表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/46

楽しく気ままな冒険稼業への誘い

■紹介

・ナーガ

 16歳の少女冒険家。本名ナーガディシア・ピエロット・リーデア。


・転生の書

 ナーガと会話するように自ら文字を綴る森羅万象を知るかのような書。


・サクリ

 クエストパーティの金髪男性。


・ヴィクタ

 クエストパーティの茶髪女性。


・オベル

 クエストパーティの黒髪男性。


・プレイトン

 クエストパーティの金髪女性。

 それからナーガは大渓谷にある段丘林の周辺を探し回りました。


 オークの集団を一掃してからコロニーどころか、その姿がぱったりと見当たらない状態です。

 ナーガは一度落ち着いて考え直す必要があると判断したようで、招待もあって彼らのキャンプに参加することになりました。


 手頃な枝を見立ててツェルトの設営を終えるころには日は落ちていました。

近くではサクリ達が焚き火を起こしています。


 輝く星空を天井にその下でゆらゆらと揺れる焚き火の炎の眺め。

パチパチと薪のはじける音と、ささやかな風の音。


 そんな心休まる空間、焚き火のそばに座ってナーガはオークの痕跡を探るように考えを巡らせていました。

 サクリが地図を持ちながらナーガのそばに寄ってきます。


「ナーガ、良かったら俺の意見を聞いてくれないか」

「うん? いいよ」


 するとサクリはナーガの隣に腰を下ろして、地図を広げて説明をする。


「これがこの周辺をマッピングしたものだ。

 オークのコロニーと言うのはある程度洞窟になりうる地形を流用すると聞いている。

 そういった場所をピックアップしてみたのがこの赤丸部分なんだけど……」


 サクリはそう言いながら熱心に地図の説明をします。

 彼は地理に詳しいようで、今回のキャンプ地も彼が見つけた場所でした。

この区画は彼が入念に調べ、風向きや動物の通り道を避けた地形を考慮した場所です。


「明日はこっち側のルートを辿るとナーガの調査も(はかど)るんじゃないかと思うんだ。

 どうだろうか?」


とサクリが地図を指差しながら言うと、いつの間にかそばにいたヴィクタが微笑みながら言いました。


「サクリ、あなたは地学が好きだからこういう話に夢中になるようだけど、ほら。

 ナーガも年頃の女の子よ? あんまり熱心に近寄るのは良くないわ」


 そう言いながらヴィクタはサクリと肩を寄せ合うようにしている様子から、サクリとヴィクタが親密な関係なのでしょう。


「あっ……すまない、つい」

「ううん、気にしないで。私はあんまり実地での足の運びが(つたな)いところがあるから。

 サクリ、さんの意見はとても役に立ちます」

「ほら、サクリ。なに気を(つか)わせてるのよ」


と言いながらヴィクタはサクリの肩に手を置くと立ち上がります。

 焚き火に差し込んでいた細い枝を抜き取り、彼女はその火種を以てお香に火をつけました。

すると一転あたりには甘い香草の匂いが立ち込め始めます。


 クンクンと鼻を鳴らすナーガにヴィクタは言います。


「これはね、最近のお気に入り。虫避けにもなるしリラックス効果もあるの」


 その香りにより心が落ち着いたのか、ナーガもふと肩の力が抜けているようでした。

 すると別に香ばしい匂いが周囲一帯を包み込み始め、ナーガはまたも鼻を鳴らせます。


「ははっ、うまそうな匂いだろ! もうちょっとで出来るからなっ」


 オベルは火のそばで食事の準備を進めていました。

彼は料理が得意とのことで、豪快且つ手際の良さに目を奪われるほどです。


 今夜のメニューは多肉植物のステーキとのことで、多数の香辛料を使われたそれは独特の香ばしい香りが漂います。

しっかりと焼き上げられたステーキが次々と皿に並べられて「これ、案外いけるんだよ」とオベルが笑いながら給仕をします。


「ナーガは今日の殊勲者だからなっ。たくさん食べてくれよ!」


 ナーガに渡されたお皿には、大きく盛られたステーキと、それに添えられたパン。

香ばしい匂いを放つ付け合わせのソースを皿に掛けると食欲がそそる一品に仕上がっています。


