第十二章:処罰の刻
「ネフィル、呼び出しだ」
朝、いつもより早い時間。
白翼の見張りの一人が無感情に告げる。
周囲の天使たちが、ぎこちなく視線を逸らした。
無言で立ち上がり、ついていく。
予感はあった。
理由も、だいたい察していた。
仕事を、途中で投げ出したからだ。
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薄暗い部屋。
高く積まれた書類棚と、装飾のない壁。
一番奥に、園の管理者が座っていた。
「ネフィル。お前には、罰を受けてもらう」
低く、冷たい声。
理由を告げるまでもない。
これは「見せしめ」だ。
幼翼の群れのリーダーが罰を受ければ、他の天使たちも逆らえなくなる。
「……はい」
それ以外の言葉は、浮かばなかった。
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罰は、翼をちぎり取ることだった。
刃で切られるのではない。
封印術をかけ、神経ごと裂き、再生を一時的に封じる。
天使にとって、それは"死"に近い苦痛。
飛べない。感覚を失う。存在の一部を奪われる。
儀式の部屋に引きずられる途中、
白翼の群れの誰かが、遠くから叫んだ。
「待てよ! ネフィルは何も悪くないだろ!」
ルアだった。
だが、すぐに押さえつけられ、声は消えた。
ーーー
光の紋章が浮かび上がる。
術者が印を結ぶたびに、翼に鋭い痛みが走る。
まるで、骨が焼かれるような激痛。
声にならない声が、喉を震わせた。
目の奥が真っ白になる。
痛い。
でも、泣くな。リィナが.......見ているかもしれない
歯を食いしばり、うずくまった。
翼は、もはや風にすら揺れない。
それから数日。
寝台の上から起き上がれなかった。
天使たちが部屋を覗いても、誰も何も言わなかった。
リィナも、一度だけ涙を堪えて、こう呟いた。
「ネフィルは、眠ってるだけだよね」
ルアだけが、夜中にそっと膝をついて言った。
「……守れなくて、ごめんな」
僕は答えられなかった。
ただ静かに、無くなった翼を隠すように、丸まっていた。