エクスカリバー(嘘)、ぶん投げられる。
バチクソにカッコいい女の子を寄こせ杯に送りたかった。
そいつは妙な小娘だった。睫毛はラクダのようで、装備はどれもこれも宝石で飾りつけられている。爪は長さこそ普通だが、ギラギラと塗料が塗られていて眩しい。足元は靴底が分厚い軍靴を履いている。本人曰くY2Kギャル、らしい。
小娘は舐め腐った見た目にもかかわらず、並の兵では持ち上げられない大剣エクスカリバー(嘘)を軽々しく持ち上げた。そして、小娘はエクスカリバー(嘘)を岩壁にぶん投げてしまった。
入隊試験としては持ち上げるだけでいいのだが。
「っしゃ! ねぇねぇ、これで合格っしょ」
「異論はない。ないのだが……」
次から入隊試験は岩壁にぶっ刺さったエクスカリバー(嘘)を引き抜く形式に変更するしかない。考えただけで頭が痛い。
その日から小娘は我が部隊の隊員となった。初陣から小娘は有り得ない身軽さで魔猪を翻弄し、魔猪が疲弊したところを一刀両断した。
「楽勝っ☆」
小娘は笑顔で偶像のような姿勢を決めた。
魔猪は現地で処理して肉を持ち帰る仕組みだ。小娘は魔猪の肉を捌くと懐から小瓶を取り出し、肉に振りかけようとする。
「待て。小瓶の中身は何だ」
「ハーブソルトだけど? 魔猪って臭みあるから臭み取らねーとマズいじゃん?」
薬草が調味料として使えるという知識はある。しかし薬草を用いるのは基本的に治癒魔術師であり、我々のような前線部隊はあまり用いていない。
「ちゃんと血抜きして、ハーブソルトとか揉み込んでから焼けば魔猪ってイケる味じゃね? あーし怪鳥の香草焼きよりロースト魔猪の方が好きだし」
そう言って小娘は魔猪の肉を拳で殴る。
「つーか、たいちょー暇なら手伝えよ♡」
そうして持ち帰った魔猪は今まで食べたどんなご馳走より旨かった。
小娘が入隊してから我々の部隊は戦績が前例なき早さで伸びていった。小娘の戦績は言うまでもないが、どういう訳か他の隊員の戦績も伸びている。あまりの事態に視察に来た文官が唖然とする程に。
「あの小娘は一体何者なのか」
それが判れば苦労はしない。何故なら小娘は到底本名とは思えないミキティという名を自称している上に、シブヤから来たと言い張っている。怪しい。
確かに怪しいのだが、挙動に怪しい部分はない。
「だからぁ、あーしマルキュー行こうと思って渋谷のスクランブル交差点渡ろうとしたら空に吸われたんだって。そんでー、この世界に着いて、伝説の勇者とかいうジジイに戦い方とか教わったんだってば。ジジイが言うにはあーし天才らしいよ」
爪を塗りながら小娘は怠そうに答える。
「いわゆる異世界転生者か」
「じゃね? よく知らねーけど吸われたやつ、他にも居るらしいね。まぁ、どーでもいーし、別にこっちの世界楽しいから帰れなくてもいーけど。話、もういい? あーし寝たいんだけど。夜更かしは美肌の大敵って言うじゃん?」
小娘は大袈裟にあくびをして去っていった。