「わぁ…良い匂い…!」


 ナーガはその香りに魅了されながらも、食事に手を付ける前に豊穣の神に祈りを忘れません。

ですがそれを終えるやいなや、与えられたスポークを使い料理を早速口に含みます。


 すると口に入れた瞬間ピリッとした香辛料の刺激が舌を突き、思わず目を見開きました。

続いてジューシーな果肉は噛むごとに弾け、舌の上で爽やかな酸味が広がる。

この独特な味わいに思わず口を押さえるナーガですが、その辛さは不快なものではなく次から次に後を引く味です。


「辛いけど……それでも美味しい!」


 ナーガは思わず少し大きめの一切れをスポークで取り分けると、口いっぱいに含みます。

スパイスの利いた辛さと多肉植物の瑞々しい食感は絶妙にマッチしていました。

 そのナーガの様子にオベルは満足そうに頷きます。


 するとナーガの隣にプレイトンが軽やかに腰を下ろして、にこやかな顔でナーガに向かって話しかけてきます。


「どうスか、オベルのステーキ。辛くなかったス?」


 プレイトンはにっこり笑いながら、ナーガの空になった皿を指し示しました。


「う、うん、最初はびっくりしたけどすごく美味しかった…なって」


 ナーガは笑顔で応えつつも、プレイトンの勢いに少し圧倒されてしまいいます。


「そうッスよねぇ、スパイスが効いてていいんスよね。

 実はオベルがこのスパイス、特別に配合してるらしいッスよ。

 ほんとに器用なやつなんスよぉ、あいつ!」


 プレイトンは軽快に笑いながら、オベルの方をチラと見やります。

 つられてそちらに目をやると、オベルは照れ臭そうな笑顔を向けました。


 それを見てナーガも頷いていると、プレイトンが今度はちょっと顔を上げて夜空を仰ぎ見始めます。


「いやー、こうして星空の下で食べるの悪くないと思うんスよね?

 この時期の夜空は空気が澄んですっごい綺麗で、ホントに。

 あの星座、見えるスか? トーエリアに伝わる『旅人の座』って言う星座」


 彼女が指す先には、夜空に浮かぶ周囲の星に比べ煌々とする点描がありました。

 ナーガはそれを眺めていると、プレイトンは続けます。


「このセントネシアで、どこから見てもいつも同じ方角に存在する星座ス。

 どんな困難があっても、その星が見える場所なら道が開けるって話があるんスよねぇ」


 ナーガはそのえらく早口で熱が入った剣幕に目を回します。

 ですがプレイトンはナーガの理解を促すように何度も説明をしてくれるのでした。


「そうなんだ、知らなかった。でも、そういう話っていいよね。

 私も…セントネシアを巡って旅をしたいって思っていて」


 ナーガの声は弾み、うっとりとしながら星座を目に映します。


「おー、ナーガちゃん。それはいいスね!

 でもナーガちゃんくらいの年の子で冒険に憧れるのって珍しいスねぇ」


 プレイトンは興味津々にナーガの顔を覗き込みます。


「昔、大人の人にセントネシアの冒険譚を聞かせてもらったんだ。

 それがすごく面白くて。

 ナンオーシャンの黒い帆船の話だったり、トーエリアにもそういう話があるみたい。

 砂漠には龍が眠っているって聞いたんだよ」


 ナーガは目を輝かせながら語って、プレイトンは「へぇ~」と頷きます。


「面白そうな冒険譚を知っているんスね。夢も膨らむスよぉ。

 ナーガちゃんもこうやって冒険者らしいことをしているから、その夢に近づいてるはずスね!」


 プレイトンは努めて明るく振舞うので、ナーガは微笑みながら会釈を返しますが、不意にどこか遠くを見つめるような表情を浮かべます。


「そうかなぁ…」


 プレイトンはそんな彼女を横目に見ながら「そうスよ!」と軽快なトーンで続けました。

 するとサクリが間に割り込むようにしてきます。


「プレイトン、ナーガ、もう遅いからそろそろお開きにしないか?

 ナーガは明日も早いだろう?」


と言われ、プレイトンは「そうスね」と返事をしました。


「ナーガちゃん、また冒険の話聞かせて欲しいッス!

 今度はもっと面白い話仕入れておくから」

「うん、ありがとう。またお話させて」

「そりゃいつだって大歓迎ッスよ!

 なんならクエストが終わったらウチにお泊まりしますか?

