第99話 平穏
「なんでなんでなんで」
そう言ってあがいているユウリちゃんの姿があった。
私は彼女に何と言葉をかけられるだろうか。
私の視界が明るくなっていく一方、ここにユウリちゃんの姿が見えたという事は、そういう事なのだろう。
私の人格が現実の世界に引かれて行っているのだ。
先程からウェルツさんの声がしっかりと耳に届いていく。
ああ、ウェルツさんの声は暖かい。
そう思いつつ、私には気掛かりな事があった。
勿論、ユウリちゃんの事だ。
私の分身みたいなものだ。
私が自我を取り戻そうとしてる時に、ユウリちゃんが現れたという事はきっと、今からさっきまでの私のように暗い空間にずっといなきゃいけないっていう事だ。
それはあまりにも可哀そうだ。
私は、泣いている彼女に対し、そっと声をかけた。
「大丈夫?」
私は告げた。
聞いた。
「大丈夫なわけないでしょー」
そう強く怒鳴られる。
「私は、私は!! ようやく上に出られたのにー!!」
こえはふざけている。でも、私にはわかる。これが心からの叫びだという事を。
「私は、ずっと空が見たかった。なのに、すぐに地獄に落とされて」
「大丈夫だよ」
私はそう言ってユウリちゃんを抱きしめた。
「私がいるよ」
「貴方はすぐに外に出るでしょー。関係ないじゃない―!!」
「私があなたを一人に軟化させない。私がかまってあげるから、どんな時でもずっと」
「本当にー、うざいやつら」
「うざくたっていい、ずっと一人だったんでしょ?」
「うん」
今度は一転代わって素直だ。
「大丈夫だよ。わたしがずっとそばにいるから」
「あー、もううるさい。うるさいけど……」
「大丈夫」
私はそう言ってもう一度彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だよ」
それからユウリちゃんはただ、沈黙を維持し続けた。
そこには、どんな感情がうごめいているのか。私にはその答えは分からなかった。
そして次の瞬間、私の意識が引っ張られた。
次に目が覚めると、ベッドの上だった。
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「ここは?」
ユウナは周りを見渡す。
そこは、小さなベッドルームだ。
(ユウリちゃんどうなったんだろ)
自身の中にある不安を押しつぶしながら、歩いていく。
「こんにちはー」
そこに現れたのはユウリだ。
「ユウリちゃんどうして?」
なぜ、今この場に現れたのだろうか。
ユウナはその姿を見て、ぽかんっとする。
「ここに実在できるようになったみたい―。幽霊みたいにー」
そして、ユウリは手を伸ばす。
その手はドアを突き抜ける。
「どうやら、実態はないみたいだけどねー」
だけど、ユウリがその場に存在しているのを見て、ユウリはほっと胸をなでおろした。
その瞬間、ドアが開かれた。
「ユウナちゃん、大丈夫なのです?」
ミアがその中に入ってきた。
そして、いきなり抱きしめてきた。
「大丈夫なのです? 大丈夫なのです??」
そのミアの顔、涙で顔が赤くなっている。
よほど心配をかけたのだなと、ユウナはミアの体をギュッと強く抱きしめた。
「ど、どうしたのです」
「ごめんね。ごめんね」
そう言ってユウナはミアを抱きしめた。
「ユウ……ナ?」
そこにまた一人入ってきた。
ウェルツだ。
「心配したんだぞ」
「うん、ミアちゃんから聞いたよ」
「本当に心配したんだ。何かあったらどうしようって」
「心配かけてごめんね。でも、大丈夫だよ、私は大丈夫だよ」
「ああ、そうか、言ってたもんな」
「うん」
「お姉ちゃん? お姉ちゃん」
ミコトも抱き着きに来た。
「もう、みんな熱いよ」
だが、そう言いながら、ユウナは悪い気はしていない。
「皆大好きだよ。大好きだよ」
そう、ユウナはかみしめるように言った。
本当にみんなから愛されている。その事実だけで嬉しいのだ。
『ふん』
向こうでユウリが手を組んでいる。
『一人だけ楽しそうに―』
起こっている。否、寂しそうだ。
「皆、紹介してあげる、ユウリちゃんだよ」
ユウナは手を広げる。だが、皆首をかしげるのみだった。
「ここにいるの」
ユウナは叫ぶ。
『ユウナちゃん、無駄よー。私はあなた以外には見えていないわー』
そう、ユウリが叫ぶ。
だけど、ユウナは諦めない。
「ここにいるの」
だが、その言葉にウェルツが喰いつく。
「そこにユウリがいるのか?」
ユウナは頷く。
「そうか、良かった」
『良かったー?』
「ウェルツさんも、皆も、貴方が救われない結末にならなくてよかったと思ってるんだって」
そしてユウナは息を吸い、「どうぞ」と言った。
『は? どういう事ー?』
だが、その瞬間ユウリの人格は一気にユウナに吸い込まれていく。
「どういうこと―?」
ユウリはユウナの体で、手で口元を抑えながらそう言った。
今の状況がよく分からない様子だ。
『これからは好きな時に私の体を貸してあげる』
幽霊化したユウナがそう言う。
『わあ、確かに自由だね。不思議な感覚。壁をすり抜けるとか、これも案外楽しい』
「私が、また世界を壊そうと思ったりしたらどうしようとか、考えないのー?」
『大丈夫。あなたがそう言う人だとは思わないし、それにいざとなれば体のコントロール権は私にあるしね』
「結局自由を縛られてるのねー。まあいいわー』
「ど、どうなってるのです」
ミアは混乱の様子を見せていた。
そしてそれはミアに関わらず全員共通の用だった。
「ユウナちゃんから体を貸してもらってるのー。おかげで自由に動けるわー」
「ユウナは」
「しらなーい、そこで漂っているんじゃない―?」
「信じられん」
「また暴れたら許さないのです」
その言葉にミコトもうなずく。
「大丈夫ー。そんなつもりはないわー。暴れたらユウナちゃんに怒られるしねー」
その言葉にその場にいた3人はほっと胸をなでおろした。
「なら、安心だな」
「そういうことー」
ユウリもまた笑った。




