魔法で巻き物を消し、転移魔法で巻き物を元あった神棚にそっと戻した。
「セレスって、魔法使いなんだね?」
【今更か……。案内役だからな?なんでも出来ないと案内役にならないだろ?】
「セレスがいるなら、私絶対負けないじゃん。頼りにしてるよセレス!!」
【……あぁ。】
こうして、神門、セレス、クロード、そしてルルナ。
“4人パーティ”の冒険は、ようやくスタートラインに立ったのだった――
新たな仲間・ルルナが仲間入りしました。
小柄な見た目からは想像できない、女神の加護“ヴィーナス”を持つ彼女。変身するのは推しならではの事。
癒しと幸運を司るその力が、これからの冒険でどんな奇跡をもたらすのか──。
そして彼女の身に起きていた、“ムラサキ”と呼ばれる症状。その原因は花か呪い?
それとも、この世界に隠された秘密……?
セレスが語ろうとしない“昔の記憶”や、
「異世界人」にまつわる不穏な”巻き物”の記述も、
少しずつこの世界の裏側へと繋がっていきます。
セレス、クロード、ルルナ――そして神門。
次回、いよいよドラゴン討伐へ向けた準備編。
このパーティがどんな絆を築き、何を乗り越えていくのか、どうぞお楽しみに!