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第三章 檻の中の光

ここに連れてこられてから、僕たちは「群れ」に分けられていた。


まだ若くて抵抗の少ない者、美しいとされた者たちは幼翼の群れ。


そしてルアのように成熟し、力を持つ者たちは白翼の群れに。


あの日からの毎日は、まるで同じ夢を繰り返しているみたいだった。


毎朝、決まった時間に起こされ、無理やり着替えさせられ、料理店で働く。


微笑みを強要され、客の注文を取りながら、心はどこか遠くにあった。


天使料理の注文を聞きながら、自分がいつあの料理になるのかを考えた。


感情を殺し、考えないようにすることだけが、唯一自分を保つ術だった。


―――


ある日、僕たちの部屋に小さな天使が連れてこられた。


まだ羽根も耳も産毛に覆われた、小さな女の子。

目には大粒の涙が溢れていて、僕の手をぎゅっと握った。


「ママ、いない、こわい……」


その瞬間、僕の中の何かが崩れた。

心が大きく揺れて、声にならない想いが込み上げてきた。


「大丈夫、怖くないよ。君は一人じゃない」


その子の名前はリィナ。

彼女が、僕にもう一度「守りたい」という感情を取り戻させてくれた。


―――


「お前、最近ちゃんと寝てるか?」


夜の巡回が終わると、ルアが僕を見つけて声をかけてくれた。

食用候補の彼は、厨房の奥で調理の手伝いをさせられていた。


それでも、時間を作って僕に会いに来てくれた。


「無理しすぎるなよ。あの子たちのことも、自分のことすら守れなくなったらどうするんだ」


「でも……」


「分かってるだろ? 今、お前が倒れたら、あの子たちはどうなる?」


僕は黙ってルアの胸に顔を埋めた。

涙は出なかった。ただ、彼の温もりが嬉しかった。


―――


やがて、幼翼の群れのひとりが貴族に買い取られていった。

柵の向こうで怯えるその子の目。

何もできない自分。


天使としての誇りも、生き物としての尊厳も、ここでは容赦なく壊されていく。


―――


ある夜、僕は空を見上げた。

もう、あの頃見ていた島の姿はどこにもなく、ただ黒い闇と遠い星だけが浮かんでいた。


(いつか、あの空に帰れるだろうか……)


答えは分からない。

だけど、あの空をもう一度飛ぶまでは、絶対に死ねない。


そう決めた日から、僕の心の中に小さな光が灯った。


「この子たちだけは、絶対に守る」


それが、檻の中で見つけた希望だった。

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