 大丈夫、ナーガちゃんならお父さんもお母さんも許してくれると思うし……」

「ねーまーすーよー!」


 話が再開しそうなところでサクリがプレイトンの肩をがしりと摑み、話をやめるよう促してからナーガに向き直ります。


「本当にすまないな。俺たちそろそろ寝るから、ほら、プレイトン。

 ヴィクタのテントだお前は。ナーガ、明日もよろしく頼む」


 サクリは苦笑いを浮かべながら愛想を見せてきたので、ナーガも会釈をしながら自身のツェルトに潜り込むのでした。



    ◇

 翌朝を迎えました。

 ナーガは目を覚ますと寝床から這いずるように出てきます。

身体を軽く伸ばしてから、周囲を見渡します。


 大渓谷にある段丘林は山々により朝日から隠れるような地形ですが、このキャンプ地周辺だけは陽が照らされるスポットとなっていました。

おかげで寝覚めも良いようで、ナーガが軽くストレッチを終えると昨日の疲れは感じさせない様子を見せています。


 キャンプ地の空間にほのかなスパイスの香りが満たされます。

香りの強い方へ視線を向けると、焚き火のそばでオベルが鍋をかき回していました。


「おはよう、ナーガ。ちょうどスープができたところだ。さあ、食べておけ」


 彼はスパイスの効いた野菜スープとこんがり焼けたパンを、底が深いカップに盛りつけてナーガに手渡します。

 ナーガはスープの香りを楽しみつつ、一口飲むと身体がじんわりと温まるのを感じました。

スパイスが心地よく広がり、朝の冷たい空気でのこわばりが緩むようです。


「ありがとう」


 ナーガはパンを手に取り、スープに浸しながら朝食を取ります。

 すぐ近くではヴィクタが湯を沸かし、丁寧に茶葉を蒸らしていました。

彼女はナーガが朝食を平らげるのを見つけると、湯気が上がるカップをナーガに差し出します。


「ハーブティーをどうぞ。サクリとプレイトンもまだ寝ているみたいだし、ゆっくりしてね?」

「うん。ありがとう」


 ヴィクタの言葉に頷きながら、ナーガは少しだけカップを啜ります。

柔らかな風味が口の中に広がり、心が安らぐ瞬間を感じました。


 しばらくしてサクリとプレイトンがのそのそと起き出しました。

「ふぁ……おはよう、いい天気だなぁ」

「ふわぁぁ~。あ、ナーガちゃん、おはよぉッス」


 サクリとプレイトンが大きな欠伸をしながら、オベルの用意した朝食を取り始めます。

 その間にオベルが鍋を片付けてヴィクタが使った食器を整理してると、サクリが軽く伸びをしながら言いました。


「ナーガ、今日も護衛をよろしく頼むよ。

 俺たちはこれからすぐにでも渓谷トカゲの収集に向かうから」


とサクリが手を振りながら、ナーガに声を掛けるとヴィクタは彼の隣に座って窘めます。


「サクリ、こんな時間に起きて何がすぐかしら?

