第六章:光が生まれた日
リィナが生まれたのは、どしゃ降りの夜だった。
天使の園の空はいつになく黒く、雷鳴が轟いていた。
けれど、その暗闇の片隅で、小さな命が産声をあげた。
羽はまだ柔らかく、産毛に包まれたその身体は、抱き上げるととても軽かった。
目を開けて僕を見上げたとき、胸がぎゅっと締めつけられるような思いがこみ上げた。
こんな世界に、ようこそなんて言えない……
けれど、確かにその時、心の奥で強く思った。
守りたい、と。
誰に教わったわけでもなく、ただ自然に、そう思っていた。
―――
リィナの母親は、群れの誰よりも穏やかで優しかった。
その優しさが、逆に彼女を危うくもしていた。
ある日、リィナの寝床に、見知らぬ男が近づいた。
「離れてください」
母親の声は震えていた。
それでも彼女は、その場を一歩も動かなかった。
「この子に、触らないで……!」
そう叫びながら、男の手を叩き払った。
その翌日、彼女は連れて行かれた。
僕はじっと見ていた。
大人たちに囲まれ、強制的に引きずられていく姿を。
その夜、リィナはずっと泣いていた。
誰を呼んでも、誰も来なかった。
僕はまだ小さなリィナを抱き上げ、自分の寝床に連れて帰った。
その身体は、母親のぬくもりを失ったかのように冷たかった。
もう、誰も守れないと思っていた。
でも、この子だけは……手放したくない。
何もできなくて、何も持っていなくても、せめて。
「リィナだけは……生きてほしい」
それが、僕の願いだった。
小さな光にすがるように。