第97話 完成体少女、その実力
ウェルツは、それを見た。
ユウナの目つきが厳しい物になっていくのを。
その背丈は変わらない。小柄なものだ。
だが、威圧感が違う。
優しいのほほんとしたユウナはどこかへと消えてしまったかのようだ。
「ユウナ……」
ウェルツは呟く。
「私はユウナなんて名前じゃないよー」
とぼけた声で言う。
「私の名前は、ユウリ」
似た名前だ。
「さーてー」
ユウリは伸びをする。
「倒すかー」
そう言って瞬間、ユウリの姿が消えた。
消えた、否。ウェルツの目には見えない速度で移動したのだ。
ウェルツも実力者。
しかし、魔王やユウナ、、ミア、アーノルド。彼らの実力は異次元なのだ。
「貴方が魔王」
「その通り」
「死んで」
優里は素早い速度で火炎球を作り出し、ゼロ距離で爆発させる。
「ふむ、かゆいな」
そう、魔王が呟く瞬間、次々にユウリの攻撃が次々と連鎖する。
「すごい……」
ウェルツは呟いた。
これなら本当に、魔王を倒せるかもしれない。
「ウェルツ」
そこへ、一人の少女が現れる。
ミアだ。
「どうして」
ミアは、息を貯めて言う。
「どうして完成体にさせたのです!!」
そして、ウェルツの首元を掴む。
「何とでもなじってくれ。だけど、これはユウナの意志だ」
「私は辛かったのです。私の意識が全て虚空に吸い込まれたかのような、いやな感覚に襲われたのです。そして私は……」
ミアは顔をゆがませる。
「私じゃない何かに侵略され、ずっと嗚咽間の中、ただ、まっぴろい空間で一人。耐えてきたのです」
そしてミアの声量が上がる。
「今もユウナは苦しんでいるはずなのです。あんなことをするなんて許せないのですっ!!」
その叫びは苦しんでいるようだった。
それに対し、ウェルツは無言でまた顔を俯かせる。
「そんな事をして、許されるとも思っているのですか??」
「思ってない」
静かに息を吐く。
「思ってないよ」
「そうなのですか」
そしてミアはウェルツを解放する。
「今仲間割れしても何も変わらないのです。私は戦うのです」
そして、ミアは再び戦場へと向かっていく。
「止められたはずなのにな」
ウェルツは自分の腕を見ながらつぶやく。
「ユウナを止められたはず。だよな」
だけど、その可能性を自ら手放してしまった。
そう、ウェルツはユウナの人格よりも、この場の勝利を優先してしまったのだ。
ユウナの意思を汲んだ、と言えば者ぎ声はいい。
しかし、その実態は――
「ユウナ」
ウェルツは戦意を喪失した間mただ、その場で気絶した。
「ふむ、弱いな」
戦場で、ユウナの連撃をくらっていた魔王。しかし一瞬身をひるがえし、有利に拳を突き出す。
その攻撃をまたユウリはよけ、距離を取る。
「ユウリよ。なぜ戦う」
「それはこちらのセリフだよー。あなたはただのエネルギーの集合体。意思よりも体が先に動いてしまう哀れな生命体だよー」
今の魔王は力にとらわれ、力の制御ができていない。
太古の時代に存在した魔王よりもはるかに弱いはずだ。
「だからあなたはもう、戦うのをやめてもいいはずだよー」
「そうはいかない。我を復活させた者たちの意志に沿わなくては」
「哀れだねー」
その瞬間、魔王に一撃拳が伝えられる。
「ふむ」
それを甘んじて受け、早速カウンターをくらわす。
ミアは、受け身を取り、地面に着地をする。
「そう言えば貴様もいたな」
「ユウナちゃんにだけ戦わせるわけには行かないのです」
「今の私はユウリだよー」
「関係ないのです」
ミアは再び魔王に連撃を加えんとす。
魔王はその攻撃を受け、受け受け受け受け受け止める。
「流石だよー」
ミアが魔王を引き付けている間に、ユウリは魔力を集中させる。
「だから、素直に死んでくれるよね」
ユウリのはなったその火球。ミアまでも葬り去ろうという物だ。
「っ危ないのです」
ミアと魔王は即座に戦闘をやめ互いに距離を取る。
そして火球はその中心を地面をえぐる形で飛んでいく。
「あーもうーなんでよけるのー。限界まで引き連れてくれたらいいのにー」
「危険なのです」
ミアはじっとユウリの方向を見た。
味方の命なんて関係が無い。
魔王を葬り去るためなら、何でもしそうな勢いだ。
「囮にーなってもらおうと―思ったのにーーー」
これから自分は魔王と戦いながら、ユウリへの奇襲にも備えなければならない。
その戦闘は激しい物になっていく。
だが、やはり魔王が有利になり始めていく。
それは、元々の力量はもちろんの事、ユウリに対して警戒しなければならない。
だが、ユウリの放つ弾はあくまでも全体的に魔王を狙い撃つ攻撃だ。
そのコントロールの良さにより、ほとんどミアには当たらない。
「これなら安心なのです」
むろん、チャンスととらえたら自分ごと撃ち抜くつもりだろうが。
そして、ユウリの攻撃は着々と魔王の体力を削って行っている。
「うざいな」
「私の攻撃チクチクするでしょー」
「ふむ」
そして魔王はユウリに向かって飛んでいく。
「あは、その一瞬を狙ってたー」
ユウリは拳を突き出す。
勿論その手には炎だ。
真っ直ぐ攻撃してくる魔王を狙い撃つ。
「先ほど、優菜ちゃんを危険だと判断して倒そうとしてたよねー、もう一回同じ過ちを繰り返したいみたいだねー」
「魔力の高い者は敵。それは自然の摂理」
「今もミアちゃんを先に倒そうとしてたら良かったんだよー」
そう言ってユウリは全力で魔王をボコるボコるボコるボコる。
その一撃一撃のダメージ量。それ自体はそこまでのものではないが、それでも先ほどよりも着実に魔王の体力を削って行っている。
「しかも、ミアちゃんも来てるよー」
そうユウリが言った瞬間、ミアの拳が魔王にダイレクトヒットした。
その攻撃で魔王は地面に軽く埋まる。
「ぬぅ」
魔王は立ち上がろうとする。
「だめだよー」
ユウリのぐみうちされた攻撃が魔王にどんどんと向かtぅて行く。
「私が気づいてなかったと思ったのー? あなたの体がどんどんとボロボロになっていくのをー」
攻撃を継続しながらユウリは解説する。
まるでミステリ小説の犯人に推理を見せつけるように。
「あなたはねー、不完全で封印を解かれたー。あれは不完全な儀式だった―、それにあなたはすでにそれなりのダメージを受けていたのー。その状態で戦闘継続なんて無理だったのねー」
そしてユウリは低い声を出す。
「だからー、諦めて死ね」
ユウリの超巨大な火球が魔王を襲う。
そしてその後には何もなかった。
「魔王は死んだよー」
そう、ユウリはブイポーズをウェルツとミアに見せた。