 それにプレイトンもさっさと食べちゃいなさい」

「はいっ、すぐ食べるス」


 プレイトンは慌ててパンを頬張り、サクリはヴィクタに「すまんすまん」と軽く謝りながら食事を進めます。

 ナーガはその様子を見ながら寝床の片付けを済ませると、昨夜サクリに渡してもらった地図に目を通し始めるのでした。



    ◇

 ナーガはサクリの地図を元にコロニーがある可能性の場所をいくつか回って調査を進めます。

 ですが、結局オークは一匹もその姿を見せず、コロニーが形成されている兆候も見つかりませんでした。


「ナーガ、見回りはどうだった?」


とサクリは茂みの中を潜るナーガに声をかけます。

 するとナーガは頭をひょっこり飛び出して答えます。


「見たところサクリさんが教えてくれた場所も大丈夫だった。

 昨日のアレははぐれオークで、全滅出来ていたんだと思う」

「そうか、それなら危険も無く助かる。俺たちの渓谷トカゲ捕獲ももう少しで終わるから」


 それからしばらくしてサクリ達の目的だった渓谷トカゲの捕獲も無事に完了しました。

 これ以上の滞在の必要はないとの判断で、一行は大渓谷を後にします。



    ◇

 帰路の馬車の中、ナーガは一つの悩みを抱えていましたた。


「どうやって報告しようかな……」


と考え込みながら思案顔で唸る。


「結局コロニーは見つからなかった、オークもあれ以来出てこなかった。

 けど、これをギルドにどう報告すればいいんだろう?」


 サクリはその様子に優しく答えました。


「そんなに難しく考えることはないさ。

 ナーガが確認した場所を指してそこにオークのコロニーの痕跡がなかったことを説明できれば十分だよ。

 俺が渡したマップを使って説明できるだろう」


 彼はナーガに地図の写しを広げるよう指示をします。


「ほら、この地図に確認した地点を丸をつけて報告すればいい。

 そうすれば周囲をしっかり確認したって話もあるし、はぐれオークのトロフィーだって十分あるだろう?」


と笑顔を見せながら教えてくれたサクリの助言に、ナーガは気持ちが楽になったようです。


「そっか。ギルドはどこをどう調査したのか知りたいから……

 あぁ、サクリ。これでギルドにきちんと報告できそう、ありがとう」


と彼女も自然と笑みを浮かべます。

 サクリの教えを受けてナーガは報告への不安を払拭できたようで、帰りの道中を安心して過ごしていました。



    ◇

 ギルドに報告を終えたナーガはどっと疲れを感じていました。

それでもオーク討伐とコロニーの調査はナーガが思ったより成果が認められてギルドからも状況がよく理解できたと判を押され、誇らしい気持ちも感じているようです。


 クエストの窓口から離れたところでサクリたちのパーティが待っているのが見えました。

 彼らは笑顔でナーガを迎えて、サクリが口を開きます。


「ナーガ、用心棒の報酬だ。受け取ってくれ」


 サクリはナーガに貨幣の入った袋を差し出すとナーガは袋を受け取ろうと手を伸ばします。


「ありがとう。結局あの後はオークが出なかったけど……」


と受け取ろうとするもサクリは手を離しません。

 首を傾げるナーガにサクリは真剣な表情で見つめてきます。


「ナーガ、物は相談なんだけど今回だけの護衛じゃなくて、その、俺たちとパーティを組まないか?」


と言ってから袋を手放します。

 ナーガは目を丸くして聞き返しました。


「パーティ?」

「あぁ。俺たちさ、サバイバルは慣れているけど戦闘はちょっと苦手でさ。

 さっきみたいにオークみたいなのとやり合えるほどの力がないんだ。

 でもナーガ、君ほどの力があるなら一緒にやれたらって思っている」


 サクリが続けて話を切り出すと、彼の言葉に他のメンバーも頷きます。


「サクリの言うとおりスよ。あたしもナーガちゃんのこと気に入ってまスし。

 一緒にパーティ組めたら楽しいそうだなぁって思ってるんスよね」


と、プレイトンが満面の笑顔で話しかけました。


「あぁ。人里離れたところで食べるご飯も良かっただろ?」


 オベルが問いかけるようにして言葉を続けます。


「うん。また一緒にほら、皆で集まってクエストをしたりして。

 夜は焚火を囲ってお話してさ、きっと楽しいと思うよ」


 ヴィクタは微笑みながら優しく微笑みました。

 するとナーガはきょとんと「楽しい?」としますが、サクリが「そうだよ」と頷きます。


「今って強い冒険者たちが我先にってずっとギラギラしてて息苦しいところもあるだろ?

 だからなんて言うか俺たちはそんなガツガツにやりたくなくてさ。気ままに冒険稼業。

 スローライフって言うのかな? 楽しくやりながら自分のペースでやれればいいってスタンスなんだ」


 サクリはそう話すと「どう?」とナーガに尋ねます。

 するとナーガは言葉を選ぶようにしながら、少しずつ口を開きました。


「私は生きる為に戦っていたと思う。だから仲間と一緒に楽しく冒険するのが、どういうものか、えっと分からなくって……でも」


 サクリは相槌を打ちながら、続くナーガの言葉を慎重に待ちます。


「私もパーティを誰かと組むの、ちょっといいなって思った。

 うん、きっと一緒にいたら私も楽しいと思う、うん、そうだね」


と一人納得したように頷くとナーガはサクリに手を差し出します。


「ありがとう、サクリ。パーティ組もう?」


 その手を取るとサクリは笑顔で答えます。


「あぁ。ナーガならきっと良い仲間になれると思う。戦闘だって百人力だよ」


 他のメンバーも頷き、ナーガの加入を歓迎します。

 こうしてナーガはサクリたちのパーティに加入することになったのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