第95話 絶望
早速剣聖、アーノルド、ラトスの三人が一挙魔王に襲い掛かる。
一手遅れてルイスが剣を握り魔王にぶつかっていく。
しかし、その三人の連撃を以てしても中々魔王の敵の傷は削り切れない。
そう、厳しい状況下に置かれているのだ。
魔王はそれほどに強大な生物だ。
中々その体に激しい傷などは負わない。それどころが、攻撃を加えれば加えるほど、絶望感を感じる。そのダメージの少なさに。
「その程度か」
魔王は手を広げる。その衝撃で周りの地面がえぐれる。攻撃の一つ一つが高火力だ。
「剣などと時代遅れ。魔法が全て」
「その理論には同意しないのです。今、どうなっているのか分からないけど、今倒すべき相手が貴方なのはよくわかるのです」
その魔王の体に蹴りが加えられる。
ミアだ。
「ウェルツさん?」
「ミアは戻った。しっかりと今はミアハーグスだ。組織の本拠地によって元の体に戻した」
「良かった」
いや、良かったと一言で言ってはいられない。
援護しないと。
「行くよ!!」
ユウナも炎の弾丸を数発飛ばす。
せめて少しでもスタンしてくれれば、そう思うも、見ぬふりだ。
この程度の攻撃じゃ、ダメージはまともには与えられないらしい。
「本当にルイスさんは余計なものを復活させてくれたね」
ユウナはそう言って手に炎の球を貯める。
ロランの右腕を倒した魔法だが、それでも魔王を倒すには物足りない。目の前でアーノルドやルイスが時間を稼いでくれているが、マイルツの非じゃない強さだ。
「この俺でもここまで苦戦する相手、やるなあ」
そう、吠える。
「俺も天才の技をもっと出さなくてはならないな。ああ、楽しいな。こういう勝負を待っていたんだよ!!」
やられてもやられても、アーノルドは何度でもぶつかっていく。
そう、天才としての技を誇示するかのように。
「私も負けてられないな」
そう言って剣聖もまたぶつかっていく。
剣のぶつかり合い。
そして、「私も久しぶりに戦うのです。活躍して見せるのです」そう言ってミアが蹴りを加えていく。
流石に多数対一。卑怯と言われようとそれでもいい。勝てば官軍。勝てばそれでいいのだ。
しかし――
「雑魚が」
難度も魔法波で吹き飛ばされていく。
そのたびにアーノルドたちはダメージを負っていっているのに、魔王にはほとんど傷がつかない。
「こじゃかしい」
多少の傷は受けているのだろうが、決定打は与えられていない。
「ミアちゃん!」
ユウナは叫ぶ。
「こいつの体硬いのです。中々決定打が与えられないのです」
ミアでも貫けぬ装甲。
ミアやアーノルド、そしてルイスに剣聖。皆実力者だ。一般兵何百人ほどの力を持っている。
だが、それでも破れないのが魔王だ。
「っくそ」ユウナは舌包みを討つ。
そして、全力の火球を放つ。
「そんな物!」
魔王はそれを片手ではじいた。
もうこの時点で勝機は亡くなった。ユウナの全力の弾丸をはじき返されたのだ。
ユウナの目にはこれからの事が映った。ここで全滅して、町が襲われ、壊滅する未来だ。当然そんな未来は避けたい。しかし、絶望しか感じない今。どうしてもそんな未来しか見えない。
気が付けば、前線は崩壊している。
明らかに全部が規格外。
そしてルイスが吹き飛ばされてきた。
「明らかに俺と対峙したときよりもはるかに強くなっている」
息をはあはあと漏らしながら呟く。
「おそらく、復活から時間が経つほどに強くなっていくのだろう。断言する。奴には誰も勝てない。そう言う化け物だ」
「それをあなたが復活させたわけだけどね」
ユウナは怒りを振り絞るように言う。
「それについては悪かった」
「誠意が足りない。って今はそんなこと言っている場合じゃなかったね」
相対すべき個の魔王をどうするか。
しかし、魔王、魔王。
ユウナはふと不思議に思った。
魔王とはいっているが、あまりにも『個』すぎないかと。
魔王、というのは、魔の王。つまり、実力だけではなく、知力も必要なはずだ。
しかし、明らかに暴力の化身みたいなものだ。
「私、わかっちゃったかも」
ユウナはそう呟く。
「分かったってどういう事だ?」
ウェルツが訊く。
「付け入るスキはあるってこと」
自分の考えが正しければ、これで行けるはずだ。
奴はこの街に向けてまっすぐ歩いてい売っていた。だけど、どうやってユウナたちの位置が分かったのか、それは強者のオーラだ。
代替の場合、それは魔力を指す。
真っ直ぐユウナたちを追っていっていたとしたら。
ユウナは自身の魔力を最大限まで上昇させる。
先程の火炎弾の時はそこまで気を引けなかった。だけどそれは魔力を炎に変換していたから。
しかし、これならば。
ユウナは自身の魔力を膨張させる。
魔力を全て自身の強化に向ける。
「新たな強者が」
そして、魔王はユウナに向かって真っすぐ飛んでいく。しかし、それこそがユウナの狙い。
そしてユウナは真っ直ぐに打ち砕かれた。
しかし、その背後にいた剣聖、アーノルド、ラトス達が真っ直ぐ向かってくる。
即座にユウナの意図を理解したそのまま、魔王に対して連撃が加えられた。
魔王はそのまま、手痛いダメージを負い、その場にうずくまる。
そしてユウナもまたその場に落ちた。
「罠だったか」
魔王はそう呟くも、立てない。
ユウナを仕留める事に全エネルギーを使ってしまったからだ。
そのせいで、防御に力を使えなかった。
「だが、これで滅ぼされる我ではない」
だが、それでもなお、立ち上がる。
「嘘だろ」ウェルツは呟く。ユウナが命を賭して作ったこのチャンス。だがそれでも倒せなかった。
そして、魔王と倒れたユウナだけが残ってしまった。
完全に絶望という文字しかない。




